08/29/2009 ゲゲゲの女房:書評

今日は、水木しげるさんのカバー画も楽しい、
武良布枝(むらぬのえ)さんの『ゲゲゲの女房』という本を紹介します。
書評にも書きましたが、武良布枝さんは水木しげるさんの奥さんです。
水木しげるさんの本名は、武良茂。
水木しげるさんといえば、『ゲゲゲの鬼太郎』の原作者だというのは、
みなさんもご存知かと思いますが、
あの漫画はもともとは『墓場の鬼太郎』でした。
実は私はこの漫画の大ヒットは、「ゲゲゲ」にあると思っています。
このなんともいえない音(おん)の響きが、
大ヒットにつながったのではないでしょうか。
もしあれが、「サササ」だったらどうでしょう。
「パパパ」だったら、どうでしょう。
あれ以上のネーミングはなかったように思います。
お化けらしいけれど、怖くもない。
それが、あの「ゲゲゲ」ににはあるんですよね。
ところで、この本は来年3月からの
82作目のNHK連続テレビ小説の原作に決まりました。
武良布枝さんを演じるのは、松下奈緒さん。
どんなドラマになるのか、
これも楽しみです。
![]() | ゲゲゲの女房 (2008/03/07) 武良布枝 商品詳細を見る |


著者の武良布枝さんは、人気漫画家水木しげる氏の「女房」です。
氏の代表作といえば『ゲゲゲの鬼太郎』、だから本書は『ゲゲゲの女房』。おかしなタイトルですが、わかりやすい、いい書名です。
水木しげる氏の著作のなかに『妖しい楽園』(2000年刊)という、氏の身辺雑記をつづった本がありますが、そのなかで氏は「父」や「母」あるいは「子供」については書いていますが、布枝夫人のことには触れられていません。
唯一、自身の結婚の事情を描いた「結婚」という短文のなかに「長い顔の女がホホ笑んでいる」という文章があるばかりです。水木氏が丸顔だから余計にそう見えたのか、漫画に登場する「女房」も「長い顔」をしています。
もっとも、本書口絵の「女房」の写真を拝見すると「長い顔」どころか、美人顔で、文章にも書かず、漫画でも揶揄するのは、おそらく水木氏の照れであろうと思われます。
「ゲゲゲ」どころか、ねずみ男の「ビビビ(美美美)」の女房とお呼びしたいくらいです。
本書は、そんな「女房」の、青春から今にいたる、一代記です。
今でこそ水木しげる氏といえば故郷の島根県境港市に「記念館」があるほどの人気漫画家ですが、布枝夫人と結婚した頃は四十前のまだ貧しい貸本マンガ家で、しかも戦争で左手をなくしていました。その男性がこれほどの成功をおさめると、布枝さんは考えたわけではありません。
見合いからわずか五日後に二人は結婚式をあげるのですが、これなどは現代では考えられないことかもしれない。
「恋愛に価値があると思っておられる方々には、これ以上の不運はないと思われるかもしれません」と、「女房」は書いていますが、すぐさま「最初に燃え上がった恋愛感情だけで、その後の人生すべてが幸福になるとは、とても思えません」と記しています。このあたりは、現代の「婚活」にいそしむ女性たちはどう受けとめるのでしょうか。
結婚はしたものの水木しげる氏の経済状況は好転するはずもなく、まして貸本マンガ界も不況にあえいでいました。
「伴侶とともに歩んでいく過程で、お互いが「信頼関係」を築いていけるかどうかにこそ、すべてかかっていると思うのです」と書く布枝さんは、困窮生活のなかで一所懸命絵筆をふるう水木氏を見てきた「女房」でしたし、漫画週刊誌ブームにのって人気漫画家の仲間入りをした水木氏ではあっても「目を見て話してくれることがなくなったことが、寂しくて」たまらないと感じる、女性らしい優しい「女房」でもあったわけです。
水木しげるご夫婦の物語は現代の成功物語かもしれません。しかし、「女房」の文章にはそんな奢りはありません。
『ゲゲゲの女房』とは、「普通では味わえないような、喜びも悲しみも、誇らしさも口惜しさも経験」したことを感謝する、おおらかな「女房」の物語です。
(2009/08/29 投稿)
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