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 三島由紀夫は『仮面の告白』で産湯の時の盥(たらい)の記憶があると書いているが、
 凡人にはとうていそんなことはない。
 では、いつの頃の記憶からあるかといえば、
 幼稚園に行ったあたりだとうっすらと覚えている。
 小学生ともなれば、もう少しはっきりしてくる。
 それは誰しもそうかもしれず、この本の著者益田ミリさんもそうみたいだ。
 「全部は覚えていなくても、胸が熱くなるようなあの楽しかった感覚がずっと残り続けている」という益田さんが、
 「短いこども時代の思い出をもとにした物語」を綴ったのが、
 2022年6月に刊行されたばかりの『小さいわたし』だ。

  

 微笑ましいのが、
 本当の「小さな」益田さんは両親のことを
 「お父さん、お母さん」と呼んでいたそうで、
 「パパ、ママ」と呼ぶのが憧れで
 この物語ではそう変えているということ。
 子供の頃というのは、そういう呼び方ひとつ憧れがあって
 ピアノなんかもそうだろう。
 この本の中でも
 「小さいわたし」がピアノに憧れ、ピアノ教室に通うエピソードが出てくる。
 ところが、憧れで始めたピアノが続かない。
 誰にもそんな経験はないだろうか。

 小学入学からたった1年間の「小さいわたし」を描いた物語は
 大好きだった担任の先生のよその学校への異動で終わる。
 そんな「小さいわたし」に
 益田さんはこんなメッセージをおくっている。
 「いっしょうけんめい遊んでくれてありがとう。キミのおかげで、おとなになってもときどき幸せな気持ちになれるんだよ。」

 ふと、思い出したことがある。
 「ドラえもん」でのび太くんが優しかったおばあちゃんに会いにいくエピソード。
 のび太くん、あの時「小さい」のび太くんに会っているんだ。

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プレゼント 書評こぼれ話

  田尻久子さんの文章に
  すっかりはまってしまいました。
  今年も半年を過ぎたばかりですが
  今年のベストワンはきっと
  田尻久子さんの本を選びそうで
  こんなに早々に決めていいのかしら。
  今日は田尻久子さんの
  『みぎわに立って』という随筆集。
  こういう人が本屋さんを営んでいるというのは
  なんて素敵なんでしょう。
  ほとんど面識のない人から
  開店周年のお祝いケーキが届くのも
  わかるような気がします。
  いい本でした。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  いい本は人と人との出会いから生まれる                   

 熊本で「橙書店」という本屋さんを営む田尻久子さんには、多くはないが、素敵な随筆集が数冊ある。
 そのうちの一冊『橙書店にて』という本を読んだあと、「いい文章は、水に似ている。」というのが最初の印象でしたが、田尻さんの文章に同じような感想が抱く人がいるようで、彼女の最初の随筆集となったこの本のなかに新聞連載の文章を読んで昔会社の同僚であった人から「水のような文章だとほめてくれた」という挿話が綴られている。
 そのあとで、田尻さんはこう結ぶ。
 「流れる水のような文章を書きたいのかもしれない。」と。

 本書は2017年2月から4月まで西日本新聞に連載されていたもので、田尻さんの文才を見出した西日本新聞の編集者の眼力に感心する。
 さらに新聞連載中に本にしないかと声をかけたのは里山社という出版社でしたが、熊本の出版社と思いきや発行所の住所は神奈川県川崎市となっている。
 いい本というのは、こうして出来上がるのだという見本のような、人と人との出会いで生まれているのがよくわかる。

 ひとつの話は2ページに収まる分量で、それでいてなんとも豊かな時間を共有できたと思える。
 どの話から読んでもいい。田尻さんの文章は、何も強制しない。
 どんなふうに思っていい。何故なら、田尻さんの文章は、水なのだから。さまざまに形をかえる。
 幸福な時間を過ごせる一冊である。
  
(2022/07/06 投稿)

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プレゼント 書評こぼれ話

  昨日紹介した
  田尻久子さんの『橙が実るまで』が
  あまりによくて、
  田尻久子さんがほかにも本を出しているのか
  図書館の所蔵を調べてみました。
  そうして見つけたのが
  今日紹介する
  『橙書店にて』。
  2019年11月に出版されていました。
  田尻久子さんは
  1969年生まれです。
  2001年にまずは雑貨と喫茶店「orange」を開店、
  そのあと隣で本屋さん「橙書店」を開業。
  「orange」の隣だから
  「橙」にしたとか。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  心が乾いたら読んでみよう                   

 いい文章は、水に似ている。
 無色透明、無臭。それでいて、時に甘く感じたり、苦くもなったりする。
 硬いものもあれば、やわらかいともいう。
 のどが渇いていてばいくらでも飲める。息をつきたい時は、とりあえず一杯で足りる。
 そんな水のような文章があれば、なんていい時間だと思う。

 この本の筆者である田尻久子さんは、熊本の路地裏にある「橙書店」の店主。
 本屋であり、喫茶店でもあり、ギャラリーでもあるが、大きな店ではない。
 30人も入れば、ぎっしり満員。そんな小さなお店。
 そんな「橙書店」だが、何しろあの村上春樹さんが朗読会をしたというから驚く。
 その顛末も「秘密の夜」と題して、この本に収められている。
 きっと、田尻久子さんという人の磁力のようなものが、いろんな人や猫(この本には猫のことを描いた文章がいくつも入っている)を引き付けるのだろう。
 そして、その磁力に漉されて文章が研ぎ澄まされている。

 田尻さんは文章を書くことの背中を押したのは、熊本の賢人と呼ばれた渡辺京二さん。
 ここにも、人のつながりがあった。
 そうして書かれた33篇の物語は、乾いた心にきっと染みわたるだろう。
 時には甘く、時には苦く。
 読み終わった時、きっと思うだろう。
 いつか熊本の路地裏に入り込んで、「橙書店」に行ってみたいものだと。
  
(2022/06/16 投稿)

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プレゼント 書評こぼれ話

  NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」
  毎週楽しく見ています。
  結構面白い、歴史の裏話のようなエピソードも多く
  それが実際の事実に近いのも
  ドラマを面白くしている要素になっています。
  そういえば、
  司馬遼太郎さんの「街道をゆく」シリーズに
  大河ドラマの舞台となった
  鎌倉を旅した巻があったはずと
  ひっぱりだしてきたのが
  今日紹介する『三浦半島記』。
  久しぶりに読み返しましたが
  面白かった。
  これで大河ドラマがもっと
  楽しめそうです。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  大河ドラマの副本として読むのもいい                   

 作家司馬遼太郎さんの代表作のひとつである「街道をゆく」は、司馬さんが日本各地(時には海外も)の街道を歩きながら、そこに生きた人々を描いた紀行エッセイだ。
 司馬さんが鎌倉幕府発祥の地となった神奈川県三浦半島を旅したのは、1994年頃だろうか。(週刊誌に連載されたのは1995年3月から11月にかけてだったから)
 長い「街道をゆく」シリーズでいえば、終わりから二つ目の巻になる。

 この紀行エッセイでは書き出しがいい。
 この巻はこう始まる。
 「相模国の三浦半島は、まことに小さい。」
 短いながら、旅の始まりの高揚感が伝わってくる。
 司馬さんは三浦半島を歩きながら、その隣の伊豆半島の小さな在所に20年いた男のことをおもっている。
 源頼朝である。
 今回の紀行はおのずと頼朝とそのあとの時代、つまりは鎌倉時代を描くことになる。

 「鎌倉の世は、存外ながい。」と、司馬さんは書く。
 頼朝が鎌倉入りして、153年続いたというから、確かに長い。
 といっても、頼朝の血流はわずか三人で終わるから、そのことをなかなか気がつかない。
まして、頼朝という名前が大きすぎ、さすがに北条家はわかるとしても、和田家や三浦家梶原家と彼の鎌倉入りを支えた御家人の  名前は複雑に絡み合ってよくわからない。
 さすがに司馬さんのこの作品を読めば、ある程度は整理ができるはずだ。

 司馬さんはこの旅のおわりに横須賀の港も歩いている。
 『坂の上の雲』執筆時の思い出も語られていて、この巻の旅は気持ちいい。
  
(2022/04/19 投稿)

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プレゼント 書評こぼれ話

  今日は
  天皇誕生日の祝日。
  令和になって今年でもう4年め。
  でも、まだ2月23日が天皇誕生日となじんでない人も多いのでは。
  昭和生まれの私なんか
  いまだに天皇誕生日といえば
  4月29日なんて勘違いしそう。
  そんな休日なので
  今日は楽しい一冊を。
  東海林さだおさんのエッセイを
  平松洋子さんが編纂した
  『東海林さだおアンソロジー 人間は哀れである』。
  東京・西荻窪に暮らすお二人ですから、
  西荻窪歩けば
  お二人に会えるかも。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  編者平松洋子さん、がんばる                   

 東海林さだお、84歳。少年の頃見た手塚治虫の漫画に憧れ漫画家を目指したという。でも、手塚漫画の影響は全く感じさせないのが東海林さんらしい。
 谷岡ヤスジが登場した時、大いなるショックを感じたという。それでも、東海林さんは自身の漫画道を進んだ。
 そんな本音会話ができるのも、東京・西荻窪に共に暮らすエッセイスト平松洋子さんとの地元愛トークだからかもしれない。(この文庫には東海林さんと平松さんの対談2つが収められている)

 東海林さだおさんといえば、漫画家と同じくらいエッセイストとしても有名だ。
 特に「丸かじり」シリーズに代表される「食のエッセイ」の第一人者といっていい。
 そして、この文庫本の編者である平松洋子さんも「食のエッセイ」の次世代のエースとして活躍してきた。
 となれば、「東海林さだおアンソロジー」ともなれば、食のエッセイの大盛りとなりそうなものだが、そうしないところが平松洋子さんの面白さといっていい。
 タイトルにして、そうだ。
 東海林さんがこんなタイトルのエッセイを書いていたなんてあまり知られていないのではないだろうか。
 あるいは「明るい自殺」というエッセイなんかは、裏東海林エッセイともいえる、かなりハードな内容の作品だし、「往生際」というエッセイもそうだ。

 もちろん、読みながら何度も笑ってしまえるエッセイもあるが(「自分部分史・帽子史篇」なんか最高レベル)、食のエッセイを封印したところに平松さんの男気(女気?)を強く感じるエッセイ集になっている。
  
(2022/02/23 投稿)

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