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プレゼント 書評こぼれ話

  文春文庫の「いい男感想文」キャンペーンも、
  あと2回となりました。
  夢で終わるか、35万円・・・・・。
  ということで、締め切り間際に書いたのが、
  今回紹介しました、『栗林忠道 硫黄島からの手紙』です。
  半藤一利さんが「解説」を書いています。
  クリント・イーストウッド監督の映画(2006年)で観られて人も
  いるんじゃないですか。
  何しろ、人気グループ嵐の二宮和也君がいい演技してましたからね。
  私もあの映画は観ました。
  かなりよかったなぁ。
  この『栗林忠道 硫黄島からの手紙』は、あの映画で渡辺謙さんが演じた、
  栗林中将が本土の家族に宛てた手紙をまとめたものです。
  昔の男って強かったのですね。
  実は、手紙を読み終わって、
  栗林中将の年譜を見ていて、愕然とした一節がありました。
  それは、「1945年3月26日、戦死。享年53」のあとの、
  「1945年9月22日、洋子、腸チフスのため死去。享年16」という、一行。
  洋子さんというのは、栗林中将の長女です。
  おそらく栗林中将はその死に際して、家族のことをどんなに思ったことでしょう。
  子供たちの成長をどんなに願ったことでしょう。
  それなのに、長女はわずか半年後に、
  しかも戦争がようやく終わったというのに亡くなってしまう。
  戦争というものの酷(むご)さを感じます。

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栗林忠道 硫黄島からの手紙 (文春文庫)栗林忠道 硫黄島からの手紙 (文春文庫)
(2009/08/04)
栗林 忠道半藤 一利

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sai.wingpen  「楷書」の男               

 「男には『意思』の鞏固と云う事が何よりも大切である」
 これは、太平洋戦争最大の激戦地といわれた硫黄島の戦いで総指揮をとった栗林忠道中将(戦死後、大将)が息子太郎の二十歳の誕生日にあてた手紙のなかの一節である。
 硫黄島への赴任時からすでに自らの死を覚悟していた軍人栗林中将ならではの言葉であり、男としての栗林忠道の生き方そのものでもある。
 そして、それは自らがいない世界に生きる息子への、強い愛情に裏打ちされた、父親としての言葉といっていい。
 父親として、そういう力強い言葉を、現代の男たちは持つことがあるのかと、これは私のこととしてもいささか心許ない。子供たちがプイと顔を逸らせ、すいと席を外すことが既視感にようにはっきりと見える。これでは最初から勝負になりようがない。
 あるいは、妻に対してはどうか。何度もなんども妻に疎開を勧める栗林中将の細やかな配慮さえ、私には自信がない。
 どこかで、ごまかし、逃げようとしている。
 その点、栗林忠道は、「楷書」の「いい男」だった。相手に正しく伝えることを身上としていた。だから、栗林中将の言葉は、強い。
 「下手な而かもうそのつづけ文字を書かず、正確に書くこと」と、誤字脱字にうるさかった「楷書の男」栗林らしい手紙を子供たちに書きおくってもいる。
 最初から負けることが自明でもあった硫黄島の戦いでも、栗林は逃げることをしない闘将として、その生涯を閉じた。
 そんな栗林であるから、こんな手紙が胸をうつ。息子に宛てた、また別の日の手紙だ。
 「父としてはお前の前途を見届け、確実に幸福の生涯に踏み出したところを見て取る迄生き度いのは人情だが、それは戦局と自己の運命と到底許されない」
 この中の「生き度い」というのは栗林忠道の本音であったにちがいない。それでも、それをぐっと噛みしめるざるをえなかった彼は、終生、「楷書」をつらぬいた「いい男」だった。
  
(2009/08/20 投稿)
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