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プレゼント 書評こぼれ話

  二日続けて、曲亭馬琴の物語が続きました。
  確かそういえば、もしかして、
  馬琴が活躍した時代を描いた直木賞受賞作があったはず、と
  記憶の引き出しを開けてみました。
  井上ひさしさんの『手鎖心中』。
  何しろ1972年の直木賞受賞作で、
  確か受賞時に読んだ記憶がうっすらと残っていて
  本当に今回久しぶりに読んでみました。
  物語の最後の最後で
  曲亭馬琴の名前が出てきた時は、
  自分の記憶の引き出しもまだまんざらでもないなと
  うれしくなりました。
  新しい女性作家の馬琴もいいですが、
  井上ひさしさんの馬琴で笑うのも面白い。

  じゃあ、読もう。

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sai.wingpen  あざやかな嘘                   

 第67回直木賞受賞作。(1972年)
 この回の直木賞は、井上ひさしと綱淵謙錠の二人受賞になったのは、その前の2回で受賞作ナシが続いたその影響もあったかもしれない。
 その後の井上ひさしの活躍を知っていると、さぞ絶賛で直木賞を受賞したかと思いきや、
 選考委員の選評を読むと決してそうではない。
 どちらかといえば、綱淵謙錠の方が評価は高い。(受賞作は『斬』)井上ひさしは、滑り込み受賞のような感じさえする。
 もっとも高く評価したのは、水上勉と松本清張。
 「個性ゆたかな作家」(水上勉)、「大型作家になる可能性(これは可能性)は十分にある。」(松本清張)と並べると、松本清張の予感は当たったといえる。

 受賞作の『手鎖心中』は中編小説。
 江戸時代、材木問屋の若旦那でありながら、戯作者になろうと、馬鹿なことをし続ける栄次郎の姿を描き、時に笑いを混ぜ込ませた、その後の井上ひさしの世界を彷彿とさせる作品。
 栄次郎を見ていると、「馬鹿だねぇ」とつい笑いがこぼれるのは、落語の世界のよう。
 この栄次郎の馬鹿に付き合い、最後は心中の真似事が真似事でなくなる始末を見届ける三人の男たちが、十返舎一九、式亭三馬、そして曲亭馬琴となるなんて、かなりひねりが効いた戯言。
 {うそのあざやかさには目をみはるおもいがした}と選評に書いたのは、司馬遼太郎委員だった。
 うそもあざやかだと、受賞に値いするのだ。
  
(2024/03/15 投稿)

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プレゼント 書評こぼれ話

  直木賞作家の伊集院静さんが
  11月24日、73歳で亡くなりました。
  追悼記事を綴るほど、伊集院静さんの作品を読んできた訳でもなく、
  若くして亡くなった女優の夏目雅子が前妻で
  同じく美人女優であった篠ひろ子さんが現妻という
  かなりミーハー的な興味しかありませんでした。
  このたびの逝去で、氏の業績を知るうちに
  もっと氏の作品を読んできたかったと感じました。
  そこで手にしたのが伊集院静さんが直木賞を受賞した短編集
  『受け月』です。
  こんなに情感に溢れた作品を書く作家に気づくことなく過ごしてきたことに
  伊集院静さんが作詞したタイトルそのものの「愚か者」だと
  悔やんでいます。
  これからも、機会があれば、
  伊集院静さんの世界をたどってみたいと思います。

  ご冥福をお祈りします

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sai.wingpen  男を泣かせる短編集                   

 第107回直木賞受賞作。(1992年)
 表題作である「受け月」をはじめとした7篇の短編を収めた作品集で受賞。ほとんど満票に近い受賞といっていい。
 選考委員の一人、井上ひさし氏などは「多言を要すまい。とてもよくできている」「これは立派な一冊」と絶賛している。
 「すでに伊集院静の世界、という独自の世界がはっきりできあがってしまっている」と選評を書いたのは五木寛之委員。伊集院静さんの足跡をたどると、すでに楽曲「愚か者」で日本レコード大賞作詞賞を受賞(1987年)していて、新人というにはほど遠い実力を持った書き手であった。

 7つの短編ともに「野球」が作品の核として採用されている。発表当時はまだまだ「野球」人気が高く、伊集院静さんも野球青年でもあった。
 「受け月」には熱血指導が時代に合わなくなり実業団の監督を味追われるように引退する老いた男が描かれている。今まで自身の力だけを信じた男が最後に神に祈るようにして、天上の月に頭を下げる場面など、伊集院さんの小説家としての巧さが光る。
 7つの短編にはそれぞれ好みがあるようで、複数の委員は「切子皿」を挙げている。
 私の好みでいえば、冒頭におかれた「夕空晴れて」だが、少年野球の監督は今は亡き夫の後輩であり、若い頃の思い出で涙する場面、田辺聖子委員によると「男性読者には受けるだろう」と読まれるあたり、なんだか田辺聖子委員に脱帽する。
  
(2023/11/28 投稿)

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プレゼント 書評こぼれ話

  先月の半ば、
  直木賞作家の白石一文さんの新刊が出ました。
  タイトルは『かさなりあう人へ』。
  その広告にこうありました。

   直木賞受賞作『ほかならぬ人へ』から14年。
   出会いの神秘を問う白石恋愛文学の到達点。

  なんかぐぐっと引き寄せられました。
  あ、でも、まだ直木賞を受賞した『ほかならぬ人へ』を読んでいないので
  まずはそこから。
  ということで、直木賞を受賞したのは2009年で、
  今頃読むのは少し恥ずかしいですが、
  やっぱりここから読まないと。

  じゃあ、読もう。

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sai.wingpen  渡辺淳一も認めた恋愛小説                   

 第142回直木賞受賞作(2009年)。
 受賞作『ほかならぬ人へ』は単行本のページ数でいえば180ページほどの中篇小説で、単行本にはもう一篇『かけがえのない人へ』と、表題作とよく似たもう少し短い作品が収められている。
 直木賞は『ほかならぬ人へ』という単独の作品に与えられたのではなく、もう一篇も収めた一冊の中篇集が評価されたようだ。
 この時の選考委員の一人である宮部みゆき氏などは二つの中篇の登場人物である女性をさも同じ人物であるかのように読み違えをしたことに陳謝しているほどで、なるほど、よく似たタイトルをつけると、さすがに著名な作家であっても読み間違えることもあるのかと、微笑ましく感じた。

 ただ、二つの作品はタイトルこそよく似ているが、作品の構造はまったく違う。
 やはり表題作である『ほかならぬ人へ』の方が少し長いだけ構造が複雑で、その分作者が描こうとした愛の世界に広がりがでたように思う。
 主人公の明生は資産家で名家の三男。兄二人の出来がいい一方で、明生は自身生まれそこないとずっと思いつづけてきた。
 そんな明生は一挙に魅かれた女性なずなと結婚するが、彼女にはずっと思い続けた男がいて、その男が離婚したと聞いたなずなは明生から離れていく。
 失意の明生を救ってくれたのは、会社の先輩であった東海さん。次第に東海さんに魅かれていく明生。
 それだけの関係でなく、そのほかいくつもの恋愛模様が描かれている。

 恋愛小説といえば、やはりこの時の選考委員の一人渡辺淳一氏の評価が気になるが、「この作品は久々に男女関係を正面から描いたもの」と高い評価となっている。
 まさに渡辺淳一氏も認めた恋愛小説だ。
  
(2023/11/17 投稿)

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プレゼント 書評こぼれ話

  正直にいうと、
  やっと読めた直木賞受賞作です。
  それは図書館で借りる多数の順番待ちということでもあるし、
  自分の中では佐藤正午さんという作家が
  直木賞というのが
  どうもしっくりこなかったこととも関連する。
  佐藤正午さんが直木賞を受賞したと聞いて
  とても驚いたのは私で、
  デビュー当時何冊か佐藤正午さんの作品を読んだことがあって
  まさか直木賞作家になるとは
  信じられなかった。
  受賞作である『月の満ち欠け』も
  純文学といってもいい出来に仕上がっていたから
  読んだあともなんだかしっくりこなかった。
  直木賞は新人賞ではなかったのかとつい頭をひねる
  そんな作品だろう。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  直木賞の性格を揺るがす事件のような作品                   

 第157回直木賞受賞作。(2017年)
 佐藤正午さんが受賞されて、正直驚いた人も多かったのではないだろうか。
 何しろ佐藤さんといえば、『永遠の1/2』でデビューしたのが1983年。この作品で「すばる文学賞」を受賞した当時気鋭の新人作家だった。
 あれから30年以上経つ。その間も作品を書いてこなかった訳ではない作家だから、選考委員の一人浅田次郎委員のいう通り「熟練の作品」であり、「他の候補作とのちがいは相当に歴然」なのも、至極当然だろう。
 だからといって、何故この時に佐藤さんが受賞するのか、これは直木賞という文学賞の性格を余計に曖昧にした事件のように感じた。

 作品は「生まれかわり」をテーマにしているが、作品の長さを気にしなければ、内容的には芥川賞向きのような思えた。
 さらにいえば、これは多分一読者の偏りといっていいだろうが、村上春樹さんの初期の頃の文体にとてもよく似ていた。
 村上春樹さんが『風の歌を聴け』で「群像新人賞」を受賞したのが1979年だから、佐藤さんはほぼ同世代の作家といえる。
 時代の匂い、時代の風がよく似ているということだろう。

 選考委員の中には「後味が悪い」とか「不気味な作品」と選評に書く人もいたが、決してそんなことはなかった。
 ただ、2016年公開された新海誠監督の『君の名は。』に、あれは時空を超えた「入れ替り」だが、とてもよく似ていた。
 つまり、「生まれかわり」であろうが、「入れ替り」であろうが、愛する人とはどこかでつながっているということだろう。
  
(2023/03/29 投稿)

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 窪美澄さん、第167回直木賞受賞おめでとうございます。
 直木賞候補は『じっと手を見る』『トリニティ』についで、すでに3回めで
 『ミクマリ』で第8回女による女のためのR-18文学賞大賞を受賞したのが2009年だから、
 窪さんの作家としての実績もすでに10年以上。
 『ふがいない僕は空を見た』で第24回山本周五郎賞を受賞したのが2010年だから、
 直木賞という新人賞は、窪さんには少し遠くなったかもしれないと、正直にいえば、
 この『夜に星を放つ』での受賞はないかもと観念していたところ。
 それがそれが、これまでずっと窪美澄さんの作品を読み続けて読者として
 こんなにうれしいことはありません。

  

 受賞作がどんな作品なのか。
 本のタイトルがしめすように、この短編集には星座をちりばめた作品5編が収められている。
 発表年度もさまざまで、もっとも古いのが2015年に発表された「銀紙色のアンタレス」。
 実はこの短編は2016年に刊行された『すみなれたからだ』に既に所載のもの。
 一番新しいのが2021年に発表された「真夜中のアボカド」と「星の随(まにま)に」。
 2つの作品にはコロナ禍でのマスク越しの恋愛や営業自粛でぎくしゃくした家族が描かれて、
 ひと夏の純な少年の恋を描いた「銀紙色のアンタレス」とは随分違うところにきたと思わせられる。
 それは窪さんがこれまで描いてきた作品の変化ともいえるし、
 逆に窪さんがこれまでもずっと描き続けてきた、人と人との距離の取り方そのものといえる。
 窪さんが変わってのではなく、私たちの世界がその距離の取り方を変えてきているような気がする。
 そういう時代の変化をこの短編集で味わうのもいい。

 それでも、好きな短編をひとつあげるとすれば、私はやはり「銀紙色のアンタレス」をあげる。

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