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プレゼント 書評こぼれ話

  今日は朝井まかてさんの最新刊
  『朝星夜星(あさぼしよぼし)』という長編小説を紹介します。
  本当に朝井まかてさんは
  どこまで上手くなるのか、
  毎回感心し続けていますが、
  この作品もうまい。
  できれば、朝ドラなんかでやれば面白いのにと
  つい思ってしまうのは
  朝井まかてさんの作品に登場する人物の造型が
  うまいからかもしれません。
  で、ついこの主人公にはどんな役者がいいかなんて
  描いてしまいそう。
  これからも朝井まかてさんの作品を
  楽しみにしています。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  この夫婦のことはもっと知られてもいい                   

 朝井まかてさんの『朝星夜星』(2023年2月刊)の主人公「草野丈吉」は実在の人物である。
 「人名辞典」によれば、「幕末・明治時代の料理人」とあって、長崎出島のオランダ商館で西洋料理を習得、その後長崎で我が国初の西洋料理店を開くと出ている。
 明治維新後には店名を「自由亭」とし、大阪や京都にも出店、西洋料理の普及に努めたとある。
 丈吉は明治19年、47歳で亡くなっている。
 彼とその妻ゆきを主人公にした朝井さんのこの作品は、幕末から明治を駆けぬけた志士や政治家たちを料理で支えてきた、長編歴史小説だ。

 タイトルの「朝星夜星」は、結婚間もない頃ゆきに言った丈吉のこんな言葉からとられている。
 「おれらの甲斐はほんのつかのま、食べとる人の仕合わせそうな様子に尽きる。その一瞬の賑わいが嬉しゅうて、料理人は朝は朝星、夜は夜星をいただくまで立ち働くったい」
 この言葉通り、読み書きの出来なかった丈吉ながら、ひたすら西洋料理に邁進していく。
 そんな夫に料理が満足にできなかった妻ゆきは、その大らかな人柄と体躯で、夫とその家族を支えていく。
 この夫婦に手を差し伸べる人たちもまたすごい。
 陸奥宗光、五代友厚、岩崎弥太郎、といった明治の時代を作った人たちが、丈吉の西洋料理に舌鼓をうち、丈吉夫婦が提供するホテルとレストランが日本と西洋を結ぶ架け橋と信じて支援していく。

 物語はゆきが丈吉に見初められ、結婚して、三人の子供たちの子育てや娘の破談など、実にドラマチックに進んでいく。
 丈吉の早すぎる死のあと、最後には夫婦がこしらえてホテルを手放すところまで描かれていて、さすが、朝井さんの筆は飽かせない。
  
(2023/04/11 投稿)

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 単行本が文庫化される時、
 表紙の装幀が変わることがよくあるが、
 韓国で130万部を超えるベストセラーになり、
 日本でも単行本で20万部を超えるヒット作となった、
 チョ・ナムジュの『82年生まれ、キム・ジヨン』の場合、
 表紙の装画を変えることなく文庫化された。
 イラストを描いたのは榎本マリコさんで、
 その「顔のない女性の顔」がこの物語を端的に言い当てているといえる。
 つまり、この物語は
 韓国で82年に生まれたキム・ジヨンという女性が
 どのようにして育てられ、
 どのような社会環境で生き、どんな家庭をつくっていったかを描いたものだが、
 それは同時に現代を生きる女性一般に共通する
 悩みであったり怒りであったり悲しみであったりを
 表現している。
 「顔のない女性の顔」に、もしかしたら読者であるあなた自身が
 はまり込んでしまう可能性がある。
 そうすれば、タイトルだって「〇〇年生まれ、〇〇 〇〇」であっていい。

  

 主人公であるキム・ジヨンが女性である故に虐げられいくのは
 韓国の女性だからではない。
 おそらく日本の女性もまた同じような男性との格差に悔しい思いをしてきただろう。
 男性だって、そんな数多くの現象を
 時にリアルで、時に社会的な事件として目にしてきたはずだ。
 だから、この物語を読んで「よしっ!」と立ち上がるのは女性だけではない。
 男性たちが立ち上がるためには、
 まずこの物語を読むことから始めたい。
 男性たちなら、表紙の女性にどんな顔の女性をはめ込むだろうか。

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 小谷野敦さんの『直木賞をとれなかった名作たち』は
 文壇ゴシップ満載の面白い本だったが、
 中でも水上勉川上宗薫との確執の記事には思わず前かがみになった。
 何しろ一方は社会派作家水上勉で、もう片方は昭和の官能小説の大家川上宗薫
 この二人にかつて交流があったことすら知らなかった。
 ある時川上が水上を揶揄する文章を発表、
 それに怒った水上が川上をモデルとした『好色』なる作品を書くことになる。
 書かれている内容に衝撃を受けた川上の妻が自殺まで考えたという。
 一体、水上勉の『好色』とはどんな作品なのか。

  

 この小説は1964年(昭和39年)の秋、文芸誌「新潮」に掲載された中編小説で、
 同じ年の10月単行本化されている。
 主人公の私とその友人鬼頭宗市の奇妙な関係を描いた作品で、
 鬼頭は牧師の息子であったり教師をしていたり、
 あるいは有名な文学賞に何度も落選(実際川上宗薫は芥川賞に5回落選している)など、
 明らかに川上をモデルにしているのがわかる。
 しかも、この鬼頭は妻をほっておいて
 何人もの女性と交流を持つ「好色」な男で、
 自分の教え子にまで触手をのばしている。

 水上勉ってこういう作品も書いたのだという驚きもあるが、
 こういう作品を書かせ、文芸誌に掲載させた編集者というのも
 おぞましいものだ。
 それにしても、やはり人に恨みをかうと怖いことになる
 見本のような小説である。

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プレゼント 書評こぼれ話

  いよいよ昨日から
  NHKの連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)の第108作目となる
  「らんまん」が始まりました。
  今回の作品は植物学者牧野富太郎がモデルとなっています。
  主人公の万太郎を演じるのは神木隆之介さん。
  朝ドラで男性が主演を演じるのは2020年の「エール」以来だとか。
  朝ドラはここ何作か現代を描いた作品が多かったので
  今回は朝ドラの直球勝負というところかな。
  とても楽しみにしています。
  そこで、今日はドラマが始まったのを祝して
  牧野富太郎の生涯を描いた傑作
  朝井まかてさんの『ボタニカ』を
  再録書評で紹介します。
  朝ドラをもっと楽しみたい人、
  必読の一作です。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  朝井まかてさんはまたも感動作を生み出した                   

 植物学者牧野富太郎のことは、その生涯や業績は知らなくても、名前だけが知っているという人は多いかもしれない。
 理科の授業であったか、日本史のそれであったか、よくは覚えていないが、子供向けの伝記もたくさん出版されているようだから、有名人であることは間違いない。
 本作品は朝井まかてによる牧野の生涯を描いた長編小説である。

 タイトルの「ボタニカ」は「植物」を指す言葉だが、この作品の中で若い頃の牧野がその意味を尋ねられて「種」と答える場面がある。
 牧野のこの国の植物学や教育の現場で果たした役割もまた「種」であったのだろうと、この長い物語を読み終わって感じた。

 それにしても牧野のような生き方が誰もができるわけではない。
 土佐(高知県)の酒づくりの大店の息子でありながら、その財産をすべて自身の学問に使い果たし、故郷に妻がいながらも学問の地には女と別の所帯を持つ。
 いくら学問ができたとはいえ、こういう人物を親戚に持つと大変だろうが、故郷の本妻(やがて離縁するが)も東京での女(やがて本妻となるが)も牧野を支え続ける。
 あるいは、小学校中退という学歴しかなく研究を続けた大学で冷や飯を食い続けるが、その一方で彼の支援し続ける人もいた。
 「人生は、誰と出逢うかだ。」、本作の終盤近くに、朝井はこう書いた。

 それにしても、朝井の筆のなんと自由闊達なことか。
 特に最後の10数行の文章は、作者の心の高ぶりがそのまま伝わってくる、詩のような名文だ。
 牧野風に書くならば、草木の澄み切った露のような。
  
(2022/03/03 投稿)

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 「面陳」というのは、本屋さんでよく見かける、
 背表紙でなく表紙面を見せて陳列する方法のこと。
 新刊書などは、なおかつ平台に積まれることがある。
 ただ、この陳列方法だとスペースもとるから、ほとんどの本が
 短時間で背表紙だけを見せる陳列方法に変わる。
 ただその本屋さんがこれはと思う本を「面陳」することがある。
 2017年に文庫本になった西條奈加さんのこの『まるまるの毬(いが)』を
 「面陳」してくれた本屋さんがあったおかげで
 この本に出会えた。
 だって、表紙の食べかけの「回転焼き」がなんともおいしいそうだったから。

  

 この作品は親子三代で菓子を商う
 江戸・麹町にある「南星屋」を舞台にした連作時代小説。
 その出生ゆえに武家から菓子職人になった治兵衛と
 夫の浮気で父治兵衛の元に戻った娘お永、そしてその娘お君の、
 文庫解説を書いた澤田瞳子さんによれば、「家族の物語」。
 もちろん、菓子屋が舞台だから、作品には必ず和菓子が登場するし、
 各作品のタイトルも和菓子の名前がついている。
 人情噺ともいえる内容に時に胸をうたれながらも、
 さてこのお菓子はどんなもの、その形、味はと
 甘党の読者を飽きさせることはない。

 で、表紙の「回転焼き」だが、
 この菓子にはさまざまな呼び名があって
 「大判焼き」とか「御座候」と呼ぶところもある。
 ただ残念なことにこの本には「回転焼き」は登場しない。
 でも、これは「回転焼き」ですよね、
 カバー装画を描いた「彦坂木版工房」に訊いてみたいところだ。

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