02/23/2012 人魚はア・カペラで歌ふ(丸谷 才一):書評「不徳の致すところ」

今日は昨日のお約束通り、
丸谷才一さんの新しいエッセイ集、
『人魚はア・カペラで歌ふ』を
紹介します。
書評のなかには書きませんでしたが、
この本のところどころに
岩波文庫のことが書かれていて、
丸谷才一さんは岩波文庫のカバーは必ず
取るそうです。
その理由がいい。
「あの平福百穂装の表紙が子供のころから好きなのだ」
わかるな。
確かに、いい。
それにこんなことも書いています。
「岩波文庫の棚がある書店はまことにすくなく、
わたしみたいな子供のころから岩波文庫で育つた者に
とつては寂しい限りだけれど」
これも、わかる。
わかるといえば、こんな一文。
長編小説といふのは時間の藝術です。
お見事。
じゃあ、読もう。
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おなじみ丸谷才一さんの薀蓄エッセイ。えーと、この前に出たのは『人形のBWH』だったかな。確か、『月とメロン』とか『袖のボタン』とか『双六で東海道』とか、丸谷さんのこの手の話は大好きで、もれなく読んできたつもり。
もしかしたら、一つや二つ読んでいないものもあるかもしれない。あるいはこんなことはいえないだろうか。著者の丸谷さんもどこかで書いたことなんか忘れてまた書いてしまった話とか。
ありそうだなあ。
今回もエニグマ暗号記なんていう第二次世界大戦に各国が必死になって奪い取ろうとした機会のこととか坂本竜馬が何故人気があるかとか満州の話とか、もちろん日本語の話や文藝の話、それは縦横無尽に展開されていて、へええ、はああ、の連続。
丸谷才一さんもえらいですが、こんなに高尚で知的なエッセイを連載している「オール読物」という雑誌もえらい。
そもそもこの雑誌、大衆小説というのだろうか、「文学界」と双璧をなす文芸春秋の雑誌だけれど、丸谷エッセイを楽しみにしている読者がいるくらいだから、もしかしたら「文学界」の読者の比ではないかもしれない。
知的な読者こそ大衆小説の楽しみを、ここは愉しみと書くべきだろうな、知っているのだろう。
そんな薀蓄エッセイのなかでも私が気にいったのは、バイブレーター(そう女性が使うあれ)の起源とか初めて前ボタンのついたズボンをはいた織田信長とか、下半身のたぐいのものが多いのは、私に問題があって、「オール読物」の読者が全体的にそうだということではない。
でも、この類いの話になると、丸谷さんの口舌滑らかになるような気がするのは、私だけかしらん。
これは下半身にすればもっと高尚なのだが、「姦通小説のこと」と題されたエッセイが面白かった。
丸谷さんは戦前の日本が姦通に神経をとがらせたのは天皇制の問題と関係があるんじゃないかと推測している内容ですが、そのあたりは省くとして、夏目漱石の代表作のひとつ『それから』が姦通小説の名作だという点に納得。
しかも、それが読売新聞の記事に反発して書かれたものではないかという、詳しい話は本書を読んでもらうしかないが、この推理、納得がいく。
丸谷さんの薀蓄エッセイでお酒の席が盛り上がることがないのは、これも私に問題があって、「オール読物」の読者全部ではありません。
今回はバイブレーターの話は使えそうだが。
(2012/02/23 投稿)

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