12/23/2022 ベツレヘムの星(アガサ・クリスティー):書評「クリスマスにはクリスティー」

今回の書評タイトルではないが、
明日のクリスマスイブを前にして
気分は「クリスマスにはクリスティー」ということで
選んだ『ベツレヘムの星』でしたが、
正直とても難しかった。
え? 犯人探しのことではなく、
本に書かれていた内容そのものが理解できなく、
どんな風に書評を書いていいのやら、
それも難しかった。
いつもの霜月蒼さんの
『アガサ・クリスティー完全攻略』では
「クリスマスの夜に読みましょう」とあって
★★★の評価。
しかも、霜月さんは
「シャンパンなりワインなりの酔いのなかでお読みになること」を
薦めていますが、
そんなことしたら、
私は寝てしまいます。
私の評価は、????。
じゃあ、読もう。

「クリスマスにはクリスティー」というのが、アガサ・クリスティーの存命中のキャッチフレーズだったという。
その時期の新刊を上梓していたところから、そういう風にいわれたのでしょう。
そして、まさにこの本は著者自身がクリスマスを意識して1965年に出たもので、原題は「Star Over Bethlehem」。
街のあちらこちらにクリスマスツリーを飾る日本人であっても、実際「ベツレヘムの星」と言われても多くの人はその意味がわからないのでは。
この星は、イエス・キリストが誕生した直後に輝いて東方の三博士にそのことを知らせたとされ、クリスマスツリーのてっぺんにある星は「ベツレヘムの星」を表しているそうだ。
そんなクリスマスのぴったりのタイトルがついたこの本には、ポアロもミス・マープルも登場しないし、ミステリーでもない。
4つの詩と6つの掌編が収められていて、そのどれもがクリスマスのためのもの。
しかし、ここにあるどれも、けっしてわかりやすいものではない。
最後は、クリスマスだから、ハッピーエンドというファンタジーでもない。
正直にいえば、作品を楽しむということはなかった。
そのことを知ったら、アガサはきっと悲しそうな表情をするだろうか。
それとも、それも仕方ないわねと、あきらめるだろうか。
(2022/12/23 投稿)

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11/18/2022 招かれざる客(アガサ・クリスティー):書評「予期せぬラストをお見逃しなく」

今回のアガサ・クリスティーも
前回に続いて戯曲作品です。
タイトルは『招かれざる客』。
アガサ・クリスティーの戯曲はあまりハズレがなく
この作品も面白かった。
いつもの霜月蒼さんの
『アガサ・クリスティー完全攻略』でも
★★★★の高評価。
今回は私も同意見です。
アガサ・クリスティーの作品では
事件をきっかけにして
男女の恋が実ることが多いのですが
この作品では逆で
事件をきっかけにして男の本性がわかって
…おっと、ここまでにしないと
読む楽しみがなくなりますね。
じゃあ、読もう。

早川書房の「クリスティー文庫」には、アガサ・クリスティーの戯曲が9冊ラインナップされている。
この本もそのうちの1冊で、1958年に発表されたもの、原題は「The Unexpected Guest」。
「Unexpected」は、直訳すれば「予期せぬ」となって、作品自体はこの感じの方があっているように思える。
だって、ある男の殺人現場に、しかも男の妻が拳銃を持ってそばにいるというまさにその時に、深い霧で車を溝にはめた一人の男がそこにやってくるのですから、これはどう考えても、「予期せぬ」客であることは間違いない。
しかも、この「予期せぬ客」は妻をたすけるべく、殺人現場に細工までしていくのですから、この客は何を考えているのだと誰もが思うんじゃないかな。
いくら女性が美しかったとしても、そこまでしないでしょ、普通。
と、ツッコミをいれたくなりますが、この「予期せぬ客」がそうしてくれたおかげで、この殺人事件の背景と殺された男の人物像とその人間関係がはっきり見えてくる。
つまり、この戯曲はこの「予期せぬ客」のおかげで、うんと面白くなる。
しかも、この館に住む住人、妻や母親、少し障害のある異母弟、看護師や従僕、そして妻の愛人と、どれもみな怪しい。
そして、事件はあたかも解決したかのように見えるが、最後にもう一度仕掛けられるアガサからの謎。
これこそまさに「Unexpected」だ。
小説で読みたくなるほど、面白い戯曲だ。
(2022/11/18 投稿)

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10/28/2022 蜘蛛の巣(アガサ・クリスティー):書評「コミカルな死体隠し」

今回のアガサ・クリスティーの作品は、戯曲です。
『蜘蛛の巣』。
タイトルは今ひとつですが、
作品は楽しく仕上がっています。
こういう作品を書いている時のアガサ・クリスティーは
きっと自身も楽しんで書いているのではないかな。
いつもの霜月蒼さんの
『アガサ・クリスティー完全攻略』でも
★★★★の高評価。
解説の書き出しが、「キュートでファニーだ!」なんですから
読まずにいられない作品のひとつです。
私もこの評価には、大賛成です。
じゃあ、読もう。

「ミステリーの女王」と称されるアガサ・クリスティーはミステリー作家であることはいうまでもないが、劇作家としても評価は高い。
この『蜘蛛の巣』は、アガサが1957年に発表した戯曲で、原題も「Spider’s Web」となっている。
ただこのタイトルはあまり気にすることはない。ちょっとしたオシャレな言い回し、夫の妻への愛情表現ほどのこと。
もっともこの作品全体が、このタイトルのようなかわいくオシャレで、コミカルな出来といえる。
戯曲だから、まず舞台配置図の説明がある。
この作品の場合、見せどころは「消える死体」で、舞台もそれゆえに複雑な配置となっている。
アガサはその点も手抜かりはない。
ある日主人公の女主人の家に、夫の元妻の現在のやくざな男がやってくる。
あやしい動きをする男だが、誰かに殺されてしまう。
この死体をめぐって、登場する男三人のコミカルなやりとりが楽しい。
死体の始末どうすんだ? 隠してよ! そこじゃだめだろ・・・、みたいな。
そんな男たちを右往左往させるのが、この作品の主役といえる女主人。
どんな時代であれ、どんな場所であれ、かわいい女性には男たちはやさしいというか、いいなりになってしまう。
単にコミカルというだけではない。
犯人が狙っている高額なものとは何か、そういう謎解きも面白い。
ただそもそもの犯人探しは案外早くから検討がつくかもしれないが、この作品でアガサがもくろんでいたのは犯人探しではなく、男のかわいさのような気がした。
(2022/10/28 投稿)

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今日は二十四節気のひとつ、
秋分。
昼と夜の時間がほぼ同じ日で、
これから冬至に向けて
昼が短くなってきます。
落ちてゆく重さの見えて秋没日(あきいりひ) 児玉 輝代
夜が長くなってくると
ミステリー小説も面白くなってきます。
今日はアガサ・クリスティーの
『バートラム・ホテルにて』という
ミス・マープルものの作品を紹介します。
いつもの霜月蒼さんの
『アガサ・クリスティー完全攻略』の評価は
★★★☆ですが、
私はもう少しきつい評価で
★★かな。
じゃあ、読もう。

アガサ・クリスティーが1965年に発表した「ミス・マープルもの」で、ミス・マープルが活躍する長編小説としては終わりから三番目となる。
原題は「At Bertram’s Hotel」で、邦題はそれを踏襲している。
まず驚いたのは、この作品に「ビートルズ」の名前が出てくること。
「例の髪を長くした」という形容詞までついている。
アガサの時代とビートルズの時代が重なりあっていることに驚いたのだが、1965年の発表というと日本でいうなら昭和40年世代もまたアガサと重なりあう。
つまり、アガサ・クリスティーは実に長い間、現役のミステリー作家として活躍していたことの証だろう。
さて、この作品だが、ミス・マープルは確かに登場するが、彼女の推理が犯罪を暴くというより、たまたま犯罪の舞台となったバートラム・ホテルに彼女が投宿していて、事件の証言者となったぐらいで、彼女の活躍を期待する読者にとっては物足りないだろう。
この作品では事件を解決するのは、「おやじさん」と呼ばれるロンドン警視庁のデイビー主任警部だ。
日本の刑事ドラマで伊東四朗さんが演じる役どころと近い。
しかも、今回の事件は古色蒼然としてホテルが舞台で、犯罪も大掛かりな組織によるもので、さすがにミス・マープルが扱うというには大きすぎたといえる。
やはり、彼女にはセント・メアリ・ミード村に起こる小さな事件や人物からの類推で、殺人事件などを解決する、その手法が似合っているし、私は好きだ。
(2022/09/23 投稿)

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08/26/2022 魔術の殺人(アガサ・クリスティー):書評「親戚も複雑になると、誰が誰やら」

今回のアガサ・クリスティーは
ミス・マープルもの。
『魔術の殺人』。
マープルものでいつも思うのですが、
登場人物たちの多くが知っていようがいまいが関係なく
マープルに寄っていくということ。
余程人に安心感を与えるオーラのようなものが
ミス・マープルにはあるんでしょうね。
なので、読者も彼女が大好きという人が多いはず。
いつもの霜月蒼さんの
『アガサ・クリスティー完全攻略』では
★★★の評価ですが、
私ならプラス☆をあげたいところ。
ミス・マープルもので
つい点が甘くなってるかもしれませんが。
じゃあ、読もう。

『魔術の殺人』とは、ややバランスのよくないタイトルに思える。
原題は「They Do It with Mirrors」で、1952年に発表された「ミス・マープル」ものの長編小説である。
原題をそのまま訳すと、「鏡を使ってそれをした」というぐらいだが、本作の最終場面、いよいよミス・マープルが殺人事件の謎を解くところで、彼女はこんなことをいう。
「魔術のトリックのことなんです。魔術師は、鏡をトリックに使いますわね」
つまり、ここから、日本訳では『魔術の殺人』となったのだろうが、ミス・マープルのこの説明に聞いている刑事たちは戸惑ったことだろう。
今回、ミス・マープルが向かったのは寄宿学校時代の友人の依頼によるもの。
友人の妹の周辺に、何やら不穏な雰囲気があるようで、友人はそのことの解明をミス・マープルに頼んだことから、物語は動き出す。
彼女が行ってみると、果たして友人の妹の周辺には、夫や娘、孫娘とその夫、孫娘に迫る青年2人、さらには精神を病んでいるような若者までいる。
そこに友人の妹の最初の夫の息子が現れる。(関係が複雑なのが難点。息子といっても年をとっています)
その彼が殺されるのです。
しかも、どうやら友人の妹の命も狙われているらしい。
関係を解きほぐして、犯人をあてるのは相当難しい。
何故なら、犯人の動機に至る伏線がほとんどないから。
なんで、犯人さがしということはあきらめた方がいい。
殺人がどのように行われたか、そのトリック解明がこの作品の読みどころ。
そう、「魔術」がヒント。
(2022/08/26 投稿)

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