03/18/2014 偽りの森(花房 観音):書評「桜の樹の下に埋まっているのは偽りなのかもしれない」

花房観音さんの『恋地獄』を読んだ
女ともだちが
「ちっとも官能小説じゃなかったわ」と
言っていた。
私はずっと
花房観音さんを女性官能作家と
書いてきたから
困った。
よし、今度はもっと刺激のある作品を
紹介しよう。
その意気込みで
『偽りの森』を読みました。
何しろ
主人公は、4人の美人姉妹。
官能の数々をと
期待?したのですが
これでは
また女ともだちに
「官能小説ってこの程度?」と
言われそう。
もしかして、
花房観音さんは直木賞を
ねらっているのかなと
思うほど
まっとうな娯楽作品でした。
じゃあ、読もう。
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花房観音は官能作家としてスタートしたが、最近の作品を読むと、京都という風土を生かしながら女性を描く作家として成長著しい。
この作品は四人姉妹を生きるすべを描いた名作『細雪』を書いた、あの大谷崎(潤一郎)を意識したものであろう。
はっきりと谷崎の名前がでてくる箇所もある。
谷崎の『細雪』に描かれる平安神宮の枝垂れ桜の下を行く、花房観音の四人の姉妹たち。そして、もう一人、四人の母親。
その誰もが、「艶やかで美しく」、けれど「儚く」見える。
母親の死んだあとから、この長編小説は始まる。
春樹、美夏、秋乃、冬香という四人の姉妹が主人公だから、それぞれに個性がある。それぞれの章に彼女たちの名前が付けられている。
「春樹」という章では、頭脳明晰な長女春樹のことが描かれる。40歳になる春樹は恋愛べただ。いつも妻子のある男性か問題のある男性しか愛せない。
不倫の果てに結婚までこぎつけた相手がいながら、年下の男と愛し合う春樹。そんな彼女が逃げ込むのは、いつもきまって実家の、古色とした大きな家。
その家を守っているのが、次女の美夏。平凡な男が一番と結婚し、雪岡という「家」を必死になって守っている。
性欲の強い夫の求めにうんざりしている美夏の心配ごとは、30歳を過ぎても結婚しない二人の妹たちのこと。
秋乃は美しかった母四季子にそっくりの美貌を持ちながらも、男性に興味をもっていない。
競い合うことを恐れるあまり、家を捨てることも男性を愛することもできないでいる。
末っ子の冬香には秘密がある。
彼女だけ父親が違うのだ、そのことを冬香は母の口から知ることになる。
母四季子はそういう女だった。
だから、冬香だけはかつて京都を離れたことがあるが、何故かひかれるようにして京都の実家に戻っている。
彼女たちの「家」があるのは、「糺(ただす)の森」と呼ばれる場所。
偽りを糺すところ。
四人の姉妹たちの生活は、「艶やかで美し」いが、どこかに偽りがある。もちろん、それは彼女たちだけではない。
偽りは誰にもある。
それは、あるいは偽りですらないかもしれない。
生きていくために見せてはいけないものを抱えながら、人は生きていくしかない。
偽りがあるから、「糺の森」がある。
桜の樹の下に埋まっているのは、死体ではなく、偽りなのかもしれない。
(2014/03/18 投稿)

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