08/23/2023 愛国殺人(アガサ・クリスティー):書評「もし日本版の映画を作るとしたら」

今日は二十四節気のひとつ、処暑。
暑さがおさまる頃という意味だが、
今年はまだまだ収まるどころではない。
寝苦しさも変わらず。
スッキリするようなミステリーなどいいかもしれない。
ただし、今日紹介する
アガサ・クリスティーの『愛国殺人』は
涼しくなるような作品ではない、残念ながら。
いつもの霜月蒼さんの『アガサ・クリスティー完全攻略』の評価も
★★☆とあまり高くない。
もっとも、私なら★は3つでもいいかな。
ちなみに書評に書いた佐分利信さんも若山富三郎さんも
今は亡き昭和の名優です。
じゃあ、読もう。

この作品は1940年に発表された、エルキュール・ポアロの長編小説としては第19作めとなる。
原題は「One,Two,Buckle My Shoe」で、マザー・グースの童謡からとられたもので、それが『愛国殺人』という邦題に変わったのは米国版のタイトルからの翻訳だという。
確かに、マザー・グースの童謡では意味が不明だが、『愛国殺人』というのも、少々居心地が悪いが。
今回の事件の発端はポアロが通院していた歯科医の死。
さすがのポアロも歯医者が苦手というのはご愛敬だが、事件の主役はイギリスの経済界を牛耳る銀行頭取の男。
そんな男がポアロの通う歯科医にも通っていたというのも面白い。
何しろこの男が大物過ぎて、首相と面談したりで政財界に力を持っている。
このあたりが「愛国」とつながっている。
しかも、この歯医者には何故か怪しい人がたくさん集まっていて、なんとも物騒な歯科医なのだ。
この作品を読んでいて、実はこの大物の銀行頭取にあてはめていた日本の男優がいた。
昭和の銀幕で渋い演技を見せていた佐分利信だ。
もちろんこれは一読者としての、勝手な想像だし、お遊びだが、もしこの作品を日本のドラマに置き換えるとしたら佐分利信しかいないように思う。
では、ポアロはと訊かれたら、若山富三郎ではどうだろう。
この二人が対決する場面を想像してみるのも面白いが。
あれ、これってネタバレになってしまうのかな。
(2023/08/23 投稿)

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07/27/2023 ひらいたトランプ(アガサ・クリスティー):書評「犯人さがしのヒントはオリヴァ夫人にあり」

今回のアガサ・クリスティーは
ポアロもので『ひらいたトランプ』という作品。
先にいつもの霜月蒼さんの
『アガサ・クリスティー完全攻略』の評価を書いておくと
なんと★★の低評価。
「クリスティーが好きなら問題なし」で、
こういう評価もないことないけど少ない。
それだけ貴重?。
でも、私は解決は強引だと感じたけれど、
結構面白かった。
名探偵たちvs容疑者たち、の構図もよかったけどな。
ということで、私なら★三つはあげるかな。
じゃあ、読もう。

この長編小説は、アガサ・クリスティーが1936年に発表した名探偵ポアロもので、原題は「Cards on the Table」。
この言葉は作品の中にも出てくる。
加島祥造さんの訳では、「手の札を開けて置く」となっていて、ポアロをはじめバトル警視、諜報局員のレイス大佐、そしてアガサ自身を反映した女性の探偵作家オリヴァ夫人の四人がその場に居合わせた殺人事件を協力し合って解く、キーワードのようになっている。
そもそも今回の事件はこの四人のほかに過去に怪しい経歴を持つ(らしい)四人も集められていて、彼らがカードゲーム(ブリッジ)に興じている間に招待した男が殺害されてしまうというもの。
つまり、四人の容疑者と四人の探偵・警察という構図が面白い。
そして、次第に容疑者たちの過去が暴かれていく。
おそらく読者はその過程で、犯人らしく人物を特定していくだろうが、ここには二重三重の仕掛けがあって、そうやすやすとは犯人にたどり着くことはない。
面白いのは、オリヴァ夫人のキャラクター。
彼女はアガサ自身をモデルにしたようでもあって、この作品だけでなく、アガサのいくつかの作品に登場する。
おそらくオリヴァ夫人を通して、探偵小説を書く上での苦労などをついぼやきたくなるのだろう。
それに彼女、さすがにいいヨミもしていて、この作品でも彼女の言動に留意した方がいい。
犯人さがしのヒントはオリヴァ夫人にあり。
(2023/07/27投稿)

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06/27/2023 雲をつかむ死(アガサ・クリスティー):書評「飛行機はこわい」

初めて飛行機に乗ったのはいつだったろうか。
あまり覚えていないが、
結構怖かったように思う。
昭和50年あたりの頃だろうか。
その頃はまだ飛行機が嫌で、
遠くの出張先にも電車で行くという頑固者がいたりした。
今日紹介する
アガサ・クリスティーの『雲をつかむ死』は
そんな飛行機の中での殺人事件。
いつもの霜月蒼さんの
『アガサ・クリスティー完全攻略』では
★★★のまずまずの評価。
この時代に飛行機を舞台にした新進性を評価して
もう少し点をあげていいかも。
じゃあ、読もう。

この作品はアガサ・クリスティーが1935年に発表した、ポアロものの長編小説。
原題が「Death in the Clouds」で、邦題の「雲をつかむ死」はそれに近い。
私ならもっとわかりやすく「機上の死」としたかもしれない。
というのも、今回の事件は旅客機の中で起こるのだから。
驚くのは、この作品が書かれた1935年といえば、日本でいえば昭和10年で戦争前の不穏な時期。
そんな時代に庶民に飛行機といっても乗って人などわずかしかいなかったと思われるが、なんとアガサはその機上で殺人事件を起こしてしまう(もちろん創作ですよ)のだから、すごいというしかない。
もし、その当時この作品を読んだ普通の読者なら、なかなかその舞台設定も客室乗務員の動きなど理解できなかったのではないだろうか。
本国イギリスの読者の反応も知りたいところだ。
機上内で起こった殺人事件だから、犯人は限られた人数に絞られている。
そんな中、若い女性と歯科医の青年のロマンスの予兆があったりして、これはまたポアロもの恋のキューピットぶりが見られるかと思っていたが、これはとんでもない間違い。
まんまとアガサにいっぱい食わされることになる。
ただ念のために書いておくと、別のロマンスがちゃんと用意されていて、ポアロの恋のキューピットは健在である。
(2023/06/27 投稿)

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05/25/2023 邪悪の家(アガサ・クリスティー):書評「謎解きを愉しめる作品」

最近アニメの「名探偵コナン」にはまっていて、
劇場版アニメを立て続けに観ています。
そこに登場するコナン少年を助ける博士の名前が阿笠(あがさ)博士。
いうまでもなく、アガサ・クリスティーから採られています。
今日は本家アガサ・クリスティーの作品から、
ポアロものの『邪悪の家』の紹介です。
この作品のことを
いつもの霜月蒼さんは『アガサ・クリスティー完全攻略』で、
「安心のミステリ仕掛け」と書いています。
謎解きをポアロとともに愉しむには
うってつけの一作かもしれません。
評価は★★★☆。
私なら★四つにしたいところ。
じゃあ、読もう。

この作品は1932年に発表されたもので、ポアロものの長編小説として6作めにあたる。
原題は「Peril at End House」で、「End House」はこの物語の舞台となる館のこと。
「Peril」には「危険」という意味があるから、さしずめその館に起こる危機というが原題。それを『邪悪の家』とすると、やや雰囲気が違うが、作品の中にこの館を指して「邪悪の家」という人がいるから仕方がない。
この作品の語り手は、ポアロもので馴染みのあるヘイスティングズ。
ポアロからは「きみの直観はいつもまちがっている」とからかわれているが、そのなんともいえないペーソスな雰囲気はポアロものには欠かせない人物。
ポアロものといわれる作品にはヘイスティングズが登場しないものもあるが、彼がいると作品がより面白くなるのは間違いない。
この作品では、保養地で休暇中のポアロたちが偶然命を狙われている若い女性と知り合うことから始まる。
休暇中とはいえ、ポアロがこの保養地に来たことが新聞の記事にもなるほどで、すでにポアロが名の知れた名探偵であることがわかる。
そして、今回の事件の犯人は、そのことを巧みに利用している。
殺人が起きるのは、ポアロがこの女性の助けようとした矢先のこと。女性の従妹が殺されてしまう。
作品中には、ポアロが事件を解くカギとなる項目が列挙されていて、謎解きを愉しむには面白い作品となっています。
犯人の動機はともかく、この人怪しいよなと思える人は結構早くからわかるのではないでしょうか。
(2023/05/25 投稿)

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04/26/2023 エッジウェア卿の死(アガサ・クリスティー):書評「私たちはヘイスティングズだ」

早川書房のクリスティー文庫には
33冊のポアロものの長編小説があります。
今日紹介する『エッジウェア卿の死』は
そのうち7冊目の作品にあたります。
このあとに有名な『オリエント急行の殺人』がありますから、
まだ初期作品群の中の一冊といっていいかも。
でも、なかなか面白い作品で
いつもの霜月蒼さんの
『アガサ・クリスティー完全攻略』でも
★★★★の高得点。
私も同じくらいの評価。
この作品はできたら映像で見ると
余計面白いかも。
だって、重要人物である女優のまねがうまい
役者って設定が映像向きでしょ。
じゃあ、読もう。

この作品は1933年に発表された、名探偵エルキュール・ポアロものとしては初期から中期にかかるあたりになるだろうか。
原題は「Lord Edgware Dies」で、「Lord」は「(イギリスでは)侯爵・伯爵・子爵・男爵などの称号。卿」とあるから、邦題はそのままの訳になる。
物語は、有名な女優が夫と離婚したがっていて、ある夜彼女が夫のもとを訪ねたあと夫が死んでいた。誰もがこの女優の犯行と考えるが、殺人があった時には彼女にはしっかりしたアリバイがあった。
では、誰が夫を殺したのか。
この殺人事件が起こる前に、女優の物まねをする役者が登場している。
とすれば、この役者が犯人にちがいない。しかも、この役者は事件のあと自殺めいた死体になって発見されている。
こんな事件をポアロが推理していくのだが、この頃の彼にはあまり優秀とはいえないポアロの無二の親友がいる。
ヘイスティングズだ。
彼はポアロものの8本の長編と多くの短編に登場するポアロものには欠かせない人物だ。
この作品でも、ヘイスティングズがポアロの解決した事件を語る、そんな形式で書かれている。
つまり、ヘイスティングズが語ることで、ポアロが事件をどのように解決していったかがわかるし、ヘイスティングズの素人推理が つまりは読者の推理と似ているところがまた面白い。
ヘイスティングズこそ、読者の代表として事件の解決に参加しているといえる。
で、結局犯人であるが、収まるところに収まったというところだろうか。
(2023/04/26 投稿)

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