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 私が東京に出てきてから、
 もう50年経つ。
 出てきた当初は地元大阪の学生たちばかり住む学生寮だったから
 そんなに違和感がなかったが、
 もちろんあの頃の東京と今の東京は随分違う。
 50年前の東京で自身がどんな気分で暮らしていたか
 あんまり覚えていないが、
 益田ミリさんの『東京あたふた族』というエッセイ集に収められている
 「上京物語」というエッセイのいくつかに
 なんだかふと自身が東京に出てきた頃の気分が浮かび上がるようであった。

  

 益田ミリさんは1969年の大阪生まれ。
 26歳で上京し、すでに人生の半分近くを東京で過ごしていることになる。
 「上京物語」というエッセイには
 まだ仕事さえ見つかっていない彼女が
 それでもめげることなく、実に豪快に東京での日々を過ごす様子が
 描かれている。
 益田ミリさんのコミックエッセイの原点がそこにあるように感じた。
 また別のエッセイ(「のび太と遊んだ空き地」)には
 こんな記述もある。
 「東京では標準語で生活しているが、わたしの中にはいつも関西弁のリズムが刻まれている。
 (略)とはいえ、わたしは東京も好きだった。
 なんだか、わかる。その気持ち。

 このエッセイ集にはそのほかにも
 朝日新聞に今でも連載中の「オトナになった女子たちへ」というエッセイの
 2019年から2022年5月にかけてのものも収められている。
 女子ではないが、
 私は益田ミリさんの作品が好きだ。

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 高齢化社会になりつつある今、
 本の世界でも「定年後」とか「老後」といった言葉が
 目立っています。
 最近テレビのバラエティ番組などでちらちら拝見することもある
 元朝日新聞の「アフロ記者」稲垣えみ子さんの
 この『老後とピアノ』もそんな本のひとつかと思って読み始めましたが、
 なんのなんの、
 これはピアノ上達の、まさに「養成ギブス」のような本ではないですか。
 もちろん、「老後」に突入した稲垣さんの
 メロメロ、ハラハラ、ピアノ再入門書ではありますが。

  

 「定年後」をどう過ごすか、
 すでに幾多の指南書、アドバイス本が出ていますが、
 その例と同じく、稲垣さんも子供の頃に挫折したピアノを
 もう一度やってみることを決意します。
 ところが、稲垣さんの再チャレンジは定年後の遊びというにはあまりにも過酷。
 何しろピアノの練習時間は毎日2時間以上。
 しかも、プロのピアニストによる指導もつきます。

 そして、たどり着いた境地は、
 「野望を持たず、今を楽しむ。自分を信じて、人を信じて、世界を信じて、今を遊ぶ。」。
 となれば、やはりこの本、
 「老後」本でもあるし、「定年後」本でもあります。
 でも、稲垣さんに言いたい。
 この本で稲垣さんはたびたび「老後」とか「老人」とか使っていますが、
 この本ではまだ53歳(稲垣さんは1965年生まれ)。
 まだ「老後」というには早すぎます。
 これからの稲垣さんにどんな「老後」が待っているのか、
 それを読めれば、それもまた楽しみ。

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 待ち合わせ場所には、本屋は最適だ。
 相手が遅くなっても、本屋にいればイライラすることもない。
 『本屋で待つ』というタイトルに、
 ついそんなことを考えてしまうが、
 もちろんこの佐藤友則さんの本はそんな待ち合わせの話ではない。

  

 舞台となるのは、広島県庄原市という山間の町にある
 ウィー東城店という本屋さん。
 ただこの本屋さん、少し変わっていて、
 店内に美容室があったり、コインランドリーやベーカリーを併設していたりする。
 著者の佐藤さんはこの本屋さんの経営者。
 このエッセイ(と呼んでいいと思う)の最初の方では、
 大学にも行けずにパチンコ三昧の日々が綴られ、
 そんな青年が実家の本屋さんを継ぐことで立派な人物になっていくみたいな
 成功話のように思わないで欲しい。
 確かに佐藤さんは全国の本屋さんから注目を浴びる本屋をこしらえたが、
 実はそこに佐藤さんの経営者としてのすごさがある。
 「(従業員)がよりよくなれば、店は「よりよい店」となり、
 会社も「よりよい会社」となる。従業員たちの人生もきっと、
 会社をとおして「よりよく」なる。
 この本がどんなジャンルになるのかわからないが、
 これはもうりっぱな経営学の一冊ではないだろうか。

 佐藤さんは本屋の経営にあたって、
 不登校になった何人かの青年の成長にも心を広げてきた。
 そのことがこの本のタイトルとも共鳴し合っている。
 そんな佐藤さんの言葉、「待つということは聴くということとよく似ています」。
 とても、いい本と巡り合った。
 なお、ともに名が書かれている島田潤一郎さんは
 この本を出版した夏葉社の代表である。

  【参考】
  この本は2月18日の朝日新聞書評欄で、ノンフィクション作家の稲泉連さんが書評を載せています。

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 貧乏が好きな人はいないと思います。
 と、のっけから東海林さだおさんの食のエッセイのアンソロジー『貧乏大好き』に
 反旗を翻したようですが、
 好きではないけれど、貧乏を楽しむ人はいると思います。
 東海林さんは漫画家として売れるまでは貧乏でした。
 この本の中にも『ショージ君の青春記』から2篇、
 実に哀しい貧乏学生生活が描いたエッセイが載っています。
 でも、漫画家として今は貧しくはないでしょうが、
 貧乏を見下すことなく、
 貧乏を楽しむ心根の、なんと美しいことでしょう。
 世の中、いつの間にか格差社会が広がって
 お金持ちの方々はタワマンのてっぺんから庶民を見下しているような構造にあって
 そんな社会にあって
 東海林さんは常に私たちの味方でありつづけています。

  

 だから、このアンソロジーでも
 ホテルのバーや寿司屋での仰々しいばかりのふるまいに
 オドオドする姿を描いた「場違いに屈せず」編の面白さといえば
 半端ではありません。
 わずか40ページほどに収められた3編のエッセイに
 10回以上は笑い転げましたから。
 何故、笑えたのか。
 東海林さんがそういう場違いな場所でオドオドしたのがおかしいのではなく、
 きっと自分もそうなるだろうなと思えたから
 笑うしかなかったともいえます。

 ビンボーは恐ろしいし、
 貧乏は嫌いだけど、
 貧乏であっても楽しめる、
 東海林さだおさんのような人に、私はなりたい。

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 夏井いつきさんといえば、おそらく今もっとも有名な俳人のひとりだろう。
 その彼女がコロナ禍真っ最中の、2021年3月から2022年3月にかけて「女性セブン」に連載した、
 人生の徒然を記したエッセイ集が、この『瓢箪から人生』だ。
 愛媛松山出身の正岡子規の糸瓜に対抗したわけでなく、いつきさん、産まれ出た時瓢箪頭だったとか。
 妹のローゼン千津さんが詠んだこんな句が最後に紹介されている。
 「瓢箪に生まれて人をよろこばせ
 この句そのままの、いつきさんの俳句活動といっていい。

  

 いつきさんといえば、人気テレビ番組「プレバト!!」の俳句コーナーの先生となるだろうが、
 それ以前からいつきさんは「俳句の種を蒔く活動」をしてきている。
 もちろん、このエッセイの中には「プレバト!!」に触れた箇所もあるが、
 そこだけを強調するのではなく、
 今までしてきた地道な活動の様子の方がたくさん描かれていることこそ、
 夏井いつきという俳人をよく知ることになる。
 きっと将来、いつきさんの志がたくさんの芽をふき、花を咲かせることになるに違いない。

 そんな活動の話だけでなく、
 やはり読者の琴線に触れるのは、
 いつきさんと交わった人たちとの話だろう。
 特に父親を癌で亡くした時の話には胸をうたれる。
 亡くなった時もそのあともなかなか泣けなかったいつきさんだが、
 父親が最後にわずかに汁だけを口にした鰊蕎麦をたまたま口にした時、
 嗚咽したという。
 そんな思いのひとつひとつが、
 夏井いつきという俳人を前へと進めているような気がする。

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