05/17/2012 芥川賞を読む - 蛍川・泥の河(宮本 輝):書評「宮本文学、ここにはじまる。」
書評こぼれ話 今回の「芥川賞を読む」は
宮本輝さんの『蛍川』。
私にとっては
まさに直球勝負のド真ん中のような
芥川賞作品です。
この作品のあと
どれだけ宮本輝さんの作品を
読んだことか。
人生そのときどきで
熱くなる書き手というのがいるものですが
私の30代は
宮本輝の時代だったような気がします。
村上春樹さんもそうかな。
最近では
あまり読みたいと思わなくなったのは
読書の潮目が
私の中で変わったってことなんだと
思います。
でも、この『蛍川』の作品の価値は
変わりません。
じゃあ、読もう。
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宮本文学、ここにはじまる。
bk1書評ページへ 第78回芥川賞受賞作(1978年)。作家宮本輝はこの年、のちの川三部作のひとつとなる『泥の河』で太宰治賞も受賞している。(川三部作のもう一作は『道頓堀川』)
まさに神が舞い降りた瞬間だった。
宮本以前の受賞作をみると、第75回が村上龍の『限りなく透明に近いブルー』、第77回が三田誠広の『僕って何』と池田満寿夫の『エーゲ海に捧ぐ』のW受賞と続いていた。
まるで、行き過ぎたムードを是正するかのように、それまでとはまったく異質の、古典的ともいえる作品が選出されたといえる。
では、この『蛍川』がそれほど完成度が高い作品であるかどうかといえば、あまりにもたくさんの要素を詰め込み過ぎている感は否めない。
この後、この作品をほどき、また新たに紡ぎだすようにして、宮本が重厚な長編作を発表しつづけたのは周知のことだろう。
それでも、この作品が読者に与える感動は、やはり大いに評価すべきだ。
宮本文学、ここにはじまる。
物語は昭和37年の富山の冬の終わりから夏の初めまでを描く。52歳で初めてわが子を得た実業家重竜はそのことで妻と離縁し、若い千代と再婚していた。その子竜夫の、14歳の季節である。
この年、富山は3月だというのに大雪に見舞われていた。遅い大雪には雪のような蛍が舞うという伝説を竜夫は信じていた。そんな中、事業に失敗しすさんでいた重竜が倒れる。
一家を襲う悲劇が、竜夫の淡い恋と千代と重竜の燃えるような過去の交情と重竜という実に男くさい人物の姿をないまぜにして描かれていく。
悲劇ではあるが、そこには精いっぱい生きようとする人々の姿が描かれる。
どれをとっても物語はもっと深みと幅をもっているような気がする。
例えば重竜と先妻春枝、それに竜夫の将来がどのようにつながっていくのかといったこと、竜夫の淡い恋の相手英子のそれからはどうなるのかといったこと。
この物語はそういう意味では人生の一片にすぎないのだ。
宮本輝がこの作品で芥川賞を受賞したことは僥倖だったが、この作品が芥川賞であればこそ、宮本文学はその後、見事に咲き誇ったのだといえるだろう。
(2012/05/17 投稿)
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05/16/2012 映画「八日目の蝉」のこと
昨日、 角田光代さんの『八日目の蟬』を紹介しましたが
私がこの物語に接したのは
まず映画版が先でした。
昔、「見てから読むか、読んでから見るか」という
映画宣伝の惹句がありましたが、
まさに「見てから読んだ」訳です。
映画版『八日目の蟬』は
2011年の春に劇場公開されています。
私が観たのは、先日BS放送で放映されたものでした。
監督は成島出監督。
主演の野々宮希和子役は永作博美さん。
娘の薫(本名は恵理菜でしたね)役を井上真央さん。
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この映画版は、 この年の日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞しています。
同時に、井上真央さんが最優秀主演女優賞、
永作博美さんが最優秀助演女優賞を受賞。
ちなみに、キネマ旬報のベストテンでは永作博美さんは主演女優賞を
とっています。
こういう作品でいえば、
希和子役の方が主演なのか薫役の方が主演なのか
難しいところですね。
私はやはり希和子役が主演だと思いますが。
薫と小さい頃ホームで一緒だった千草役で
小池栄子さんがとても熱演しています。
ちなみに彼女はキネマ旬報ベストテンで助演女優賞を受賞していますが
納得の受賞じゃないでしょうか。
さて、映画(今ではDVDでということになるのでしょうが)と原作、 どちらを先に鑑賞すべきかということですが、
私の感想でいえば、
原作を先に読んで欲しいですね。
映画はやはり映像でできていますから
自分の想像の余地が少なくなります。
それに、どうしてもウェットになりやすい。
ラストなんか、映画版は泣けますよ、まったく。
感動、ここでは泣きという点だけでいえば
映画版かな。
だからこそ、まず原作を読んで、
作品の深いところを味わってほしいと思います。
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05/15/2012 八日目の蝉(角田 光代):書評「生きていくことに正しいということはないかもしれない」
書評こぼれ話 今さらながらというか
ついに、というか
今日は
角田光代さんの『八日目の蟬』を
紹介します。
話題作、問題作というくくりを超えて
名作の域に近づきつつあるロングセラーですから
読んだ人も多いのでは
ないでしょうか。
私は読書においても
けっこう天邪鬼で
話題本にはあまり興味がわかなくて
それでも
チラチラと横目で気になりつつ
本屋さんの前をうろうろしていた
ものです。
読んでみて
かなり深い物語だと思いました。
まだ読んでいない方は
ぜひ一読してみて下さい。
じゃあ、読もう。
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生きていくことに正しいということはないかもしれない
bk1書評ページへ 不倫相手に生まれた生後間もない赤ん坊を誘拐し、実の母として4歳まで育て上げた希和子の姿を通して、母性とはいかなるものかを問うた問題作。
2005年秋から2006年夏にかけて新聞に連載され、その後単行本化ののち、TVドラマ化映画化と歳月を重ねる毎に読まれつづけている作品である。
何故、それほどまでにこの作品が人気を集めたのか。
それは、単に母性の問題ではなく、生きていく意味を問いかけたものだったからのような気がする。
そのことは題名の「八日目の蟬」によくあらわされている。
作品の中で「八日目の蟬は、ほかの蟬には見られなかったものを見られるんだから、見たくないって思うかもしれないけど、でも、ぎゅっと目を閉じてなくちゃいけないほどにひどいものばかりでもないと思う」という文章があるが、警察に追い詰めれもさらに誘拐した子供と逃げたいと願う希和子は娘薫に「見られなかったもの」を見せようとしたのだ。
また、薫(本名は恵理菜で、本作の2章は成長した彼女が主人公となっている)が希和子と同じように不倫相手の子供を産むことを決める時にも、自分がみたものや見ないものも含めて「おなかにいるだれかに見せる義務がある」と感じるのも、まるで希和子の感情と同じだろう。
それは単に母性ではない。人には等しく「きれいなものぜんぶ」を見る権利がある。まさに生き方の問題だ。
常に前に前にと歩く生き方の問題だろう。
もちろん見方によっては希和子のした行為は肯定できない。彼女が罪を犯さなければ、恵理菜たち家族もまた違った生活を送っただろう。希和子は幼い子供にまったく違う世界を見せたが、ある意味、家族という世界を奪ったのも事実だ。
あるいは、成長した薫が父親のいない子供を産もうという決意も、実は正しくない選択なのかもしれない。
生きていくことに、これが正しいということはない。
生きていくということは常に何かをつかみながら、何かを捨て去っているということだ。
希和子という人生、薫のこれからの生き方がそれをしめしているような気がする。
(2012/05/15 投稿)
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05/14/2012 精選女性随筆集 第二巻 森茉莉・吉屋信子(小池 真理子選):書評「誰が一番したたかか」
書評こぼれ話 今日紹介するのは
「精選女性随筆集」の2巻め。
今回は作家の小池真理子さんが選に
あたっています。
取り上げるのは
森茉莉と吉屋信子。
最近の人は
なかなかこの二人の作品を
読むことはないかもしれませんね。
私も名前はよく知っていますが
二人の作品に熱中したことは
残念ながら
ありません。
私よりもう少し年上の読者が
多いかも。
だから、この二人を選んだこと自体
小池真理子さんやるじゃないっていう
感じがします。
じゃあ、読もう。
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誰が一番したたかか
bk1書評ページへ 「精選女性随筆集」の第二巻めは、小池真理子さん選の「森茉莉/吉屋信子」集です。
この「精選女性随筆集」は川上弘美さんと小池真理子さんという二人の人気女性作家が選にあたっているのが一つの特長でもあります。二人がどのような女性作家を選んでいるのかも興味のわくところで、第一巻めの「幸田文」を川上弘美さんが選んでいるのは納得の一冊でした。
では、この巻はといえば、森茉莉と吉屋信子ではあまりにも極端な気がして仕方がありません。いわば、森茉莉は文豪森鷗外の娘という華やかな少女のイメージがあり、吉屋信子には少女小説に夢中のおとなしい少女のそれで、重なるところをあまり感じません。
小池真理子さんは巻頭のエッセイの表題を「二つの少女性」としていますが、森茉莉と吉屋信子の個性はまさにそれであり、同時に小池真理子さん自身がその少女の二面性に拘ってきた作家だともいえます。
王女様の気品、シンデレラの純朴。魔法使いがいなくとも、女性は常に二つの顔をもっているのではないでしょうか。
森茉莉は短編『薔薇くい姫』の中で幼少の頃父鷗外と暮らした当時の家の様子を語るのに自身の話にまったく話を聞いてもらえなかったことを恨むように書いていますが、本書に収録されている『幼い日々』を読むと、まるでその生活がどこまでも成長し続ける植物のように描かれ、読む者を圧倒させます。
この廊下はかつて通ったところ、この庭は先ほど垣間見たはず、鷗外はここにもいてそこにもいる。まるで縦横無尽に筆が走ります。こんな贅沢な文章にはなかなか出会えません。
後半の室生犀星、三島由紀夫、川端康成という三人の文豪への哀悼に文章も、どこかつんと突き放すようで、お嬢様然は森茉莉の個性といえます。
その一方で、吉屋信子の優等生ぶりはどうでしょう。
先輩作家岡本かの子、林芙美子、与謝野晶子に対するこのつつましさ。あるいは友人宇野千代を語る文章、いずれも前にでることなく、後ろにひかえた奥ゆかしさ。こういう女性はもてただろうと思いますが、吉屋信子は生涯独身を通しました。
そんな中、『馬と私』という競馬馬の馬主としてのエッセイは優等生がすこしいたずらをしているような感じさえします。それがまたかわいいのですが。
こんな二人を選んだ、小池真理子さんもしたたかな少女といえます。
(2012/05/14 投稿)
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05/13/2012 かあちゃんかいじゅう(内田 麟太郎/長谷川義史):書評「うちのかあちゃんはトラだ!」
書評こぼれ話
今日は母の日。 母の日や大きな星がやや下位に 中村草田男
母の日に
何かしたいと思っても
その母もなく
それでも私の母はりっぱだったと
思うばかりです。
くよくよ思うのが大嫌い。
めそめそするのが大の苦手。
朝、
母と父の写真に向かうと
今の私に、それでも母は
「お前のことは心配してないから」と
いつか云ってくれたことを
また云ってくれそうで。
母はいつまでも
母のまま
ここにいます。
そんな母の日に
内田麟太郎さん文、長谷川義史さん絵の
『かあちゃんかいじゅう』を
紹介します。
じゃあ、読もう。
![]() | かあちゃんかいじゅう (2003/04) 内田 麟太郎 商品詳細を見る |
うちのかあちゃんはトラだ!
bk1書評ページへ 怪獣映画に行きたい、と、りゅうのすけくんはお母さんと交渉中。どうもりゅうのすけくんのお母さんはおうちで何やら仕事をしているようです。パソコンとにらめっこ。
お父さんは競馬新聞とにらめっこ。そのあとは、さっさとトンずらです。
だから、もうお母さんに押しの一手。おじいちゃんもおばあちゃんも味方につけて。
「つれてって!」
それでも、お母さんは、うんといいません。梃でも動かないというやつです。
よーし、そこでりゅうのすけくん、怪獣に扮してお母さんを驚かす作戦に。でも、どうみたって、この怪獣、ちょっと迫力がありません。
笑い転げるお母さん。ついに、怪獣映画につれていってくれることに。
翌朝、りゅうのすけくんが起きると、そこに、お母さんが昨日のりゅうのすけくんみたいに怪獣に扮して、「うわーっ。」。
なんとも微笑ましいよどがわ家(そうなんです、この絵本の登場人物にはみんなちゃんと名前がついているんです。ちなみに愉快なお母さんは、よどがわちえこさん)を、内田麟太郎さん文、長谷川義史さん絵がみごとに描いています。
この絵本のおかあさんを見ながら、二年前に亡くなった母のこと(偶然にも名前は同じチエ子でした)を思い出しました。
母は私が子供の頃、怪獣ではなく、トラに扮して驚かせてくれたものです。この絵本のお母さんのように、大きな顔で口をいっぱい開けて「ごおーっ。」って叫ぶのです。
あれは母なりの愛情だったのでしょうか。
怖いだけでちっとも好きになれなかったのに、亡くなったあと、ふと浮かんでくる母の姿がトラだなんて、ちょっと残念でもあります。
でも、絵本のお母さんのように家で仕事をしていた母にとって、子どもにしてあげれる、それが精いっぱいの時間だったのかもしれません。
おめかしをしてりゅうのすけくんと映画館にでかけた、ちえこお母さんの素敵なこと。
(2012/05/13 投稿)
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