05/10/2009 楢山節考 :書評

今日は「母の日」。
そんな日に、母を捨てる物語の書評ですが、
あまり気にしないで下さい。
なにしろ、たまたま
朝日新聞日曜の書評欄「百年読書会」(ナビゲーター重松清)の、
5月の課題本が、深沢七郎さんの『楢山節考』だったもので。
それにこの物語は孝行息子の物語でもあるのですから。
『楢山節考』は昭和31年(1956年)に発表された作品です。
私もかなり、ずーっと以前読んだことがありますが、
今回久しぶりに読んでみました。
そういうことからすると、こういう企画もいいかもしれませんね。
この『楢山節考』は、いわゆる姥捨伝説をテーマにしたもので、
映画化も2回されていますから、
そのことで内容を知っている人も多いと思います。
一度めは木下恵介監督で1958年映画化されています。
この時の主人公おりん役は田中絹代さん。
二度目は今村昌平監督で1983年。
おりんは坂本スミ子さんが演じました。
今村作品はカンヌでも賞をとっていますので、
こちらの方が有名かもしれません。
残念ながら、私は今村作品は観ていません。
木下作品は全編スタジオ撮影で、しかも歌舞伎調の雰囲気を
もった意欲作でした。
作品が発表された当時よりも現在の方が、
高齢者社会が進んでいますから、この作品のテーマは
より重くなっていると思います。
ただ、今回の書評にも書きましたが、
この作品をそういう問題だけで読み解くのはどうかと思います。
もっと生命力にあふれた作品です。
文庫本にして100頁に満たない作品ですので、
「母の日」に読んでみて、
母のこととか子どものこととか考えてみるのもいいかもしれません。
今回も冒頭に「書評句」を載せています。
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楢山よ おっかあつつめよ 初雪で
「矜持」という言葉がある。英語にすれば「pried」でしょうか。この物語の主人公おりんは村の掟にしたがって山に捨てられていく老婆だが、名前のように「凛」とした姿が印象深い。
何故おりんは死を恐れないのだろう。それを考えていくうちに、「矜持」という立ち居のいい言葉にぶつかった。おりんは死を恐れることで村の蔑み唄になりたくなかった。見事な死を全うすることで村の尊敬を得たかった。唄となって残ることもふくめて。だから、おりんにとっては、丈夫な歯をもつ老いも許されないことなのだ。
老いには老いの姿がある。死には死の、避けられない姿がある。
この物語ではおりんに対比させるように、死を怖れる銭屋の又やんという人物を登場させているが、その姿があわれなゆえに一層おりんの「人間としての矜持」が光を放っている。
この物語のおりんは悲劇という言葉さえ寄せつけない「人間」である。
(2009/05/10 投稿)
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