02/06/2012 曾根崎心中(角田 光代):書評「夢の夢こそあはれなれ」

来週のバレンタインデーを前にして
街はチョコ一色、
恋する乙女たちでいっぱいです。
そんな彼女たちに
江戸時代の心中物語はどう映るでしょう。
今日は、
近松門左衛門の『曾根崎心中』を
角田光代さんが翻案した作品を
紹介します。
道行とか心中というのは
なんとなくすでに古風な感じが
しないでもありません。
死ぬくらいなら、
なんて若い人は思うかもしれません。
でも、
死を賭けてまで成就したい恋というのも
魅力的な気がします。
チョコが溶けるくらいの
恋をめざして、
がんばれ! 乙女たち。
じゃあ、読もう。
![]() | 曾根崎心中 (2011/12/22) 角田 光代、近松 門左衛門 他 商品詳細を見る |


物語の魅力は第一にキャラクターの造形、次に物語(ストーリー)性でしょうか。
そして、リズム感がくるように思います。それは文体といってもいいでしょうが、先へ先へと押し出すそれは力となります。
近松門左衛門の『曽根崎心中』は古典の名作として知っている程度で一度も読んだことのない身としては、この角田光代さんの作品と比べるすべを持っていません。ただ純粋に2012年に発表された角田作品として鑑賞するばかりです。
その印象は、なんとリズムのいい作品かということです。小刻みに刻む音楽を聴いているように心地いい感じが物語へと誘ってくれます。
ちなみに近松門左衛門の原文も江戸時代の儒者荻生徂徠が名文と絶賛したそうです。
「この世のなごり 夜もなごり 死にに行く身をたとふれば」と、とてもリズムがいいのがわかります。
日本人というのは俳句とか和歌でそのリズム感をしっかりと身につけていますし、口誦の習慣もありますから、近松のような文章はしっくりきます。
『曽根崎心中』は元禄16年に実際にあった事件を題材にしています。醤油屋の手代徳兵衛と堂島の遊女お初の、この世では結ばれることのない切ない恋の顛末を描いた作品です。
恋とは男女同等の関係でしょうが、時に水の行き来のように女をかばうことや男を守ることで恋情が生まれることもあります。あるいは、恋に恋するという錯覚が恋情になっていくこともあります。
お初の場合はどうだったでしょうか。遊女という自由のない身で、恋はお初の心も体も自由に羽ばたかせる羽根のようなものだったといえます。
その相手の徳兵衛ですが、友人に騙される可哀想な身ながら、あまりにも弱い男という印象があります。
お初のような女性がどうして徳兵衛のような男に魅かれていくのか、それが恋というものの不思議なのでしょう。
それでも、お初と徳兵衛の恋は切なく感じるには、近松の文章、角田の文章の魅力といっていいでしょう。
人は彼らの恋にうっとりするのではなく、文章のリズムに酔うのです。
近松の名文が角田光代という書き手によって、平成の時代の名作として甦った作品です。
(2012/02/06 投稿)

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