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プレゼント 書評こぼれ話

  今日紹介するフランス文学、
  フィリップ グランベールさんの『ある秘密』は
  先月の「さいたまブッククラブ」で
  Iさん(♀)が紹介してくれた一冊です。
  「さいたまブッククラブ」では各自が自由に
  読んで気になった一冊を紹介する形式をとっていますが
  当然私の読んでいない本も
  たくさん紹介されることになります。
  できれば、そこで紹介された本の何冊かは
  読んでみたいと思うのですが、
  なかなかそれができなくて。
  今回は、表紙の装丁にまずひかれました。
  狭く暗い石の路地を駆けていく二人の少年と一匹の犬。
  まるで、その向こうに「秘密」があるかのようです。
  なかなかこういう本に出会えることは
  まれです。
  読むきっかけをいただいた、
  「さいたまブッククラブ」のIさんに感謝します。

  じゃあ、読もう。
  

ある秘密 (新潮クレスト・ブックス)ある秘密 (新潮クレスト・ブックス)
(2005/11)
フィリップ グランベール

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sai.wingpen  年老いた父より頭ひとつ分だけ背が高くなる日            矢印 bk1書評ページへ

 ひとりっ子の少年は、自分よりハンサムで、たくましい兄を夢想する。そして、美しい肉体をもった父と母の、完璧な恋愛物語に、それは少年のこしらえたものなのだが、目をうるませる。
 なにもかも理想の家族だったし、少年はそのことに満足をしていた。「子供の時間」が過ぎていく。
 やがて、少年は15歳の誕生日をむかえる。そして、少年は「ある秘密」を知ることになる。

 2004年にフランスで刊行され、その年「高校生の選ぶゴングール賞」を受賞した本作は、作者フィリップ・グランベールの自伝的小説だという。
 作者が生まれたのは1948年、あの戦争の傷はまだ多くの人の心に癒えない時代である。
 悲しみや憎しみ、裏切りや助け合い。時代の坩堝(るつぼ)のなかで、人々は「秘密」をこしらえ、うけいれざるをえない。この物語では、そんな時代の悲しい「秘密」が徐々に明らかにされていく。
 隠された悲劇を戦争のせいにすることはたやすい。しかし、ここに描かれるのは、戦争以上に暗い人間の情感だ。

 父と母の罪深い恋愛と、夢想ではない真実の兄を知ったあと、少年はもう強い兄を恃む弱虫ではない。彼は「秘密」の正体を知ることで、大人への階段を確実に一歩のぼりだす。
 やがて成長し、自分が「年老いた父さんより頭ひとつ分だけ背が高い」ことに気づく。
 この物語は、そんな少年の成長物語だが、「秘密」をかかえもった人たちの悲しみの物語でもある。
 もしかすると、人は「秘密」をあばくことで成長するのではなく、「秘密」を共有することで大人になっていくのだろうか。そんなことを、ふと、考えさせる物語である。

  (2010/06/09 投稿)

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