08/03/2010 歳月(茨木 のり子):書評詩「あなたはいなくなったけれど」

今日紹介する、茨木のり子さんの
『歳月』は、
茨木のり子さんが若くして死別したご主人にあてた
恋文のような詩をあつめた詩集です。
生前発表されることのなかった
それらの詩を、
茨木のり子さんは、
無印良品のクラフトボックスに
仕舞っていました。
箱には小さく「Y」とだけ
書いてあったそうです。
茨木のり子さんのご主人は
安信といいましたから、
「Y」はその頭文字だったのでしょう。
この詩集は茨木のり子さんの一周忌に
出版されました。
とても深い。
とても切ない。
今回書評詩にしましたが、
ぜひ、この詩集を読んでください。
自信をもって薦めます。
じゃあ、読もう。
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二〇〇六年二月十七日、私は死にました。
あれはどうするの、と
先に逝ったあなたは聞いてくれたけれど、
あれはもう私たちのものではありませんので、と
静かに答えました。
あれはいつだって、生きている者たちのもの。
生きている私が生きている私に口ずさんだもの。
だから、あれは残していきます。
詩は死者のものではなく、
詩は生きる者たちのもの。
ラブ・レターを残してきていいの、と
先に逝ったあなたは心配してくれたけれど、
何を恥ずかしがることがあるでしょう、と
確りと答えました。
あれはいつだって、生きている者たちのもの。
生きている私が逝ってしまったあなたに口ずさんだもの。
だから、あれは置いていきます。
詩は死者たちのものではなく、
詩は生きる者たちのもの。
二〇〇六年二月十七日、私は死にましたが、
私は詩を、
生きている者たちに残してきました。
詩人茨木のり子の遺作となった詩集です。若くして亡くなった夫・三浦安信さんへの想いがたくさん綴られています。
胸につまってくる詩の数かず。たとえば、「夢」という詩。たとえば、「月の光」という詩。そして、「梅酒」という詩。あまりにも切なすぎて、泣いてしまいました。
茨木のり子のういういしい愛に満ちたこの詩集を大事にしていきたい。
愛はまだ信じられます。
(2010/08/03 投稿)

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06/16/2010 泣き虫ハァちゃん(河合 隼雄):書評詩「ぼくたちの秘密基地」

今日紹介する河合隼雄さんの
『泣き虫ハァちゃん』は
本屋さんの文庫新刊のコーナーで見つけました。
新潮文庫の今月の新刊です。
表紙の絵がすこぶる目をひきました。
書評のなかでは書けなかったのですが、
挿絵を担当しているのは
岡田知子さん。
本のなかにも何点も挿絵があるのですが
本当に心が温かくなるような絵です。
表紙の、今にも泣き出しそうな少年は
小さい頃の私にも似ています。
私も泣き虫でした。
今でもあまり変わりませんが。
谷川俊太郎さんの詩が収載されていて、
それに対抗したわけではありませんが、
今日は書評詩にしてみました。
ところで、
岡田ジャパン、頑張りましたね。
本田選手のゴールに
「泣き虫ハァちゃん」だけでなく
たくさんの人が泣いたんじゃないかな。
次も頑張れ!
じゃあ、読もう。
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それは草深い、あまりおとなが通らない
場所にあった
ぼくたちは そこを
秘密基地と 呼んだ
袋菓子
漫画本
こわれたラジオ
ぼくたちは そこで
秘密の指令を 発信した
おとなになんか なりたくない
あれから何十年も過ぎて
ぼくたちは いまだに
そこで 秘密の暗号を解読している
母のひざまくら
色褪せた写真
投函できなかったラブレター
ぼくたちは 秘密基地で
子どもにもどる研究をしている
本書は2007年7月に亡くなった心理学者河合隼雄さんの遺作となった作品です。子供時代の自身を回顧する自伝的物語ですが、残念ながら、小学校四年生までの未完となりました。
題名のとおり、何度も泣く場面が登場しますが、泣く意味合いが少しずつ変わっていくのがわかります。あるいは、たくさんの兄弟や学校の仲間たちに囲まれながらも、ふと孤独を感じるなど、成長の過程がよく描かれています。
本書の巻末には谷川俊太郎さんの詩「来てくれる 河合隼雄さんに」が収載されています。
(2010/06/16 投稿)

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04/29/2010 長い終わりが始まる(山崎 ナオコーラ):書評詩

今日は昭和の日。
そして、いよいよゴールデン・ウィークですね。
私の予定は
母の五〇日祭で大阪に帰省。
(私の家は神式なのでそう呼びます。
仏式でいえば四十九日ですね)
母がなくなって
もうそれだけの日数が経ちました。
時間というのは
「もう」なのか「まだ」なのか、
受けとめ方ですね。
例えば、昭和という日々のことを
考えても、
もうあれから22年経ったのかと
思えます。
母はその時、まだ62歳だったんだ。
今日紹介する山崎ナオコーラさんの題名が
『長い終わりが始まる』。
なんとなく、時間ってそういう
感じがしています。
今日は書評詩ですが、
山崎ナオコーラさんの本は
詩としてイメージがしやすい。
じゃあ、読もう。
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世界は、ジグソーパズルのよう。
私は68億分の1の、小さな片(ピース)。
いまだにどんな図柄の片(ピース)なのか
自分でもわからない。
どんな片(ピース)が隣にくるのか
全然わかっていない。
これ かな。
あれ かな。
合いそうだけど
どこかしっくりこない。
合わないけれど
無理やり嵌め込みたい片(ピース)もある。
でも、やっぱり合わない。
合うわけはない。
いつか
私の図柄がはっきりして
隣の片(ピース)もぴったり合うことがあるだろう。
世界は、ジグソーパズルのよう。
私は68億分の1の、小さな片(ピース)。
山崎ナオコーラが2008年に発表した作品である。大学のマンドリン部に所属する女子大生小笠原を主人公にして、彼氏との拙いセックスや部員たちとの葛藤が描かれている。読み終わったあとの感想として浮かんだのが、大きなジグソーパズルの小さな一片。なかなかうまく嵌らない苛立ちは、おそらくその一片自身が感じているものかもしれない。
山崎ナオコーラはそうやっていつも一片を探しつづけている。
(2010/04/29 投稿)

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02/21/2010 少年の木 ~希望のものがたり~(マイケル フォアマン):書評

今日紹介する『少年の木』は、絵本です。
絵本の読者は大抵子どもです。
あるいは、子育て中のお父さんお母さんも
読者になりやすい。
でも、それではなんだかもったいないですよね。
おとなもちゃんと絵本と触れ合える、
そんな場もあっていいかもしれません。
『少年の木』は、
「文藝春秋」3月号で、作家のあさのあつこさんが
「おとなの絵本館」という連載のなかで
紹介していた一冊です。
作者はマイケル・フォアマンさんで
訳はノンフィクション作家の柳田邦男さん。
「文藝春秋」のようなおとな向けの雑誌で
こういう良質の絵本が紹介されるって
いいですよね。
今日は書評詩にしました。
じゃあ、読もう。
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世界って どんな色なんだろう
花々の きいろ
ブドウの木の みどり
鳥たちの あか
海と空の あお
朝の だいだい
夜の くろ
兵士たちの はい
鉄条網の はい
瓦礫の はい
ミルクの しろ
子供たちの にじ
おとなたちの にじ
世界って どんな色なんだろう
いのちって どんな色なんだろう
この絵本はイギリスのマイケル・フォアマンが反戦をテーマに描いたものですが、場所の特定はありません。爆撃にあって鉄条網で閉ざされた街が舞台です。
それはあなたの知らない、外国のどこかの街かもしれないし、あなたの近くの小さな町かもしれません。でも、それは今も世界のどこかにある街なのです。
少年が大切に育てた一本のブドウの木がこの物語の主人公です。捨てられても、焼かれても、何度も何度も芽を出し、大きく育つ、それは「希望」の木です。
「希望」の木が大きくなるにつれ、絵本のなかに色があふれてきます。色がこの世界から消えないことを願っています。
(2010/02/21 投稿)

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12/21/2009 コノヒトタチ つっつくべからず(S. シルヴァスタイン/川上弘美・訳)書評詩

今日紹介する本は、シェル・シルヴァスタインさんの
『コノヒトタチつっつくべからず』という、
詩集のような絵本、絵本のような詩集、という
不思議な一冊。
川上弘美さんが翻訳に初めて挑戦した一冊でしたので、
読んでみようと手にしました。
表紙をごらんになればわかりますが、
この本のなかには「不思議な生きもの」が
たくさんでてきます。
ちなみに表紙に描かれた生きものは、
「とおったあとには くずひとつ残らぬスライヌ」
です。
そのほかにも「むくむくちゃん」だとか
「タチマチーナ」とか「オゴリタカブリ」といったような
奇妙な生きものがいっぱい登場します。
この本を訳しながら、
今朝日新聞に『七夜物語』という小説を連載(今朝でちょうど100回でした)を
している川上弘美さんは
とても参考になったかもしれません。
いつか『七夜物語』に、
本書に登場した「不思議な生きもの」が出てこないとも
限らない。
それはそれで、また、楽しみ。
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夢をみた
こどもの頃にみた 夢をみた
何かに追いかけられているのだが
それが何かわからない
でも それはとてつもなく怖くって
こどものわたしは 誰もいない校舎のなかを
逃げている
それが何かわからない
でも それはとてつもなく怖くって
おとなのわたしは 逃げるこどものわたしが
かわいそうで たまらない
きっと怖いんだろうな
でも たすけてあげれない
わたしはおとなで 夢のわたしはこどもだから
こどものわたしが みている夢だから
『ぼくを探しに』で有名な作家シェル・シルヴァスタインの1964年発表の処女詩集。詩集というより絵本のようでもある。
シルヴァスタインの作品は倉橋由美子が何冊も訳しているが、倉橋が亡くなったので、本書は川上弘美が訳を担当している。倉橋ならどんな日本語訳をつけただろうかと興味がわくが、川上の楽しげな日本語もまたいい。
それに川上も本書に登場するような「不思議な生きもの」たちが大好きな作家だし、訳しながら、彼女が一番楽しめたのではないだろうか。
(2009/12/21 投稿)

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