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プレゼント 書評こぼれ話

  今回の書評のなかに書いています、
  城山三郎さんの声の録音ですが、
  新潮社から講演CDとして
  発売されています。
  たまには本を離れて
  作家たちの生の声を聞くのも
  いいんじゃないでしょうか。
  講演とその講演記とは
  やはりちがうものなんでしょうね。
  講演自体はそこで実際しゃべっている総体として
  楽しめばいいでしょうし、
  講演記は何度でも繰り返し読み返すことが
  できます。
  いわば、
  講演はフローで
  講演記はストックのようなもの。

  じゃあ、読もう。
  

逆境を生きる逆境を生きる
(2010/02/26)
城山 三郎

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sai.wingpen  城山三郎の声                     矢印 bk1書評ページへ

 本書のもととなった1995年の福岡の高校での講演の様子は音声として残っている。そこで68歳の城山三郎の声を聞くことができる。
 低くもなく、甲高い声でもない。落ち着いて、歯切れがよく、ゆっくりと話す。おとなの声とはこういう声をいうのだろう。
 原稿はあっただろうが、ほとんどいい間違いはない。淀むこともない。齢(よわい)を重ねたことの重みが声として、言葉としてこぼれだすという雰囲気を醸し出している。

 もちろん、そういった講演をもとにして、こうして文章として再構成されて、読むこととして何の違和感もなく、城山三郎の作品として読めるわけであるが、話し言葉としての一つひとつの間(ま)のようなもの、まさにそれは城山三郎の息づかいなようなもの、が失われてしまうのは残念だ。
 あるいは、聴衆の静かな笑いであったりささやかな身じろぎであったりに反応する城山三郎の言い回しが消えてしまうのも、講演を聴くことと活字を読むことの違いだろう。
 行間を読むということは、そういうことも含まれる言葉かもしれない。

 『逆境を生きる』というタイトルが本書にはつけられているが、城山三郎の代表作ともなった『落日燃ゆ』の広田弘毅と『男子の本懐』の浜口雄幸を核にして城山の多くの作品の裏話がつめこまれていて、幅広い読み方ができる内容になっている。
 そういう点では、城山三郎のめざした生き方そのものがコンパクトにまとめられている本といえる。城山三郎がなくなって三年が経つが、こういう本が出版されることで、新しい読者が生まれるとしたら、これほどうれしいことはない。

 音声の記録では、講演の最後に「ご参考に少しでもなればと思ってお話を申し上げました」といって壇上を下りた城山三郎に、聴衆のたくさんの拍手が、それも静かで落ち着いた拍手が、おくられていたことを書きとめておきたい。
  
(2010/04/17 投稿)

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