プレゼント 書評こぼれ話

  今日で2月もおしまい。
  いつもの月と二三日短いだけなのに
  とっても短く感じますね。
  ここまでくると
  今年も二ヶ月過ぎたのかと
  時の早さを実感します。
  今日紹介するのは
  昨年逝去された三浦哲郎さんの
  『師・井伏鱒二の思い出』です。
  三浦哲郎さんが亡くなったのは
  猛暑だった昨年8月。
  あれからもう半年になるんですね。
  今日の本は
  三浦哲郎さんが師と仰いだ
  井伏鱒二さんとの思い出を
  綴ったもの。
  二人の文学者のほほえましい交遊が
  いい文章で描かれています。

  じゃあ、読もう。

師・井伏鱒二の思い出師・井伏鱒二の思い出
(2010/12)
三浦 哲郎

商品詳細を見る

sai.wingpen  先生との優雅な時間               矢印 bk1書評ページへ

 脳科学の世界で「ミラー・ニューロン」という言葉を最近よく聞く。他人の行動を見て自分の行動のようにする「共感能力」のことらしいが、楽しい人のそばにいるだけで気持ちが弾むのはこの能力から生まれるらしい。
 昨年逝去された三浦哲郎氏がそれにに気づいていたかはともかく、三浦氏が「先生」と呼ぶ井伏鱒二との関係を本書で読んでいくと、三浦氏と井伏氏との関係にはこの「ミラー・ニューロン」効果が大いに影響していたと思われる。三浦氏にとって、師・井伏鱒二はまさに鏡のような存在だったのだから。
 そのことは本書の解説にあたる文章のなかで、荒川洋治がこう書いている。「人がその人のそばにいること、そこで学びつづけることの意味を、この本からあらためて感じとり、新しい気持ちになることだろう」と。

 本書は「井伏鱒二全集」の月報に十六回にわたり連載されたものをまとめたもので、当然三浦哲郎氏からみた井伏鱒二像には違いないのだが、その一方で作家三浦哲郎誕生の自伝的要素も大きい作品である。
 三浦氏の三作めの習作『遺書について』(のちに『十五歳の周囲』となった作品である)が井伏の目にとまり、昭和三十年六月まだ学生だった三浦氏は荻窪にある井伏の住居を訪ねることになる。そこで井伏は若い三浦氏に「君、今度いいものを書いたね」と賞賛するのだが、その後井伏の庇護のもと、三浦氏は作家としての道を歩みだすことになった。
 もし井伏がいなかったら、三浦哲郎という作家は誕生しなかったかもしれない。あるいは、作家として歩きだしたとしてもその作風はちがったものになった可能性はある。
 そばに井伏鱒二がいたことで、三浦哲郎氏のいささか地味ともいえる格調高い文学が作り出されていったのではないだろうか。

 いま三浦哲郎氏は天国で師・井伏鱒二と師の大好きだった将棋の盤をはさんで心いくまで酒盃を重ねているのではないか。時間はたっぷりとある。
 なんとも羨ましい、優雅な時間だろう。
  
(2011/02/28 投稿)

  芽 「ブログランキング」に参加しています。
     応援よろしくお願いします。
     (↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 今日もクリックありがとうございます)
 
    にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

レビュープラス
プレゼント 書評こぼれ話

  今日紹介する絵本は
  第3回MOE絵本屋さん大賞
  栄えある1位になった
  『うんこ!』です。
  かなり、ズバリですね。
  うんこの思い出っていうのもなんですが、
  みなさんなんらかお持ちじゃないでしょうか。
  日曜にそんな思い出を
  書くのもなんですが、
  昔はよく道にうんこが落ちていて、
  通勤途上なんかで踏んづけて
  嫌な思いをしたことが度々ありました。
  最近は愛犬のお散歩も
  ずっとマナーがよくなったものです。
  この絵本にも描かれていますが
  うんこは畠の肥料としても使われていました。
  畠のなかにその貯め場所があって
  私の田舎では「こえたんご」と呼んでいました。
  その中に落ちたという悲惨な話も
  よく耳にしたものです。
  あ、
  もちろん私ではありませんよ。
  誓って。

  じゃあ、読もう。

うんこ!うんこ!
(2009/12)
サトシン

商品詳細を見る

sai.wingpen  嗚呼、雲古                   矢印 bk1書評ページへ

 全国の書店で児童書を担当している書店員さんのアンケートで選ばれる第三回MOE絵本屋さん大賞の第一位に選ばれたのが、この絵本です。
 きっと表紙の大きなうんこを見て、「かわいい!」と子供たちが喜んで歓声をあげるのではないでしょうか。お母さんは「汚い」と嫌がるかもしれませんが、けっしてそんなことはありません。子供たちの感性を信じて、ページを開きましょう。

 主人公はもちろん、うんこ。わんこのお尻から「すとーん、ぺちゃつ」と生まれました。でも、ねずみにもへびにもうさぎにも「くっさーい」と嫌われます。
 そこで、うんこは一大決心をしてなかまをさがす旅にでるのです。そして、たどりついたのはたくさんの畠がある田舎。そこで、うんこはこやしとなっておいしい野菜を育てることになるという、これは壮大な? 物語なのです。

 うんこといえば、開高健は作品の中でよく「雲古」と書いています。なんとなく雲の形状に似ていなくもありません。空に浮かんだ雲の少し古くなって地上に舞い降りたのがうんこだと、そんなふうに考えられたら、うんこもなかなか捨てたものではありません。
 それに、この絵本にあるように昔はうんこは肥料として大切な役目を担っていたのも事実です。もしかしたら、若いお母さんは知らないかもしれませんが。
 そんなうんこを描いた傑作絵本です。
  
(2011/02/27 投稿)

  芽 「ブログランキング」に参加しています。
     応援よろしくお願いします。
     (↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 今日もクリックありがとうございます)
 
    にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

レビュープラス
プレゼント 書評こぼれ話

  今日紹介するのは
  人気作家石田衣良さんの官能小説
  『夜の桃』。
  石田衣良さんは若い人にも
  人気のある作家ですから
  この手の本も若い人が読むのかな。
  まして文庫本ともなれば
  通学途中でも
  読めるしな。
  「何読んでるの?」「石田衣良」なんていう
  会話だったらいいのでしょうが、
  「何読んでるの?」「官能小説」なんてことになれば
  親御さんだってびっくりするんじゃないかな。
  まあこの程度の官能なら
  許してやって下さい。

  じゃあ、読もう。

夜の桃 (新潮文庫)夜の桃 (新潮文庫)
(2010/12)
石田 衣良

商品詳細を見る

sai.wingpen  桃の大きな種                  矢印 bk1書評ページへ

 男はなんと愚かなんだろう。女はなんとしたたかなんだろう。
 人気作家石田衣良の『夜の桃』は都会的官能小説だ。
 主人公雅人は40代なかばにしてネット広告企業の社長。六本木に会員制のクラブをもち、自宅は青山にある。いつまでも若々しい妻がいながらも、30代の愛人もいる。さらには、20代の若い娘と逢瀬に重ねる。そんな主人公であるが、ちっともうらやましいとは思わないのはどうしてだろう。
 きっと映像化されれば、イケメン俳優が演じるのだろうが、所詮は物語だ。創られた世界だ。どこかが違う。何かが違う。

 世界はいろんなものでできている。だから、きっとこの物語で描かれているような世界もあるだろう。でも、きっとそうではない世界もたくさんある。そのことを理解しておかないといけない。
 もちろん物語ではあるからそういった装飾を捨て去ったところにあるもの、ちょうど桃のなかにある大きな種のような、真実を見落とさないことが大事だ。
 それはたとえば主人公の雅人のいう「なんでも簡単にわかってしまい、誰かに全部解説されてしまう世のなかで、恋愛みたいな謎はない」といったような言葉かもしれない。

 タイトルの『夜の桃』であるが、桃のような形状の女性の身体を現しているのだろうが、そもそも桃は昔から生命を生み出し力を秘めた果実として尊ばれてきた。雅人をとりまく女性たちはまさに桃だといっていい。
  
(2011/02/26 投稿)

  芽 「ブログランキング」に参加しています。
     応援よろしくお願いします。
     (↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 今日もクリックありがとうございます)
 
    にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

レビュープラス
プレゼント 書評こぼれ話

  今日が給料日という人が
  多いのではないでしょうか。
  さて、もらった給与明細どうしてますか。
  まさか会社のゴミ箱に捨てたりしてませんよね。
  昔、会社の引き出しにいっぱい
  給与明細をしまい込んでいる人がいて
  なるほど、
  そんなところにも性格はでるものだと
  変に感心したりしていました。
  今日紹介するのは
  そんな人にはぜひ読んでもらいたい一冊。
  北村庄吾さんの『給与明細で騙されるな』。
  副題に「サラリーマンのための「働くルール」入門」とあるように
  給与明細から労務の問題を読み解く
  そんな一冊です。
  ぜひ、今月の給与明細から
  しっかり読み解いてみてはどうでしょう。

  じゃあ、読もう。
  
給与明細で騙されるな サラリーマンのための「働くルール」入門 (朝日新書)給与明細で騙されるな サラリーマンのための「働くルール」入門 (朝日新書)
(2011/01/13)
北村庄吾

商品詳細を見る

sai.wingpen  次は就業規則を                   矢印 bk1書評ページへ

 律儀に入社以来からの給与明細を保管している。自分の働いた記録としてでもあるが、この明細に記録された金額で生活をしてきて我が家の記録でもある。
 こんな金額でよく生活していたと思うこともあれば、こんなにもらってどこに使ってしまったのだろうと思ってしまう年もある。この時に賞与であれも買ったんだ、子供たちが学校に行きだした頃はこのくらいの給与だったのか。この時には会社の業績厳しかったからな。
 我が家の思い出は給与明細とともにある。

 ただ残念ながら、その内容についてじっくりと見てこなかったというのが実際である。毎月給料日に配られる給与明細の、支給額をちらりと見る程度で、そのまましまわれてきた。そんな人は多いのではないだろうか。
 本書はそんな人のために書かれた一冊。きっと給与明細をじっくりと見たくなるのではないかしらん。
 著者は給与明細は「宝の山」と書いている。給与明細を通じて会社のルールであったり社会の仕組みが見えてくるという。確かに給与明細の控除項目である社会保険料や税金などはついなにげなく見てしまいがちだか、そのことを意識することで社会の成り立ちが垣間見れる。きっと何十年も働いている人であれば、社会の構造の変化にも気がつくはずだ。

 本書を読んだ人にはぜひあなたの会社の就業規則や給与規定を読むことをおすすめする。
  
(2011/02/25 投稿)

  芽 「ブログランキング」に参加しています。
     応援よろしくお願いします。
     (↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 今日もクリックありがとうございます)
 
    にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

レビュープラス
プレゼント 書評こぼれ話

  どうも時間に余裕がなくなると
  季節の移ろいが目にはいらなくなります。
  季節は立春を過ぎ、
  そろそろ梅の香が漂いだす頃なのに
  そのことに疎くなってしまうのが
  自分でも残念でなりません。
  せめて本だけでもと
  手にしたのが今日紹介する
  長谷川櫂さんの『日本人の暦』。
  「今週の歳時記」とあるように
  週ごとに季節を描いています。
  今の季節であれば
  梅、鶯、東風(こち)、野焼く
  などが紹介されています。

   東風吹かば西へ東へ帆掛け舟  長谷川櫂

  なるほど。
  季節はしっかりと移ろって
  もうすぐ、春。

  じゃあ、読もう。


日本人の暦 (筑摩選書)日本人の暦 (筑摩選書)
(2010/12/15)
長谷川 櫂

商品詳細を見る

sai.wingpen  春、遠からじ                  矢印 bk1書評ページへ

 日本語の素晴らしさは「歳時記」につまっています。
 たとえば「惜しむ」といういいかた。本書のなかでもそのことは何度も書かれていますが、「それは人間にとって何かしら「いいもの」である」ということで、春や秋は「惜しまれ」ますが、夏や冬には使いません。もっとも水泳が好きな人やスキー愛好者の人にとっては、夏も冬も惜しまれる季節でしょうが、普通は使わない。
 それと、それが消えていくものであることです。永遠に残るものは「惜しむ」とは言いません。よく「惜しい人を亡くした」といいますが、それも消えいくものとして残念だという思いが込められています。
 そういった日本語の細やかさが「歳時記」から読めるのです。

 本書は俳人の長谷川櫂さんが「週刊日本の歳時記」に連載されていた「今週の歳時記」というエッセイを加筆修正したものをまとめたものです。新たに、長谷川さんの俳句などたくさんの例句が収められていますから、新しい「歳時記」といってもいいでしょう。
 長谷川さんは日本人の季節感について「季節を探る」ことだと書かれています。「まだ暑いうちに秋を探る、寒いうちに春を探る」、そういった探る心が日本人の季節感を生み出したのだとしています。
 また、それに関連するかもしれませんが、日本人が太陽暦だけでなく旧暦や太古暦をいまだに使い分けしていることも、単に暑い寒いだけではなく、季節を探り、季節を待ち、そして惜しむことのあらわれでしょう。

 よく「暦の上では」といいます。立春、立夏、立秋、立冬といった二十四節気に季節の区分けは実際の季節でいえばまだ程遠い日にあたります。だから「暦の上では」ということわりがはいります。しかし、これも「季節をさぐる」という日本人の季節感によく合った言葉の使い方です。
 せめて「歳時記」を読みながら、うしなってはいけない日本語の美しさを再確認したいものです。
  
(2011/02/24 投稿)

  芽 「ブログランキング」に参加しています。
     応援よろしくお願いします。
     (↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 今日もクリックありがとうございます)
 
    にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

レビュープラス
プレゼント 書評こぼれ話

  今日も昨日のつづき。
  お待たせしました。
  川上弘美さんの「東京日記」の最新刊
  『ナマズの幸運。』の登場です。
  このシリーズの魅力は
  なんといっても川上弘美さんの
  文章の魅力なんですが、
  挿絵の門馬則雄さんの
  ほのぼのしたイラストも
  いいのです。
  川上弘美さんの文章にぴったり合っているというか
  文章の魔法を倍増させてくれます。
  このイラストだけ見るのも
  楽しい読み方です。
  川上弘美さんはこの本に書かれている内容について
  「ほんとうのこと」の記述率を
  「十分の九くらい」と書いていますが、
  そうすると「赤いパンツ」の話は
  「ほんとう」の話で
  私としてはいよいよ妄想がつのるわけです。
  「パンティ」と書かずに
  「パンツ」と書いた
  川上弘美さんに脱帽です。

  じゃあ、読もう。
  

東京日記3 ナマズの幸運。東京日記3 ナマズの幸運。
(2011/01/26)
川上 弘美

商品詳細を見る

sai.wingpen  赤いパンツの妄想。                  矢印 bk1書評ページへ

 耳の奥が少し痛い。耳朶の後ろを押してみると違和感が残る。小人が住みついていたらどうしょう。 そんなことをつい思ってしまうのは、川上弘美さんのお馴染みのシュール系ほのぼのエッセイ『東京日記3 ナマズの幸運。』を読んだからだ。違和感を具体的なものに変えてしまう魔術にかかってしまったにちがいない。

 それに、赤いパンツがちらちら過ぎるのにも焦っている。しかも、川上弘美さんが履いている赤いパンツだから、実に困る。頭を振って赤いパンツを追い出そうとするのだが、今度は紫のパンツが現れる。そして、川上弘美さんがにっこり微笑まれる。とても困る。
 赤いパンツの話など川上弘美さんが書くからいけない。でも、この話抜群に面白かった。それに川上さん自身この話を楽しんでいる節があって「あとがき」で「パンツに対する自分のなみなみならぬ熱意」と書いている。さらに更年期との関係も疑っている赤いパンツ問題は、きっとこのあとも続くのではないかと、楽しみにしている。

 そんな多分ささやかな具象でこの世は満ちている。いつもどおりの生活をそんな視点で見渡せば、幸運なのはナマズだけでなく、白菜、大根、洗濯機、靴下にも宿っている。それを見つけることができる人こそ幸運で、さしずめこの本は「読者の幸運。」といっていい。
 ただ一つ欠点があるとしたら、赤いパンツを履いた川上弘美さんが微笑んでいる妄想から逃れられないことだ。
 困った。困った。耳朶の奥で小人が踊る。
  
(2011/02/23 投稿)

  芽 「ブログランキング」に参加しています。
     応援よろしくお願いします。
     (↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 今日もクリックありがとうございます)
 
    にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

レビュープラス
プレゼント 書評こぼれ話

  今日は昨日のつづき。
  川上弘美さんの「東京日記」の
  2巻め、『ほかに踊りを知らない。』。
  今回は2008年の年初めに書いた蔵出し書評ですが
  その書評のなかに
  「経済がどうあれ政治がどうあれ、こんなおめでたい気持ちが、
   『東京日記』の三冊目が上梓されるまで続けば、どんなに幸せだろう」
  と書いてあって、
  今回3巻めの『ナマズの幸運。』がでて
  果たしてずっとおめでたい気分が続いたかを
  振り返ってみましたが、
  そうでもなかったなと
  しょげかえっています。
  ここは川上弘美ワールドにどっぷり
  浸るしかありません。
  明日の「東京日記 3」の書評をお楽しみに。

  じゃあ、読もう。

東京日記2 ほかに踊りを知らない。 (東京日記 (2))東京日記2 ほかに踊りを知らない。 (東京日記 (2))
(2007/11/17)
川上 弘美

商品詳細を見る

sai.wingpen  おめでたい                     矢印 bk1書評ページへ

 年が明けた。なには兎も角、おめでたい。今年は平成になって二十年だという。人間でいえば、成人だ。成人式には晴れ着で着飾り、政治の世界に清き票を投じ、経済社会の未来をつくる。そんな年になったのかと思えば、これほど目出度き年もない。景気が悪かろうが、政治が閉塞しようが、干支は精励勤勉な子(ねずみ)なんだから、くよくよしてても仕方がない。まずはいい年であれと願わずにはいられない。

 今年最初に読んだ本が、川上弘美の『ほかに踊りを知らない。』で、読書好きには、おめでたい話だ。
 先の『卵一個分のお祝い。』もほのぼの系のシュールな作品だったが、今回も同様な雰囲気がいい。書名の最後の「。」がおめでたい感じがでていていい。ほらほらと、人にこすりつけたくなる気分。それが作品全体にあって、人と人との距離感を微妙に演出してくる。川上弘美の技量といえる。相撲技でいえば、「内無双」みたいで、読者がおっとととと転がりこむ姿が、春らしい。手をうち、おめでたいと叫びたくなる。

 趣味の欄に「読書」と書くのは平成二十年ともなればおめでたい話かもしれないが、本を読まない「読書」趣味は戴けない。せめて堂々と私めの趣味は「読書」といえるくらいの本は読みたいものだ。おめでたい年の初めに、青少年のような誓いを立てる中年男はみっともないかもしれないが、そういうおめでたい人間がいてもよい。この本の「あとがき」に川上弘美は「近く幸いが訪れますように」と書いているが、読み終わった今、まさに巫女のご神託のようで、おめでたい、おめでたいと胸震わせている。

 経済がどうあれ政治がどうあれ、こんなおめでたい気持ちが、『東京日記』の三冊目が上梓されるまで続けば、どんなに幸せだろう。おめでたい春の始まりである。
  
(2008/01/22 投稿)

  芽 「ブログランキング」に参加しています。
     応援よろしくお願いします。
     (↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 今日もクリックありがとうございます)
 
    にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

レビュープラス
プレゼント 書評こぼれ話

  本屋さんを歩く楽しみは
  何度も書いてきました。
  そこで好きな作家の新しい本を見つけた時の
  うれしさといったら、
  これほどうれしいことはありません。
  最近見つけたそんな1冊が
  川上弘美さんの『ナマズの幸運。』という本。
  これは川上弘美さんの「東京日記」という
  シリーズの3巻めにあたるもの。
  そこで、今日と明日は1巻2巻の蔵出し書評
  あさって新しい本の紹介します。
  このシリーズのなんともいえない
  不思議な世界をお楽しみ下さい。
  それにしても
  川上弘美さんっていいな。

  じゃあ、読もう。

東京日記 卵一個ぶんのお祝い。東京日記 卵一個ぶんのお祝い。
(2005/09)
川上 弘美

商品詳細を見る

sai.wingpen  風邪に効く(かもしれない)本                  矢印 bk1書評ページへ

 風邪をひいた。こんこん、咳がでた。咳の都度体温がじわっと上がっていくようで、いやだなぁと思っていたら、どーんという感じで風邪にまとわりつかれ、仕事を休んだ。最近疲れていたから、と自身に言い聞かせるようにして布団にくるまっていた。TVもつけず、新聞も開かなかった。川上弘美さんの『卵一個ぶんのお祝い。』があったので、少し読んでは眠り、起きては少し読んだ。読むたびに、風邪の熱が少しずつ剥がれていく感じがした。

 本って一体何だろう。時々考える。情報源だとしたら、風邪で寝込んだ日の私の唯一の情報源が、この『卵一個ぶんのお祝い。』だったことになる。五分の四くらいの本当が書かれた日記みたいなこの本でどのような情報を得たかというと、オクラの気持ちになるにはみどりっぽい気分が必要だとか、母親に「かならずたすけます」という手紙を書く子供がいることとか、どうでもいいことばかりだ。でも、風邪をひいた頭には絶句したり、嘆息するような情報よりも、このどうでもいいようなことがちょうどよかった。

 さらに本って何だろうと考える。本が愉楽だとすれば、蕁麻疹がでるほどの強さもなく、蚊の足のような軽さとまではいかない、この本の愉楽が風邪をひいた頭にはちょうどよかった。待ち合わせの店に行ったら定休日だったので仕方なく道に蝋石で「ばか」と書いて帰った話や寝ても覚めてもめかぶに夢中になる話など、電子体温計でもなく、今流行りの耳式でもなく、手のひらを額にあてて熱を測ってもらっているような感じの愉楽が心地よかった。そんなおおざっぱな気分が川上さんの目線にはある。それが楽しい。

 昔子供だった頃、風邪をひくと、母親が林檎をおろし金で摺ってりんご汁を作ってくれた。それが美味しかった。今なら市販のリンゴジュースがあるから、誰もそんな手間なことはしない。でもできれば大人になった今でもおろし金で摺ったりんご汁が飲みたい。川上さんの本が気持ちいいのは、そんななつかしい感じがするからかもしれないと布団の中で思った。
 そうしたら、少し風邪が治った気持ちがした。
  
(2005/10/16 投稿)

  芽 「ブログランキング」に参加しています。
     応援よろしくお願いします。
     (↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 今日もクリックありがとうございます)
 
    にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

レビュープラス
プレゼント 書評こぼれ話

  今日紹介するのは、
  マージェリィ・W. ビアンコさんという
  英国人が書いた原作に
  酒井駒子さんが絵をつけた絵本です。
  酒井駒子さんの絵は
  いつ見ても素敵です。
  私は大好き。
  今回の書評の中で
  酒井駒子さんのインタビュー記事を
  紹介していますが、
  これは1月26日の朝日新聞の児童書の記事に
  出ていたものから引用しています。
  児童書を探すときには
  新聞もとても参考になります。
  この本はそうして見つけた一冊です。

  じゃあ、読もう。

ビロードのうさぎビロードのうさぎ
(2007/04)
マージェリィ・W. ビアンコ

商品詳細を見る

sai.wingpen  子供部屋の魔法                  矢印 bk1書評ページへ

 この絵本の原作は1922年に書かれたそうです。それからずっと読み継がれてきたわけですね。そんな素敵な原作を酒井駒子さんが絵を描き、抄訳までした絵本がこの一冊です。
 酒井さんは「子どもの頃、ぬいぐるみと遊んだ時間を思い出しながら」描いたといいます。

 物語の主人公はクリスマスプレゼントで男の子のところにやってきたビロードのうさぎ。
 この絵本の素敵なところは、ビロードのうさぎを愛するのが女の子でなく男の子というところ。私たちの生活では男の子がぬいぐるみと遊んでいたら変な子と思われがちですが、この作品に登場する男の子はビロードのうさぎをいつもそばにおいて、とても大切にしています。
 ある日、ビロードのうさぎはおもちゃ仲間からこんなことを教えてもらいます。「ただ あそぶだけではなく、こころから たいせつに だいじにおもわれた おもちゃは ほんとうのものになる」と。
 そして、その言葉とおりに、ぼろぼろになってまで男の子から愛されたビロードのうさぎは本物のうさぎになるという、「子どもべやには ときどき まほうが おこる」そんな素敵なお話なのです。

 酒井さんは「うさぎ」について、「登場人物をウサギにすると、お話が生々しくならないからいい。お話とほどよい距離がとれるように」思うと、あるインタビューに答えていますが、この絵本のうさぎもそうですね。かわいくて、切なくて。
 こんなビロードのうさぎがそばにいたら、うれしくなります。
 当然ビロードのうさぎはぬいぐるみですから、表情は変えないのですが、酒井さんの絵はビロードのうさぎの悲しさや喜びがなんともうまく表現しています。
 こういう絵本、小さい頃に読みたかったな。そして、いつまでに大事にしたかったな。
  
(2011/02/20 投稿)

  芽 「ブログランキング」に参加しています。
     応援よろしくお願いします。
     (↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 今日もクリックありがとうございます)
 
    にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

レビュープラス
 雑誌「サライ」が責任編集の
 CD付きマガジン「落語 昭和の名人完結編」の
 第一巻が出ました。
 しかも、今回は創刊記念特価で490円
 で、またまた衝動的に買ってしまいました。
 わが娘には「お父さん、いつも最初だけだね」と
 冷ややかな目で見られましたが。

落語 昭和の名人完結編(1) 桂枝雀(壱)[雑誌]落語 昭和の名人完結編(1) 桂枝雀(壱)[雑誌]
(2011/02/08)
不明

商品詳細を見る

 なにしろ、この巻は桂枝雀なんですよ。
 これを見過ごさずに(聞き逃さずに)おれるものですか。
 桂枝雀といえば、
 昭和の爆笑王と形容されるくらいの関西落語家の人気者。
 私なんか桂枝雀さんのCDほとんど持っています。
 聞きながら、何度笑い転げたか。
 この人は本当に天才ですね。
 実際にはとても努力の人で
 晩年にはうつ病を患い、59歳という若さで亡くなっています。

 桂枝雀の魅力は話芸だけではありません。
 そのオーバーアクションも人気のひとつ。
 座布団一枚の高座を無尽蔵の世界に変えるこの人の芸は
 本当はCDではなく、映像で見るべきだと思います。
 このマガジンについている冊子に
 桂枝雀のこんな言葉が収められています。

  私はお客さんを笑わせているつもりはありません。
  と言うて、お客さんに笑われているとも思いません。
  私は、お客さんといっしょに笑いたいんです。

 桂枝雀のおかしさは
 そういう真摯なところから生まれているのだと思います。

 今回の巻には
 桂枝雀の「代書」と「親子酒」の二つの演題が
 CDに収められています。
 桂枝雀を知らない人はぜひこの機会に
 聴いてみてはどうでしょう。
 ただし、電車のなかで聴くのは気をつけて。
 途中で噴出して、まわりの人からにらまれないように。

  芽 「ブログランキング」に参加しています。
     応援よろしくお願いします。
     (↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 今日もクリックありがとうございます)
 
    にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
プレゼント 書評こぼれ話

  今日紹介する筒井康隆さんの『漂流』の
  出版記念的な鼎談が
  1月30日の朝日新聞に出ていました。
  鼎談したのは、
  大江健三郎さん、丸谷才一さん、筒井康隆さん。
  この三人の顔合わせ、すごいですよね。
  そこで、大江健三郎さんは筒井康隆さんのことを
  大絶賛されています。
  この鼎談は、これだけでブログの記事にしたいくらいです。
  少しだけ紹介すると、
  丸谷才一さんがこんなことをおっしゃています。

   本というのは、おのずから他の本を読ませる力があるものなんです。
   ある本が孤立してあるのではなく、本の世界の中にあるのだから、
   感動すれば自然に、他の本に手がでる仕組みになっているんだ。

  なるほど。まったく同感です。

  じゃあ、読もう。

漂流 本から本へ漂流 本から本へ
(2011/01/07)
筒井 康隆

商品詳細を見る

sai.wingpen  いい読書人のつくり方                  矢印 bk1書評ページへ

 「筒井康隆のつくり方」と著者である筒井康隆さん自身が書いているように、本書は筒井さんがどのような本を読んで、どう成長してきたかをそれぞれに時代とともに描いた自伝的書評エッセイです。
 初出である朝日新聞日曜書評欄に連載が始まった第一回めが田川水泡の『のらくろ』で、面白い連載が始まったという期待でいっぱいでした。江戸川乱歩の『少年探偵団』、手塚治虫の『ロストワールド』などの続く幼少年期の読書は面白いのですが、年を追うごとに筒井さんの読書の幅が広がって、朝日新聞の連載記事から足が遠のいてしまいました。私の読書傾向が筒井さんの幼少年期程度ということなのでしょう。
 こうしてその連載が一冊にまとまって66冊の本を一望すると、筒井さんの読書はさすがというしかありません。
 「筒井康隆のつくり方」というよりも、「いい読書人のつくり方」といっていいのではないでしょうか。

 新聞の連載が終わったあと、筒井さんはご自身の読書歴を「面白い本を飛び石伝えに読んでいただけ」と話していますが、その本のラインナップをみると、幅の広さと読むことの真剣さはとても真摯で、読書人としても超一流だと思います。特に演劇青年時代である高校生から青年期の読書は、ショーペンハウエル、フロイド、カフカと重厚な作家や作品が並びます。こういう作品をみると、やはり若い頃の読書はその後の人間形成にとっていかに大事かと思われます。
 もちろん、環境もあります。筒井さんの場合は家に文学全集が並び、親戚の家にはもっとたくさんの本がありました。大変恵まれていたといっていい。手にしやすかった。ただ、それに手をのばすかどうかは、やはり筒井さんの志向です。本に手をのばしたそのことは筒井さんの意思です。
 読書とは、面白い本を求めつづける行為なのでしょう。
 まさに書名のとおり、「本から本へ」の「漂流」そのものです。
  
(2011/02/18 投稿)

  芽 「ブログランキング」に参加しています。
     応援よろしくお願いします。
     (↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 今日もクリックありがとうございます)
 
    にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

レビュープラス
プレゼント 書評こぼれ話

  第144回直木賞も芥川賞と同じように
  木内昇さんの『漂砂のうたう』と道尾秀介さんの『月と蟹』の
  ダブル受賞で話題になっています。
  そんななか、
  今日紹介するのは先の第143回直木賞を受賞した
  中島京子さんの『小さいおうち』。
  まあのんびり読書しています。
  だいたいベストセラーを追いかけるタイプでもないので
  時にはこういったように
  ブームが去ってからのんびり読むのも
  嫌いではありません。
  この『小さいおうち』ですが
  評判通り、面白かったですね。
  まだ読んでいない人も
  手にする価値はありますよ。

  じゃあ、読もう。

小さいおうち小さいおうち
(2010/05)
中島 京子

商品詳細を見る

sai.wingpen  作家のたくらみ                  矢印 bk1書評ページへ

 第143回直木賞受賞作。戦前の東京郊外にある中流家庭を舞台にしてとありますが、赤い三角屋根の洋館に住んでいるくらいですから、上流といってもいいのではないでしょうか。そんな家庭の住み込み女中として青春期をおくったタキの回想ノート「心覚えの記」を読む形で物語は進められていきます。
 その構成といい、時代描写といい、最後の仕掛けといい、読ませる作品としては抜群の出来ではないでしょうか。
 それはもちろん作者の中島京子のうまさですが、読者からすれば「心覚えの記」を書いたタキのたくらみのようにも感じます。

 タキは自身の青春の女中時代を「心覚えの記」に書きとめながら、タキの主人であった平井家の奥様時子の人生をもたどることになります。
 不思議なのは、タキは少しずつこ回想記を書きすすめながら、時にそのノートを盗み読む甥の息子である健史の言動を書きとめていることです。タキはあきらかに読者の視点を意識しています。読まれることを意識しながらタキはその文章をつづっていきます。
 タキの「心覚えの記」は個人的な日記ではありません。いずれどこかで発表されることも期待されつつ、彼女はそれを書いているのです。
 しかも、その途中途中で健史という青年の読者がいる。この健史の存在は物語ではとても重要です。実際未完となったタキの回想記の後日談として健史は読者にあっといわせるたくらみを開示してみせます。

 タキが健史という読者を意識しながら書きすすめたように、中島京子はけっしてひとりよがりすることなく、また読者におもねることなく、あきさせません。
 タキが回想記で書いた小さなうそは、読者を意識した作為的なたくらみでしょう。中島京子はタキの回想記にそれをいれることで、作家のささやかな満足を満喫したのではないでしょうか。
 作家のたくらみが実に鮮やかな作品です。
  
(2011/02/17 投稿)

  芽 「ブログランキング」に参加しています。
     応援よろしくお願いします。
     (↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 今日もクリックありがとうございます)
 
    にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

レビュープラス
 昔、そう1970年代の頃、
 カレー粉のCMで南利明という名古屋弁を使う俳優さんが
 CMの最後に「ハヤシもあるデヨ」といって
 人気を集めたことがあります。
 ご存知ですか。
 そのCMではないですが、
 「文藝春秋」3月号は恒例の芥川賞全文掲載
 特別号なんですが、
 そのほかにも「秘めたる恋」もあるデヨ、なんです。
 今回の「雑誌を歩く」は、そんな「文藝春秋」3月号を
 紹介します。

文藝春秋 2011年 03月号 [雑誌]文藝春秋 2011年 03月号 [雑誌]
(2011/02/10)
不明

商品詳細を見る

 もちろん3月号の目玉は
 芥川賞受賞作の全文掲載で、
 しかも今回の芥川賞は「美女と野獣」といわれた
 朝吹真理子さんの『きことわ』と西村賢太さんの『苦役列車』の
 W受賞ということはこのブログでも何度か書きました。
 その二作品がともに全文読めるのですから
 ありがたいものです。
 しかも選考委員の選評付きですから、
 この号は絶対お買い得。
 いずれまたそれぞれの作品のことは書きたいと思います。

 で、もうひとつの特集が
 「秘めたる恋35」です。
 リード文を引用しますね。

   男と女の愛にはさまざまな形が
   「触れもせで」別れる純愛、最後までかなわぬ片思い、
   憧れの人との一瞬の出会い、そして道ならぬ恋・・・
  
 なんか婦人雑誌の特集みたいですが。
 まあ、最初の恋の紹介が「田中角栄」元総理と「越山会の女王」佐藤昭子さんの
 実娘と立花隆さんとの対談というのが、
 いかにも文藝春秋らしいといえばいえますね。
 そのほかにも、向田邦子さんとかミヤコ蝶々さんとかの
 「秘めたる恋」が35本紹介されています。
 みなさん、実におとなですよね。

 今号にはそのほか
 昨年の暮れ亡くなった高峰秀子さんの追悼対談とか
 小沢一郎関連記事、JAL問題では現会長の稲盛和夫さんの対談とか
 相変わらずこんなにたくさんの記事、
 一ヶ月では読めないなと感心しまくりです。
 今や国民的アイドルともいえるファイターズの斎藤祐樹くんの

    斎藤祐樹が私の胸で号泣した日

 なんていう記事もたまりませんね。
 つまり、南利明風にいえば
 あれもあるデヨ、これもあるデヨ、なんてことになっています。
 最後に書きくわえておくと、
 今号から連載の始まった「時代を創った女」の第一回めは
 松任谷由美さん。
 題して、「ユーミンと自立する女性の世紀」。
 まさに「ユーミンもあるデヨ」。

  芽 「ブログランキング」に参加しています。
     応援よろしくお願いします。
     (↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 今日もクリックありがとうございます)
 
    にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
プレゼント 書評こぼれ話

  先日誕生日を迎えて
  56歳になりました。
  男の顔は履歴書、なんて
  昔はいったものですが
  はたして自分の顔にどんな履歴書が
  刻まれているのか。
  どうもよくわかりません。
  まだまだ悩み多き年令です。
  今日紹介する亀山早苗さんの『渇望』は
  雑誌「婦人公論」に連載されていたものですが
  更年期を向かえつつある
  女性たちの心のなかにある不安が
  クローズアップされています。
  私は男性だから
  この本で紹介されている女性たちの
  一体どれだけ理解できたかはわかりません。
  でも、こういう本は
  女性だけが読むのではなく
  男性にも読んでもらいたいと
  思います。

  じゃあ、読もう。

渇望―性、更年期、そして孤独感渇望―性、更年期、そして孤独感
(2010/11)
亀山 早苗

商品詳細を見る

sai.wingpen  年を重ねると増えるもの                  矢印 bk1書評ページへ

 年を重ねると増えるもの、それはシワと白髪と、秘め事かもしれない。
 本書は更年期といわれる40代から50代の26人の女性たちの性や恋愛、そしてその果てにあるものを聞き書きしてにまとめたものである。
 著者の亀山早苗さんも同年代(1960年生まれ)だ。亀山さんはその年代の不安を「身体の決定的な不調はまだない」としながらも、鏡とむきあえば「女としての終焉」を迎えつつある現実に心は萎えると書いている。
 「何を失い何を得て、人生の終わりへと向かっているのか」といった思いは女性だけのものではない。それは男性にもある。ただやはりどこかでその不安の質はちがう。うまくいえないのだが。

 男がいて女がいる。さまざまな恋があり、さまざまな愛の営みがある。それはどれも一様ではない。本書を読みながら、いまさらのように思う。
 人に個性があるように、生き方にも当然個性がある。自身の生き方が特別なのかと悩むことはない。なぜなら、それが個性だからだ。なのに、どうして人は特別なことに不安を抱くのだろうか。それこそがまさに「自分自身」のはずなのに。
 26人の女性たちの真剣な孤独感に接してみると、それこそがあなたの個性ではないかと励ましたくなる。そして、それは誰にでもない素晴らしい人生ではないかと。
 それもまた、男性の読者の意見でしかないのだろうか。

 きっと本書を手にするのは圧倒的に女性だろう。しかし、こういう本こそ男性が読んでみるべきだろう。彼女たちの孤独を癒すのは、それを理解しようとするものだからだ。
 年を重ねると増えるもの、それが「幸福」であればどんなにいいだろう。
  
(2011/02/15 投稿)

  芽 「ブログランキング」に参加しています。
     応援よろしくお願いします。
     (↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 今日もクリックありがとうございます)
 
    にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

レビュープラス
プレゼント 書評こぼれ話

  今日はバレンタイン。
  あなたの思いがチョコに込められて
  届けばいいですね。
  今日紹介するのは
  そんな日にぴったりの恋愛エッセイです。
  この本『もしもし、運命の人ですか。』は
  以前紹介した長友啓典さんの『装丁問答』で
  紹介されていて、
  読んでみようと思った一冊です。
  私自身はこの黄色のデザイン文字の
  装丁はあまりいいとは
  感じないのですが。
  穂村弘さんのエッセイは
  面白かったですね。
  できるだけ書評も
  穂村弘さんの文章のように
  おしゃれに書けたらいいなと
  がんばってみましたが、
  はたしてどうかな。
  ところで、
  皆さんには「運命の人」っています?

  じゃあ、読もう。

もしもし、運命の人ですか。 (ダ・ヴィンチ・ブックス)もしもし、運命の人ですか。 (ダ・ヴィンチ・ブックス)
(2007/03)
穂村 弘

商品詳細を見る

sai.wingpen  穂村弘さん以上? 以下?                 矢印 bk1書評ページへ

 歌人穂村弘さんの「恋愛エッセイ」です。
 このエッセイには、穂村さんご自身の恋愛体験やまわりの人々の恋愛風景が小気味いいタッチで描かれています。読者自身が「なるほど」と感じるか、はたまた「???」と首をひねるか、それはその人の恋愛体験に因るのではないかな。
 あなたは穂村さん以上? それとも穂村さん以下?

 穂村さんはかつて女性からこんなことを云われたことがあるそうです。
 「誰もことも、一番好きな相手のことも、自分自身に較べれば十分の一も好きじゃないよね、あなたは」って。
 この文章を目にした時、びっくりしました。同じようなことを云われたことがあったからです。この文章がおさめられているのは「恋と自己愛」。このような言葉って結構使われたりするということは、自己愛に陥る男性も多いのでしょうね。
 そう云われて穂村さんがどう答えたのかは書かれていませんが、そういうさりげない日常のなかで恋愛とか自分自身とかを見つめることはたくさんあるのだと思います。

 書名にある「運命の人」が本当にいるのかどうかはわかりませんが、少なくともそういう存在を信じていたいものです。それは、いくつになっても、と急いで書き足しておきます。
  
(2011/02/14 投稿)

  芽 「ブログランキング」に参加しています。
     応援よろしくお願いします。
     (↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 今日もクリックありがとうございます)
 
    にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

レビュープラス
プレゼント 書評こぼれ話

  今日紹介するのは
  このブログでも何回か登場した
  長谷川義史さんの『だじゃれ日本一周』という絵本。
  書評にも書きましたが、
  第3回MOE絵本大賞(2010年)の第3位と
  なった作品です。
  いつもながら長谷川義史さんの絵には
  感心します。
  なんともいえずパワーがあって、
  その力で全国の都道府県の名物を
  紹介しまくっています。
  長谷川義史さんの力は
  関西人のおせっかいからきているのかも。
  なんてつい思ってしまうほど
  いやあまったく、まいりましたの
  一冊です。

  じゃあ、読もう。

だじゃれ日本一周だじゃれ日本一周
(2009/12)
長谷川 義史

商品詳細を見る

sai.wingpen  みんなのふるさと見本市(日本一)                矢印 bk1書評ページへ

 第3回MOE絵本大賞、第3位受賞作です。この賞は全国1000人の書店の児童書売り場の皆さんのアンケートから選出されるもので、長谷川義史さんのこの絵本を選んだ書店員さんはきっと自分の住む町のだじゃれに笑いこけたのではないでしょうか。
 この絵本はもうハチャメチャなだじゃれ満載なのです。全国47都道府県をだじゃれで紹介しているのですが、この絵本の面白さはそんなだじゃれだけでなく、長谷川義史さんのパワー全開の絵にあります。なにしろ、1ページのなかにその都道府県の名物を押し込んでしまっているのですから。
 例えば、大阪府。だじゃれは「たこやきたべて おーしゃかぷー(大阪府)」(なんのこっちゃ)とありますが、まず中央にお釈迦さまがたこ焼きを手にしておならをしています。まわりには道頓堀のグリコあったり、通天閣があったり、「なんでやねん」とつぶやく人がいたり、おまけに吉本新喜劇のこってん転びまであります。まさに大阪のてんこ盛りです。
 こんなてんこ盛りが47都道府県すべてにあります。だから、笑いながら社会勉強ができる(ほんまかいな)仕掛けになっています。長谷川さんの絵だから実現した面白さといっていいでしょう。
 こういう絵本は一人では読むのではなく、みんなで読むのが楽しいでしょうね。
 まさに、みんなのふるさと見本市(日本一)(これ、だじゃれです)の絵本です。
  
(2011/02/13 投稿)

  芽 「ブログランキング」に参加しています。
     応援よろしくお願いします。
     (↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 今日もクリックありがとうございます)
 
    にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

レビュープラス
プレゼント 書評こぼれ話

  今日は菜の花忌
  作家の司馬遼太郎さんの忌日です。
  文人たちの忌日は季語としても
  使われるのですが、
  菜の花忌もとてもいい季語に
  なると思うのですが。
  今日紹介するのは蔵出し書評ですが
  著者の福田みどりさんは
  もちろん
  司馬遼太郎さんの奥さんです。
  このご夫婦はとても仲のいい関係で
  司馬遼太郎さんがあんなにいい仕事ができたのも
  福田みどりさんという奥さんが
  いたからかもしれません。

   菜の花忌時には感謝妻のこと  夏の雨

  じゃあ、読もう。 

司馬さんは夢の中司馬さんは夢の中
(2004/10)
福田 みどり

商品詳細を見る

sai.wingpen  交々(こもごも)と                 矢印 bk1書評ページへ

 司馬遼太郎が亡くなって九年が経つ。その死後も作品やエッセイ、講演録といった著作が数多く出版され、そういう点でも司馬さんがいかに稀有な作家であるかがわかる。また友人知人による作品論や挿話の類の発表も陸続と後を絶たず、司馬さんの世界の広さを実感する。その中でも本書は司馬さんに最も近いところにいた夫人が描いた回想録であり、多分これまで出版されてきた多くの司馬遼太郎読本とは一線を画した内容に仕上がっている。言い換えれば、司馬さんの本名である福田定一氏の素顔が垣間見れる回想録である。

 司馬さんとみどり夫人は新聞社で席を並べていた同僚である。やがて、二人はトモダチからコイビトの関係になり(この本の中の「遠出しようか」という章ではコイビトとなった二人が夜の奈良の街をデートする初々しい挿話が語られている)、昭和三十四年一月、小さなホテルで写真もない「小さい小さい宴」だけの結婚式をあげる。いわゆる社内結婚だった。その後の新婚時代の司馬さんや「風邪恐怖症」だった司馬さんなど、国民的作家と呼ばれた司馬遼太郎にも当然そういった私たちと同じ生活があったことを知る。当たり前すぎることではあるが。

 司馬遼太郎にはいくつかの顔がある。歴史小説家としての顔、思索家としての顔、旅行家としての顔、そして詩人としての顔。特に司馬サンには詩人としての香りが色濃い。『街道をゆく』シリーズや『草原の記』に限らず、時に司馬さんの作品には過剰ともいえる詩的な表現がのぞく時がある。本書の中で夫人が描く生活の中の司馬さんも時に夢の中で生きているかのような横顔をみせる。そういうことでいえば、司馬さんはずっと夢を見続けた、少年みたいな人だったのかもしれない。

 夫人はそんな司馬さんをこう表現して本書を締めくくっている。「少年のような表情だった。意思とかかわりなく感情が、ごく自然に吹きこぼれてしまったような邪気のない表情だった。なんともいえない甘い雰囲気が漂っていた」(262頁)その表情が司馬さんがいなくなってから後も夫人の胸にしばしば去来するのだという。切なくて、深い、夫婦の姿である。

 交々(こもごも)と 思ひ出尽きぬ 菜の花忌 (夏の雨)
  
(2005/02/27 投稿)

  芽 「ブログランキング」に参加しています。
     応援よろしくお願いします。
     (↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 今日もクリックありがとうございます)
 
    にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

レビュープラス
プレゼント 書評こぼれ話

  今日は建国記念日
  お休みという人も多いでしょうね。
  こんな日は図書館にでかけてみるのもいかが。
  残念ながら、私は仕事なので
  図書館は日曜までお預け。
  ということで、気分だけでもと
  今日は『本と図書館の歴史』という本を
  紹介します。
  児童書ですが、本のなりたちとか
  図書館の歴史が
  おもに世界の話が中心ですが、
  学べる一冊です。
  私は毎週必ず図書館にでかけます。
  よく利用するのは浦和にある
  さいたま中央図書館
  ここの図書館は係りの人のサービスもいいですし、
  スペースも広いし、
  大好きです。
  こんな風に書いていると
  行きたくなってしまいます。

  じゃあ、読もう。


本と図書館の歴史-ラクダの移動図書館から電子書籍までー本と図書館の歴史-ラクダの移動図書館から電子書籍までー
(2010/12/17)
モーリーン・サワ

商品詳細を見る

sai.wingpen  図書館は夢の空間                  矢印 bk1書評ページへ

 図書館が好きです。
 学校のそばに住んだ方がいいという孟母三遷の教えではありませんが、図書館のそばに住みたいといささか真面目に家を探したこともあります。いくばくかの男の書斎にこだわるよりも、図書館がそばにあればもうそこは広大な書斎。大量の本に囲まれて毎日にたりと暮せる、なんとも優雅な生活をおくれることか。
 そんな夢は実現はしませんでしたが、現在の住居は歩いていける距離に二つの図書館があります。ゲタ履きでというわけにはいきませんが、そこそこには快適といっていい環境にあります。
 それに最近の図書館はサービスも充実していますから、家にいながら蔵書を調べたり貸出予約もできますし、日曜祝日も開館していますし、夜も遅いところでは仕事帰りに利用できたりもします。そばに住むどころか、もう館内に住みたいくらいです。

 この本は児童書ながら、過去から現在そして未来にむけた図書館の歴史がカナダの図書館司書であるモーリーン・サワによって丁寧に描かれています。
 著者は図書館の目的を「人びとが未来へ向かって進むとき、これまで歩んできた道について情報を提供すること」だと書いています。人類の長い歴史はいろんな知識を生んできました。それが広く活用されたという点では印刷という発明は画期的だったし、本という媒体になり、それを所蔵する図書館がなければ私たちは知恵を共有できなかったかもしれません。
 鉄鋼王だったカーネギーの言葉に「図書館は世界の知的財産の扉」というのがあるそうですが、自身若い頃に図書館に通って多くの知識を学んだといいます。また彼の素晴らしいところは大富豪になってのち、世界中に図書館を建設したことです。そういう広がりが知恵の伝播となっていきます。

 本から電子書籍へと叫ばれる時代になって、図書館もまた進化していくにちがいありません。それはきっと私たちの想像をはるかに越えるものになるでしょう。
 しかし、遠い砂漠の道をラクダたちが本を運んだように、本を読みたい、知識を得たいという人びとがいるかぎり、図書館はありつづけます。著者も書いているように、図書館こそ「今日生きている人びとを、過去や未来の人びととつないで」くれる、夢の空間だからです。
  
(2011/02/11 投稿)

  芽 「ブログランキング」に参加しています。
     応援よろしくお願いします。
     (↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 今日もクリックありがとうございます)
 
    にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

レビュープラス
プレゼント 書評こぼれ話

  字が上手くないので、
  ワープロが発売された時はうれしかったですね。
  まだ画面に一行程度しか表示されない機種の
  時代に購入したことがありますから
  相当な手書き嫌いといっていいです。
  小学生の頃に
  「あなたの字は幽霊のしっぽみたい」と
  言われたのがトラウマになったのかも。
  ただ言われた本人、私ですが
  「幽霊のしっぽ」ってうまいこと言うなと
  感心したりしているのですが。
  今日の本は
  開高健の直筆原稿版の『夏の闇』。
  開高健の文字って大好きです。
  なんとも人をひきつけてやまない文字。
  これぞ、開高健です。
  この本のはじめに
  開高健の揮毫があります。

   入ってきて 人生と叫び
   出ていって 死と叫ぶ

  まいりました。

  じゃあ、読もう。

夏の闇―直筆原稿縮刷版夏の闇―直筆原稿縮刷版
(2010/05)
開高 健

商品詳細を見る

sai.wingpen  文字のむこうで作家が微笑む                 矢印 bk1書評ページへ

 友人にじつに丁寧に文字を書く男がいます。そばで見ているとそのゆっくりとした筆の運びに苛々するのですが、蚯蚓(みみず)が這ったような我が文字と較べると、この男の気性の真面目さに思い至るのです。
 字はその人の性格をよくあらわすものなのでしょう。だとしたら、我が蚯蚓(みみず)文字ははたしてどんな気質のあらわれなのか。

 開高健の名作『夏の闇』を作者の自筆原稿(生原稿を51%に縮小して本作品は組まれています)で読めるなんてことは考えたこともありませんでした。ただこうして実際にほとんど修正もされていない完璧な原稿を読むと、開高健という作家がもっていた本質を感じとれるような気がなります。
 この本の巻末に付された「開高健記念会会長」の坂本忠雄氏の解説から引用すれば、開高の直筆は「字の姿に人懐っこい円やかさと繊細さが兼ねそなわっていて、その字の連なりから独特の快感が伝わって」きます。
 文字のむこうで、開高のぽっちゃりとした笑顔が浮かんでくるかのようです。それはまるでいたずらを見つけられた子供のようであって、「気取りのなさ、伸びやかさとともにユーモアが漂って」いる字体と共鳴します。

 ただこの小説はそんな字体をみごとに裏切っています。贅肉をそぎおとした文体といっていいでしょう。
 この作品に初めて触れた若い頃、この作品が映画化されるのであれば、この物語に登場する男女は日本人の俳優が演じない方が似合うだろう、と思ったことがあります。それほどに、冷ややかで知的で繊細な作品だという印象をもったものです。

 作家というのは常に前を向いて歩く職業です。それはもしかすると己の自筆原稿を振り返ることの気恥ずかしさからくるのではないか。開高健の自筆原稿を見て、そう感じました。
  
(2011/02/10 投稿)

  芽 「ブログランキング」に参加しています。
     応援よろしくお願いします。
     (↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 今日もクリックありがとうございます)
 
    にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

レビュープラス
プレゼント 書評こぼれ話

  今日は文豪夏目漱石の誕生日。
  そこで、本にちなんだ一冊を、
  しかも水曜なので、それにもかけて
  『水曜日の本屋さん』という絵本を
  紹介します。
  今日の書評にも書きましたが、
  本というのは贈り物として
  最適だと思いませんか。
  私も何度か本を贈ったことはあります。
  もちろん頂いたこともありますが
  最近誕生日だといって
  何かもらいたいものもありませんので
  本をねだることも
  よくあります。
  あ、そうそう。
  今日は私の誕生日でした。
  誰か私にプレゼントくれるのかな。

  じゃあ、読もう。

水曜日の本屋さん水曜日の本屋さん
(2009/11)
シルヴィ ネーマン

商品詳細を見る

sai.wingpen  プレゼント                     矢印 bk1書評ページへ

 初めて本を贈り物としてもらったのはいつだったろうか。どんな本だったろうか。
 そのことはすっかり忘れていますが、本は贈り物によく似合います。その手触り、その重さ。そして、本に込めて想い。
 誕生日の贈り物。クリスマスの贈り物。恋の告白。別れの合図。新しい一歩。
 相手を想う心を伝えるのに、本ほど素敵な贈り物はないかもしれません。

 水曜日は学校がお休みだから、少女はきまって本屋さんにでかけます。そして、いつも一人のおじいさんに出会います。この絵本はそんなささやかな光景から始まります。
 少女が読むのは絵本。おじいさんが読むのは分厚い、それは戦争の本です。おじいさんは時々その本を読みながら、泣いていることに少女は気づきます。でも、その理由はわかりません。
 「この本が、まだしばらく売れずにいてほしいね」とおじいさんはいつもいい残して本屋さんから帰っていきます。でも、クリスマスまであと三日という日、おじいさんの本はなくなっていました・・・。

 おじいさんの本がどうなったかは書きませんが、やさしい本屋さんのおねえさんの粋なはからいは本が贈り物として最適なことに気づかせてくれます。「なんだか。世界中がほほえんだような気」に、それはしてくれます。
 この絵本にはじめにつけられた言葉のように、私も「絵本を読む年ごろは、とっくにすぎてしまったけれど」、絵本はいいなと思います。
 赤いリボンをつけてプレゼントしたくなるような、そしてにっこりほほえんだ顔がみたくなる一冊です。
  
(2011/02/09 投稿)

  芽 「ブログランキング」に参加しています。
     応援よろしくお願いします。
     (↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 今日もクリックありがとうございます)
 
    にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

レビュープラス
 第144回芥川賞
 朝吹真理子さんの『きことわ』と西村賢太さんの『苦役列車』の
 W受賞で何かと話題になっていますが、
 両作品とも単行本になって
 本屋さんの店頭についに並びましたね。
 さっそく読まないと。

 そう思っていたら、面白い記事を見つけました。
 昨日(2.7)の日本経済新聞朝刊の「クイックサーベイ」という欄。

   芥川賞作品を「読んでいる」35%

 これは20歳以上の男女1030人に聞いたもので、
 質問は「発表を受けて芥川賞受賞作品を読む?」というもの。

   活字離れのなかでも芥川賞の関心は高く、
    調査でも「毎回読む」「時々、読む」を合わせて35%にのぼる

 と、記事のなかにもあります。
 芥川賞記事
 私はどうかというと、基本的には「毎回読む」です。
 その理由は、「文学賞の受賞作品は読みたい」に分類していいですね。
 かれこれ30年以上はずっと気にしている賞です。
 だから、やっぱり読みますね。
 ちなみにそう回答した人は、第3位で、
 1位は「書評や宣伝で興味がわく」でした。
 2位は「小説が好きだから」だそうです。

 反対に「読まない」人の理由の1位は
 「文学賞に関心がない」で、
 興味あるところでは「純文学に関心がない」が
 「読まない」理由の3位になっていました。
 「純文学」なんて、
 けっこう懐かしい言葉ですよね。
 また、「読む小説を探す方法は?」という質問では
 「本屋の店頭で探す」が1位。
 本屋さん、しっかりがんばらないと。
 芥川賞や直木賞受賞作だけで、
 読者はあまり踊らないですよ。
 要は、しっかり宣伝して読者に印象をうけつけることが
 売上げにつながるのです。

 さて、みなさんは芥川賞作品を読みますか。

  芽 「ブログランキング」に参加しています。
     応援よろしくお願いします。
     (↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 今日もクリックありがとうございます)
 
    にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
プレゼント 書評こぼれ話

  今日紹介するのは
  坪内稔典さんの『正岡子規 言葉と生きる』という
  岩波新書の一冊です。
  坪内稔典さんは大の子規ファンで
  何冊か正岡子規についての著作があります。
  このブログでも紹介していますので
  興味のある方は検索してみて下さい。
  坪内稔典さんがどれぐらいファンかというと
  正岡子規があんパンが好物と知り、
  坪内さん自身毎朝あんパンを
  食べるのだそうです。
  それももう30年以上続けているそうですから
  お見事なものです。
  坪内稔典さんの正岡子規への愛情あふれた
  一冊がこの本といっていいと思います。

  じゃあ、読もう。

正岡子規 言葉と生きる (岩波新書)正岡子規 言葉と生きる (岩波新書)
(2010/12/18)
坪内 稔典

商品詳細を見る

sai.wingpen  横丁で遊ぶ子供のように                     矢印 bk1書評ページへ

 司馬遼太郎さんは正岡子規の文章について「呼吸の温かみのあるふだんの声で、しかもただの世事や、ほのかな心境が語られている」と、「言語についての感想」というエッセイのなかに書いています。
 その文章にはつづきがあって、「子規は、横丁で遊ぶ子供のように、仲間をあつめてその共有化のためにささやかな文章改革運動をさえおこした」と記しています。
 こうして私たちが日常何気なくなく使っている文章の端は正岡子規という、わずか34年の短い人生であった、明治人によって生み出されたともいえるのです。

 坪内稔典さんのこの本は「言葉と共に生きた」正岡子規の生涯を言葉という点に焦点をあてたものです。
 子規の短い人生ながら、「少年時代」「学生時代」「記者時代」「病床時代」「仰臥時代」と分け、それぞれの子規の思いを時々の文章とともに写し取っていく方法がとられています。
 少年時代の子規は弱虫で、凧をあげたことさえなかったといいます。それほどの弱虫は大抵苛められるものですが、子規は「言葉による表現活動」で多くの仲間を集めます。そのことは、子規の生涯続きました。
 このエピソードは、漫画の神様といわれた手塚治虫を想起させます。手塚もまた少年時代弱虫でした。しかし、子規と同じように手塚も「漫画による表現活動」で人気者となります。
 言葉であれ漫画であれ、表現することで少年たちの空想の世界を大きく開いたにちがいありません。

 坪内さんは子規の最後の場面に注目しています。それは子規の弟分であった碧梧桐と虚子が書きとめた、子規の母親の言葉です。
 死んでいった子規の骸に「サア、も一遍痛いというてお見」という「母の言葉が最後の最後に子規の言葉と響き合った」と書いています。坪内さんの感傷に近い文章ながら、子規がめざした文章改革がここに極まったと思わせるいい文章です。
 正岡子規は「言葉と関わることで」育ち、そして病床にあって「書くことでその状況を離れて」いきます。そういう生き方そのものが、正岡子規という明治の人をいつまでも愛してやまない人にしているのではないかと思います。
  
(2011/02/07 投稿)

  芽 「ブログランキング」に参加しています。
     応援よろしくお願いします。
     (↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 今日もクリックありがとうございます)
 
    にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

レビュープラス
プレゼント 書評こぼれ話

  今日紹介するのは、
  ダグラス ウッドという人が書いた
  『よめたよ、リトル先生』という
  アメリカの絵本です。
  こういう作品を読むと、
  絵本というのは実に幅広いものだと
  思います。
  絵本にしては
  渋めの絵柄(絵はジム・パーク)ですが、
  それもまたこの物語に
  ぴたっとあっていて、
  ああいい絵だなと感心することも
  ありました。
  最近絵本ばかりを褒めてばかりですが、
  ぜひ読んでもらいたい一冊です。

  じゃあ、読もう。

よめたよ、リトル先生よめたよ、リトル先生
(2010/07/02)
ダグラス ウッド

商品詳細を見る

sai.wingpen  本で開かれた扉                   矢印 bk1書評ページへ

 この絵本の著者ダクラス・ウッドは、「著者あとがき」によると「子どものころからADHD(注意欠陥多動性障害)」だったそうです。AHDHというのは「すぐに気が散り、忘れっぽく、ものごとに集中するのも苦手」、そんな症状だと著者は書いています。
 落ち着きがない、勉強ができない、と親はよく子どものことで悩みます。そのことがもしある名前をもつ病気であったら、単に嘆くだけでなく、理解することができます。理解すれば、解決する道筋をたどろうとします。
 それは、名前をもつ病気だけではないでしょう。名前などなくてもいい、その子のことを理解しようとすることが大切なことだと思います。

 この絵本の主人公は小学2年のダグラス少年。クラスでいちばん年下で、チビ。しかも、字も読めません。そんなダグラスにリトル先生は本を読むことを教えます。叱るのでもなく、ただ黙って、本を読むダグラスのそばにいるだけです。
 ダグラス少年が読もうとしていたのは『リトル島』という本。少年が過ごしてきた日々とその本に書かれていた内容が似ていることで、ダグラス少年は一生懸命読むことを続けます。
 リトル先生がAHDHのことを知っていたとは思えません。ただ、先生はダグラス少年のことを理解していたのだと思います。その理解とは、少年が興味をもつまでゆっくりと待つということです。
 そして、ダグラス少年はついに一人で本を読み終えます。

 「字をよむことがどれだけたのしいかをしった。だって本をよめば、世界中をたんけんすることができるのだから! 本って、どれもぜんぶすごい」と、ダグラス少年を思います。(このページの、リトル先生を描いた絵がとてもいいのです)
 障害をもった少年を支えたのはリトル先生という、理解のあるおとなでした。そして、まさに本そのものが少年の心をおおきく開けたといえるでしょう。
 「よめたよ」というダグラス少年の喜びを共有できる、感動の一冊です。
  
(2011/02/06 投稿)

  芽 「ブログランキング」に参加しています。
     応援よろしくお願いします。
     (↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 今日もクリックありがとうございます)
 
    にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

レビュープラス
プレゼント 書評こぼれ話

  今日紹介するのは
  池田晶子さんの『残酷人生論』。
  池田晶子さんといえば、
  「哲学エッセイ」を書いた人ですが、
  このブログでも池田晶子さんの作品は
  かなり紹介しています。
  興味のある人は、
  ぜひ検索してみて下さい。
  今回の書評にも書きましたが、
  池田晶子さんを何故好んで読むか、
  そのことを考えるのも
  私にとっては「哲学」なのかもしれません。
  常に何故と考える。
  そのことで私というものと
  向き合えるのではないでしょうか。
  
  じゃあ、考えよう。

残酷人生論残酷人生論
(2010/11/13)
池田 晶子

商品詳細を見る

sai.wingpen  ネジを巻く                     矢印 bk1書評ページへ

 池田晶子さんの「哲学エッセイ」が好きです。書かれている内容はほとんど理解できないというのが正直な感想なのですが、つい読みたくなります。
 何故かといえば、読んでいるあいだ中、自分の頭のなかのバネが少しずつ巻かれていく、そんな感じがいいのです。
 これは想像ですが、頭のなかには「思考」というゼンマイ状のバネがあって、日々の雑多の暮らしのなかでそれはすこしずつほどけていくみたいなことがあります。
 柱時計のゼンマイを巻くのが子供の頃のお手伝いにありましたが、バネが巻かれていく音といい、しっかりと締まっていく感触といい、なんだか柱時計を生き返らせていく、少しうれしくなるお手伝いでした。
 池田晶子さんの「哲学エッセイ」を読むのは、そんなバネを巻くことと似ているように思います。

 この作品は1998年に出版された同名の一冊を増補新版として出されたものです。収録されているのは、「言葉と対話」であったり「知識と情報」であったり「私という謎」であったり、もちろん「死とは何か」ということなど、哲学的な文章ですが、そのことのすべてをわかることは必要ではないのではないでしょうか。
 大事なのは、池田さんがいうように「ひとりで、ひとりきりで、己れの全存在によって全・存在を問い詰め」ることです。
 池田晶子さんはそのことを教えてくれた人でした。

 深夜、ひとりだけで池田さんの本を読んでいると、ギリリギリリと、頭のなかのネジがしまっていきます。その感じが、私はたまらなく気にいっています。
  
(2011/02/05 投稿)

  芽 「ブログランキング」に参加しています。
     応援よろしくお願いします。
     (↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 今日もクリックありがとうございます)
 
    にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

レビュープラス
プレゼント 書評こぼれ話

  今日は立春
  暦のうえでは春。

   立春や娘の膝まるき夜の畳  畠山譲二

  でも、実際にはまだまだ寒さが残ります。
  皆さんも風邪などひかないように
  してください。
  今日紹介するのは
  昨年亡くなった井上ひさしさんの
  『この人から受け継ぐもの』という
  講演記録集です。
  書評のなかにも書きましたが
  宮沢賢治とか現代にもつながる人々のことを
  井上ひさしさんがわかりやすく
  解説しています。
  そういえば、
  最近講演にも行けていません。
  ああいう場で
  その人の生の声で聴く話というのも
  なかなかいいものです。
  春になって
  あたたかくなったら
  また講演にも行きたいものです。

  じゃあ、読もう。

この人から受け継ぐものこの人から受け継ぐもの
(2010/12/18)
井上 ひさし

商品詳細を見る

sai.wingpen  この人が残してくれた遺産                矢印 bk1書評ページへ

 この本の書名『この人から受け継ぐもの』の「この人」とは、大正期の思想家吉野作造であり、作家で詩人の宮沢賢治であり、戦後の道しるべであった丸山眞男であり、ロシアの作家でチェーホフである。
 そして、同時にこれらの人々の生き方や思いに寄せた、劇作家であり作家でもあった井上ひさしのことでもある。
 そう、この本の書名は昨年亡くなった「井上ひさしから受け継ぐもの」であってもちっとも構わない。

 本書には井上ひさしが先にあげた先人たちについて語った講演記録三篇とエッセイ二篇が収められている。どれも読んでいて井上ひさし流のユーモアが散りばめられていて楽しい。きっと実際の講演は笑いが絶えなかったのではないだろうか。
 特に大正デモクラシーの旗手でもあった吉野作造について語る井上の話は実に巧妙で、興味しんしんに聞きいっているうちに、憲法や国家のありかたを学び、考えさせられるように導いている。そのように内容が充実しているのは、井上ひさしがすこぶる勉強家だったからだと思う。
 丸山眞男について語った講演のなかに井上が戦争末期の貴重な資料を手にいれるエピソードがあるが、わずかの差で手にはいらなかった資料を古本屋と掛け合い写本するなど、まるで昔の書生のように実直で、頭が下がるのである。
 井上ひさしの遅筆は有名だが、このようなこだわりが結果として遅筆になってしまったのではないだろうか。

 井上ひさし自身がこれらの先人が残したものを「読み継いでいこう」としたように、井上が亡くなった今、私たちもまた井上ひさしが残したものを「読み継ぎ」「受け継」いでいかなければならない。その先に井上が願った世界があるような気がする。
  
(2011/02/04 投稿)

  芽 「ブログランキング」に参加しています。
     応援よろしくお願いします。
     (↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 今日もクリックありがとうございます)
 
    にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

レビュープラス
プレゼント 書評こぼれ話

  今日は節分
  
   節分の鬼もゲゲゲと戯れり  夏の雨

  これは今年私が詠んだ句です。
  なんか我ながら駄句ですね。
  さて、本を読みながら
  線をひいたり付箋をつけたり
  皆さんも色々工夫されていると思います。
  それってやはり覚えておきたい文章とか
  心にはいってくる言葉とかなんでしょうね。
  特にビジネス本系に多いのでは。
  今日紹介する
  本田直之さんの『トリガー・フレーズ』は
  そんなことをする必要なしの本。
  つまり、選りすぐった文章ばかり集められた本なので
  すべて赤線ばかりの本といえます。
  ちなみに、こんなフレーズ。

   やりたいことなんて最初はわからない。

  なるほど。

   人間は楽しいから笑うのではなく、笑うから楽しくなる

  ふむふむ。
  といった具合に、これ全ページ「やる気になる」文章で
  いっぱいです。
  今日も400字書評ですが、
  まずはこの本、手にとってみて下さい。

  じゃあ、読もう。

トリガー・フレーズ―自分にスイッチを入れる170の言葉トリガー・フレーズ―自分にスイッチを入れる170の言葉
(2010/12/02)
本田 直之

商品詳細を見る

sai.wingpen  ひきがねをひくのはあなた                  矢印 bk1書評ページへ

 「トリガー」というのはもともとは銃のひきがねの意味で、転じて「きっかけ」ということで使われている。この本は書名のとおり、行動のきっかけとなる文章を、しかもレバレッジシリーズの本田直之さんの著作17冊か170のフレーズを選んでまとめたものです。そのこと自体がすでにレバレッジ的ではあります。
 「ビジネス本」というのは仕事のスキルを求めるという側面もありますが、ちょっとした「きっかけ」を求める心理的昂揚という面も大きい。仕事に行き詰った時、やる気がでない時、上司や部下とうまくいかない時、「ビジネス本」を読むことで打開ができることはままあります。そういうことを考えれば、「ビジネス本」こそビタミン剤。
 この本では、それが集約されています。どのページでも構いません。開いてみれば、仕事の行き詰まりはなんとかできそうな気になっていくのではないかしらん。
 ひきがねをひくのは、他でもない、あなた自身です。
  
(2011/02/03 投稿)

  芽 「ブログランキング」に参加しています。
     応援よろしくお願いします。
     (↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 今日もクリックありがとうございます)
 
    にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

レビュープラス
プレゼント 書評こぼれ話

  昨日第15回読売出版広告賞の大賞を
  井上雄彦さんの『リアル』の10巻めが
  受賞したことを書きましたが、
  井上雄彦さんのこのマンガは
  1年に一度単行本化されるという
  超スローペースで描かれている
  マンガです。
  障害者の青春を通じて
  多くのことを
  真摯に描いています。
  何冊かその書評を書いたことがあって
  今日は第2巻を
  蔵出し書評します。
  第1巻の書いた記憶があるのですが
  残念ながら今bk1書店には残っていません。
  なにしろ10年も前の話で
  よく覚えていません。

  じゃあ、読もう。

リアル 2 (Young jump comics)リアル 2 (Young jump comics)
(2002/09/19)
井上 雄彦

商品詳細を見る

sai.wingpen  生きていく重さを感じること、それがリアル。            矢印 bk1書評ページへ

 「夕暮れの空は どこか非現実的に見えた/感覚のない脚だけが 俺のリアルだった」(66頁)

  【real】-名詞。現実,実体,実物。(研究社 現代英和辞典)

 この本の中で描かれていく青春群像。足の障害により車椅子生活を余儀なくされた戸川という少年。バスケのコートに彼は自分の足でなく、車椅子の車輪で立つ。不自由な足をまだ自覚できないまま病院のベッドで苦悩する高橋。彼らが受け入れないといけない現実。
 漫画家井上雄彦が描こうとしている障害者の【現実】は、直前まで健常者であっただけに、酷い現実である。短距離走者を目指した戸川は、走ることで父親の呪縛から解き離れようとした。しかし、彼を蝕んでいた足の病魔。父親から離れようとする戸川の【現実】。息子が意のままにならない父親の【現実】。そして、足が動かない、重くつらい【現実】。

 僕たちは、生きていくのにどれだけの重さを感じることがあるだろうか。
 程度の差こそあれ、誰もが自分では抱えきれない重さを実感せざるを得ない。そんな重いテーマが、この漫画のテーマである。
 一〇年前なら、漫画では表現しきれなかった主題かもしれない。しかし、井上雄彦は小説でも、詩でも、音楽でもなく、漫画という表現方法で描こうとしている。まだ2巻の漫画は、今後どのような展開になるのかわからないが、少なくともまだ先を読みたいと思う。

 それが、僕のリアルである
  
(2002/11/14 投稿)

  芽 「ブログランキング」に参加しています。
     応援よろしくお願いします。
     (↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 今日もクリックありがとうございます)
 
    にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

レビュープラス
 電車に乗っていて
 何気なく前に座って新聞を読んでいる人に目がいき、
 ほほーとその新聞に引き寄せられました。
 1月26日の読売新聞の朝刊。
 その紙面に、
 第15回読売出版広告賞の記事がでていたんです。

 いままでそんな賞があるなんて知りませんでした。
 記事によると、

  出版界の発展と出版広告の活性化を目指して創設された
   「読売出版広告賞」の第15回受賞作品が決定した


 とあります。
 出版広告
 もう15回になるんだ。
 実に迂闊(うかつ)でした。
 この賞は、たとえば今回でいうと
 2010年1月から12月に読売新聞に掲載された
 5730点の出版広告の中から
 6人の選考委員が受賞作が選ばれるようで、
 選考委員長は作家の北村薫さんです。

 で、今回の第15回読売出版広告賞の大賞
 集英社の「リアル」の広告でした。
 「リアル」は井上雄彦さんのマンガ。
 大賞となったのは「リアル」の10巻めの広告です。
 金賞は宝島社の「GLOW」という雑誌の広告。
 銀賞は中央公論社の「あんじゅう」の広告。
 宮部みゆきさんの時代小説ですね。
 銅賞は飛鳥新社の「くじけないで」。
 これは今や大ベストセラーになっていますが
 柴田トヨさんの詩集です。
 この広告には柴田トヨさんの顔写真が使われていますが
 その顔がとてもいいんです。

 こんなふうに
 私たちがなにげなく接している新聞広告にも
 いろんな本がさまざまな表情で訴えてきます。
 出版不況といわれているなか、
 そんな広告をみると柴田トヨさんではありませんが、

  くじけないで、本たち。くじけないで、出版社。

 といいたくなります。
 これからも、いい出版広告で
 豊かな本の世界に誘って下さい。

  芽 「ブログランキング」に参加しています。
     応援よろしくお願いします。
     (↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 今日もクリックありがとうございます)
 
    にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ