03/06/2009 書評詩:読むので思う

今回紹介する本は、詩人の荒川洋治さんのエッセイ集というか短文集です。
66篇の短文が収められています。
この本を読みたいと思ったのはbk1書店の、
佐々木なおこさんの書評を読んだからです。
そうしたら、今月号の「文藝春秋」(芥川賞が掲載されている)で、
エッセイストの平松洋子さんが「今月買った本」という記事で
この本のことを書かれていました。
こういう偶然って時たまあって、不思議な気分になります。
平松さんは「なかをあらためるまでもなく買うのは荒川洋治さんの本」と書いて、
「虚を突かれるタイトル」と感心されています。
今回の書評詩は、そんな荒川さんの本の中から
「春とカバン」という短文にひかれて書いたもの。
わずか4ページの短文ですから、ここだけでも読んで欲しい、
いい文章です。
その短文のなかにこんな文章があります。
「ぼくは自分のことしか見えない人間だ。ずっとそうだ。
ひごろ人のために役立つことをしていない。
ぼくはいつか、このカバンのようになりたい。
そんなふうに思っているのかもしれない」(91頁)
そんな思いから、今回の詩はできあがりました。
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朝の混雑時間を 少し過ぎた電車の中で
私は 吊り革につかまって
うとうと 眠っていた
仕事をさがしに いくところ だった
腰のあたりに じゃれつくものがあって
細く目をあけると
隣で 男も 同じように 吊り革につかまって
うとうと 眠っていた
「すみません
カバンがあたるので 痛くてしょうがありません」
丁寧な口調で 申し出た
男も細く目をあけると
「これは まことに
申し訳ないことでした」
丁寧な口調で あやまった
「すこしばかり にぎやかなようでもありますが
これはどのようなカバンなのでしょう」
興味がわいたので 丁寧な口調で きいてみた
「これは 春のカバンです」
男は すんなり 答えてくれた
「それは また すてきなカバンですね」
感心したので すんなり いえた
「何がはいっているのですか」
これも すんなり いえた
男は まるで 魔術師みたいに、
そのにぎやかなカバンから 次々 ものを出してみせた
鉛筆
消しゴム
のり
ハサミ
各種付箋
画鋲
文庫のしおり
文庫の目録
最近出た全集の内容見本
あまりに見事だったので
拍手をしたくなったが
恥ずかしいので しなかった
かわりに
「春のカバンは いいですね」
といったが
少し 物欲しそうに 聞こえので
恥ずかしく なった
男は 得意そうにして
また 魔術師のように 次々 ものをしまっていった
電車がゆっくり日暮里の駅に着いた
「さようなら ここで失礼します」
男が 丁寧に 礼をしたので
「さようなら ここで失礼します」
と 私も 丁寧に 礼をした
どこで春のカバンが手にはいるのか
聞けばよかった
(2009/03/06 投稿)
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