プレゼント 書評こぼれ話

  第158回芥川賞直木賞が発表されました。

      直木賞は門井慶喜の「銀河鉄道の父」 芥川賞はダブル受賞

  お、すごい、
  直木賞の方が先ですね。
  でも、記事の中は
  やっぱり芥川賞が先。
  まあ、五十音順と思えば。

    芥川賞は石井遊佳さんの「百年泥」(新潮11月号)と
    若竹千佐子さんの「おらおらでひとりいぐも」(文藝冬号)が受賞。
    直木賞は門井慶喜さんの「銀河鉄道の父」(講談社)が受賞した。


  門井慶喜さんの受賞作『銀河鉄道の父』は
  すでにこのブログで紹介してますね。
  こういうのって
  先見の明というのかな。
  さっそく
  再録書評で載せておきます。

  まずは、おめでとうございます。

  

sai.wingpen  注文の多い息子に父はどう対処したか                   

 第158回直木賞受賞作。
 門井慶喜さんの作品は第155回直木賞候補となった『家康、江戸を建てる』しか読んでいないからエラそうなことは言えないが、作品の捉え方が独特でいい。
 この作品にしてもそうで、宮沢賢治というあまりにも有名な作家の生き様をその父の視点から描こうというのは、今までありそうでなかった視点といえる。
 それでいてそれが変化球かといえば決してそうではない。
 むしろ直球ストライクど真ん中というのが、読んでいて気持ちいい。

 この物語の主人公は賢治の父政次郎である。
 賢治の実家である質屋を父喜助から引き継いで、岩手花巻の富豪であり名士であった。
 賢治もそうであったが、政次郎も子供の頃からよく出来て「花巻一の秀才」と言われたという。そうなると当然上級の学校となるが、喜助の「質屋には、学問は必要ねぇ」の一言でそれを断念することになる。
 しかし、自分の息子がそうなった時、政次郎は進学を許す。賢治の妹のトシもそうである。
 それは時代の流れといえばそうかもしれないが、もし喜助のような性格であれば賢治は果たして上級の学校に行けたか。
 もっというなら、賢治が童話や詩を書くに至ったかはわからない。

 それを政次郎の甘さといえなくもない。
 読んでいてここまで息子や娘に優しい父をうらやましいと思うが、賢治を後世いわれる宮沢賢治に仕上げたのはこの父なのではないか。
 いや、もしかしたら政次郎こそ宮沢賢治になりたかったその人なのかもしれない。

 けっして重くならない門井さんの文体もこの作品にはよく合っている。
  
(2017/12/02 投稿)

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  第97作めとなる
  NHKの朝の連続テレビ小説わろてんか」が
  始まりました。
  このドラマ、吉本の創業者吉本せい
  モデルにしているようですが
  吉本せいという女性は
  その生涯が波乱万丈ということもあって
  たくさんの小説やドラマの
  モデルになっています。
  そこで今日は
  山崎豊子の『花のれん』を
  紹介します。
  この作品、新潮文庫にはいったのが
  昭和36年ですが
  今回の朝ドラにあわせて
  表紙カバーも刷新して
  書店で平積みされています。
  すごいですね、
  朝ドラの力って。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  朝ドラよりも面白い                   

 第39回直木賞受賞作。(1958年)
 今や157回を数える直木賞だから、この作品がどれだけ古いかわかろうというもの。
 そして、このあと『白い巨塔』『不毛地帯』『大地の子』といった社会派長編小説を手掛けた山崎豊子の出世作といえる作品である。
 選考では大方の委員の評価を集めたようで、中でも川口松太郎は「今度の作品中では、どれよりも優れているような気がして自信を持って推薦」と絶賛。海音寺潮五郎は「材料を豊富に用意しておいて、速射砲的にポンポン撃ち出して行く手法が面白い」と評価するも、小島政二郎は「彼女の成功のイキサツが実にイージー・ゴーイング」と厳しい点をつけている。

 この長編小説は現在の吉本興業の創業者吉本せいをモデルとした女一代ものである。
 大阪船場の老舗に嫁いだ多加だが、その夫吉三郎の道楽がひどく、店もつぶれてしまう。そんなに道楽が好きならいっそのこと好きな芸能興行をしてみてはと吉三郎にもちかけたのが、多加の商いの始まりであった。
 少し芽のでてきた商いに吉三郎の道楽がまた顔を出し、ついには愛人の家で命をおとしてしまう始末。
 その葬儀、二人の夫にまみえないという覚悟の白い喪服を着て、多加は商いへの覚悟を決める。
 ここまでがおよそ三分の一。これから先、多加がほのかに想いを寄せる男の登場もあるが、それをふりきっても商いにまい進する女性の強さが見事に描かれて、面白かった。
 桂春団治やエンタツ・アチャコといったお笑い界の名人とのエピソードもうまくはめこまれて、満足の一編である。
  
(2017/10/13 投稿)

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  芥川賞関連の本が続いたので
  今日は
  直木賞関連で
  川口則弘さんの『直木賞物語』。
  文春文庫
  先の『芥川賞物語』に続いて
  文春文庫化されました。
  それでも芥川賞の方が先。
  ここでも直木賞はあと。
  もう、ぐれちゃう。
  と、直木賞はいわない。
  何故なら直木賞の良さを
  わかってくれる人はいるのですから。
  川口則弘さんのように。
  でも、今回の
  恩田陸さんにしても
  前回の荻原浩さんにしても
  今更直木賞じゃないよね。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  川口則弘さんは直木賞が大好き                   

 この文庫本のもととなるバジリコ版の単行本が出版されたのは2014年の1月で、書かれているのが日本でもっとも有名な文学賞である芥川賞の対となる直木賞の歴代受賞劇にかかる悲喜劇事情である。
 当然そのあとも直木賞は営々と続いているわけで、今回の文庫化にあたっては単行本化のあとの第150回から第155回分が追記されている。
 とここまでは、この文庫本に先立って刊行された『芥川賞物語』とほぼ同じ。
 それにしても直木賞というのは常にこんな位置にある。
 同じ日に生まれた双生児のようでありながら、常にお兄さんがほめられ注目を浴びている兄弟みたいなもの。
 同じような関連物語ながら単行本でも一年早く、文庫本でも『芥川賞物語』の方が先に出てしまう。
 それでもいじけないのが、直木賞らしいといえば、いえる。

 単行本刊行のあと芥川賞は又吉直樹氏の『火花』とか耳目を集めた作品が何作かあったが、直木賞といえばどうもいけない。
 特にここ何回かの受賞作はどうだろう。荻原浩氏と恩田陸氏の受賞である。
 直木賞といえば新人賞だとばかり思っていたが、どうもそうではないらしい。
 じゃあ、中堅かといえばそれをも通り越してしっかり名の通った人であっても受賞の対象となるようだ。
 エンターテイメントな作品が対象といいつつ、受賞に至るそれが少しも血が騒ぎ肉踊らない。
 この本の著者の川口氏はそれでも律儀に直木賞を応援しているようだが、この出版不況の中、まず直木賞が消えてしまわないか、それが心配だ。
  
(2017/04/15 投稿)

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  今日は二十四節気のひとつ
  大雪
  おおゆき、ではなく、だいせつと読みます。

    大雪や父子しづかに陶つくり     市川 一男

  先月は11月にして初積雪など
  びっくりしましたが
  ここ何日かは穏やかですね。
  冬らしくない。
  冬はこたつで読書三昧がいいけれど。
  今日は第155回直木賞を受賞した
  荻原浩さんの『海の見える理髪店』を
  紹介します。
  6つの短編が収められています。
  あまりに巧すぎて困ってしまいます。
  ほっこり系の物語が好きな人とか
  最近泣いていないという人には
  おすすめです。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  巧すぎる名人芸                   

 第155回直木賞受賞作。(2016年)
 最近よく目にする言葉に「ほっこり」がある。別に若者言葉ではないが、どういう加減かよく言われている。
 直木賞を受賞した荻原浩の6つの短編も、この「ほっこり」という言葉が似合う作品だ。
 しかし、それ以上のものではない。
 この短編集がどうして直木賞に選ばれたのかわからない。
 悪い作品ではない。しかし、しょせん「ほっこり」でしかない。

 選考委員たちの選評を読んでも、この作品を推す強い感情が感じられないのは私だけであろうか。
 「オーソドックスな短編集」(北方謙三)、「ベテランらしいうまさや配慮」「地味で堅実な方法」(浅田次郎)、「丁寧に仕上げられた人情味溢れた物語」(東野圭吾)、と続く。
 そして、林真理子委員である。
 こうある。「すべてがいきとどいている」が、「いささかもの足りない」。
 「荻原さんなら、このレベルのものはいくらでも書けるだろう」。
 一番正直な感想といっていい。

 浅田次郎氏は「記憶に刻まれる」という点ですぐれていると評しているが、それはどうだろう。
 私はあまりに巧すぎて、「記憶に刻まれる」ことなく、するりと抜け落ちてしまうのではないかと思ってしまう。
 読書体験としては心地いい。
 読んでいて胸にぐぐっとくる。
 ところが、読み終わってページを閉じた段階から、この短編集の作品世界ではなく、今のなんともいえない世界がひろがっていく。

 そうはいっても一番好きな作品を選ぶとしたら、私は「遠くから来た手紙」だ。
  
(2016/12/07 投稿)

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  総合雑誌「文藝春秋」で
  佐藤優さんが「ベストセラーで読む日本の近現代史」という
  連載をしている。
  今月の10月号で取り上げているのが
  今日紹介する
  角田光代さんの直木賞受賞作
  『対岸の彼女』で
  佐藤優さんはこの作品を
  「友情の深層に迫るすがすがしい傑作」と記している。
  私からすると
  この本も読みそびれた本の一冊で
  やっと読めた気分です。
  そして、
  やっとでも読んでよかったと
  思っています。
  そんな一冊です。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  角田さんの光                   

 第132回直木賞受賞作。(2004年)
 今や女性作家としての人気もその重厚な作品造りも抜きん出ている感のある角田光代がこの作品で直木賞を受賞した際、「角田さんの嗅覚」と題して選評を書いた林真理子選考委員は「少女の頃からどこかに属していないと、女たちは非常に生きにくいという現実を踏まえながらもこの小説には救いがある」と絶賛した。
 同様の評価もほかにもあって、積極的な評価ではなかったものの田辺聖子委員の「読者も生きる力を与えられ、読後感は爽やかだった」というのは、なるほど、確かに長い作品の最後の最後で前に進もうとする勇気を与えられた作品だと思う。

 物語は35歳で専業主婦の小夜子が育児や家事だけでなく生きる糧のようなものを求めて働き始めようとして出会う、同年の葵とのシンクロしていく感情を、小夜子を中心とした「現在」と高校生の葵を中心とした「過去」を、相互に描くことで、女性たちの心理に踏み込んでいく。
 男性の目からすれば十分に理解できていないかもしれないが、女性の側からすればこの小説はどれほど琴線に触れたことだろうと思える。

 小夜子は子供を育てながら、何故自分たちは年齢を重ねるのかと自問するが、最後一旦葵から離れながらもまた葵と向かい合うことを決めた小夜子は、その問いにこう答えを出す。
 「出会うことを選ぶためだ。選んだ場所に自分の足で歩いていくためだ」。
 まさに角田光代の光がここにはある。
 その光はこのあともすっと伸びて、今に続いている。
  
(2016/10/11 投稿)

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