06/09/2010 ある秘密(フィリップ グランベール):書評「年老いた父より頭ひとつ分だけ背が高くなる日」

今日紹介するフランス文学、
フィリップ グランベールさんの『ある秘密』は
先月の「さいたまブッククラブ」で
Iさん(♀)が紹介してくれた一冊です。
「さいたまブッククラブ」では各自が自由に
読んで気になった一冊を紹介する形式をとっていますが
当然私の読んでいない本も
たくさん紹介されることになります。
できれば、そこで紹介された本の何冊かは
読んでみたいと思うのですが、
なかなかそれができなくて。
今回は、表紙の装丁にまずひかれました。
狭く暗い石の路地を駆けていく二人の少年と一匹の犬。
まるで、その向こうに「秘密」があるかのようです。
なかなかこういう本に出会えることは
まれです。
読むきっかけをいただいた、
「さいたまブッククラブ」のIさんに感謝します。
じゃあ、読もう。
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ひとりっ子の少年は、自分よりハンサムで、たくましい兄を夢想する。そして、美しい肉体をもった父と母の、完璧な恋愛物語に、それは少年のこしらえたものなのだが、目をうるませる。
なにもかも理想の家族だったし、少年はそのことに満足をしていた。「子供の時間」が過ぎていく。
やがて、少年は15歳の誕生日をむかえる。そして、少年は「ある秘密」を知ることになる。
2004年にフランスで刊行され、その年「高校生の選ぶゴングール賞」を受賞した本作は、作者フィリップ・グランベールの自伝的小説だという。
作者が生まれたのは1948年、あの戦争の傷はまだ多くの人の心に癒えない時代である。
悲しみや憎しみ、裏切りや助け合い。時代の坩堝(るつぼ)のなかで、人々は「秘密」をこしらえ、うけいれざるをえない。この物語では、そんな時代の悲しい「秘密」が徐々に明らかにされていく。
隠された悲劇を戦争のせいにすることはたやすい。しかし、ここに描かれるのは、戦争以上に暗い人間の情感だ。
父と母の罪深い恋愛と、夢想ではない真実の兄を知ったあと、少年はもう強い兄を恃む弱虫ではない。彼は「秘密」の正体を知ることで、大人への階段を確実に一歩のぼりだす。
やがて成長し、自分が「年老いた父さんより頭ひとつ分だけ背が高い」ことに気づく。
この物語は、そんな少年の成長物語だが、「秘密」をかかえもった人たちの悲しみの物語でもある。
もしかすると、人は「秘密」をあばくことで成長するのではなく、「秘密」を共有することで大人になっていくのだろうか。そんなことを、ふと、考えさせる物語である。
(2010/06/09 投稿)

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