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プレゼント 書評こぼれ話

  久しぶりの岩波ジュニア新書です。
  紹介するのは
  中村邦生さんの『書き出しは誘惑する』。
  副題に「小説の楽しみ」にあるように
  書き出しから文学とは何かを解説した
  一冊です。
  書き出しをいえば
  私には忘れられない本があります。
  ポール・ニザンの『アデン・アラビア』です。
  書き出しはこうです。

   ぼくは二十歳だった。それがひとの一生でいちばん美しい年齢だなどとだれにも言わせまい。

  残念ながら
  この『書き出しは誘惑する』には
  紹介されていません。
  若い読者にとって
  この書き出しのなんという衝撃だったことか。
  でも、きっと
  誰にでもそんな印象に残る
  書き出しがあるのでしょうね。

  じゃあ、読もう。

書き出しは誘惑する――小説の楽しみ (岩波ジュニア新書)書き出しは誘惑する――小説の楽しみ (岩波ジュニア新書)
(2014/01/22)
中村 邦生

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sai.wingpen  歯ごたえのある読書                   

 作品の書き出しを紹介しながら、小説の面白さを解説したこの本の中に、「ページを開く前に、すでにタイトルから読書は始まっている」という一節がある。
 「タイトルこそ実質的な冒頭の一行と言えないこともない。それに心惹かれて読み始める読者も少なくないはず」と続く。
 この本がまさにそれ。
 『書き出しは誘惑する』という、ときめくようなタイトルにまず惹かれた。しかも、岩波ジュニア新書である。
 一体どんな物語の書き出しが紹介されているのか。

 ところが、ジュニア向けというよりこれは本格的な文学論で、軽めの読書を想像していた読者はびっくりするだろう。
 書き出しが物語を導く力、それは深い世界である。
 この本では「まず笑ってしまう」と章で、笑いについて考察している。続いて、「早くも異変の兆しが」と、好奇心にみちた書き出しが織りなす世界が、さらには「風景が浮かびあがる」という章で物語の舞台がまず描かれる物語が論じられていく。
 引用される書き出しはさまざまだ。
 有名すぎる夏目漱石の『我が輩は猫である』はもちろんのこと、川端康成の『雪国』、カフカの『変身』といった古典だけでなく、川上弘美の『神様』角田光代の『キッドナップ・ツアー』といった新しい作品まで幅広い。
 特に、「ある都市の肖像」という章で論じられているドストエフスキーの『罪と罰』に関しては、読み応え十分だ。

 著者はこれがジュニア向けの新書だからといって、平易にするつもりは端からない。
 何故なら、著者は若い読者に「背伸びする読書」をすすめているからだ。
 「歯ごたえのあるものを咀嚼するうちに、読書のスタミナがつく」と、いう。
 読書は誰にでもできるが、本当の読書は訓練が必要だ。
 そのことを著者は言いたかったのだろうし、実際この本は「歯ごたえ」十分の一冊といっていい。

 さて、もちろん読者の中であの書き出しの紹介がなかったと悔しがる人も多いだろう。
 自分の気に入りの書き出しが、著者の分類のどこに位置するのか考えてみるのも楽しいだろう。
 もしかしたら、それも著者の目論みのひとつかもしれない。
  
(2014/03/08 投稿)

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