05/21/2011 本 (百年文庫)(島木健作、ユザンヌ 他):書評「本だからこその喜劇」

今回の「百年文庫」は
ずばり、「本」。
本好きなら読んでみたくなるテーマです。
ところで
最近の人って履歴書の趣味の欄に
あまり「読書」って書かないのではと
思います。
なんか日陰の趣味みたいに
思っていないかしらん。
あまり「読書」ってしないのでしょうか。
本って役に立つのだけどな。
もっとみんな本読んだらいいのにな。
だから、この本のなかの
佐藤春夫さんのことなんかも
みんな知らないんじゃないかと
心配になってしまいます。
本は面白いですよ、
と、声大きくしていいたい。
じゃあ、読もう。
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特に初版本や稀少本を求めるわけではない。ただ本好きの人なら誰しもしそうな、新刊本なら平台に積まれた上から何冊めかの本を取り出し、四隅に傷みがないか、帯は破損していないかの確認程度のことは、いつもする。ページを開いた時に、まず本の香りを嗅ぐのも必ずする。
その程度であっても、本を読まない人にとっては十分に怪しいのではないか。
そんな本の妖しい魅力が織りなす滑稽な人間模様が「百年文庫」14巻め「本」に収められた3篇にはある。
なんといってもユザンヌの『シジスモンの遺産』が圧倒的に面白い。
ユザンヌという人は19世紀後半のフランスの作家で、自身大の愛書家であったらしい。
物語は愛書家シジスモンが亡くなったところから始まる。彼の蔵書には他に類をみない掘り出し本がいくつもあって、愛書家として敵対していたギュマール氏はそれらの本を手にいれようとやっきになるのだが、シジスモンはそんなことを見通して「遺書」を残していた。
その「遺書」によれば、彼の蔵書を管理するのは従妹の女性。そして、ギュマール氏とこの58歳になる女性との、本をめぐる大バトルが勃発するのである。
きっと映画になっても面白いのではないかと思うくらいに、この二人の攻防が面白い。本好きとはここまでするのだろうか。ここまでくれば喜劇としかいいようがない。
本好きの人なら、一度は読んでもらいたい短編である。
島木健作の『煙』は1941年の作だが、古本市でのやりとりを描きながら、当時の知識層の青年のもろさ、あやうさが描かれている。
佐藤春夫の『帰去来』は、佐藤の故郷和歌山から弟子入りしたいと上京してきた青年の事情と彼が働きはじめる書店での社会観察が、独特な長文体で描かれている。初めは読みづらい作品だが、読むうちに吸い込まれている。名人芸だろう。
それにしても、これらの3作を読むと、本とはなんと罪つくりなものであるかと思ってしまう。
匂いを嗅ぐぐらいはかわいいものだ。
(2011/05/21 投稿)

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