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プレゼント 書評こぼれ話

  昨日この5月に鬼籍にはいった
  児玉清さんのことを書きましたが、
  5月最後の今日、
  どうしても書いておきたい作家がいます。
  5月6日亡くなった団鬼六さんのことです。
  訃報のあと、
  蔵出し書評で少し書きましたが
  今回は新たに書評を書いていなかった作品を選んで
  追悼としたいと思います。
  団鬼六さんは
  児玉清さんのように「天声人語」に載ることは
  ありませんでしたが、
  私の読書歴でいえば
  ずっと親しみ、愛しつづけてきた
  作家のひとりです。
  団鬼六さんの作品は
  けっして過激ではありません。
  もしかしたら、
  渡辺淳一さんの方が過激かもしれません。
  でも、書評にも書いたように
  団鬼六という名前が
  なんともいえない妖しさを
  つくってきました。

  団鬼六さんのご冥福をお祈り申し上げます。

  じゃあ、読もう。

美少年 (新潮文庫)美少年 (新潮文庫)
(1999/10)
団 鬼六

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sai.wingpen  追悼・団鬼六さん - あなたがいたから私は大人になった              矢印 bk1書評ページへ

 「私の師であり、父のような存在でした」と、団鬼六さんの告別式の弔辞で読んだのは元女優の谷ナオミさんでした。
 この『美少年』という団鬼六さんの作品集の中に、谷ナオミさんの半生を描いた『妖花 -あるポルノ女優伝』という作品が収められています。谷さんにとって、「師であり、父のような存在」であった団さんが突き放すような文章ながら実に細やかな情愛をもって谷さんを育て、見続けていたかがよくわかります。
 多分、谷さんだけではなく、団さんと接触のあった多くのポルノ女優たちにもいえるかもしれません。
 照れ屋だから乱暴な言い方になる。小心だから逃げ回る。
 SM小説を書いてきましたが、団さんは決してその嗜好があったのではなく、男と女の情愛を愛していたのだと思います。

 青春時代に団鬼六の作品と出合いました。団さん自身が出版されていた「SMキング」だけでなく、その傾向の多くの雑誌に団鬼六の作品が大きな紙幅をとって掲載されていました。
 けっして過激な描写があるわけではなく、どちらかといえば古風な表現でした。ただ緊縛の妖しい世界と団鬼六という禍々しいペンネームが完全にマッチしていて、団さんこそ性の世界へ誘ってくれる使者のように思えました。
 団鬼六はその作品ではなく、その名前、そのすべてにおいて、青春時代のある一面を導いてくれた一人だったのです。

 『妖花』という作品の中で団さんは谷ナオミさんの人生を「上昇運と下降運がジグザグ線を描いている」ようなものと書いていますが、団さん自身、そんな上がったり下がったりの人生だったように思えます。
 この作品集の中にある『不貞の季節』は田舎の中学教師であった団さんが官能小説を描くようになって富と名声を得るものも長年連れ添った妻を弟子に寝取られる物語です。そして、その富もその後失うことにもなります。
 それでいて、人生の後半には大手の出版社が団さんの作品を掲載し始めます。この作品集もそのひとつですが、団さんが『花と蛇』などのSM小説を書いている頃には想像もできませんでした。だから、晩年の団さんはけっして卑下されることもなく、官能作家として高い評価を得ていたといえます。

 青春時代が二度と来ないように、青臭い性の、あこがれのような世界は二度と来ない。
 団鬼六という禍々しい名前の使者も現れることは二度とありません。

 さよなら、団鬼六さん。
  
(2011/05/31 投稿)

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