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プレゼント 書評こぼれ話

  いつだったか、
  太宰治の故郷津軽を訪れたことがあります。
  太宰の生家である斜陽館にも
  宿泊しました。
  そこでのことだったか
  また違う温泉宿であったか、
  土地の人と同じ湯になったことがあります。
  話した人の言葉が
  まるでわからなかったことがあります。
  向こうの人も
  大阪弁がまじった東京弁を話す若者の
  言葉がわからなかったのでは
  ないかと思います。
  それほど言葉がちがいます。
  それでも、
  話す人の温かさというものを
  感じました。
  東北の人は本当に
  心の優しい人たちです。
  今日紹介する「百年文庫」は
  「」と表題ですが、
  東北への愛がいっぱいつまった
  短編集でもあります。

  じゃあ、読もう。

(025)雪 (百年文庫)(025)雪 (百年文庫)
(2010/10/13)
加能作次郎、耕治人 他

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sai.wingpen  東北に愛をこめて                 矢印 bk1書評ページへ

 東北の人は寡黙だ。言葉少ないが芯がしっかりしている。
 東日本大震災の大きな被害の中でも泣き言を言わず黙々と耐える東北の人への評価は高い。
 東北の人たちが寡黙なのは、その気候にも影響されているともいえる。長い冬、降り積もる雪、吹雪が頬をうつ。静かにそれらから耐えるしかない。それに飢饉とか津波とかそういう不幸が何度もこの地を襲った。それらに一つひとつ泣き喚いている訳にはいかない。それらに愚痴をこぼしても始まらない。
 東北人の心根にはいつも耐える強い火がある。
 「百年文庫」25巻めは「雪」という漢字を表題にしているが、収録されている三作品、加能作次郎の『母』耕治人の『東北の女』由紀しげ子の『女中ッ子』はいずれも、東北や北陸の雪の多い地帯に生きる人々の強さが描かれた秀作揃いだ。

 三つの作品の中では、由紀しげ子の『女中ッ子』が一番面白い。
 由紀は『本の話』という作品で戦後復活した芥川賞を受賞した作家だが、その作品の多くが映画化されているように物語の構成がうまい。
 この『女中ッ子』は山形から東京の中流家庭に女中として働きにでてきた初という娘とその家の問題児だった勝見という少年の交流が描かれている。題名の『女中ッ子』とは、いつしか初にばかりなついた勝見のことである。 この初という娘がいい。山形の田舎から出てきた彼女はただ働くことが好きだという。それこそ東北人の気性そのものだ。彼女の気性が勝見少年を立ち直らせたといえる。
 最後には成長した少年が初をすげなくする場面があるが、彼は生涯東北人を愛しつづけたにちがいない。

 耕治人の『東北の女』は秋田の女性を描いた作品だ。
 物語は前後の関係がわかりにくいが、主人公の妻が秋田の女性でその姉の娘が東京の彼の家にでてくる場面から始まる。秋田の名物はたはたを食べる主人公に妻が「たべつけないと、たべられないのよ。だけどじき馴れてよ」というが、これは東北の人のことかと思いたくなる。この地の人たちの心根こそもっともおいしいご馳走といえる。
 加能作次郎の『母』は私小説で、おそらく作者の出身地石川が舞台である。継母と自分との心の葛藤を描きながら、雪にとざされた冬の夜、「昔あったとい」と繰り返される母の昔話を聴く場面はしみじみとさせられる。
 そういう風景を私たちはすっかり忘れている。
 
 雪は郷愁である。
  
(2012/02/18 投稿)

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