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 この『仁義なきヤクザ映画史』にある著者伊藤彰彦氏の肩書を見ると、
 「映画史家」とあって映画評論家とはなっていない。
 個々の作品の鑑賞を主眼としてではなく、
 歴史のなかの大きな潮流として「ヤクザ映画」が論じられている。

  

 概要で示せば、
 1910年代に江戸後期に実在した国定忠治などを題材に作られはじめ、
 1930年代には長谷川伸原作の股旅ものは多く撮られる。
 戦争を挟んで、1950年代にヤクザ映画も復活。
 そして、1960年代空前のヤクザ映画ブームとなる。
 おそらく初期の頃のヤクザ映画は時代劇の流れの中で作られたもので、
 実際私たちがヤクザ映画ですぐさま頭に浮かぶのは
 鶴田浩二高倉健の二大スターを輩出した東映任侠映画だろう。
 世代でいえば、戦後の団塊の人たちが熱狂したといえる。
 ただ、このブームも10年ほどで終焉を向かえ、
 1970年代に「仁義なき戦い」(1973年)が作られ、「実録ヤクザ映画」へと
 シフトしていく。
 しかし、社会はヤクザを排除する動きを強め、
 映画のジャンルとしてのヤクザ映画もかつてのようなブームは影をひそめる。

 伊藤氏はそんな100年余と続いたヤクザ映画を丹念に見ていく。
 ヤクザ映画を否定するのではなく、存在した意味を評価する姿勢がうかがえる。
 惜しむらくは、藤純子江波杏子、あるいは「極道の妻たち」シリーズなど、
 女性が活躍したヤクザ映画の考察があってもよかったように思うし、
 これだけの労作であるから主な作品を年表形式で俯瞰したかった。

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 「宣弘社」という名を目にして懐かしさを感じるのは、
 テレビが始まって間もない頃の「テレビっ子」だった人ではないだろうか。
 もっと夢中になっていた人なら、
 小林利雄という名前にも記憶があるかもしれない。
 昭和30年代、宣弘社の代表取締役であった小林利雄の指揮のもと、
 テレビ草創期の子供向けドラマが多く作られていった。
 この『宣弘社ヒーロー全記録』は、小林利雄の生誕100年を記念して編まれた、
 実に贅沢でワクワクさせる豪華な一冊である。
 (小林利雄は2007年に88歳で亡くなっている)

  

 宣弘社のヒーローものとして、一番有名なのは
 やはり「月光仮面」だろう。
 昭和33年に放送開始、たちまち日本中の子供を熱中させた。
 この当時まだテレビそのものを持っている家庭は少なかったはずだが、
 その後何度も再放送されていたから、
 それを見て育った子供も多かったはず。
 この「月光仮面」を皮切りに、
 「遊星王子」「豹の眼」(私はこの作品が一番好き)「怪傑ハリマオ
 「隠密剣士」「高速エスパー」「シルバー仮面」といったように
 タイトルを聞いただけでも
 子供の頃に戻ったようなワクワク感いっぱいになる。

 しかも、その番組のストーリーだけでなく
 こまかい登場人物(例えば「隠密剣士」なら「甲賀十三人衆」のすべての名前と写真)や
 出てきた車などのことも
 こんなことまで載っているんだと驚かされる。
 子供の頃に宝物と称して引き出しの奥にしまっていたものが
 不意に見つかったようなうれしさ。
 この本はそんな貴重な宝物だ。

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 私が映画にはまったのは高校生の頃だから
 ちょうど70年代になったあたりだろうか。
 この時期に映画に夢中になって運がよかったのといえるのは
 日本でチャンプリンの映画がまとめてリバイバル上映されたことだろう。
 1972年秋から1975年にかけてリバイバル上映された企画は
 「ビバ!チャンプリン」と題されて、
 その第1回めが「モダン・タイムズ」だった。
 その当時購読していた映画雑誌「キネマ旬報」では映画シナリオも掲載されていて
 特集されていたチャンプリンの映画のシナリオも載っていたし、
 この時映画館でチャップリン映画を観ることもできた。
 それから半世紀以上経つが、
 今ではもちろんDVDなどで鑑賞はできるが、
 やはりあの時の熱気はいい思い出だ。

  

 そのチャンプリン映画が今また注目を集めているのは
 ロシアによるウクライナ侵攻で
 チャップリンの代表作のひとつ「独裁者」が反戦をテーマにした作品だからだ。
 だから、大野裕之さん(日本チャップリン協会会長というすごい肩書も持っている)の
 『ビジネスと人生に効く 教養としてのチャップリン』を読むと
 映画人チャップリンがいかにすごい人であったかがよくわかる。
 それはヒトラーと対峙した「独裁者」だけでなく
 「モダン・タイムズ」「街の灯」「黄金狂時代」といった作品を観れば
 歴然だろう。

 この本はチャップリン映画が大好きという人だけでなく
 まだチャップリン映画を観たことのない人でも、
 チャップリンの生涯や作品講座、また現代に通じるテーマなど
 興味深い論考になっている。
 「論考」と書いたが、大野さんの文章は難しくはない。
 どちらかといえば、とても軽妙。それでも深いのは
 チャップリンの映画によく似ている。

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 村上春樹さんの6年ぶりとなる長編小説が4月13日に発売となる。
 最初発売日の告知だけで本のタイトルも出なかったが、3月にはいって、
 『街とその不確かな壁』というタイトルも公表された。
 順に気分を煽っていくやり方がいいかどうかはともかく、
 村上さんの場合、そうやってこれまでにも世界観を醸し出してきた。
 だからというわけではないが、
 『村上春樹 映画の旅』という2022年10月に出た本を読んでみた。

  

 実はこの本は、
 村上さんの母校である早稲田大学演劇博物館で開催された
 2022年度秋季企画展「村上春樹 映画の旅」の図録になる。
 ただ単に図録というよりは、
 数編の「論考」や村上作品を映画化したイ・チャンドン監督や
 濱口竜介監督のインタビューも掲載されているから
 村上春樹論の一冊としても十分価値がある。

 そもそも十代から二十代前半にかけての村上さんは
 映画に夢中になっていて、
 早稲田大学文学部に入学してシナリオ作家になりたかったそうだ。
 それで大学にある演劇博物館に通って
 映画のシナリオを読みまくったというから、
 映画との関係は切り離せられない。
 この図録を読めば、
 村上さんの作品に映画のタイトルや一場面の切りとったような文章が
 随所にあることがわかる。
 巻末にある「村上春樹著作登場映画リスト」を見ると、
 その数に圧倒される。
 「村上春樹作品年譜」とともに資料として
 手元に置いておきたくなる。

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 現在放送中(2022年度後期)のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)舞いあがれ!」も
 残りわずかとなってきた。
 この作品が朝ドラ107作めで、作品の出来もよく毎日楽しく見ている。
 何しろ前作「ちむどんどん」の出来がひどく、
 よくあれで視聴率が落ちないものと妙な感心もしていた。
 一方、ネットの世界では「#ちむどんどん反省会」なるものが登場し、
 あの場面はおかしい、その人物に問題ありとかなり盛り上がっていたようだ。
 その点、今回の「舞いあがれ!」にそんな批判は少ないようだが、
 だからと言って言って視聴率がすごくあがったかというとそうでもない。
 ドラマの人気の不思議なところだ。

  

 フリーライターの木俣冬さんの『ネットと朝ドラ』は、
 木俣さんがネットの世界でその時々の朝ドラを批評してきた記録本で、
 この本で紹介されているのは、
 朝ドラ第96作めの「ひよっこ」(2017年前期)から、
 「わろてんか」「半分、青い。」「まんぷく」「なつぞら」「スカーレット」
 「エール」「おちょやん」「おかえりモネ」
 そして第105作めとなる「カムカムエヴリバディ」(2021年後期)までの
 10作品の批評が収められている。
 実際これらの作品はすべて見てきたが、
 さすがに場面の説明があってもさすがに覚えていないことも多く、
 実は朝ドラは半年にわたる長いドラマだが、
 いくら主要な場面であってもその全部を覚えていることはできない。
 そういう点では、朝ドラとネットとは
 とても相性がいいといえる。

 永遠に残るドラマではなく、その時々に観る者を感動させる
 それが朝ドラといえる。
 そのようなドラマを書き留めるとしたら、
 新聞でも雑誌でもなく、
 ネットがやはり有効のように感じる。

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