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プレゼント 書評こぼれ話

  人がコートを着るようになるのは
  気温が10度を下回ってからと
  聞いたことがある。
  そろそろコートの季節だ。
  寒い朝だとつい着込んでしまうが
  一旦着てしまうと
  脱げなくなるのも心情で、
  この頃合いが難しい。
  今日紹介する「百年文庫」のタイトルは
  「」。
  俳句の世界では
  一般的な冬の風を「北風」という。

   北風の身を切るといふ言葉かな  中村苑子

  もうすぐそんな季節になる。

  じゃあ、読もう。

風 (百年文庫)風 (百年文庫)
(2011/08)
徳冨 蘆花、若山 牧水 他

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sai.wingpen  さまざまな風                   

 暑い暑いと残暑を嘆いていたのがつい先だってのことに思えるが、気がつけば立冬も過ぎ、木枯らしに木の葉舞う季節になっている。
 風が季節を連れてくる。
 芥川龍之介に「木がらしや東京の日のありどころ」という俳句があるが、東京の風も風情があっていい。街には街の風があるものだ。
 「百年文庫」の87巻は「風」。徳富蘆花の『漁師の娘』、宮本常一の『土佐源氏』、それに若山牧水の『みなかみ紀行』が収録されている。
 さまざまな風を感じる一冊だ。

 宮本常一は『忘れられた日本人』で今なお人気の高い民俗学者だ。
 本書に収録されている『土佐源氏』はその中に収められている作品だが、世評は特に高い。
 土佐の檮原村の乞食小屋に住む盲目の老人による回想記。老人自身が自分の話など何の役にも立たないと言っているように、何かためになることが話されているわけではない。ひたすら老人の女性遍歴が土佐弁で語られるだけの、口述筆記されたものだ。
 それでいて、ここに吹く風の清々しさはどういうわけだろう。
 ここには間違いなく、人間がいる。気取りも見栄もない、素っ裸の人間だ。

 おそらく、この老人と対極にあるのが若山牧水かもしれない。歌人としてすでに名をなしている牧水が長野や群馬の地をめぐる紀行文が『みなかみ紀行』である。
 行く先々で牧水を師事する人たちが迎える。なんという贅沢。宮本常一が活写した盲目の老人とは雲泥の差だ。それでいて、牧水はすべてに満たされているわけではない。彼の中を風が吹いている。
 「もみぢ葉のいま照り匂ふ秋山の澄みぬるすがた寂しとぞ見ゆ」。ときおりの牧水自身の短歌が効果をあげている作品だ。

 徳富蘆花の『漁師の娘』は筑波のふもと霞ヶ浦の小さな浮島に住む漁師の物語だ。
 子供のいない漁師夫婦はある日捨て子を授かる。美しい娘に成長するが、自身が捨て子であることを知ってから学校に行かず、ただ歌うばかりであった。淡い初恋も叶わず、娘は器量よしゆえに村の豪家の妾に所望される。娘は嘆くばかり。そして、ある豪雨の日、娘は行方しらずとなる。
 「竹取物語」は美しい悲劇だが、この作品は切ない悲劇だ。

 風にあおられて、人は歩くしかない。
  
(2012/11/21 投稿)

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