06/01/2010 乳のごとき故郷(藤沢 周平):書評「故郷を深呼吸のように味わう」

今日から6月、水無月。
六月の万年筆のにほひかな 千葉皓史
今日は自身俳句に親しんだ藤沢周平さんの
エッセイ集『乳のごとき故郷』を
紹介します。
藤沢周平さんといえば、
最近藤沢周平さんの故郷、
山形県鶴岡市に「藤沢周平記念館」がオープンして
話題を集めています。
この本の最後のページに
さっそく館の案内がでていました。
庄内といえば、
鶴岡と隣接の酒田を総称してそう呼ぶのですが、
酒田の街にはたびたび用事があって行きましたが、
本当にいいところです。
映画『おくりびと』を観た人は多いでしょうが、
あの風景こそ庄内ですよね。
今、そんな鶴岡が元気です。
8年ぶりに街に映画館もできたそうです。
「まちなかキネマ」という名前も気持ちいい。
ぜひ、再訪したい街のひとつです。
じゃあ、読もう。
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藤沢周平さんの「郷里の昨今」というエッセイのなかに、各地で急増する文学碑について「こういうことが文化的だと思われるのは困る」と心情をつづっている箇所がある。実際に生前自身の郷里の小学校に記念碑ができるときにも嫌がったくらいである。
そんな藤沢さんであるから、記念館などはもってのほか。
今春藤沢さんの故郷山形県鶴岡市に「藤沢周平記念館」が開館したが、建設にあたっては故人の性格を知る遺族から強い反対があったという。
それを説得した街の人々、そしてついには承諾した遺族の思いは、ともに藤沢さんが愛した故郷を思う強い心があったにちがいない。
にぎやかな街が優れているわけでもないが、少なくとも街には活気が必要だ。
今の地方都市にはそれがない。商店街はシャターをおろし、 道行く人は少ない。若者は故郷をして、老人たちだけがさびしく、時に厳しい冬を過ごさなければならない。
そんな故郷に恩返しができるとすれば、故郷をこよなく愛した藤沢さんも喜んで力を貸したのではないだろうか。
「私が生まれ育った場所は、鶴岡市から南に二~三キロ離れた農村である。いわゆる庄内平野と呼ばれる土地の一角になる」という書き出しで始まる「ふるさとの民具」というエッセイをはじめ、本書は藤沢周平さんが書かれた約270篇のエッセイから鶴岡・庄内に限定した46篇と詩2篇が収められている。
藤沢さんの小説にたびたび登場する海坂藩もこのあたりの風景をモチーフにしているから、藤沢さんがいかに故郷を愛していたかがわかる。そして、映画化された藤沢作品などで実際そんな風景にふれると、藤沢さんが愛したのもうなづける。
どのエッセイも作者のそんな心情がよくでていて、心地よい。文章を読みすすめるだけで、肺いっぱいに新鮮な空気がはいりこむようである。
特に「村に来た人たち」と題されたエッセイがよかった。
お玉という女乞食を村の子供たちがからかういながら襲撃する場面があるが、まるで、物語を読む気分でわくわくさせられる。
そして、そんな生き生きとした描写のあとで、藤沢さんはこう書く。
「子供のように泣き叫んで走ったお玉を思い出し、思わず涙ぐみそうになる。」「人はなぜ、人をいじめたりするのだろう。そもそも人間とは何者だろう。ペンを休め、私は凝然とそういうことを考え続けるのである」。
まさに、藤沢文学ここにあり、の一篇である。
(2010/06/01 投稿)

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