FC2ブログ
01/10/2009    書評:文芸誤報
プレゼント 書評こぼれ話

  前回に引き続き、今回も書評集の紹介です。
  前回と今回の書評集でおもしろいなあと感じたのは、
  だいたい同じ時期に書かれた書評ですから、同じ本の書評が
  何冊もあるんですよね。
  例えば、渡辺淳一さんの『鈍感力』とか筒井康隆さんの『巨船ベラス・レトラス』とか。
  同じ本でありながら、斉藤美奈子さんと豊崎由美さん、お二人の評価が
  若干ずれていたりするんですよね。
  それが面白い。
  まあ読書の楽しみっていうのは、人それぞれの評価があっていい、
  ということだと思うし、
  Aという人がいいと思っても、自分にはちっとも理解できないっていうことは、
  よくあります。
  もちろん、その逆も。
  あるいは若い時の自分はすごく感激したのに、
  年を重ねたら、面白くなかったみたいなこともあります。
  もちろん、その逆も。
  そういう自由度があるから、
  読書は楽しいのだと思います。
  
文芸誤報文芸誤報
(2008/11/20)
斎藤 美奈子

商品詳細を見る


sai.wingpen  ペンで蠅をつかむ                  矢印 bk1書評ページへ

 一年間の出版点数が八万点を超えているそうだ。
 ということは、日々二〇〇点あまりの新刊が出版されていることになる。一冊の本の売れ数が増えない(つまりは読まれない)から、点数を増やすことで売上げを維持しようということだろうが、そのおかげで内容の薄い企画や同人誌レベルの文学が横行しているような気がする。
 また、それだけの新刊本から何を読めばいいのか、迷うのも事実だ。
 こういう時代だからこそ、「書評」に求められるものは大きい。

 本書は2005年から2008年にかけて約三年半、「週刊朝日」に掲載されていた(一部は「朝日新聞」での書評もあるが)、主に文芸書を中心にした、斉藤美奈子の書評集である。
 紹介されているのは二〇〇冊を超えるが、冊数だけでいえば、これでも今の出版事情ではたった一日分の出版量である。
 ため息が出る。

 最近、新進気鋭の書評家豊崎由美の「正直書評。」を読んだせいか、さしもの斉藤美奈子もおとなしく、つつましく、大人に見えてくる。それでいて、ちくり度も、ねっちょり度も一日の長を感じる。
 いまや大家の風情である。
 例えば「小説とも随筆ともつかぬこういう本が昔よくあったよなあと思うが、教養がない私には固有名詞が出てこない」(85頁・『パリの詐欺師たち』書評から)といったような箇所を読むと、絶対斉藤は固有名詞がわかっているに違いない、と思える。わかっていながら「お前だよ、お前」と特定のものを罵倒している。
 こういう技は斉藤の極致である。

 本書の最後にはこの本の書評まできちんと掲載されている。
 その中で、斉藤は「この本は、文芸批評でも何でもなく、ジャーナリスティックな興味と二人連れの俗なレビューの集積」と書き、「個々の作品評価はあまり信用せぬが花であろう」と評価しているが、斉藤美奈子、ズルすぎて、巧すぎる。
 今やペンで蠅をつかむが如き妙技である。
(2009/01/10 投稿)