02/21/2023 死の猟犬(アガサ・クリスティー):書評「アガサはこんな怪奇小説も好きだったようで」

アガサ・クリスティーの作品の中で
クィン氏なる謎の男が登場する作品があります。
なんとなく霊のような雰囲気をまとった人物ですが
彼が登場する作品自体が
幻想的といっていい。
今日紹介する『死の猟犬』はクイン氏こそ登場しないものの
アガサ・クリスティーの作品としては
異色の幻想怪奇作品集といっていい。
ただ、作品の評価は高く
いつもの霜月蒼さんの『アガサ・クリスティー完全攻略』では
★★★★★の大絶賛。
私もこれには賛成。
アガサ・クリスティーは怪奇小説がお好き?
じゃあ、読もう。

これは原題が「The Hound of Death and Other Stories」とあるように、1933年に発表された短編集である。
ただ「ミステリの女王」と称されるアガサ・クリスティーだが、この短編集はかなり雰囲気が違う。
アガサの作品と聞かないと、わからないかもしれない。
この短編集に収録されている作品の多くが(唯一あの戯曲としても映画原作としても有名な「検察側の証人」の小説版がこの短編集ではむしろ異色)怪奇幻想の世界でできあがっているのだから。
もっともアガサには怪奇幻想の作品がないわけではない。
ポアロやミス・マープルといった人気キャラクターが有名だが、異色の人物クィン氏が活躍する作品群がある。
作品では1930年に発表された『謎のクィン氏』という短編集がある。
その系統の続きとして、この短編集があるといっていい。
表題作の「死の猟犬」は一人の修道女にとりついた闇の現象を描いた作品。
「赤信号」は危機の予知能力がありそうな男を巻き込むミステリ、「ランプ」は古い家を購入した家族の前に現れる怪異現象もの、といったような短編が11篇収録されている。
面白かったのは「青い壺の謎」という短編で、幻聴を男に聞かせることで高価な青い壺を騙し取る話。
その手口の鮮やかさは、現代の詐欺事件にも劣らない。
11篇のそんな短編を読んでくると、もうひとつの短編「検察側の証人」が実によく見える。
この短編集の作品構成が1933年当時のものかどうか知らないが、編集の妙といっていい。
(2023/02/21 投稿)

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01/27/2023 黄色いアイリス(アガサ・クリスティー):書評「短編集の面白さは編集の力かも」

アガサ・クリスティーの読書も
50冊を超えてきて、
どれを読んで、どれが未読なのか、
忘れない覚書として
いつもアガサ・クリスティーの副本として利用している
霜月蒼さんの『アガサ・クリスティー完全攻略』の
作品名がはいった目次に
目印をつけています。
今回の『黄色いアイリス』は短編集。
霜月蒼さんの評価では
★★★で、
そのあたりが妥当かな。
この目次、次何読もうかと探すのにも
最適。
さて、次は?
じゃあ、読もう。

ミステリー小説は長編と短編となら、やはり長編の方が面白いという人が多いと思う。
作品自体も長編の方が多いのではないだろうか。
長編の場合、登場人物を多くできる分、事件の動機や背景が複雑となる。
読み応えとよく言われるが、その点において、長編の方が短編に勝るような気がする。
ただ、短編の場合であれば、短編集となって編まれることが多いので、いろんな味わいを楽しめる利点がある。
さすがにこれは長編にはない。
アガサ・クリスティーの『黄色いアイリス』という短編集は、1939年にアメリカで刊行された「The Regatta Mystery and Other Stories」から一部日本で作品を加えて編まれたもの。
「The Regatta Mystery」は本書の冒頭に収められた「レガッタ・デーの事件」の原題。
この短編集ではポアロ物が5篇、ミス・マープル物が1篇、パーカー・パイン物が2篇、それと幻想小説が1篇収められているから、てっとり早く、アガサの人気キャラクターの活躍を楽しめるようにはなっている。
日本版での表題作となっている「黄色いアイリス」は、ポアロ物の短編小説で、作品としてはうまく出来ている。ただ、やはり短編だと犯人探しの愉しみが半減してしまうようで、この作品にしてもたちまち犯人がわかってしまう。
短編なので仕方がないことだが。
この短編集で一番面白かったのは、「仄暗い鏡の中に」という幻想小説だったのは、ポアロファンにもマープルファンにも申し訳ないが、案外短編だからだったかもしれない。
(2023/01/27 投稿)

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12/23/2022 ベツレヘムの星(アガサ・クリスティー):書評「クリスマスにはクリスティー」

今回の書評タイトルではないが、
明日のクリスマスイブを前にして
気分は「クリスマスにはクリスティー」ということで
選んだ『ベツレヘムの星』でしたが、
正直とても難しかった。
え? 犯人探しのことではなく、
本に書かれていた内容そのものが理解できなく、
どんな風に書評を書いていいのやら、
それも難しかった。
いつもの霜月蒼さんの
『アガサ・クリスティー完全攻略』では
「クリスマスの夜に読みましょう」とあって
★★★の評価。
しかも、霜月さんは
「シャンパンなりワインなりの酔いのなかでお読みになること」を
薦めていますが、
そんなことしたら、
私は寝てしまいます。
私の評価は、????。
じゃあ、読もう。

「クリスマスにはクリスティー」というのが、アガサ・クリスティーの存命中のキャッチフレーズだったという。
その時期の新刊を上梓していたところから、そういう風にいわれたのでしょう。
そして、まさにこの本は著者自身がクリスマスを意識して1965年に出たもので、原題は「Star Over Bethlehem」。
街のあちらこちらにクリスマスツリーを飾る日本人であっても、実際「ベツレヘムの星」と言われても多くの人はその意味がわからないのでは。
この星は、イエス・キリストが誕生した直後に輝いて東方の三博士にそのことを知らせたとされ、クリスマスツリーのてっぺんにある星は「ベツレヘムの星」を表しているそうだ。
そんなクリスマスのぴったりのタイトルがついたこの本には、ポアロもミス・マープルも登場しないし、ミステリーでもない。
4つの詩と6つの掌編が収められていて、そのどれもがクリスマスのためのもの。
しかし、ここにあるどれも、けっしてわかりやすいものではない。
最後は、クリスマスだから、ハッピーエンドというファンタジーでもない。
正直にいえば、作品を楽しむということはなかった。
そのことを知ったら、アガサはきっと悲しそうな表情をするだろうか。
それとも、それも仕方ないわねと、あきらめるだろうか。
(2022/12/23 投稿)

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11/18/2022 招かれざる客(アガサ・クリスティー):書評「予期せぬラストをお見逃しなく」

今回のアガサ・クリスティーも
前回に続いて戯曲作品です。
タイトルは『招かれざる客』。
アガサ・クリスティーの戯曲はあまりハズレがなく
この作品も面白かった。
いつもの霜月蒼さんの
『アガサ・クリスティー完全攻略』でも
★★★★の高評価。
今回は私も同意見です。
アガサ・クリスティーの作品では
事件をきっかけにして
男女の恋が実ることが多いのですが
この作品では逆で
事件をきっかけにして男の本性がわかって
…おっと、ここまでにしないと
読む楽しみがなくなりますね。
じゃあ、読もう。

早川書房の「クリスティー文庫」には、アガサ・クリスティーの戯曲が9冊ラインナップされている。
この本もそのうちの1冊で、1958年に発表されたもの、原題は「The Unexpected Guest」。
「Unexpected」は、直訳すれば「予期せぬ」となって、作品自体はこの感じの方があっているように思える。
だって、ある男の殺人現場に、しかも男の妻が拳銃を持ってそばにいるというまさにその時に、深い霧で車を溝にはめた一人の男がそこにやってくるのですから、これはどう考えても、「予期せぬ」客であることは間違いない。
しかも、この「予期せぬ客」は妻をたすけるべく、殺人現場に細工までしていくのですから、この客は何を考えているのだと誰もが思うんじゃないかな。
いくら女性が美しかったとしても、そこまでしないでしょ、普通。
と、ツッコミをいれたくなりますが、この「予期せぬ客」がそうしてくれたおかげで、この殺人事件の背景と殺された男の人物像とその人間関係がはっきり見えてくる。
つまり、この戯曲はこの「予期せぬ客」のおかげで、うんと面白くなる。
しかも、この館に住む住人、妻や母親、少し障害のある異母弟、看護師や従僕、そして妻の愛人と、どれもみな怪しい。
そして、事件はあたかも解決したかのように見えるが、最後にもう一度仕掛けられるアガサからの謎。
これこそまさに「Unexpected」だ。
小説で読みたくなるほど、面白い戯曲だ。
(2022/11/18 投稿)

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10/28/2022 蜘蛛の巣(アガサ・クリスティー):書評「コミカルな死体隠し」

今回のアガサ・クリスティーの作品は、戯曲です。
『蜘蛛の巣』。
タイトルは今ひとつですが、
作品は楽しく仕上がっています。
こういう作品を書いている時のアガサ・クリスティーは
きっと自身も楽しんで書いているのではないかな。
いつもの霜月蒼さんの
『アガサ・クリスティー完全攻略』でも
★★★★の高評価。
解説の書き出しが、「キュートでファニーだ!」なんですから
読まずにいられない作品のひとつです。
私もこの評価には、大賛成です。
じゃあ、読もう。

「ミステリーの女王」と称されるアガサ・クリスティーはミステリー作家であることはいうまでもないが、劇作家としても評価は高い。
この『蜘蛛の巣』は、アガサが1957年に発表した戯曲で、原題も「Spider’s Web」となっている。
ただこのタイトルはあまり気にすることはない。ちょっとしたオシャレな言い回し、夫の妻への愛情表現ほどのこと。
もっともこの作品全体が、このタイトルのようなかわいくオシャレで、コミカルな出来といえる。
戯曲だから、まず舞台配置図の説明がある。
この作品の場合、見せどころは「消える死体」で、舞台もそれゆえに複雑な配置となっている。
アガサはその点も手抜かりはない。
ある日主人公の女主人の家に、夫の元妻の現在のやくざな男がやってくる。
あやしい動きをする男だが、誰かに殺されてしまう。
この死体をめぐって、登場する男三人のコミカルなやりとりが楽しい。
死体の始末どうすんだ? 隠してよ! そこじゃだめだろ・・・、みたいな。
そんな男たちを右往左往させるのが、この作品の主役といえる女主人。
どんな時代であれ、どんな場所であれ、かわいい女性には男たちはやさしいというか、いいなりになってしまう。
単にコミカルというだけではない。
犯人が狙っている高額なものとは何か、そういう謎解きも面白い。
ただそもそもの犯人探しは案外早くから検討がつくかもしれないが、この作品でアガサがもくろんでいたのは犯人探しではなく、男のかわいさのような気がした。
(2022/10/28 投稿)

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