05/13/2017 シズコさん(佐野 洋子):書評「切ないなぁ、ヨーコさん」

明日は母の日。
息子と父親、
あるいは息子と母親の
精神的な結びつきについては
フロイトなんかが
色々書いていますが
娘と母親との関係については
なかなか解き明かされていません。
ところが
最近は小説とかエッセイで
女性たちが母親との確執について
吐露し始めました。
今日紹介する
佐野洋子さんの『シズコさん』も
そんな一冊かもしれません。
最後は切ないですが。
じゃあ、読もう。

母と娘の、愛憎にまつわるさまざまなことが言われるようになったのはそう古い話ではない。
きっと昔から同性ゆえの駆け引きや騙し合い、あるいは深すぎる愛情はあっただろうが、それが表面にあぶくのように浮かび上がってきたのは、それだけ女性たちがものを言い始めたということだろう。
絵本作家でもあり良質なエッセイストでもあった佐野洋子さんもまた母親との関係において深刻な事情を抱えていた一人であった。
2008年に母との関係を記したこのエッセイを書いたあと、佐野さん自身2010年に亡くなるのだが、きっと生あるうちに書いておかなければならなかった一冊だったに違いない。
「シズコさん」というのが洋子さんの母の名。
その母からつなごうとした手をふりはらわれたのが、洋子さんの四歳の時だという。
それから二人のキツイ関係が始まるのだが、洋子さんの筆は母を全否定しているわけではない。
戦争が終わって大陸から逃げかえってくる悲惨な状況の中で、たくましく立ち回った母の姿も料理が上手だったことも、父を亡くしたあと女手一つで幼い子どもたちすべてを大学まで進めた努力も、洋子さんは認めた上で、母を否定する。
それはもう生理的な嫌悪でしかない。
そんな二人に和解の時が訪れる。
この作品はまさにその一瞬のために書かれているともいっていい。
その時、それは母の痴呆が進んでからだと、洋子さんは書く。
「私は母さんが母さんじゃない人になっちゃって初めて二人で優しい会話ができるようになった」と。
「私も死ぬ。生れて来ない子供はいるが、死なない人はいない」と、この作品のおわりに洋子さんは記した。
生きるとは、切ないものだ。
(2017/05/13 投稿)

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