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  『中学生までに読んでおきたい日本文学2 いのちの話』(松田哲夫 編)
 全10巻からなるこのシリーズは2010年に刊行されていますが、
 最近までこういった本が出ているのを知りませんでした。
 この夏、おそらく子供たちの夏休みに合わせてだろうと思いますが、
 このシリーズの広告が新聞に出ていて、興味を持ちました。
 日本文学といってもここでは短編が主で、
 しかも詩が収められていたりします。
 取り上げられている作者も明治の文豪から現代作家まで彩々。
 ラインナップをみているだけで読書意欲が高まります。

  

 シリーズ2巻めとなるこの本に載っている作者と作品は以下のとおり。
 石垣りん   表札 (これは詩)
 有島武郎   碁石を呑だ八っちゃん (懐かしい作者です)
 吉野せい   梨花 (作者自身の子供の死を描いています)
 森鷗外    山椒大夫 (お話としては知ってますが鷗外の作品として読むのは初めてかも)
 島尾敏雄   島の果て (島尾敏雄といえば『死の棘』が有名)
 長谷川四郎  鶴 (この巻ではこの中編がよかった)
 原民喜    夏の花 (このあまりに有名な原爆小説を読んだのも初めて)
 太宰治    魚服記 (太宰の初期の作品。やっぱり巧い)
 海音寺潮五郎 極楽急行 (こういう作者まではいっているのがうれしい)
 梅崎春生   チョウチンアンコウについて (わずか3ページのエッセイながら絶品)

 読書の面白さを堪能あれ。

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 ノーベル賞作家川端康成の代表作にして最高傑作といわれる『眠れる美女』を読んで、
 まず初めて感じたのは、
 この作品が書かれた昭和35年では67歳という年齢は「老人」と呼ばれていたという
 驚きのようなものだった。
 21世紀の現在、67歳の人をもって「おじいさん」と呼ばれることはあっても
 「老人」と呼ばれることはないはずだ。

  

 この中編小説の主人公江口「老人」は67歳。
 知人の紹介で若い美女が一晩ただ眠っているだけの怪しい宿を訪れる。
 「目覚めない娘のそばに一夜横たわろうとする老人ほどみにくいものがあろうか」、
 江口「老人」はその老いの醜さの極みを求めて来たともいえる。
 ただ江口「老人」は、他の客とちがって、「男としてふるまえるもの」が残っていると、
 自身は思っている。
 つまり、まだ女性と交わりができるという自信である。
 江口「老人」が老人の醜さと呼ぶのは、性欲を失ったことをさすのだろう。

 しかし、この宿で「眠れる美女」にその行為をしてはならないことになっている。
 江口「老人」もまたその取り決めを越えることはない。
 ただ、彼は「眠れる美女」の片側で、過去の女性たちのことを追慕していく。
 江口「老人」がこの怪しい宿に入りこむたびに、彼は別の女性との思い出に浸っていく。
 そのあたりの展開が、とてもいい。
 物語としての完成度も高い。

 そして、江口「老人」が自分にとっての最初の女と気づくのが、
 17歳で死に別れた「母」という衝撃的な結末を迎える。
 この中編をもって、川端康成の世界観を論じることは可能だろうが、
 純粋に小説としても読み応えがる。
 川端康成を読むなら、『雪国』よりも断然『眠れる美女』だろう。

 追記 私が読んだ新潮文庫版では小川洋子さんオススメの『片腕』も収録されていた。

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 私が参加している読書会のメンバーで
 ミステリ小説の面白さがわからないと悩む女性がいる。
 わからないでもない。
 私もこの読書会に参加するまでミステリ小説をほとんど読まなかったから。
 なので、まずは読んでみてと、
 アガサ・クリスティーの作品などを薦めるのだが、
 むしろ松本清張の初期のミステリ作品8編を収めた
 この『なぜ「星図」が開いていたか』を薦めて方がよかった。
 何故なら、戦後まもないにしても日本が舞台であること、
 それに短編だから気軽に読めること、
 そして何より面白い。

  

 この短編集は新潮文庫のオリジナルだが、
 すでに多くの作品を文庫化してきた新潮文庫にあって
 2022年の秋に出たばかりというのもうれしいではないか。
 収録されているのは、
 表題作である「なぜ「星図」が開いていたか」(いいタイトルだ)を始め、
 清張の初期の代表作のひとつ「張込み」のほか
 「顔」「殺意」「反射」「市長死す」「声」「共犯者」である。
 表題作以外は実にそっけないタイトルだが、
 これは読者にあまり予見を与えたくない清張の工夫かもしれない。

 「市長死す」の突然市長が予定を変更してまで殺される場所に向かうきっかけが、
 こののち名作『砂の器』に使われていたり、
 清張ファンにはなんともうれしい一冊ではないだろうか。
 これなら、読書会のメンバーにもミステリ小説の面白さが
 わかってもらえるかもしれない。

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 今日は節分
 明日が立春で、まさに冬と春の分かれ目。

    節分や海の町には海の鬼      矢島 渚男

 と、いっても
 季節の変わり目ほど曖昧なものはなく、
 まだまだ春とはいえない冬の寒さが続きます。
 もしかしたら、真と贋の境もそんな風なものかもしれない。
 そんなことを考えさせられる、
 今日は松本清張の短編、『真贋の森』を紹介します。
 (『黒地の絵 傑作短編集(二)』所収)

  

 この短編を読むきっかけは、
 1月21日の朝日新聞朝刊の書評欄に載った
 「つんどく本を開く」という企画記事に
 現代美術家の野口哲哉さんがこの作品のことを書いていたからだ。
 野口さんはこの短編を学生の頃繰り返し読んだという。
 この作品は昭和33年(1958年)に発表されているから、
 松本清張の作品の中でも初期に入るだろう。
 美術界のアカデミズムの壁に苦汁をなめた一人の男が復讐のため、
 贋作事件を計画する。
 絵の巧い名もない男を発掘し、彼に贋作を描かせる。
 その絵を本物であると鑑定させることで、
 美術界の大御所に一泡吹かせようとする男。
 「人間の真物と贋物とを指摘して見せたい」、
 それが男の野望だが。

 野口さんが記事に書いているように、
 この作品の「多くの紙幅が、権威やアカデミズムに対する糾弾に割かれて」いて
 松本清張が初期の頃よりそういう権力への厳しい視点を持っていたことが
 よくわかる短編だといえる。
 後半はミステリー仕立てになっているが、
 結局この計画が破綻する原因も
 人間の見栄という愚かさというのが
 いかにも松本清張らしい。

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 松本清張が亡くなったのが1992年8月だから
 今年(2022年)で没後30年になる。
 今でも多くの愛読者を持つ国民的作家に、
 まさか「全集」や短編集にこれまで収録されてこなかった作品が
 まだあるとは驚きだし、
 しかもそれらの作品が決して駄作でないことに
 あらためて松本清張という作家の偉大さに気づかされる。
 それが2022年11月に刊行された、『松本清張未刊行短編集 任務』だ。

  

 この短編集には表題作である「任務」のほか、
 「危険な広告」「筆記原稿」「鮎返り」「女に憑かれた男」
 「悲運な落手」「秘壺」「電筆」「特派員」「雑草の実」の
 全10篇が収められている。
 これまでに刊行されなかったということなので
 初期の頃の作品が多いが、
 半生を綴った自伝作品「雑草の実」は1976年のもので
 しかも清張の若い頃の生活を知る上で貴重な作品といえる。

 しかも、これらの作品群はバラエティーに富んでいて
 「危険な広告」は社会派作品だし、「鮎返り」は恋愛もの、
 「悲運な落手」は将棋の対戦を描いた作品(私のオススメはこれ)、
 「秘壺」は清張ならではの美術界を題材にしたもの、
 「電筆」は速記を生み出した伝記小説と
 読みごたえのある短編ばかりといえる。

 これから松本清張を読もうと考えている人だけでなく、
 すでに清張作品を読破してきた愛読者でも堪能させる
 短編集であることは間違いない。

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