06/29/2010 書評でふりかえるbk1書店と私 第六回 どのように本を選ぶか

何を読んだらいいのかわからないという人は多い。
そういうときに役に立つのが
書評。
多くのオンライン書店でもレビューの形で
書評や感想を載せています。
もちろん、新聞や雑誌にも書評欄はあって
たくさんの本を紹介しています。

オンライン書店ではどうしても一覧性という点では
リアル書店に勝てないような気がします。
だから、オンライン書店とリアル書店のどちらがいいかというと
多分使い方が違うんだと思います。

単に書かれている内容だけでなく、
手触りとか重さとかが大切な要素だと思うんです。
最近電子書籍のことが色々話題になっていますが、
時代はきっとそちらに方向に進むんでしょうが、
今の本という形態は絶対に残ると思います。

毎年発表される「課題図書」というのがあります。
おそらくあれの議論は諸々あると思いますが、
私はけっこう気に入っています。
今回2006年に書いた書評として紹介する
中山千夏さんの『どんなかんじかな』も
この年の「課題図書」の一冊です。

読書数も減っていますし、
オンライン書店のビーケーワンに投稿した書評も
13本という惨憺たる状況です。
仕事と生活のバランスが崩れてきているのは
自分でもわかっていましたが
どうしようもなかったですね。
少ないなかで、川上弘美さんの作品はけっこうマメに
書いています。

ネタバレの注意をbk1書店の編集部からうけたことがありました。
書評を書くときに絶対してはいけないネタバレですが、
どこまでがネタバレなのか、
難しい判断ですが。
![]() | どんなかんじかなあ (2005/07/01) 中山 千夏 商品詳細を見る |


今年の夏の課題図書の一冊(小学校低学年向き)である。
本のジャンルでいえば絵本にはいるのだろうか。でも、この本の結末は紹介したくない。やはり自分で読んで、主人公のひろくんの気持ちをかんじてもらいたい。
小学校の低学年の子供たちにはすこしどきどきする、物語の終わりかたかもしれないけれど、子供たちには彼らなりのかんじかたがあるだろうから、押し付けでない読ませ方をしたい一冊でもある。
作者は中山千夏さん。現在たくさんの活動をしている女流作家である。この本のような絵本の原作も多く手がけている。
今回の作品は和田誠さんが絵を担当しているが、長新太さんや安西水丸さんといった、従来の絵本作家にはない絵描きさんたちとの競演は読者にとって二重の楽しみでもある。
でも、今の子供たちにとって中山千夏さんはきっととても未知の人でもあるのだと思う。私にとって中山千夏さんは人気番組『ひょっこりひょうたん島』の博士の声を担当した人だ。
私の家人は『じゃりん子チエ』のチエの声優だと言った。少しだけ時間がずれている。
もしかした私より少し年嵩のいった人なら映画『がめつい奴』に出た彼女を知っているかもしれない。つまり、中山千夏さんは多くの世代の記憶に印象を与えた人でもある。そして、子供たちにとっては、とても素晴らしい絵本のぶんを書いた人になったといえる。
この本には障害をもった子供たちが多く描かれている。
障害だけでなく、神戸の大震災で両親を亡くした子供の気持ちも描かれている。
子供の頃に両親を亡くしてしまうというのも、ある意味、心の障害だろう。そのような人たちが普段どのように見たり、聞いたり、感じたりしているのだろうか。
主人公の少年はごくさりげなく彼らのことをかんじている。
主人公の少年がとても素晴らしく思えるのは、そのような想像の翼を持っているからだ。少年はその翼で、目が見えないことや耳が聞こえないことや、両親がいなくなることをかんじようとする。少年は自由だ。少年は誰にでもなれる。
相手の気持ちをかんじることさえできれば、私たちはもっとやさしくなれる。慈しみや労りの気持ちがあふれ出す。
でも、この本の主人公のように私たちは不自由ではない。
最後のページに描かれた主人公の姿を、どうか静かに見て下さい。彼が欲しかったにちがいない、翼のことを考えてみて下さい。でも、彼は誰よりも大きな翼を手にいれたから、こんなにも他人に優しくなれたのでしょう。少年が手に入れた翼。それは、想像力。
最後のページに中山千夏さんはどんな文字も書かなかった。そこには和田誠さんの描いた少年がいるだけ。そして、私たちの翼が少し羽ばたいた、微かな音が聞こえるだけ。
(2006/08/30 投稿)

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