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 今年(2023年)生誕100年を迎える人気作家が二人いる。
 一人は歴史小説を書いた司馬遼太郎
 もう一人が時代小説を書いた池波正太郎
 ともに映画化ドラマ化された作品も多い人気作家である。
 司馬さんの作品は歴史小説、紀行文、随筆などたくさん読んできたが、
 何故か池波さんとはご縁がないままこれまで来た。
 「鬼平犯科帳」「剣客商売」「仕掛人・梅安」と作品名だけは馴染みがあるのに、
 どうも食わず嫌いでいけない。
 いや、嫌いではない。
 本当にたまたま縁がなかっただけだ。

  

 せっかく生誕100年ということもあって、
 今さらながら池波正太郎を読んでみることにした。
 では何を読むか。
 原作は読んでいないが、テレビ時代劇としてはよく見ていた
 「仕掛人・藤枝梅安」シリーズを読んでみることにした。
 それが『仕掛人・藤枝梅安(一) 殺しの四人』。
 「おんなごろし」から始まる短編5篇が収められている。
 それぞれの話としては時系列につながっているから
 純粋に短編集とは言い難いから、できれば
 収録順に読むのがいい。

 梅安とその仲間彦次郎たち仕掛人が殺すのは
 「世の中に生かしておいては、ためにならぬやつ」だから、
 彼らは殺人者でありながら、正義の者にも見えてくる。
 そのあたりが人気になった由縁だろう。
 それと随所にある食べ物の記述。
 これが池波さんのファンにはたまらないとか。
 その気持ちわかるような気になる。
 つい、もう一杯と茶碗を差し出したくなる。

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 埼玉在住のJPIC読書アドバイザーのメンバーが主になって
 毎月1回開催されている読書会に参加して
 6年が過ぎました。
 毎回7、8人のメンバーが集まって、2~3時間本を紹介する読書会。
 コロナ禍にあっても
 なんとかオンラインで欠かさず続けることができました。
 参加していつも感じることは、
 本の世界の広いこと。
 だって、メンバーが紹介する半分以上が
 読んだことのない本だったりするのですから。
 今日紹介する川端康成の『雪国』は
 もちろん誰もが知っている日本を代表する名作ながら、
 あれ? もしかしたら読んでない? かも。
 いやいや、ヒロイン駒子の名も葉子という少女の名も
 ラストの火事の場面も知っているのに、
 そんな、読んでないことってある?
 今月の読書会でメンバーが紹介してくれて、
 読んでみた一冊です。

  

 「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。
 あまりにも有名な書き出し。
 しかし、もしかしたら、この書き出しが有名すぎて、
 読んだ気分になっていないだろうか。
 ノーベル賞作家川端康成の傑作にして、代表作である『雪国』は
 しかし、そんなに簡単な作品でない。
 わからないのが、登場人物たちの関係性。
 雪国の芸者駒子と出会う主人公である島村という男。
 無為徒食の生活を送りながら、妻や子もある様子。
 夢中になった駒子ながら、
 一年に一度会う程度の逢瀬で、それほど夢中になることがあろうか。
 一方の駒子も幼馴染の男の病気療養のために芸者になったとか、
 別の男と結婚しそうになったといいつつ、
 島村という男に惹かれている。
 さらに、物語の終盤、俄然妖しげな存在感を強める葉子にいたっては
 物語になじんでいない。

 この作品はそんな関係性で読むのではなく、
 車窓の映る表情であったり、天に広がる天の河であったり、
 そういう人間を取り込む美を読むのだろうか。

 今回最後まで読んで、
 ほとんどその内容を思い出すことがなかったということは
 もしかしたら、私はこの日本の名作を
 初めて読んだのだろうか。
 まるで、作品のように夢うつつだ。

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 東日本大震災が起こった2011年、
 その大きな災害のおよそ一か月前の2月5日に、
 ひとりの女性が獄中で亡くなった。
 彼女の名は永田洋子(ひろこ)。
 連合赤軍のリーダーの一人で、1971年から72年にわたっての仲間へのリンチ殺人の罪で
 死刑判決が出ていたが、刑の執行ではなく、病気で亡くなっている。
 65歳だった。
 それから、3年後の2014年11月から2016年3月まで、
 雑誌「文藝春秋」に連載されたのが、
 桐野夏生の『夜の谷を行く』だった。

  

 この長編小説の主人公は
 永田たちが引き起こしたリンチ殺人の現場から逃げ出した
 元活動家の女性西田啓子。
 当時警察に逮捕され、彼女は5年間の服役を終え、
 その後は人目を避けるように暮らしている。
 そんな彼女が永田の死のニュースから
 まるで暗い裂け目をのぞくように当時のことと向き合うことになる。
 服役後、唯一交流していた妹とその娘だが、
 啓子の過去の事件を知ることで激しくののしられる。
 それは、そのあとに起こった東日本大震災の大きな揺れと
 まるで共鳴するかのように
 彼女の平凡だった暮らしを揺さぶっていく。

 永田やリンチ殺人で亡くなった女性たちの実名が書かれているが
 これはあくまでも小説である。
 おそらく桐野の綿密な取材もあるだろうが、
 むしろ2011年に起こった永田の死や東日本大震災が
 創作の発露となったように感じる。

 そして、何よりもこの長編小説の最後の瞬間に
 まるで一閃の衝撃をうけるはずだ。
 小説のすごさを体感できる問題作だ。

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 先日発表された第168回芥川賞を『荒地の家族』で受賞した佐藤厚志さんは、
 仙台の現役の書店員でもあることで話題となった。
 その経歴を見ると、2017年に新潮新人賞を受賞し、
 その後この『象の皮膚』を2021年に発表し、三島由紀夫賞の候補となっている。
 『荒地の家族』はそのあとの作品だから、
 まだそんなに多くの作品を発表していない。

  

 今回の芥川賞受賞でも、佐藤さんの作品と東日本大震災の関係がよく報じられているが、
 この『象の皮膚』でも東日本大震災後まもなく営業再開した書店に押し寄せた
 人たちの姿がうまく描かれている。
 物語は、幼い頃からアトピーで苦しみ、友達ともうまく交われなかった五十嵐凛という女性が主人公。
 彼女は仙台駅前の書店の非正規社員として6年働いている。
 自分の肌のことで「心を自動販売機のように」して働き、
 ネットの仮想世界のアバターが彼氏である。
 本来なら彼女を支えるべき家族も何故か彼女を毛嫌いし、かなり悲惨な生活のはずなのに、
 どうしてだろう、
 五十嵐凛という女性は決してそんなに悲痛には見えない。
 それは、彼女の務める書店で働く先輩であったり同僚を描き方、
 あるいは書店に現れるクレーマーの数々の嫌がらせの様子の表現が
 生き生きと活写されているからだろう。
 つまりは、誰もがみんな「どっこい、生きている」のだ。

 だから、震災後書店に押し寄せたお客たちもまた、
 被災者であっても生の体現者であり、
 生きているからこその面白さを生み出している。
 
 こういう作品を読むと、
 芥川賞受賞作を早く読みたくなる。

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 かなり昔のことになりますが、
 「大江戸捜査網」という人気テレビ時代劇がありました。
 そのタイトルにある「大江戸」、
 もちろん今の東京のことですが、
 徳川家康がここに入府した頃は単なる「江戸」だったそうです。
 では、いつから「大江戸」になったのか。
 『家康、江戸を建てる』や『東京、はじまる』などの作品がある
 直木賞作家の門井慶喜さんの『江戸一新』を読めば、
 「江戸」が「大江戸」に変貌するさまがよくわかります。

  

 時は明暦3年(1657年)1月。4代将軍徳川家綱の時代。
 江戸の町を火事が襲います。
 のちに「振袖火事」とかとも呼ばれる「明暦の大火」。
 この時に江戸城の天守も焼け落ちてます。
 その後の江戸復興の担い手となったのが、老中松平伊豆守信綱
 信綱は埼玉の川越藩の藩主でもあり、
 才知に長けていたので「知恵伊豆」とも呼ばれていたそうです。
 門井さんのこの長編小説は、この信綱が主人公。
 おそらく歴史小説という範疇にはいるのでしょうが、
 かなり創作めいた箇所もあって、
 逆にそれがエンタテインメントになって面白く読めます。

 大火のあと、狭い道を拡充して広小路を作ったり、
 武家の移転を進めたり、隅田川に橋を架けたり。
 そういう復興施策が江戸の町をさらに大きくしていくことになります。
 つまり、「江戸」が「大江戸」に変わっていくきっかけとなります。
 門井さんは信綱にこんなことを思わせています。
 「どうかして自分の生前よりも死後のほうが少しでも結構な国であるようにしたい」
 今の政治家に、この信綱の気概があるのでしょうか。

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