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プレゼント 書評こぼれ話

  昨日細野晴臣さんの『分福茶釜』という本を
  紹介しましたが、
  細野晴臣さんは1947年生まれですから
  私とは8才違いということになります。
  まさに団塊の世代です。
  私はその弟分の世代になります。
  細野晴臣さんが「長老」になることを
  勧めていたですが
  私たちの弟世代も
  そろそろ「長老」になる準備をしないと
  いけないかな。
  それで、今回は
  書評タイトルもずばり「私は昭和三十年生まれです。」とした
  『昭和三十年代の匂い』という本を
  蔵出し書評で紹介します。
  私はひとつの区切りのような
  自分の生まれた年が
  好きです。

  じゃあ、読もう。

昭和三十年代の匂い (学研新書)昭和三十年代の匂い (学研新書)
(2008/07)
岡崎 武志

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sai.wingpen  私は昭和三十年生まれです。            矢印 bk1書評ページへ

 「十年をひとむかしというならば、この物語の発端はいまからふたむかし半もまえのことになる」というのは、壷井栄の『二十四の瞳』の有名な書き出しである。
 今に読み継がれる壷井のこの作品が書かれたのは昭和二七年で、時代もまだ戦争の傷跡を深くひきずっていた頃のことである。そのために作品にも戦争の悲劇が色濃く反映している。
 多くの人が感涙した、高峰秀子主演木下恵介監督による映画が封切りされるのはそれより二年後の昭和二九年の秋のこと。昭和三十年まであと少しである。

 なぜ『二十四の瞳』の話から書き始めたかというと、「十年をひとむかしという」ことを初めて知ったのがこの作品だったからで、時間とはそういうことかといたく感心した記憶がある。
 それが壷井の小説からなのか、昭和四二年の亀井光代主演のTV版だったの記憶は曖昧である。(世代論でいえば例えばこの『二十四の瞳』を誰の主演で見たかというようなことも分岐点になる。高峰秀子で見たという人はかなり上の世代だし、田中裕子で見たといえば若い世代というおおまかな世代のくくりかたになるだろう。昭和三十年代でいえば香川京子の主演のTV版が昭和三九年に放映されているが、昭和三十年生まれの私にとっては絶対亀井光代が大石先生である)
 その書き出しをひきうつせば「昭和三十年というのはいまからいつつむかしもまえのことになる」。そんな昔の時代が、今大変なブームになっている。

 そのブームの理由としてよくいわれるのは映画『ALWAYS 三丁目の夕日』の大ヒットである。
 しかし、これはひとつのきっかけにすぎない。では。
 理由はいくつかある。高度成長期の前章として時代が大きく変わる経済事情が確かにあの時代にはあった。今ではほとんどの家庭にあるだろうTVや洗濯機や冷蔵庫がいわゆる三種の神器と呼ばれた頃である。
 またそのTVや漫画雑誌がもたらした娯楽の広がりもあの時代から始まったといえる。そういう始まりが昭和三十年代には多くある。そのゆえにあの時代を振り返れば現在のありようがみえてくる。
 ただあの時代がよかったとか今の時代はおかしいというようなコメントでは単なる懐古趣味になってしまう。

 実はそれ以上に重要だと私が考えているのは、書き手及びその周辺の人たちの年令である。
 本書の著者岡崎氏は昭和三二年生まれ。昭和三十年ブームの教祖ともいえる泉麻人氏は昭和三一年生まれ。評論家の坪内祐三氏は昭和三三年生まれ、と昭和三十年代生まれの書き手が続々と台頭してきている。いずれも今五〇歳という人生の盛りの季節にはいって、自分とは何だったのだろう、自分が生まれた時代とはどういうものだったのだろうという思いが強くなる世代になった。
 つまり、今の昭和三十年代ブームは多くの書き手たちの「自分さがし」が形づくっているような気がする。もちろん、その背景には団塊の世代をはじめとした数多くの同世代の読者がいる。その多くの読者も仕事一辺倒の時代を終え、「自分さがし」に余念がない。それが今の昭和三十年代ブームを構成していると思っている。

 本書はまさにそういう昭和三十年代への思いをいくつかの単元で、同種の本と一線を画するように意図されたはずだが、どうしても同じような視点になってしまうのは、所詮は同世代の書き手だから致し方ないかもしれない。 ただ多くの書き手が東京を中心にした関東圏の昭和三十年であるから、本の謳い文句どうり「大阪で過ごした」という地の差異がもう少し出て欲しかったと思うのは、私が大阪の地方都市の出身だからだろうか。
 また、「くみとり便所」や「狂女」の項など今までの同種の本にはない記述は今後昭和三十年代を語る上で面白いテーマかもしれない。つまり、昭和三十年代とはある意味そういう猥雑で差別的な要素も多分にもった十年間だといえる。
 「自分さがし」は綺麗ごとだけではないはずだ。
  
(2008/08/11 投稿)

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