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 先日第21回となる本屋大賞が発表されました。(2024年)
 受賞したのは、宮島未奈さんの『成瀬は天下を取りにいく』。
 書店員さんが選ぶ賞だけあって、今書店の店頭では熱くなっています。
 本のタイトルをもじれば、
 「宮島未奈は(この本で)天下を取りにいく」といったところでしょう。

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 この本の冒頭を飾る短編「ありがとう西武大津店」は、
 第20回「女による女のためのR-18文学賞」の大賞を受賞(2021年)しています。
 ここに登場する成瀬あかりという中学2年生の、ちょっと個性的な女の子と、
 滋賀県大津という割と地味な土地を舞台にした6つの短編で
 この『成瀬は天下を取りにいく』は出来上がっているのですから、
 連作短編集ともいえますが、小気味いい長編小説として読むのもありだと思います。
 中学2年の成瀬が、6つめの作品「ときめき江州音頭」で大学受験前の
 高校三年になっているのですから。

 この作品は、ひとえに成瀬の個性で読ませているといってもいい。
 何しろ「200歳まで生きる」とか大津から西武百貨店が撤退したあと
 自分で大津に百貨店をつくると宣言するような女の子ですから。
 もし、心が弱ったそんな時に、この本を読むと、
 おそらく元気がもらえるのではないでしょうか。
 何故なら、成瀬のように人とちがっていても平気な女の子だっているのですから。
 きっと、この作品はコロナ禍がおさまったこの時代の青春小説として
 名前が残るにちがいない。
 最初の作品のタイトルをもじれば、
 「ありがとう成瀬あかり(宮島未奈さん)」といいたくなります。

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 「私は英雄ではなく、市井の人々が生き生きと立ち上がる創作を志す者です。
 これは『つまをめとらば』で第154回直木賞を受賞(2016年)した青山文平さんが
 『父がしたこと』(2023年12月刊行)出版に際してなされたインタビューで
 語った一文です。
 この長編小説は「医療時代小説」と称されていることもあるようで、
 確かに全身麻酔で日本で最初の乳がん手術を成功させた華岡青洲の高い技術を受け継いだ
 地方の名医が施す麻酔治療を描いてはいますが、
 医療という世界だけではなく、
 藩主とそれに使えるもの、父と子、母と嫁といった
 人間が生きていくなかで生まれていく関係を描いた作品といえます。

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 主人公である目付永井重彰の父は長年藩主に仕える小納戸頭取の職にある。
 痔ろうの病の重い藩主は、名医の呼び声高い高坂に麻酔を用いた施術を行うことになる。
 立ち合いは重彰とその父。
 重彰の息子は肛門がない鎖肛として生まれ、
 高坂は施術で見事に肛門を作り出してくれた恩人の医師でもあった。
 藩主への施術も成功し安堵する重彰に高坂の不慮の死が伝えられる。
 物語はその後、急転していく。
 『父がしたこと』という、なんともそっけないタイトルだが、
 読み終わったあと、このタイトルが持つ重みを感じることになるだろう。

 「父」がなしたことを、「男」がなしたことと言いかえた時、
 あなたならどう感じるだろう。
 それこそ、主人公の重彰の心でもある。

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 初めてのフォトストーリーと銘打たれたこの本『彼女たち』は
 文を書いた桜木紫乃さんと写真を担当した中川正子さんの
 類まれな心がふっとほどけるような一冊だ。
 文でいうなら短編というよりショートショートというべきか、
 それとも三篇の詩のようでもある。
 三篇の物語は小さな喫茶店で交わって、だとしたらこれらは
 連作短編だといえる。
 そして、多くの言葉で語られないものを中川正子さんの写真が
 そっと風のように寄り添う。
 あるいは、喫茶店に流れる静かな音楽か。
 そんな丸ごとがこの本といっていい。

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 「だいじょうぶ。わたしたちにはいまを乗り越える力がある―。」
 本の帯のこの一文は、本文では少し違っていて、
 70歳の誕生日を喫茶店で迎えたケイという女性が
 他の席にいる女性にむけて、ふっとつぶやく。
 「だいじょうぶよ。あなたたちはいまを乗り越える力があること、」
 そして、こう続く。
 「わたしは知っているの。」と。
 70歳のケイなればこそ、いえる言葉だろう。

 桜木紫乃さんの文章を読むか、
 中川正子さんの写真を見るか、
 お二人の作品を交互に楽しむか、
 この本は何度でも読者を誘ってくれる一冊だ。
 お気に入りの喫茶店の片隅で読みたくなる一冊でもある。

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 書名にある「世傳」とは「代々にわたって伝えていく」という意味で、
 高田郁さんの人気シリーズにぴったりの言葉です。
 「瀑布(ばくふ)篇」は、その『あきない世傳 金と銀』の第八巻めになります。
 ちなみに「瀑布」とは、高い所から白い布を垂らしたように、直下する水の流れをいう。
 ということは、新たな小紋染めで人気を集めることになった呉服商「五鈴屋」だが、
 思いがけないことに巻き込まれるという展開になるということ?
 七代目店主の主人公の幸(さち)がどう向き合うのか、ネタバレありの、ご用心、ご用心。

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 まず、最初の禍(わざわい)。
 江戸の町に麻疹が流行し、多くの死者が出て、呉服の商いの勢いがとまってしまうこと。
 どこまで作品と関係があるかわからないが、
 この第八巻が出版されたのは2020年2月でコロナ禍で日本中が混乱し始めた時。
 まるで現代の禍を予感させるような展開といえる。
 それをなんとか凌ぐが、次は幕府から千五百両の上納金を納めよというお達しが届く。
 商売が好調ゆえの、幕府からの無理押し。
 さらには、幸のあとの八代目店主を誰にするかという問題。
 当初は幸が世話になりその商才を鍛えられたもと番頭治兵衛の息子賢輔を考えていたが、
 まだ経験不足もあってためらう幸。
 その賢輔に恋心を抱く妹結(ゆい)だが、賢輔の心が自分に向いていないことに気付いて、
 この巻のラストには大事件が起こってしまう。

 えーっ、まさかの展開に、九巻急いで読まなくちゃ。

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 一口に時代小説といっても、さまざまなジャンルがある。
 砂原浩太朗さんがこれまで描いてきた、例えば『高瀬庄左衛門御留書』のような作品は
 武家ものと呼ばれるものになる。
 そんな砂原さんがこの『夜露がたり』という短編集で描いたのは、
 町で暮らす庶民の人生模様を描く市井ものだ。
 人生すべてが明るさに照らされていないように、
 ここに描かれる8篇の短編も決して明るくはない。
 まさに、夜の間にしっとりと降りてくる露のような物語である。

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 なかでも「死んでくれ」という作品は、どう答えを出していいのかわからなくなる。
 十年も姿を消していた父親が娘のおさとの前に現れるところから、物語は始まる。
 父親は博打依存で、多くの借金を抱えて逃げていた。
 そして、今度もまた博打に負けて、おさとの前に現れたのだ。
 やくざ者に追われてつかまった父親に、おさとが投げた言葉が「死んでくれ」。
 やくざに連れられていく父親の姿を、呆然と見送るおさと。
 この娘はどうすればよかったのか。
 父親の借金のため、女郎で売られていくべきだったのか。
 それとも、捨てるしかなかったのか。

 そのほかの作品も、答えなど見つからない。
 そもそも人生に、これが正しいとかいけないとか答えがあるものだろうか。
 裏長屋で生まれたものが明るい世界に出ていくことは多くはない。
 それでも生きるということは、息をし続けること。
 救いがなくとも、息をし続けること。
 読み終わったあと、ふっと人生の意味を考えてしまう短編集である。

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