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プレゼント 書評こぼれ話

  芥川賞と直木賞。
  純文学と大衆文学というくくりで
  論じられることが多い。
  今でも
  芥川賞受賞作が載った雑誌「文藝春秋」は
  毎回購入するから
  私はどちらかといえば
  芥川賞派かな。
  けれども、最近は直木賞の作品だって
  結構読んでいます。
  若い時にはほとんど見向きもしなかったですが。
  今日紹介する
  佐々木譲さんの『廃墟に乞う』は
  第142回直木賞受賞作
  でも、正直な話、
  ほとんど知らなかった。
  今回たまたまさいたま市の図書館の
  電子書籍のリストから見つけて読みました。
  面白いぞ、直木賞も。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  口当たりがいい推理小説集                   

 第142回直木賞受賞作。(2009年)
 北海道を舞台にして休職中の刑事が事件を解いていく、表題作を含む6つの短編で構成された連作集。
 作者の佐々木譲さんは1979年に『鉄騎兵、跳んだ』という作品でデビューし、直木賞を受賞した時には作家歴30年を超すベテランであった。
 そのせいか、選考委員の一人五木寛之氏が「いまさら直木賞でもあるまい、という空気もあったが、デビュー作から三十一年という、そのたゆまぬ作家活動への敬意をふくめて今回の受賞」がなったと書いたように、長年のご褒美的な要素もあっただろうが、そういうことを抜きにしても宮城谷昌光選考委員の「作家としての習熟度は氏がもっとも高い」という評価が勝っているように思う。

 一つひとつの作品に大きな破綻はない。
 どの作品も休職中の主人公仙道刑事に事件の解決を乞うところから始まる。
 そこまで信頼される仙道刑事であるが、心的療養中とはあるが何故休職しているのか伏せられたまま、どの作品も彼が解決までの道筋をつけていく。
 仙道刑事の過去が明らかになるのが、最後の作品「復帰する朝」である。
 彼は以前ある女性監禁事件で犯人を追い詰めながらもミスを犯し、被害者の命だけでなく犯人も亡くしてしまう。
 このことが彼の休職のきっかけだとすると、そのような刑事にどうしてしばしば事件解決の依頼があるのかわからない。

 そういう不満もあるが、やはり物語巧者だろう。
 実に口当たりのいい作品集に仕上がっている。
  
(2020/05/14 投稿)

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  今日は四年に一度の
  うるう年
  2月の29日。
  一日得をした気分の日ですが
  最近の新型コロナウイルスの影響で
  あんまり晴れやかな気分にも
  なりません。
  まして
  最近の政府の対応を見ていると
  右往左往ばかりが目立って
  会社でいえば
  こういう経営トップがいるところって
  そこで働く人は結構大変です。
  今の日本ってそんな感じでしょうか。
  こんな時に
  もしこの小説の主人公である松江豊寿のような人がいれば
  どんなにいいか。
  今日は
  第111回直木賞受賞作
  中村彰彦さんの『二つの山河』を
  紹介します。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  直球ストライク、けれどこれは魔球?                   

 第111回直木賞受賞作。(1994年)
 最近の直木賞は長編小説が多く、この作品のように文庫本にして80ページほどの短編といってもいい作品を読むと、作品の好悪は長さではないと改めて気づかされる。
 しかもこの作品はほとんどの選考委員が賛辞をおくっていて、気持ちいい。
 藤沢周平委員は「直球でストライクを取ったような、単純だが気持よく読める作品」とし、「読者を作品世界の中にひきこむのはヒューマニズム」と、いかにも藤沢周平氏らしいコメントである。
 「稀に見る清々しい小説で好感度百パーセント」と書いたのは山口瞳委員。絶賛に近い書きぶりながら、「やや小説的結構に乏しいという憾みが残った」とも書いている。
 この「小説的結構」というのは小説を組み立てる方法のようなことでしょうか。
 唯一否定的な意見となった五木寛之委員がいう「小説としては、いささかひよわな面がある」というのに、近いニュアンスかもしれない。

 この小説の主人公松江豊寿(とよひさ)は実際にいた人物で、会津人として第一次世界大戦時に徳島のドイツ人俘虜収容所の所長を務め、その後会津若松市の市長にまでなっている。
 中村は松江という人物の生涯を簡潔明瞭な文体で綴っている。
 俘虜たちの人格をないがしろにすることなく、収容所の運営を見事なまでに成し遂げた松江の行いは美談ではあるが感傷的に過ぎず、またそこに至る松江の想いを戊辰戦争時に受けた会津の人たちの苦悩に重ねていく。

 確かに「好感度百パーセント」であるが、これを直木賞としていいのか、
 口当たりのいいノンフィクション作品ではないのか。
 そんなことをつい考えてしまった。
  
(2020/02/29 投稿)

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  私は昭和30年生まれで
  もちろん戦後生まれということになるが
  生まれた頃はまだまだ戦争のしっぽを
  十分に引きずっていたのだろうと
  この頃よく思うことがあります。
  今日紹介する
  城山三郎さんのデビュー作『輸出』を含む
  短編集『総会屋錦城』の中の
  いくつかも短編を読むと
  主人公たちが戦争の傷をもった者として
  描かれていることに気づきます。
  いずれも昭和30年代前半に発表された作品で
  そこからすれば主人公たちに
  戦争経験があってもおかしくはありません。
  城山三郎という作家を考えた時
  そういう視点も
  はずせないような気がします。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  初期の城山三郎作品として重要な短編集                   

 第40回直木賞受賞作。(1958年)
 今回この本を手にするまで、情けないことに城山三郎氏が直木賞を受賞した『総会屋錦城』はもっと長い小説だとばかり思いこんでいて、実際は文庫本にして60ページにもならない短編だったことに少し驚きました。
 直木賞の選考委員による選評を読むと、おおむね評価はよく、受賞は妥当なところだと感じました。中でも村上元三委員の「日本の小説の中に政治と経済を扱った作品がほとんど無いのを残念に思って」いたから「これからは従来の作家に書けなかった経済の面を」期待するといった選評を読むと、これ以降の城山氏の執筆活動はそれによく応えたといえる。

 何しろ城山氏は経済小説の先駆者としてこの作品以降も高度経済成長期のサラリーマンの読書意欲高める経済小説を多数ものにしたことは、城山氏の人生を振り返ればわかることだ。
 中でもこの作品集は直木賞受賞作だけでなく、デビュー作ともいえる昭和32年(1957年)の「文學界」新人賞を受賞した『輸出』や交通事故を起こした時に被害者の見舞いに重役の肩書で出向く男の悲哀を描いた『事故専務』や無謀な飛行計画を行う男たちの姿を描いた『プロペラ機・着陸待て』など7篇の短編は、まさにこれから羽ばたかんとする城山氏の熱を感じる作品群といっていい。

 そして、城山氏の読み物としての面白さを読み取った当時の編集者の慧眼にも感心する。
 もし、城山氏に純文学の作家としての資質を求めていれば、その後の見事な長編小説群は誕生しなかったのではないだろうか。
  
(2020/01/09 投稿)

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  本屋さんには
  毎週一度行きます。
  面白そうな、新しい本は出ていないか
  確認しています。
  一度読んだ本と新しい、未読の本となると
  どうしても読んだことのない本に
  手が出てしまうのですが
  できるだけ
  再読も心掛けたいとも
  思っています。
  葉室麟さんが亡くなって
  もう2年近くになりますが
  葉室麟さんの作品などは
  再読したいところ。
  今日は葉室麟さんの直木賞受賞作
  『蜩ノ記』を再読で。
  私と葉室文学の出会いは
  まさにこの作品からでした。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  再読して見えてくる重厚さ                   

 第146回直木賞受賞作。(2012年)
 いうまでもなく葉室麟の作家としての地位を固めることになった出世作である。
 5度目の候補での受賞で、受賞が決まった際には「ほっとしました。もうこれで直木賞候補にならなくてすむのが一番嬉しい」と語っている。
 それはおそらく葉室の本音であったろうが、同時にいくつまで小説を書けるだろうという不安と焦りもあったにちがいない。
 葉室がその後2017年に急逝したことを思い合わせると、この受賞の際には書きたい思いがひたすらであったのではないだろうか。

 この作品は葉室が生み出した架空の藩羽根藩を舞台とする時代小説である。
 この作品のあと羽根藩を舞台とした作品が数作描かれることになるが、今回改めて読んでいくと、実に細やかに藩の造形が作られていることに気づかされた。
 おそらく作品と仕上げていくまでに、葉室は城下の町のありさまや主人公である戸田秋谷が幽閉されている村の配置など念入りに作り出したのだろう。
 さらには秋谷が策略により罰を受け、その刑として藩の家譜をまとめるという作業では、藩が誕生してからのさまざまなことを作品にするまでに持っていたのであろうと思う。
 もちろんそれは秋谷や彼を監視する役を仰せつかりながら秋谷に魅かれていく檀野庄三郎といった登場人物でもそうで、その履歴を葉室はきちんと準備していたにちがいない。

 この作品はそういう葉室の生真面目さが成功したといえる。
 直木賞受賞の選評で伊集院静委員は「修練を積んだ作家の技」と評し、「これからもおおいに読者を愉しませてくれるはず」と記した。
 まさにそのようにして、葉室麟は風のように逝ったのだと、改めて思う。
  
(2019/08/28 投稿)

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  今本屋さんに行くと
  池井戸潤さんの新作『下町ロケット ゴースト』が
  どーんと平積みされています。
  さらに同シリーズの2作めにあたる
  『下町ロケット ガウディ計画』も文庫化されて
  こちらもどーんと積まれています。
  池井戸潤さんの人気は
  衰え知らずといえますね。
  せっかくなので
  池井戸潤さんが
  第145回直木賞を受賞した
  『下町ロケット』から順に読んでいこうと
  思っています。
  読む前から
  楽しみです。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  私たちに勇気と感動をくれた                   

 第145回直木賞受賞作。(2011年)
 この年の3月東日本大震災が起こって日本全体が打ちひしがれていた状況の中で、池井戸潤さんの代表作ともいえる、東京の下町の町工場の社長である佃航平とその工場で働く人々の姿を描いた長編小説が直木賞を受賞した意味は大きい。
 振り返ればあの年、女子サッカーのなでしこジャパンが女子ワールドカップで優勝をし、どれだけ私たちに勇気と感動を与えてくれたか。同じ夏、池井戸の作品が直木賞を受賞したことで、同じような感動を覚えた人も多かったにちがいない。
 選考委員の一人伊集院静氏は「さまざまな事情を抱えた今夏の日本に活力を与える小説」と選評で記したし、桐野夏生委員は「震災後の日本の姿を、是非、池井戸さんに書いて頂きたいと願う」とした。

 この作品をきっかけにして、池井戸さんの作品はデビュー作から見直されていくことになる。あるいは、「半沢直樹」シリーズのように映像化と相まって、多くの読者を獲得していく。
 受賞作となったこの作品ものちにテレビドラマ化され、ドラマのインパクトが小説の展開とリンクして、小説単独では味わえない面白さを、受賞から7年も経っても、味わうことができるのはうれしい。
 ただ林真理子委員が「登場人物のすべてがステレオタイプなのが気にかかった」と選評で書いているように、もしかしたら池井戸さんの作品がドラマ化されて面白いのは、そういう点があるともいえる。

 この時の選考会で「わたしはここまで読みものに堕したものは採らない」と否定的意見を述べたのは渡辺淳一委員だが、私は決してこの作品を「堕したもの」とは思わない。
 「読みもの」であってもいいものは、いいのだから。
  
(2018/08/18 投稿)

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