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 プロ野球の開幕が近い。
 今年も大リーグの大谷翔平選手の人気で盛り上がっていたが、
 彼の通訳だった人物の違法賭博疑惑で水を差された格好になったのは残念だ。
 しかも、その人物はギャンブル依存症だというから、
 あらためてその怖さを知った人も多いだろう。
 しかし、昔からギャンブルにはまる人間は多いし、
 時代小説でもそんな人間がもたらす悲劇はこれまでにもたくさん描かれてきた。
 最近では砂原浩太朗さんの『夜露がたり』の中の一篇、
 「死んでくれ」もまた博打にはまった父親と娘の悲劇が描かれていた。

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 砂原浩太朗さんが『高瀬庄左衛門御留書』で颯爽と登場してきた際には
 よく藤沢周平さんの再来といわれていたが、
 その藤沢周平さんの名短編集『時雨のあと』でも博打に身を持ち崩す人間を
 描いた短編がいくつもある。
 表題作である「時雨のあと」もそのひとつだ。
 真面目なとび職だった安蔵だが、身体を悪くしてから生活が荒れていく。
 そんな安蔵でも、妹のみゆきは兄を信じて、苦界に落ちながらも兄を支えている。
 しかし、安蔵は博打遊びをやめられない。
 ついにはその借金のかたに、みゆきをさらの追い詰めることになっていく。
 そんな兄妹を描きながら、
 それでも藤沢周平さんはどこかで救いの手を差し出そうとする。

 それは「秘密」という作品でもそうだ。
 博打にはまって借金で首がまわらなくなった男は、ついに店の金に手を出してしまう。
 そして、盗みの現場を見られたことを、年老いてから思い出している。
 そのことをきっかけに更生した男は、その相手が誰であったか思い出せない。

 ギャンブル依存はたくさんの人を不幸にする。
 それでも、前を向けと、藤沢作品は静かに声をかけている。

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  『中学生までに読んでおきたい日本文学1 悪人の物語』(松田哲夫 編)
 全10巻からなるこのシリーズのこれが最初の巻ですが、
 そこにあえて「悪人の物語」をもってくるのがこのシリーズの面白さともいえます。
 各巻に編者である松田哲夫さんの「解説」がついていて、
 今回その中で松田さんはこんなことを書いています。
 「人類が考えたり楽しんだりするために生み出した文学にとっても、
 悪の問題は決して避けて通ることができない重要なテーマ」であり、
 「多くの書き手は、悪をとても魅力的なテーマだと考え」てきたと。
 最近の作家たちも「悪」をテーマに多くの作品を残していますから、
 これからもなくならない文学の大きなテーマです。

  

 シリーズ1巻めとなるこの本に載っている作者と作品は以下のとおり。
 山村暮鳥   げい語(詩です。タイトルの「げい」は正しくは漢字表記です)
 森銑三    昼日中/老賊譚(泥棒のお話)
 芥川龍之介  鼠小僧次郎吉(芥川はこんな面白い短編も書いてます)
 中野好夫   悪人礼賛(ちょっとハスに構えたミニ論説文)
 野口冨士男  少女(誘拐を扱ったもので、ラストが印象的な作品)
 色川武大   善人ハム
   (かつてはこの物語に出てくるような馬鹿正直でちっとも得をしない男がいたもの。
    色川さんは麻雀小説を書いた阿佐田哲也としても有名)
 菊池寛    ある抗議書(菊池寛は大衆文学かと思っていたが、これはシニカル)
 小泉八雲   停車場で(怪談だけではない、八雲の魅力)
 吉村昭    見えない橋(刑期を終えて更生する男を描いた作品で、吉村さんが大切にしたテーマ)
 柳田国男   山に埋もれたる人生ある事(わずか3ページながら余韻が残る)

 この巻では色川武大さんと吉村昭さんの作品がおすすめです。

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  『中学生までに読んでおきたい日本文学2 いのちの話』(松田哲夫 編)
 全10巻からなるこのシリーズは2010年に刊行されていますが、
 最近までこういった本が出ているのを知りませんでした。
 この夏、おそらく子供たちの夏休みに合わせてだろうと思いますが、
 このシリーズの広告が新聞に出ていて、興味を持ちました。
 日本文学といってもここでは短編が主で、
 しかも詩が収められていたりします。
 取り上げられている作者も明治の文豪から現代作家まで彩々。
 ラインナップをみているだけで読書意欲が高まります。

  

 シリーズ2巻めとなるこの本に載っている作者と作品は以下のとおり。
 石垣りん   表札 (これは詩)
 有島武郎   碁石を呑だ八っちゃん (懐かしい作者です)
 吉野せい   梨花 (作者自身の子供の死を描いています)
 森鷗外    山椒大夫 (お話としては知ってますが鷗外の作品として読むのは初めてかも)
 島尾敏雄   島の果て (島尾敏雄といえば『死の棘』が有名)
 長谷川四郎  鶴 (この巻ではこの中編がよかった)
 原民喜    夏の花 (このあまりに有名な原爆小説を読んだのも初めて)
 太宰治    魚服記 (太宰の初期の作品。やっぱり巧い)
 海音寺潮五郎 極楽急行 (こういう作者まではいっているのがうれしい)
 梅崎春生   チョウチンアンコウについて (わずか3ページのエッセイながら絶品)

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 ノーベル賞作家川端康成の代表作にして最高傑作といわれる『眠れる美女』を読んで、
 まず初めて感じたのは、
 この作品が書かれた昭和35年では67歳という年齢は「老人」と呼ばれていたという
 驚きのようなものだった。
 21世紀の現在、67歳の人をもって「おじいさん」と呼ばれることはあっても
 「老人」と呼ばれることはないはずだ。

  

 この中編小説の主人公江口「老人」は67歳。
 知人の紹介で若い美女が一晩ただ眠っているだけの怪しい宿を訪れる。
 「目覚めない娘のそばに一夜横たわろうとする老人ほどみにくいものがあろうか」、
 江口「老人」はその老いの醜さの極みを求めて来たともいえる。
 ただ江口「老人」は、他の客とちがって、「男としてふるまえるもの」が残っていると、
 自身は思っている。
 つまり、まだ女性と交わりができるという自信である。
 江口「老人」が老人の醜さと呼ぶのは、性欲を失ったことをさすのだろう。

 しかし、この宿で「眠れる美女」にその行為をしてはならないことになっている。
 江口「老人」もまたその取り決めを越えることはない。
 ただ、彼は「眠れる美女」の片側で、過去の女性たちのことを追慕していく。
 江口「老人」がこの怪しい宿に入りこむたびに、彼は別の女性との思い出に浸っていく。
 そのあたりの展開が、とてもいい。
 物語としての完成度も高い。

 そして、江口「老人」が自分にとっての最初の女と気づくのが、
 17歳で死に別れた「母」という衝撃的な結末を迎える。
 この中編をもって、川端康成の世界観を論じることは可能だろうが、
 純粋に小説としても読み応えがる。
 川端康成を読むなら、『雪国』よりも断然『眠れる美女』だろう。

 追記 私が読んだ新潮文庫版では小川洋子さんオススメの『片腕』も収録されていた。

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 私が参加している読書会のメンバーで
 ミステリ小説の面白さがわからないと悩む女性がいる。
 わからないでもない。
 私もこの読書会に参加するまでミステリ小説をほとんど読まなかったから。
 なので、まずは読んでみてと、
 アガサ・クリスティーの作品などを薦めるのだが、
 むしろ松本清張の初期のミステリ作品8編を収めた
 この『なぜ「星図」が開いていたか』を薦めて方がよかった。
 何故なら、戦後まもないにしても日本が舞台であること、
 それに短編だから気軽に読めること、
 そして何より面白い。

  

 この短編集は新潮文庫のオリジナルだが、
 すでに多くの作品を文庫化してきた新潮文庫にあって
 2022年の秋に出たばかりというのもうれしいではないか。
 収録されているのは、
 表題作である「なぜ「星図」が開いていたか」(いいタイトルだ)を始め、
 清張の初期の代表作のひとつ「張込み」のほか
 「顔」「殺意」「反射」「市長死す」「声」「共犯者」である。
 表題作以外は実にそっけないタイトルだが、
 これは読者にあまり予見を与えたくない清張の工夫かもしれない。

 「市長死す」の突然市長が予定を変更してまで殺される場所に向かうきっかけが、
 こののち名作『砂の器』に使われていたり、
 清張ファンにはなんともうれしい一冊ではないだろうか。
 これなら、読書会のメンバーにもミステリ小説の面白さが
 わかってもらえるかもしれない。

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