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プレゼント 書評こぼれ話

  今日は
  最近映画が封切られて
  話題になっている
  アニー・エルノーさんの『シンプルな情熱』を
  紹介します。
  赤裸々な自身の性愛体験とありますが
  ちっともヘンな小説ではありません。
  渡辺淳一的世界ではなく
  吉行淳之介的世界かな。
  つまり、モロに描かれていなくて
  読者の想像に喚起させる
  そんな作品といっていいのではないでしょうか。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  映画化されてまた読まれている仏文学                   

 フランスの女性作家による、自身の性愛体験を綴ったこの作品がフランスで発表されたのが1992年。ベストセラーとなったこともあったのだろう、日本での翻訳が出版されたのは1993年と実に対応が早いのは、日本でも読まれるだろうという予感があったのだろう。
 当時、この本のことは全然知らなかったが、今年(2021年)映画が公開されるということで映画宣伝で、本書のことを知った。
 この人の作品を熱く支持するという林真理子さんが、この作品を評して「恋する情熱とは神様から与えられたギフトと思います。本作はある日突然そんな「ギフト」が与えられた女性の物語」と書いています。

 性愛体験を綴ったと評判の作品ですが、そういう場面はほとんどありません。
 40代後半の女性が、およそ一年間にわたって自宅で10歳余りも年下の男性と逢引を重ね、彼が妻のいる自分の国に帰国後も恋求めてやまない、そんな姿を描いた物語が、実はこの作家の実体験であることに、まず驚かされます。
 しかも、この作品が単なる実録告白ものとちがって、格調の高い表現で描かれていて、日本でいうところに純文学的な匂いが強い点も、読者の心理に響いたともいえます。

 この作品の最後は、こんな言葉で締めくくられます。
 「今の私には、贅沢とはまた、ひとりの男、またはひとりの女への激しい恋(パッション)を生きることができる、ということでもあるように思える。」
 おそらく、この本が多くの読者を得たのは、そういう作者の姿勢に対する賞賛だったのだろう。
  
(2021/08/04 投稿)

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  今日は
  久しぶりの時代小説、
  砂原浩太朗さんの『いのちがけ 加賀百万石の礎』を
  紹介します。
  砂原浩太朗さんはこの作品がデビュー作。
  私が読んだのは講談社文庫版(2021年5月刊)ですが
  単行本は2018年に出ています。
  このあと発表した『高瀬庄左衛門御留書』で
  藤沢周平さんの再来とか
  とかく評判の高い作家のひとりです。
  これだけの作品を書き上げる力量からすれば
  やはり将来が楽しみです。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  目立たないが、しっかり支えています、そんな男の物語                   

 受賞には至らなかったが、第165回直木賞の候補作となった『高瀬庄左衛門御留書』が評判の砂原浩太朗さんのデビュー作である。
 この作品で、第2回「決戦!小説大賞」を受賞している。

 主人公は、副題にあるように「加賀百万石」の礎を築いた前田利家の忠臣・村井長頼。といっても、この時代の信長や秀吉、あるいは家康といった有名な武士でもなく、長頼の主である前田利家ほどにも名は知られていない。
 主人公としては地味ではあるが、有名な桶狭間の戦いの前後あたりを描いた表題作の「いのちがけ」から、利家亡きあと家康によって御家の危機に陥った前田家を救う最終話まで、長頼は派手さはないが、こういう家来がいると大きな支えになる。
 ちょうど、社長を支える大番頭といったところだろうか。
 面白いのは、長頼にはそんな大番頭という風格もあまり感じないところだ。

 この作品は長頼を主人公にした長編小説という読み方もできるが、「いのちがけ」が桶狭間の戦いを描いたように、それぞれ各章で長篠の戦、賤ヶ岳の戦い、秀吉による朝鮮出兵といったように、連作短編としても楽しめる。
 もちろん、主である利家と従である長頼の、友情にも似た関係という一本の太い糸はゆるぎないし、最初の作品「いのちがけ」で謎かけのように登場する娘が終わり近くに重要な役どころで姿を現すのも、小気味いい。

 今回直木賞受賞には至らなかったが、将来が有望な書き手である。
  
(2021/07/27 投稿)

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  今日は
  二十四節気のひとつ、大暑
  いよいよ夏本番です。

     兎も片耳垂るる大暑かな     芥川 龍之介

  芥川龍之介の有名な俳句です。
  そして、
  今日はオリンピック関連で今年限りの特例として
  祝日が移動して
  今日が海の日
  明日東京オリンピックの開催日に合わせて
  スポーツの日
  ただ暑いだけのオリンピックだったら
  どんなによかったことか。
  まあさまざまな思いがある中での
  オリンピック開催となりました。
  今日は
  そんなオリンピックと関係なく
  原田マハさんの新作『リボルバー』を紹介します。
  しかも、今回はゴッホですから
  楽しみにしている読者も多いのではないでしょうか。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  誰がゴッホを殺したのか                   

 わずか37年の生涯ながら、その死以降どれほどの人が彼の絵画を絶賛し、その生涯をたどろうとしただろう。
 彼の名前は、フィンセント・ファン・ゴッホ。
 1853年(ちなみにこの年日本では浦賀にペリーが来航している)オランダに生まれ、亡くなったのは1890年7月29日。
 歴史の彼方にあるような人が今でも人々を魅了するのはもちろん彼の絵画の魅力もあるだろうが、短いながらも波乱に満ちた生涯もまた、人々を魅了する。
 あの絵を描いた人はどんな人物なのか、こんな人だからあんな素晴らしい絵が描けたのか。

 アート小説の第一人者である原田マハもそんな一人である。
 これまでにも何作かゴッホを描いた作品を発表している。そして、今回はゴッホと一時期共同生活を送り、最後には有名なゴッホの「耳切り事件」で決別したゴーギャンとの関係を描きつつ、後期印象派の代表格となった二人の芸術性を描いている。
 その点ではゴッホだけでなくゴーギャンの魅力も堪能できる贅沢な試みとなっている。
 同時に、今なお謎の多いゴッホの死因(拳銃による自殺説)を作家の大胆な仮説により展開しているのも面白い。
 実際自殺に使ったとされるリボルバーがオークションにかけられたのは事実であるから、原田さんが果敢に想像の翼を広げているのも無理のないところだ。
 しかも、もしかしてそういうこともあったではと読者に思わせる力量はさすがだ。

 これでまた一つ、原田マハさんのアート小説の代表作が追加されたといえる。
  
(2021/07/22 投稿)

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  今日は
  松本侑子さんの
  『恋の蛍 山崎富栄と太宰治』を紹介します。
  この本を読むきっかけは
  書評にも書きましたが
  野原一夫さんの『回想 太宰治』の
  ある場面から、
  山崎富栄というのはどんな女性だったのだろうという
  興味からでした。
  文庫本の表紙に18歳の山崎富栄さんの写真が使われていますが
  美人だったことがよくわかります。
  それにしても
  戦争さえなかったら、
  山崎富栄さんはまるで違った人生だったのでしょうが
  あの当時山崎富栄さんのような女性はたくさんいて、
  そのことで逆に非難される対象にもなったといいます。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  父の姿があまりに悲しい                   

 この評伝小説の執筆動機について、作者である松本侑子さんが「文庫本あとがき」に「太宰治と山崎富栄の生涯、二人の恋と心中について、山崎家と富栄の視点から考えてみたい、という思い」と書いている。
 私が2009年に書かれ、その後2012年に文庫化されたこの本を読もうと思ったのは、晩年の太宰のそばでその生活を見ていた編集者野原一夫さんが書いた『回想 太宰治』に、二人の遺体が玉川上水で見つかったあと、多くの支持者によって土手から引きあがられた太宰に対し、その場に据え置かれた富栄の遺体に傘を差し伸べる父親の姿を描いた場面が出てくる。
 娘を、しかも戦争によってわずか12日ばかりで結婚したばかりの夫と引き裂かれた娘をこんな無惨な姿で迎えなければならなかった父親は、どんなにつらかっただろう。
 心中した相手が新進の流行作家とはいえ、かつて何度も自殺や心中事件を起こした男で、妻や子があるにも関わらず、富栄以外にも子をなした愛人がいたそんな男を責めることもできずに、頭を下がるしかなかった父親。

 松本侑子さんは「単行本あとがき」で「本書は、富栄の小説ではあるが、書き終えた今、本当の主人公は、明治の東京に生まれ育ち、日本の美容教育の近代化、自らの立身出世をめざして孤軍奮闘しながらも、軍国主義と戦争にまきこまれ、一切を失った父晴弘だったかもしれない」と書いている。

 山崎富栄が亡くなったのは満28歳の時。
 もし戦争がなかったら、富栄の人生も、父晴弘のそれも大きくちがっていただろう。
 それは多くの日本人の悲劇だったともいえる。
  
(2021/07/20 投稿)

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  先日のNHK大河ドラマ「青天を衝く」
  天狗党の最後が描かれていましたが、
  今日紹介する
  吉村昭さんの『天狗争乱』を読むきっかけは
  もちろん大河ドラマの影響です。
  ドラマでは
  武田耕雲斎の最後まで慶喜を信じようとする姿が
  痛ましかったです。
  天狗党の最後のさまは
  司馬遼太郎さんの『街道をゆく』の
  「北国街道とその脇街道」にも記されています。
  興味ある方は
  そちらも読んでみると面白いですよ。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  ドキュメンタリー映画を観ているような作品                   

 桜田門外の変から4年後の元治元年(1984年)、筑波山で挙兵した千余名の水戸尊攘派が引き起こした一連の騒動を「天狗党の乱」と呼んでいる。
 この千余名の中には水戸藩の尊王攘夷の思想の中心であった藤田東湖の息子小四郎や武田耕雲斎といった名の知れた藩士もいればまったく無名の農民や町民も多くいたという。
 彼らは水戸藩内での行き場を失くし、京にいる一橋慶喜を頼って苦難の旅程をたどることになる。
 雪の峠越えなどを経てついには頼る慶喜にも見放され、ついには幕府に屈することになる。
 そして、「天狗党の乱」が今でも幕末の日本史に黒い染みとなって名を残すことになったのは、囚われた敦賀の地で狭い鰊蔵に押し込まれ、多くの者たちが斬首された非道の処置による。
 「この非道な行為は。幕府が近々のうちに滅亡することを自らしめした」と薩摩の大久保利通が日記に記したと、この作品にも触れられている。

 1990年の『桜田門外ノ変』の刊行からまるで歴史の時間をたどるように、4年後の1994年に刊行された吉村昭のこの作品は大佛次郎賞を受賞するなど、その評価は高い。
 小説ではあるが、吉村の筆は古文書など記録を実に丁寧に拾いつつ、天狗勢(この作品では党ではなく勢となっている)の行程をたどっていて、それがまるでドキュメンタリーの映像を見ているような緊迫感を与えている。
 吉村はその終り近く、「慶喜は(中略)自分にとりすがってきた天狗勢を冷たく突きはなしたのだ」と、筆致は冷静だが、怒りを感じる一文を記している。
  
(2021/06/15 投稿)

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