
5か月が過ぎました。
早期に停戦になる期待もありましたが、
今は停戦の気配すら感じなくなりました。
今でも毎日報道される戦闘の様子に心を痛めるとともに
私たちがいかにウクライナのことを
知らなかったということを思い知りました。
そんな時、6月10日に急遽発刊されたのが
この『中学生から知りたい ウクライナのこと』でした。

「中学生から知りたい」を
中学生にもわかるように書かれた内容と勝手に思い込んでいました。
そのことについて、こう説明されています。
「「中学生から知りたい」というのは、私たちの学んだ知識を
カジュアルダウンしてわかりやすく伝える、とは少し異なった方向にあります。
むしろ、私たち大人の認識を鍛え直す、という意味も込められている」
ウクライナの問題を知ることで
もっと俯瞰的なことも考える、
そんな一冊になっています。

もう一人の藤原辰史氏は1976年生まれの京都大学准教授。専門は現代史。
本書では、まずこの二人が中心となって侵攻2日後に出した
「ロシアによるウクライナ侵略を非難し、ウクライナの人びとに連帯する声明」が載っています。
そのあとに、ウクライナの歴史が講義風にまとめられていますが、
それを読むと、「今」が「過去」から続いているのがよくわかります。
つまり、「今」だけ見ても理解できないし、
「過去」から続くことはウクライナの人たちが連綿と繋いできたものかもしれません。

「心が乱れた今こそ、わかりやすい図式に飛びつくのではなく、
複雑な現象の複雑さに目を凝らし、心を落ちつかせて、「学ぶ」ことが重要ではないでしょうか」
ウクライナの問題だけでなく、コロナウイルスの再拡大のことも、
あるいは元首相の襲撃事件についても
藤原氏のこの一文は有効だと思います。

いろんなことを反対に私たちに問いかけてくる一冊です。

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ネット社会は私たちに
多大な恩恵をもたらせたのは事実です。
しかし、その一方で
ネット社会固有の闇を
私たちの社会ははらんでしまったかもしれません。
今日紹介する
文春オンライン特集班による
『娘の遺体は凍っていた 旭川女子中学生イジメ凍死事件』の
イジメ事件のあらましを読むと
中学生たちの日常に
SNSが当たり前のようにしてはいっていて
それが学校や家族の知らない
イジメの温床になっているように
感じました。
地方の小さな事件ではなく
もっと大きな
社会的な問題をかかえた事件といえます。
じゃあ、読もう。

これはまだ終わっていない事件、すなわち現在進行形の事件の発端とその後の経緯を追跡取材したドキュメントだ。
2021年2月、北海道旭川の極寒の夜、14歳の一人の少女が家を出て行方不明となる。懸命の捜索でも少女は見つからず、春の気配が近づいた3月、彼女は変わり果てた姿で発見される。
発見時、彼女は凍っていたという。
文春オンライン特集班に寄せられた「少女は学校でイジメにあい、事件に巻き込まれた様子」という投書から、特集班は独自の取材をはじめる。
すると、あまりにも悲惨な事が次々と発覚する。
上級生男女数人によるわいせつ写真の要求、自慰行為の強要など、さらには少女はイジメの渦中で自殺未遂まで引き起こしている。
しかし、学校側が当初イジメを認定しなかったばかりか、母親の原因究明の訴えにも真摯に対応してこなかった。
文春により事件が大きく取り上げられたことで、学校側も市の教育委員会も重い腰をあげざるをえなくなったが、真実はどこまで解明されるのだろうか。
本書ではイジメ調査のための第三者調査委員会を立ち上げる前までが取材されているが、もちろん解明の調査は続いていて、6つの項目でイジメがあったという中間報告がこの春に行われたばかりだ。
真実はひとつであるのに、解明に時間がかかるのは、やはり誰もが自分がかわいい、自分が加害者ではないという認識だからだろう。
しかし、だからといって一人の命を粗末にしていいわけはない。
ぜひ、真実を明らかにしてもらいたい。
(2022/07/13 投稿)

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07/08/2022 バナの戦争(バナ・アベド):書評「戦争をやめてください。」

ロシアによるウクライナ侵攻が始まって
すでに4か月を過ぎました。
長引く戦火に
終わりが見えてきません。
そんな時、見つけたのが
シリアの少女バナ・アベドさんが書いた
『バナの戦争』です。
ウクライナの問題は大きかったから
世界の注目を集めていますが
実は世界で紛争は途切れたことがないことを
この本を読んで改めて教えられました。
そして、この本でこんなシリアのことわざを知りました。
祖国の雑草のほうが異国の小麦よりもいい
どんなに悲惨な土地であって
人がそこに住む思いというのはそういうことなのかと
思い知らされました。
じゃあ、読もう。

表紙に使われている、がれきの前に立つ少女。そして、タイトルにつけられて「戦争」という言葉。
この本のことを知ろうとすれば、副題が教えてくれる。
「ツイートで世界を変えた7歳少女の物語」だと。
もう少し詳しくいえば、激しい内戦のシリア・アレッポで、ごく普通に生活していた当時7歳のバナ・アベドがTwitterで世界に発信した悲惨な現実が世界中を揺るがせ、そこから彼女がどんな生活を送っていたかを綴った手記が、本書である。
彼女のことを「現代のアンネ・フランク」と呼ぶ人もいて、確かに彼女が家族とともに故郷アレッポから脱出するさまは、多くの人を感動させる。
本書には彼女がツイートしたものをいくつか載っている。
「戦争をやめてください。もう、つかれちゃった」
「わたしたちは武器を持っていません。なのに、なぜ殺されるの?」
「ただ、こわがらずにくらしたい」
「わたしは平和が欲しい」、・・・、・・・。
彼女のツイートは2016年になされたもので、この本は2017年に出版されている。
原題が「DEAR WORLD」。
出版された当時も話題になったと思うが、その時以上に今世界は7歳の少女が世界に向けて援けを求めた思いを、真剣に受け止めないといけない。
きっとウクライナでもこの時のバナのように住む家を破壊され、隣国に避難するしかない多くの子供たちがいるのだから。
この本の最後に8歳になった少女が願ったことが列記されている。
その中のひとつの願い、「シリアや、戦争が起こっている国がすべて平和になりますように。」が叶うように、祈るしかないのだろうか。
(2022/07/08 投稿)

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06/30/2022 神も仏もありませぬ(佐野 洋子):再録書評「人はいつから晩年をむかえるのだろう」

佐野洋子さんといえば
絵本作家として知られていますが
私にとっては
エッセイストとしての方が馴染みがあります。
佐野洋子さんのエッセイを
紙芝居風にしてテレビ化した番組は
数年前にNHKEテレであって
その時にほとんどのエッセイを読みました。
そのあとも気にはなっていて
ブックオフで佐野洋子さんのエッセイ本を見つけては
購入していました。
今日紹介する
『神も仏もありませぬ』も
そんな一冊。
今日は再録書評で
2017年3月に書いたものです。
今回再読して
やっぱり「北の国から」に似ていると
5年前と同じことを思いました。
じゃあ、読もう。

佐野洋子さんといえば、『100万回生きたネコ』に代表されるように絵本作家となるのでしょうが、エッセイを書かせても実にユニークで、この人は言葉が根っこに生きている人なんだと思わせるものがある。
このエッセイは2003年秋に刊行され、2008年に文庫本になっている。
佐野さんが還暦を迎え、北軽井沢(佐野さんの文章でいえば群馬県の山の中)で暮らしていた64歳から65歳あたりの日常を描いたエッセイである。
佐野さんは2010年に72歳に亡くなっているから、晩年にあたるのだろうか。
いや、ここに描かれた世界はけっして晩年ではない。
実際、この本の「あとがきにかえて」で、佐野さんは「しかし、私は全然死なないのだ」と書いている。
この本に収められている18篇のエッセイには死の影は濃いが、それはまだ生きることに強く拘っている人間が描く死ともいえる。
「ありがたい」というエッセイで「自然は偉い。理屈をこねず、さわぎも致さず、静かにしかしもえる命をふき出そうとしている」と描かれている。
その一方で「人間はそうはいかない」と記す。
佐野さんは「そうはいかない」側にいる。
そういう側として、この時期の佐野さんは老いとか死を意識しながらも、けっして晩年というよりはまだまだ生き生きとっしている時期でもある。
このエッセイに登場してくる佐野さんの隣人や友人たちはまるで倉本聰さんが描いた「北の国から」の住人たちのようであったことも追記しておく。
(2017/03/31 投稿)

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06/24/2022 教養として知っておきたい 地政学(監修 神野 正史):書評「まずは知ることが大事」

月に一度の読書会、
今月6月の読書会で
何人かのメンバーの興味をひいたのは
この本だったかもしれません。
河合塾の世界史の先生である
神野正史さんが監修した
『教養として知っておきたい 地政学』。
読書会が終わったあと、
何人かが図書館に予約しましたと
言っていました。
私もその一人。
自分ではなかなかこういう本を
手にすることがないのですが
読書会という集まりのおかげに
自分があまり知らないジャンルの本も
知ることができて
いつも楽しみにしています。
じゃあ、読もう。

「地政学」という言葉を最近特に耳にすることが多くなった。
河合塾の人気世界史講師の神野正史先生監修のこの本によれば、「地政学」というのは国際政治学の一分野で、地理的な側面から国家間の関係を読み解こうとする学問で、最近のロシアによるウクライナ侵攻は何故起こったのかといった問題や中国による海洋進出の要因など、そうかこういうことだったのかと、さらに世界地図を見たくなること間違いない。
この本は2018年に刊行されているが、すでにウクライナの問題が書かれていて、ロシアとウクライナの関係はすでにその頃には問題視されていたことがわかる。
その点だけを取り出せば、ウクライナはロシアにとってヨーロッパとの緩衝地帯であって、そこがヨーロッパ側についてしまうとロシアにとっては脅威だとある。
さらには、ロシアを嫌うウクライナの国民感情ということも記述されていて、ウクライナへの侵攻は確かに2022年に始まったが、すでに火種は十分にあったことがわかる。
では、それなのに世界は何故何もしなかったのか。あるいは、できなかったのか、が実は問題なのだと思う。
確かに新型コロナウイルスの世界的なパンデミックで、世界中が紛争どころではなかったのかもしれないが、外交努力というならば、現在のような事態を避けるための用意と知恵が必要だったはずだ。
そのためにも「教養」としてまず「地政学」のこの本を読んでみるのもいいだろう。
(2022/06/24 投稿)

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