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プレゼント 書評こぼれ話

  今日は
  開高健の『開高健のパリ』を紹介します。
  開高健は1989年12月9日
  58歳で亡くなっています。
  没後30年ということもあって
  この本は今年9月に出たばかりです。
  もちろん、開高健の過去のエッセイ類です。
  表紙の

    若きの日に旅をせずば、
    老いての日に何をか語る

  は、開高健が好んで使った
  ゲーテの言葉だそうです。
  旅の果てに
  開高健はどんな夢を
  見たのでしょうか。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  歓喜にあふれたパリのこと                   

 今年(2019年)没後30年、来年(2020年)生誕90年。
 ということで、出版社の集英社の「開高健 The Year」と銘打った広告を見た。
 その広告で出版案内されていたのが、この本だ。
 表紙の絵はモーリス・ユトリロ。
 開高は1961年刊行された『現代美術15 ユトリロ』でユトリロの絵にキャプションを書いていて、この本ではその時の収録されていた開高の文章とユトリロの絵、それと開高がパリについてふれたエッセイ類が収められている。
 それと角田光代さんが「解説」を書いている。もしかしたら現在の読者にとっては、開高健というよりも角田さんがどんな「解説」を書いているのかという方が興味があるかもしれないが。

 開高には『青い月曜日』や『耳の物語』などで何度も描かれる戦争時と敗戦後の飢えと孤独の時間があった。
 そんな時彼は日本から脱出することを夢のように願っていたという。
 だから、「はじめてパリへいったときは信じられなかった」という。
 「歓喜が噴水のようにこみあげてきて、ホテルでおとなしく寝ていられなかった」と、1977年に書いたエッセイに記している。
 開高が初めてパリを訪れたのは1960年のことだ。

 角田さんは開高健を若い時にはすでに「完成」した作家であるとともに、「外」に向かった求めた作家だと書く。
 初めてパリを訪れたあと、開高はさまざまな外国の地を踏むことになる。
 しかし、もしかしたら「歓喜が噴水のようにこみあげ」てきたのは、最初のパリだけだったかもしれない。
 開高はその溢れんばかりの歓喜を求めて、旅を続けることになったのではないだろうか。
  
(2019/10/31 投稿)

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  以前
  湯川豊さんの
  『一度は読んでおきたい現代の名短篇』という本を
  紹介しましたが
  今日紹介する
  宮部みゆきさんの「片葉の芦」は
  そこに取り上げられていた名短篇です。
  その短篇を収めたのが
  『本所深川ふしぎ草紙』。
  もともとこの短篇集は
  平成3年に刊行されたものです。
  湯川豊さんはこの短編について
  登場人物たちが
  「江戸時代の表情を身につけている」と
  書いています。
  江戸時代の気分を
  存分に味わって下さい。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  この短篇集の中で「片葉の芦」は評価が高い                   

 宮部みゆきさんといえば、日本のミステリーを牽引する第一人者だ。
 宮部さんの魅力はミステリーだけにとどまらない。SFも書けるし、時代小説も書ける。まさに「宮部ワールド」と称されるだけのことはある。
 さらに宮部さんの作品は長編、それも「大」がつくほど長い。
 宮部さんの作品を苦手としている人は、私もその一人なのだが、その長さに圧倒されるのかもしれない。
 しかし、そんな宮部さんにも短編小説の名篇がある。
 それがこの本所深川の七不思議を題材とした7篇の短編を収めた作品である。

 7篇の作品は登場人物がそれぞれ異なるが、同じなのが舞台が本所深川ということと「回向院の親分」岡っ引きの茂七が必ず登場することだ。
 本所深川というのは、現在の両国を含む北側を本所、両国よりも南側を深川といったそうだが、その名を耳にするだけで江戸の風情が浮かんできそうだ。
 そこにある七不思議とは「片葉の芦」「送り提灯」「置いてけ掘」「落葉なしの椎」「馬鹿囃子」「足洗い屋敷」「消えずの行灯」で、それぞれが作品のタイトルになっている。

 中でも名短篇の評価が高いのが、「片葉の芦」。
 貧しい少年に食べ物を施す大店の娘。そんことをしても少年のためにはならないとたしなめる父親。鬼とまで呼ばれた父親があるある日殺されてしまう。誰が何のために。
 今はりっぱな若者に成人したその少年がこの事件をきっかけに鬼と呼ばれた男の本当の姿を知ることになる。

 「宮部ワールド」には山本周五郎までもがいるようだ。
  
(2019/10/30 投稿)

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  今日は
  久しぶりに書評サイト「本が好き!」から
  献本頂いた本を紹介します。
  それが『ベーシック絵本入門』。
  こういう本がそばにあれば
  絵本を選ぶ際に
  とても参考になります。
  まさに
  こういう本が欲しかった。
  そんな一冊です。
  巻末には
  資料集として
  絵本の賞や絵本美術館、
  絵本の参考文献なども載っていて
  絵本を体系的に学びたい人向きの
  一冊です。

  じゃあ、読もう。  

  

sai.wingpen  絵本は人生で3度楽しめる                   

 ノンフィクション作家柳田邦男さんは「絵本は人生で3度楽しめる」という。
 3度とは、幼い頃、子育て中、そして人生後半。
 絵本といえばなんとなく幼い子どもが読むものと思いがちだし、それは決して間違っていないのだが、人生100年の時代に幼い頃のたった一度の出会いではもったいない。
 特に人生後半、さまざまなことを体験したあとだからこそ、絵本が持っている純粋なものを再度味わうことに深い意味があるように思う。

 絵本論を勉強したい人の入門書、あるいは絵本に関心のある人が学ぶベーシックなテキストとして2013年に刊行されたこの本は2019年に初版第4刷として出たことからすると、根強い読者がいるということだろう。
 この本では絵本についてこう定義づけされている。
 「ことば、文とイラストレーション、絵が相互に有機的に連動し響き合って、物語世界を表現する視覚伝達媒体」。
 そして、「絵本は子どもが人生の最初に出会う本」で、「心の栄養」になる、と。
 この本は、「絵本論の基礎的事項についての体系的な解説」である第一部と、「絵本論を学ぶための必読の絵本60冊」を紹介する第二部で構成されている。
 名作絵本60冊は「海外の絵本」が35冊で「日本の絵本」が25冊となっている。
 日本の絵本作家のすそ野が広がりつつあるから、今後名作絵本の占める「日本の絵本」も多くなるだろうが、そのためにも絵本論をしっかりと学んだ人の選択眼が必要になるだろう。

 そして、その時には人生後半の読者にはどういう絵本がすぐれているのかといった配慮も必要になると考える。
  
(2019/10/29 投稿)

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 今年の富士山の初冠雪
 10月22日で、
 昨年より26日遅かったそうです。

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 台風とか大雨とか
 やはり異常気象なのは
 地球温暖化の影響かもしれません。
 それでも
 朝起きて
 雪をかぶった富士山を目にした時は
 ちょっと感動でした。

 24日には二十四節気のひとつ
 霜降
 そろそろ霜が降りてもおかしくない気候になったので
 サトイモを収穫しました。

  20191023_165708_convert_20191027150448.jpg

 3.5㎏の収穫です。
 俳句の世界では
 芋といえば里芋のことをいいます。

   父の箸母の箸芋の煮ころがし        川崎 展宏

 そして、
 いよいよダイコンの収穫です。
 これは今年のチャレンジ、
 長いダイコンを育てるために畝を底上げしたものです。

  20191027_111155_convert_20191027150924.jpg

 そこで、問題です。
 ダイコンの根はどこからでしょう?
 ダイコンは根菜類ですから
 根を食べる訳ですが
 実は土から見えている部分は茎になります。
 つまり土の中にあるのが根。
 なので、ほとんど土から顔を出しているカブ
 茎を食べるということになります。
 そして、このダイコン
 まだ根っこの先まで太くはなっていませんでしたが、
 45㎝ありました。

  20191027_121403_convert_20191027151101.jpg

 チャレンジ成功、かな。

 こちらは
 紅芯ダイコン

  20191023_164731_convert_20191027150221.jpg

 切るとこんな風に
 赤い彩りがきれいなダイコンです。

  20191023_165423_convert_20191027150341.jpg

 ダイコンは葉にしろ茎にしろ根にしろ
 ほとんどの部位を食べることができますが
 残念ながら
 アブラムシがびっしり葉の裏について
 捨てざるをえませんでした。
 虫被害はミニハクサイも。
 虫に食べられた葉を落すと
 てのひらサイズのミニミニハクサイになってしまいました。
 ハクサイの栽培は難しいなぁ。

 こちらはキャベツ

  20191027_101606_convert_20191027150758.jpg

 今のところ順調で
 ちょっぴり結球し始めたところです。

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  10月31日はハロウィーン 
  そこで今日は
  高林麻里さんの
  『ゆめちゃんのハロウィーン』という絵本を
  紹介します。
  この絵本には
  「季節と行事のよみきかせ絵本」とあります。
  本当に絵本の世界は広い。
  絵本で季節を感じることができるのですから。
  書評のタイトルの
  「トリック オア トリート!」は
  ハロウィーンの合言葉みたいなもので
  「お菓子をくれなきゃ、いたずらしちゃうぞ!」という意味。
  渋谷で楽しむ若者たちは
  後半の「いたずらしちゃうぞ!」だけにならないように。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  トリック オア トリート!                   

 角川文庫の『俳句歳時記 秋』の第五版は平成30年8月に初版刊行されていますが、残念ながら「ハロウィーン」はまだ季語として取り上げられていません。
 「ハロウィーン」が日本でも行事として定着してきたのはここ数年のことかと思います。特に東京・渋谷での若者たちの狂騒ぶりが毎年ニュースになって、いつの間にか秋の恒例行事になっていますから、そのうち「歳時記」にも載るようになるでしょう。

 でも、「ハロウィーン」がどんな行事なのか知らない人も多いかもしれません。
 まさか、子ども向けの絵本で教えてもらえるとは思っていませんでしたが、この絵本を読むとアメリカの子どもたちがどんなふうにしてこの日を楽しむかがよくわかります。
 絵本の舞台はニューヨーク。お話の主人公は「ゆめちゃん」という日本人の女の子。
 ゆめちゃんは幼稚園の年長組で、ニューヨークに来たのは一年前で、今回初めて「ハロウィーン」を楽しむことになりました。
 「ハロウィーン」と仮装はつきものですが、ゆめちゃんもお友だちに負けないよう魔女の衣装でがんばります。
 「ハロウィーン」の仮装は「悪霊から身を守るために顔に墨で黒く塗ったのが始まり」だということです。
 実はこの絵本のおわりに「ハロウィーン」がどんな行事なのか、その由来や仮装の意味などが丁寧に説明されています。
 大人たちにとっての「虎の巻」みたいなものです。

 この絵本の作者高林麻里さんはニューヨーク在住なので、本物の「ハロウィーン」が味わうことができる、楽しい作品です。
  
(2019/10/27 投稿)

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  明日10月27日から
  第73回読書週間が始まります。(~11月9日)

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  今年の標語は

    おかえり、栞の場所で待ってるよ

  本には背に貼り込まれている「栞ひも」が
  ついています。
  本によっては
  その「しおり」がなく、
  紙しおりを使うこともあります。
  本屋さんでもらうしおりであったり
  自分でこしらえてみたり
  紅葉をしおり代わりに使うのも素敵です。
  そういうアイテムで
  読書が進めば
  どんなにいいことか。
  今日は読書週間を前にして
  大妻女子大学の先生方が選書した
  『女子学生にすすめる60冊』を
  紹介します。

  じゃあ、読もう。
  
  

sai.wingpen  せめて1冊は読んで下さい                   

 全国大学生活協同組合連合会が今年(2019年)2月に発表した「第58回学生生活実態調査」によれば、1日の読書時間が「0分」という大学生が実に48%あったという。
 この調査は30大学、10980人に実施されたもので、平均すれば読書時間は1日30分で、つまりはまったく読まない学生が半分近くいる一方で、たくさん読む学生もいるということになる。
 本を読まない割合は小学生から中学生、高校生と順に高くなっている。
 その結果、大学生となれば半数近くが読まないとなるのだが、では社会人ではどうなのだろうか。
 読書も習慣のひとつであるから、小学生の時にせっかく手にしたのであればそれは失いたくないものだ。

 この本は大妻女子大学で教える先生方が、講義やゼミなどとは違う「知的刺激を喚起する図書」を60冊紹介している。
 その選書を見れば、現代の女子学生がどのような世界に興味を誘われるのか見えてくるかもしれない。
 意外だったのは、夏目漱石やドフトエフスキーといった大学生必読の定番といえる作品がなかったことだ。(谷崎潤一郎の『細雪』が入っているのはやはり女子学生好みなのだろうか)
 その一方で、村上春樹の本が3冊もあったりして、さすがに21世紀の女子学生向けかと思ったりした。
 紹介されている60冊は文学だけでなく歴史に関する本や児童文学、詩集と幅広い。
 彼女たちが学校を卒業するまで、一体何冊読み終えるのか知りたいものだ。

 ちなみに大妻女子大学は1908年に大妻コタカによって創設されたもので、貫地谷しほりや徳永有美などを輩出している。
  
(2019/10/26 投稿)

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  台湾の大型書店「誠品生活」が
  9月27日に
  東京・日本橋に出来たコレド室町テラス
  初出店したことが
  大きなニュースになっています。
  「誠品生活」は「アジアで最高の書店」といわれるそうなので
  さっそく見てきました。

  20191019_113433_convert_20191020172657.jpg

  回廊のようなレイアウトに
  藍色の暖簾が鮮やか。
  一見とっつきにくそうですが
  逆に区分が明確なので
  本を探すのは楽かもしれません。
  こういう出店を契機に
  日本の本屋さんにも
  頑張ってもらいたいものです。
  今日は『本屋図鑑』という本を
  再読で紹介します。
  がんばれ!! 本屋さん。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  みんな元気にやっているだろうか                   

 全国チェーンの本屋さんでなく、町の本屋さんを得地直美さんの素朴なタッチのイラストとともに紹介しているこの本には71の本屋さんが紹介されている。(全国チェーンの本屋さんがまったくないわけではなく、例えば紀伊國屋書店であれば佐賀店であったり蔦屋書店であれば熊本三年坂店といったように、特長のある店舗は取材の対象になっている)

 この本を出版した夏葉社で代表を務める島田潤一郎氏が「はじめに」で、本を制作するに際して決めたという基本ルールをこう記している。
 一つは、47都道府県、すべての県の本屋さんを紹介すること。
 「最北端の本屋さん」の北海道・稚内市の「クラーク書店中央店」から「最南端の本屋さん」の沖縄県・石垣市の「山田書店」まで、取材も大変だったと思う。
 もう一つが、いろんなタイプの本屋さんを紹介すること。
 例えば、駅前にある本屋さんだったり学校の前にある本屋さんだったり、やっぱりその立地に合った本揃えや棚づくりがあるようだ。
 あるいは、文芸書を得意とする本屋さんであったり郷土本に力をいれている本屋さんであったり、本屋さんほど地域色のでる店舗はないかもしれない。

 そして、この本の何よりの魅力は全ページに「本屋愛」に満ち溢れていることだ。
 取材する書き手が本好き、本屋好きでなければ、ここまで「本屋愛」はでないだろうし、そんな愛をひっぱりだしているのが紹介されている本屋さん自身の情熱だろう。

 この本が出版されたのが2013年。
 出版不況の中、どの本屋さんも閉店されていなければいいのだが、と少しは心配もしている。
  
(2019/10/25 投稿)

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  今日は
  二十四節気のひとつ、霜降
  字を見ればわかるように
  そろそろ霜が初めて降りる頃という意味。

      霜降や鳥の塒(ねぐら)を身に近く     手塚 美佐

  今日は本田靖春さんの
  『誘拐』というノンフィクション作品を
  紹介します。
  書評にも書きましたが
  これは昭和38年に起こった吉展ちゃん事件
  描いた作品です。
  この翌年は東京オリンピックのありましたが
  実際には
  まだまだ戦争のしっぽを
  引きづっていた時代であったともいえます。
  犯人逮捕までの攻防だけでなく
  犯人が背負っていたものの重さに
  あの時代を感じます。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  作品に緊張があるから面白い                   

 文学賞はたくさんあるが、1979年創設され、すでに40回を迎える講談社主催の「講談社ノンフィクション賞」が2019年度(第41回)より「本田靖春ノフィクション賞」と名前を変えたということだ。
 本田靖春は、1933年生まれ、2004年に71歳で逝去した「戦後を代表するノンフィクションの書き手」である。
 本田自身、1984年に『不当逮捕』でこの賞を受賞している。

 本田靖春は早稲田大学卒業後、読売新聞社会部記者として活躍。その後、ノンフィクション作家として第一線を駆け抜けた。
 その名前が文学賞として残ることになったぐらいであるから、本田が日本のノンフィクションの世界に記した功績はそれぐらい大きいといえる。
 そんな彼の代表作ともいえるのが、この作品だ。

 これは昭和38年(1963年)3月に東京入谷で起こった男児誘拐事件を描いたノンフィクション作品である。
 誘拐されたのは当時4歳の男の子。名前は吉展(よしのぶ)。「吉展ちゃん事件」として、戦後の犯罪史の残る事件である。
 犯人は当時30歳だった男。
 警察はその初動で犯人を取り逃がすというミスを犯し、身代金までとられてしまう。
 現在のように防犯カメラが至るところにある時代ではない。
 電話の逆探知さえいきわたっていない。そんな中、犯人の声が録音されていた。

 事件のあらましだけでなく、犯人となった男の来歴、警察の捜査、あと少しで逃がしたかもしれない犯人との最後の攻防。
 これぞノンフィクションの傑作といえる。
 本田は文庫本に載せた「あとがき」にこう記している。
 「事実とのあいだの緊張関係を保ち続けるのは息苦しい。しかし、それなくしてノンフィクションは成立し得ないからである」。
  
(2019/10/24 投稿)

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  先日、
  伊藤俊也監督の「女囚701号/さそり」を
  レンタルで観ました。
  梶芽衣子さんが主演した
  1972年の東映映画ですが
  これがとても面白かった。
  公開当時
  映像が縦から横へと変化して驚いたことなど
  鮮明に思い出しました。
  いい映画の条件は
  いつの時代であっても
  面白いということかもしれません。
  今日は
  町山智浩さんと春日太一さんが
  対談形式で語る
  『町山智浩・春日太一の日本映画講義 戦争・パニック映画編』を
  紹介します。
  日本映画も面白いですよ。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  映画は観てもいいし、読んでも楽しい                   

 映画評論家はあまたいる。
 一番に名前が浮かぶのはなんといっても、淀川長治さん。双葉十三郎さんとか小森和子さん、
 川本三郎さん、山田宏一さん、佐藤忠男さん、とすぐに10人ぐらいは名前が浮かぶ。
 そんな中、この本で日本映画の「講義」を行っている町山智浩さんは最近人気の高い映画評論家の一人だ。
 そして、もう一方の春日太一さんは映画評論家という肩書ではなく「映画史・時代劇研究家」となっているが、日本映画への愛は半端なく、その著作はそんな愛が溢れまくっているという人だ。
 そんな二人が日本映画の「戦争・パニック映画」について、語っているのだから、面白くないはずがない。

 ここで取り上げられているのは、「人間の條件」「兵隊やくざ」「日本のいちばん長い日」(これは1967年版です)「激動の昭和史沖縄決戦」「日本沈没」(これは1973年版)「新幹線大爆破」、そして何故か三船敏郎を描いた「MIFUNE」の6本。
 若い読者にとっては昭和の時代の作品に戸惑うかもしれないが、日本映画が大きな落日を迎えつつある時代の名作と思えば、作品が持っている力は決して失われていない。
 これらの作品に出演している三船敏郎や勝新太郎、あるいは仲代達矢や丹波哲郎といった男優たちの演技を観るだけでも面白いはずだ。

 町山さんには「映画は。何も知らずに観ても面白い。でも。知ってから観ると100倍面白い。観てから知っても100倍面白い」という名言があるが、だからこそ、映画評論家はいくらでも出て来るのかもしれない。
  
(2019/10/23 投稿)

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  今日は
  即位礼正殿の儀という
  今年だけの祝日です。
  台風19号の大きな被害で
  祝賀パレードは延期となりましたが、
  新たに天皇として即位されたことを
  国内外に示される、
  とっても真面目な祝日です。
  そんな真面目な祝日に
  今日紹介する本が合っているかどうか
  わかりませんが、
  祝日でヒマを弄んでいるという人も
  多いでしょうから
  そういう点ではぴったりの本。
  東海林さだおさんの
  『ヒマつぶしの作法』。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  ひつまぶしではありません、くれぐれも                   

 まずは、おひつを四分割に。
 そのうちの一つを、そのままいただきます。
 次に、ネギとワサビで違う味を楽しみます。
 そして、いよいよ定番の出汁をかけて「うな茶漬け」で。
 最後は、お好きな食べ方でどうぞ。
 これが名古屋名物「ヒツマブシ」の作法。
 えーつ?? この本のタイトルは『ヒマつぶしの作法』ですって。

 そんな風につい呆けたくなる、おなじみ東海林さだおさんの傑作エッセイ集。
 なんといってもこの本は東海林さんの「作家活動60年分の単行本・文庫本収録の作品の中から選りすぐりを再編集」したというから、この本を編集した担当の方は笑いすぎて、顎の骨が外れっぱなしだったのではないだろうか。
 最も古いのが1976年発表の「ヒマつぶし」で、そのうちの一つが「ストリップ観劇行」というエッセイだから、時代を感じる。
 一方で、一番新しいのが2012年発表の「ロボット掃除機ルンバを雇う」だから、「ヒマつぶし」の概念も大きく変化している。

 その要因として考えられるものの一つが、当事者である東海林さんの年齢だろう。
 1937年生まれの東海林さんだから、「ストリップ観劇行」の時は40前の血気盛んな頃。そんな時の「ヒマつぶし」といっても、一気呵成、精力絶倫なところがあるが、2012年ともなると、さすがに枯れてきて「ロボット掃除機」と戯れるしかない。

 この本の「はじめに」でNHKの人気番組「チコちゃん」のお決まりフレーズ「ボーッと生きてんじゃねーよ」が使われているが、それをもじれば、この本も「ボーッと読んでんじゃねーよ」といいたくなるんじゃないかな。
  
(2019/10/22 投稿)

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 毎年この香りで
 秋を感じます。
 そして、どこで咲いているのかと
 立ち止まってきょろきょろするのも同じ。
 金木犀です。

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   おのが香にむせび木犀花こぼす      高崎 武義

 台風19号で冠水した畑ですが
 なんとか危機を脱したようです。
 そして、秋冬野菜の植えつけも終盤に入ってきました。
 10月20日の日曜日に
 念願のソラマメの種を蒔きました。
 ソラマメはアブラムシがとてもつきやすいということで
 今まで畑では推奨してこなかったのです。
 そして、ついに今年それが植えつけられるようになりました。
 こちらがその種。

  20191020_142400_convert_20191020172758.jpg

 薄青い色にコーテイングされているのは
 うまく芽が出るようにとのこと。
 ソラマメの植え付けは
 おはぐろと呼ばれる箇所に下にして
 先っぽが少し顔をのぞかせるぐらいにします。

  20191020_142925_convert_20191020173104.jpg

 新しい野菜は
 どんな風に育っていくのか
 それも楽しみです。

 その横には
 イチゴの苗を植えました。

  20191020_142457_convert_20191020172920.jpg

 その間には
 今年もニンニクを植えましたが、
 これは今年の春に収穫したものを
 種ニンニクにしました。

 そして、もう一つ
 タマネギの苗をホームセンターで購入して
 植え付けました。

  20191020_152255_convert_20191020173603.jpg

 全部で50本。
 ひと畝全部、タマネギです。

 これは茎ブロッコリーの花蕾。

  20191020_143804_convert_20191020173243.jpg

 もう少し大きくなると
 まずこれを取ってしまいます。
 そのあとに
 どんどん茎が伸びてくる(はず)。

 これだけの作業をすると
 たちまち2時間を過ぎてしまいます。
 そろそろサトイモも収穫しないといけないのですが
 ちょっとできませんでした。
 秋も深まってくれば
 それはそれで
 いろんな野菜の収穫時期でもあります。

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プレゼント 書評こぼれ話

  新しい朝ドラ「スカーレット」が始まって
  3週間が経ちました。
  最初はどうかなと心配していましたが
  どんどんよくなってきました。
  主演の戸田恵梨香さんもいい味でてます。
  これからどんな風に物語が展開するのか
  楽しみです。
  前回の朝ドラ「なつぞら」は
  アニメに興味のある人にとっては
  面白かったのではないでしょうか。
  女性アニメーターの先駆けといわれる
  奥山玲子さんがモデルとなっていました。
  今日は
  その奥山玲子さんが絵を描いた
  『おばあさんとあひるたち』という絵本を
  紹介します。
  まさか、「なつぞら」ロスになったのかな。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  朝ドラ「なつぞら」のモデルとなった奥山玲子さんが絵を描いています                   

 まず書いておかないといけないのが、この絵本は1985年に教育画劇というところから出た紙芝居がもとになっているということです。
 そんな古い作品が今回絵本になったのは、たぶんこの紙芝居の絵を担当した奥山玲子さんに関係していると思います。
 というのも、奥山玲子さんはNHK朝ドラの100作めとなった「なつぞら」のヒロイン奥原なつのモデルといわれる女性アニメータなのです。

 奥山玲子さんは1936年生まれ。なので、この絵本の元になった紙芝居を描いたのは50歳になる前です。
 奥山さんは2007年に70歳で亡くなられていますが、ウィキペディアでその履歴を見ると朝ドラに描かれたようにアニメ映画「白蛇伝」やTVアニメ「狼少年ケン」といった日本のアニメの草創期に関わっていることがわかります。
 今回復刊された絵本の巻末に奥山さんの言葉が載っています。
 「ものをつくる。しかも、こどもたちのために。これほどすばらしい、これほどむつかしい、これほど責任の重い仕事はありません」
その言葉通り、奥山さんの絵は子どもたちを温かい気持ちにさせてくれます。

 温かいというと、この作品そのものがあたたかい。
 傷んだ毛布しかないおばあさんは羽布団が欲しいけれど高いので手がでません。
 そこでおばあさんはあひるを十二羽買うことにしました。
 あひるから羽を少しずつわけてもらって、羽布団をこしらえようというのです。
 でも、そうなるとあひるたちが寒くなります。
 そこで、おばあさんは名案を思いつきます。
 さて、どんな名案だったでしょう。

 奥山玲子さんの絵のあひるたちのかわいいことといったら。
  
(2019/10/20 投稿)

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  先日亡くなられた
  和田誠さんは多くの絵本を
  私たちに残してくれました。
  そのうちの多くを
  詩人の谷川俊太郎さんと作っています。
  その谷川俊太郎さんが
  10月17日の朝日新聞朝刊に
  「和田誠さんを悼む」として
  一篇の詩を寄稿しています。
  タイトルは「Natural」。
  その冒頭のところを書き留めておきます。

    君は過去になれない男
    目の前からいなくなっても
    いのちにあふれた絵とデザインに
    君は軽々と生き続けている

  で始まる、一篇の詩。
  今日は谷川俊太郎さんとのコンビで出来上がった
  絵本『あな』を
  再録書評で紹介します。

  また未来のどこかで、和田誠さん。

 

sai.wingpen  穴はなくなれば穴ではないのだろうか                   

 この絵本を読むには、まず縦を横に、横を縦にしてください。
 どうしてかって?
 それはページを開く、お楽しみということで。

 「にちようびの あさ、なにも することがなかったので、ひろしは あなを ほりはじめ」ました。
 どんどん深くほっていきます。でも、どうして、穴をほっているのか、ひろし君にもわかっていません。ただ、穴をほっているだけです。
 自分の身長よりも深くほって、ひろし君は思います。「これは ぼくの あなだ」と。
 そして、穴のなかから上を見上げると、「そらは いつもより もっと あおく」思えるのです。
 しばらくして、ひろし君は、穴を出て、それを埋めてしまいます。
 たったそれだけのお話です。
 そのことに意味があるのでしょうか。ないかもしれません。あるかもしれません。
 うめられた穴はもう穴という存在ではない。たとえば、ドーナツのあなみたいに、食べてしまえば、穴はなくなっているように。

 そんな不思議な物語が、和田誠さんのほのぼのとした絵のタッチで、ちっとも不思議に思えません。
 谷川俊太郎さんと和田誠さんのみごとな勝利です。
 和田誠さんは絵本の仕事について、特別展「和田誠の仕事」の図版のなかで「本が好きで、絵が描けて、デザインもできるとなると、絵本を作りたくなるのは自然の流れ」と書いています。そういう自然な楽しみがこの絵本にはあります。
 そういえば、その図版の表紙は、この絵本の原画です。
  
(2010/10/13 投稿)

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  今日は
  益田ミリさんの『しあわせしりとり』という
  エッセイを紹介します。
  書評に
  「引き出しの中の手記」という
  亡くなったお父さんのことを綴ったエッセイのことを
  チラリと書きましたが
  どんな内容か書かなかったので
  ここで書いておきます。
  妹さんの結婚式前夜に
  益田ミリさんと妹に
  お父さんから手記を渡されます。
  でも、その時益田ミリさんは読まなかったそうです。
  お父さんが亡くなって3回忌を迎える前に
  ようやく読んだその手記に
  お父さんは人生に二度「万歳」を叫んだと書いてあったそうです。
  人生二度の万歳。
  それは、つまり
  益田ミリさんと妹さんが生まれた日。
  そんなエッセイでした。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  「かめ」はしあわせか                   

 「しりとり」という遊びが、いつ、どこの国で誕生したのか知りませんが、考えついた人はなんとも頭がよかったことか。
 なんといっても、お金も道具もいらないのがいい。場所も選ばないし、何人でもできてしまう。
 誰かに教わった記憶はないのに、何故かできてしまう。
 娘たちが小さい頃、電車の中でぐずりだしたら、「しりとり」でなんとか宥めた。
 子ども相手に勝ち負けにこだわるのもどうかと思うが、相手に「る」で始まる言葉がいくようにいじわるをした。
 「る」で始まる言葉。当時は「ルビー」しか浮かばなかった。今なら「ルッコラ」は言えそう。

 この本は人気漫画家(あるいはイラストレーター)益田ミリさんが朝日新聞に連載している「オトナになった女子たちへ」をメインに構成されたエッセイ集だ。
 益田さんは「すーちゃん」シリーズなど漫画でも人気が高いが、エッセイもいい。
 漫画同様、ほのぼの感が半端ない。
 「しあわせなものしか言ってはいけない」、そんな「しりとり」を楽しんでいるオトナ女子なんてあまりいないと思うが、益田さんがやると、とっても似合う。
 出て来る言葉も「めりーごーらんど」は確かの「しあわせなもの」っぽいが、その前の言葉が「かめ」というのは、どうだろうか。
 それもまた益田さんらしい。

 そんなのほほんとした、ほっこり系のエッセイだけではなく、亡くなったお父さんのことを綴った「引き出しの中の手記」は結構じーんときます。
  
(2019/10/18 投稿)

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  昨日
  葉室麟さんの『乾山晩愁』という
  短篇集を紹介しましたが
  そこには戦国から江戸時代にかけて活躍した
  5人の絵師の物語が綴られています。
  その中に
  長谷川等伯がいます。
  長谷川等伯ときたら
  第148回直木賞を受賞した
  安部龍太郎さんの『等伯』が頭に浮かびます。
  そこで
  今日は安部龍太郎さんの『等伯〈上〉』を
  再録書評で紹介します。
  この書評の最後に
  葉室麟さんのことも書いているのは
  我ながら面白い繋がりのように
  思いました。
  もちろん、『等伯〈下〉』の書評も
  ブログには載せています。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  福岡人は歴史がお好き?                   

 第148回直木賞受賞作。(2013年)
 桃山時代の絵師長谷川等伯の生涯を描いた歴史小説は、単行本にして上下二冊の長編である。
 選考委員のほとんどこの作品を「力作」と評し、作者の「力量」に感服している。
 主人公である長谷川等伯(初期の頃は信春と名乗っていた)の魅力ともいえるが、長編であるにもかかわらず、倦むことなく読ませるのはやはり作者安部龍太郎の技量といっていい。

 「絶対的に不可逆な<時間>というものを、創造性と想像力を以て巻き戻してみせる」のが、優れた歴史小説の技だと、選評の中で宮部みゆき委員が書いている。
 長谷川等伯という人物の一生は、ウィキペディアなどを開けば百科事典的には理解できる。しかし、そこに等伯の呼吸はない。
 彼がどのような思いで京にあこがれ、夜の闇を走り抜けたか。信長の蛮行に逃れるように京の町で息をひそめたか。それは、小説ならではのものであり、歴史を生きた鼓動にまで高める技といっていい。
 さらに、安部が描いているのは、完成された(これこそ百科事典的にまとめあげられた)長谷川等伯でなく、等伯にならんとする人間そのものなのだ。
 同じく宮部委員の言を借りれば、「等伯は等伯だから偉大なのではなく、等伯になろうとあがき続けたその道程が偉大」であるのだ。だとすれば、安部が描いたのは、長谷川等伯という人間ですらなく、その道程そのものといえる。

 「作者の読者に対する誠意と責任が結実」と絶賛したのは、浅田次郎委員である。「読み始めるとじきに、選者の立場を忘れて一読者となった」といった言葉は、どんな評価よりも作者を喜ばせたかしれない。
 この作品が日本経済新聞に掲載された新聞小説であった点から、自身同新聞で話題作を次々と発表してきた渡辺淳一委員は、「新聞小説という舞台で、これだけの大作を安定して描ききった力量は、おおいに評価していい」とした。
 新聞小説ゆえにこれだけの面白い作品に仕上がったともいえる。

 安部龍太郎は福岡の出身であるが、そういえば『蜩ノ記』で第146回直木賞を受賞した葉室麟も福岡の出身だった。
 福岡には歴史小説、時代小説を生み出す風土があるのかしらん。
  
(2013/04/24 投稿)

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  葉室麟さんの作品は
  結構読んできたつもりですが
  直木賞を受賞した『蜩ノ記』以前となると
  ほとんど読んでいません。
  葉室麟さんの新しい作品は
  もう読むことはできませんが
  まだまだ未読の作品があるので
  読む愉しみが続きます。
  今日は
  葉室麟さんのデビュー作である
  『乾山晩愁』を紹介します。
  もうすでに大家の雰囲気のある
  骨太の短編集です。
  葉室麟さんはデビューの頃から
  忠臣蔵の話が好きだったみたいです。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  葉室麟、ここからはじまる                   

 66歳で亡くなった葉室麟さんの作家活動はわずか十数年しかない。
 その短い期間に直木賞(2012年)を始め、松本清張賞(2007年)司馬遼太郎賞(2016年)などの受賞歴が残る。
 中でも2005年に受賞した第29回歴史文学賞は葉室さんの実質的なデビュー作にもなった
 「乾山晩愁」で、本作はその受賞作を始め、戦国から江戸時代にかけての5人の絵師たちを描いた短編集である。

 ここに収められている絵師は、尾形乾山(「乾山晩愁」)、狩野永徳(「永徳翔天」)、長谷川等伯(「等伯慕影」)、清原雪信(「雪信花匂」)、英一蝶(「一蝶幻景」)である。かっこ内はそれぞれの作品のタイトルで、わかるように絵師の名前が刻印されている。
 受賞作であり表題作ともなった「乾山晩愁」の主人公尾方乾山よりはその兄尾方光琳の方が有名かもしれない。日本史や美術の教科書によく出て来る。
 そういう才能を持った兄ではあったが、その生き方も奔放で、その死後光琳が夫という女が幼き子を連れて乾山の前に現れる。 その一方で、絵師たちの勢力争いの前で乾山の経済的な支柱であった二条家の支援も閉ざされていく。
 有名な光琳でなく、その弟を描いた視点が葉室さんらしい。

 ただ作品として面白いのは、「雪信花匂」だろう。
 主人公が女絵師ということもあって、若い時から慕っていた男との恋愛、絵師たちの暗闘、その中で恋を成就させる思いなど、芯の強い女性は葉室さんの好んだ女性像だったに違いない。
  
(2019/10/16 投稿)

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  ラグビーW杯での日本チームの快進撃に
  きっとにわかファンが多いと思います。
  私もそう。
  何しろルールがよくわからない。
  ようやくトライで5点が入ることがわかった程度。
  それでも
  台風とか被害にあった人たちを勇気づける勝利に
  拍手喝采です。
  さらなる勝利を信じて。
  今日はアガサ・クリスティー
  『死との約束』を紹介します。
  いつものように
  霜月蒼さんの『アガサ・クリスティー完全攻略』の評価でいうと
  この作品は
  ★★★★★の最高点。
  なにしろ
  「ここにクリスティー流のミステリが完成」とまで
  書かれています。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  ポアロが聞いた殺人の予告                   

 アガサ・クリスティーが1938年に発表した、エルキュール・ポアロ物の一作。
 なんといっても、導入部がいい。
 「彼女を殺してしまわなきゃいけないんだよ」
 こんなセリフから始まる。しかも、それを聞いていたのがポアロで、「おれは、どうしてこうもいたるところで犯罪を連想させられるようなものにぶつかるのだろう!」とつぶやいたりしている。

 すわ、事件か!? と思いきや、殺人事件が起こるのはこの長編小説の半ばまで待っしかない。
 それまで被害者となるわがままし放題の老婆と彼女に隷属する息子や娘たち一家の、死海への観光旅行の様子が描かれていく。この一家に関わっていく医学博士や女医、あるいはたまたま同じツアーにはいった活発な女性代議士など、もちろんこれら登場人物の中に犯人がいるのだから、その挙動には目が離せない。
 そして、後半はポアロによる謎解きで、今回も関係者全員にその時々の様子を聞いていく。

 この作品には謎解きの他にもうひとつ悩ましい問題がある。
 それは被害者となる老婆が誰もが認めるひとでなしなのだ。彼女が死んだことで一家の誰もが安堵していて、もしこの場にポアロがいなかったら、彼女の死は病死扱いとなっていたかもしれないのである。
 これとよく似た事件がある。そう『オリエンタル急行の殺人』だ。
 しかし、今回の事件ではポアロは犯人を追い詰めていく。
 彼にとっては、被害者がどのような人物であれ、殺人を犯したものは見つけないといけないということだろう。
 さて、あなたは犯人を突き止められただろうか。
  
(2019/10/15 投稿)

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 台風19号
 日本列島各地に大きな爪痕を残していきましたが
 被害にあわれた皆さん、
 心が挫かれる思いでしょうが、負けないで下さい。

    流れよる枕わびしや秋出水       武原 はん

 河川の氾濫で
 水に浸かった畑や田んぼなどを目にするたびに
 そこに従事されていた農家の皆さんは
 どんなにつらいことかと思います。

 今回の台風で
 私が借りている畑の横を流れる鴻沼川
 氾濫したようです。
 下の写真は台風が行き過ぎた日曜(10月13日)の朝の鴻沼川ですが
 護岸ぎりぎりまで水があふれています。

  20191013_075854_convert_20191013162943.jpg
  
 台風が来た土曜の夜に
 この川が氾濫して
 畑にも流れ出たようです。
 写真の防虫ネットの上の方に
 水に浸かったあとが残っているのが
 わかるでしょうか。

  20191013_081010_convert_20191013163033.jpg

 日曜の朝には
 畑の水は引いていましたが
 井戸水をくみ上げているポンプがだめになって
 水が使えない状態です。
 水に浸かった野菜には
 泥がついています。
 これはキャベツですが、芯のところに泥が入っています。

  20191013_114620_convert_20191013163108.jpg

 そこで家から水を運んで
 とりあえずの応急処置をしました。

 台風の風にあおられて倒れかかった
 ショウガを収穫しました。

  20191013_133717_convert_20191013163203.jpg

 これは思った以上にきれいな
 いいショウガが取れました。

 虫に食べられていたミニハクサイ
 とりあえずひとつ収穫。

  20191013_133812_convert_20191013163242.jpg

 傷んだ葉や汚れた葉を取ると
 てのひらサイズになりましたが
 なんとか食べることはできます。

 この秋
 うまく育ってくれたのが
 モモノスケという品種のサラダカブ

  20191009_175658_convert_20191013162738.jpg
  
 皮をむくのも
 ごらんのように包丁で切り口をいれると
 手でむくことができます。

  20191009_180006_convert_20191013162817.jpg

 泥をかぶった野菜を
 応急的に水洗いしましたが
 果たしてどうなるか
 気になる日々が続きます。

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プレゼント 書評こぼれ話

  7日亡くなった
  イラストレーター和田誠さんを悼んで
  三谷幸喜さんがこのようなコメントを
  寄せていました。

    学生の頃から憧れでした。(中略)
    和田さんのような人になりたいと、ずっと思っていました。
    和田さんの描く絵は、どれもスマートで、繊細で、温かい。
    和田さんご自身もそんな方でした。

  三谷幸喜さんのように
  和田誠さんに憧れていた人は多かったと思います。
  私も、もちろん、そのひとり。
  このブログには和田誠さん関連の記事を
  100件近くも書いています。
  和田誠さんの展覧会に行ったし
  そこで本物の和田誠さんにも会ったし
  講演会にも行きました。
  たくさんの絵本も読みました。
  そんな絵本の中から
  和田誠さんを偲んで
  今日は『ねこのシジミ』という絵本を
  再録書評で紹介します。
  2009年に書いた書評ですが
  自分の文章ながら
  最後の一文でなんだかしんみりしてしまいました。

  残念ながら、和田誠さんももういません。

  

sai.wingpen  しあわせなまいにち                   

 イラストレーターの和田誠さんちの飼い猫の名前は「シジミ」。「とってもちいさくて、貝のシジミのからのもよう」によく似ていたから、ついた名前です。
 シジミのことは和田さんのライフワーク的業績でもある「週刊文春」の表紙画を集めた『表紙はうたう』という画集の中にも「猫に思い入れが深いのは家族に加わっていた年月が長いせいだろう。(中略)長男が小学生の時に公園で拾ってきたシジミが思い出深い」と書いています。ということは、シジミは「週刊文春」にも登場した、有名な猫でもあります。(「週刊文春」の表紙を飾ったシジミは写実的に凛々しく描かれていますが、この本ではとても優しそうな柔らかい表情です)

 この絵本は、そんなシジミの視点で日常を描いた絵本です。
 第三回日本絵本賞も受賞(1997年)しています。
 和田さんが夏目漱石の『我輩は猫である』を意識されたかどうかはわかりませんが、冒頭の文章「ぼくはねこです。なまえはシジミ」っていうのは、やはり漱石の「我輩は猫である。名前はまだ無い」を彷彿させ、くすんと笑えます。
 和田さんは漱石のようにお髭をはやされていませんが、もしあったら、この文章のあとで、すこうしお髭を撫ぜたりしたかもしれません。そんな書き出しです。
 シジミがどろぼうをつかまえるきっかけになった「事件」のことも書かれていますが(この時の奥さんとシジミのツーショットのさしえがとてもいいんです)、これなども漱石風の「事件」で、きっとこのお話を書かれたあともお髭があれば、二度くらいは撫ぜたと思います。

 この絵本のおしまいは年老いたシジミがトランクの中で眠っているさしえです。そして、「このごろぼくは、あそんでいるじかんより、ねているじかんのほうがおおくなりました」という文章がはいります。
 シジミのそんな「しあわせなまいにち」がこちらにも伝わって、幸福な気分にしてくれます。
 残念ながら、シジミはもういません。
  
(2009/04/03 投稿)

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プレゼント 書評こぼれ話

  台風19号が明日にも
  関東に接近しそうということで
  ベランダにある細々としたものを片付け、
  今頃どのあたりかと
  ネットを開くと
  イラストレーター和田誠さん死去のニュースが
  入っていました。

    イラストレーターで映画監督やエッセー執筆など多彩な活動で知られた
    和田誠(わだ・まこと)さんが7日、肺炎のため死去した。83歳。

  私にとっては超大型台風並みの訃報に
  ただただ呆然としています。
  和田誠さんのイラストにどんなに影響を受けたことか、
  そのきっかけは
  今日再録書評で取り上げた
  『お楽しみはこれからだ』だったといえます。
  和田誠さんの映画の似顔絵は
  映画好きな和田誠さんならではの
  愛を感じる作品です。
  もちろんそれだけではありません。
  和田誠さんは絵本も
  本の装幀もたくさんあります。
  それらにはいつも和田誠さんの愛があったように思います。
  なんだか、つらいです。
  追悼の記事に『お楽しみはこれからだ』なんて
  言っていいのかと思いましたが、
  いいんですよね、和田誠さん。

  ずっと、
  ありがとうございました。

  ご冥福をお祈りします。

  

sai.wingpen  追悼・和田誠さん - お楽しみはこれからだ、って言ってよ、和田さん                   

 映画ファンなら必読の一冊。
 といっても、かなり古いから若い人は知らないかも。
 1975年6月30日発行とあって、私が持っているのは1976年4月の第6刷。一年足らずでかなりの数売れているのがわかる。
 そもそもこの本は映画雑誌「キネマ旬報」での連載がもとになっている。
 連載がスタートしたのは1972年10月。
 この年の「キネマ旬報読者賞」はこの連載に贈られたが、それが栄えある第1回受賞となった。

 和田誠さんはイラストレーターだが、映画の造詣が深い。
 絵も描けて、映画の話ができる。
 そこで、映画に登場した名セリフをイラスト付きで毎号4ページ書いていくのだから、しかも「キネマ旬報」は月2回の発行だから、結構大変な作業だ。
 しかも当時はビデオやDVDなんてないから、和田さんの記憶だけで書かれているわけで、それだけでもう頭がさがる。

 この本にはとても影響を受けた。
 まず、何かの折の言葉の端々で「お楽しみはこれからだ」(これはもともと「ジョルスン物語」の名セリフ)を使わせてもらってし、和田さんの手書きの文字のイラストは結構真似たもの。今でもそれなりの感じで書くことができる。
 ただ俳優たちの似顔絵はとても描けない。
 和田さんの場合、単に似ているだけでなく、映画の気分そのものが描けているからすごい。

 第1巻めにあたるこの本の中の私のお気に入りのセリフは、フェリーニの名作「道」の、こんなもの。
 「どんなものでも何かの役に立つんだ。たとえばこの小石だって役に立っている。空の星だってそうだ。君もそうなんだ」。
 有名な、そしてとってもいいセリフだ。
  
(2017/08/02 投稿)

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  今日は
  平凡社の「のこす言葉」シリーズから
  最新刊、
  『黒沼ユリ子 ヴァイオリンで世界から学ぶ』を
  紹介します。
  このシリーズではその人の半生を
  語り書きで綴るものです。
  今回の黒沼ユリ子さんは
  実は私はどんな人なのか
  全く知りませんでした。
  有名なヴァイオリニストということですが
  決して平坦な人生ではありませんでした。
  そんな時
  黒沼ユリ子さんの心を鼓舞させてくれた言葉が
  あったそうです。

     良いことのために来ない悪いことはない

  悪いことがあっても
  それは結果良いことにつながっていく。
  そんな言葉です。
  いい言葉です。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  世界を視る目をどう持つか                   

 よく若い人には「グローバルな視点を持って」などということがあります。
 でも、そういいつつ、私たちは本当にグローバルな視点など持てるのでしょうか。
 世界的なヴァイオリニストである黒沼ユリコさんの半生を語ったこの本を読むと、そんな疑問がふと頭を巡ります。
 「人間の気持ちは音楽で通じる」、この本に出てくる黒沼さんの言葉です。さすが音楽家らしい至言だと思います。
 その一方で、黒沼さんには祖国である日本に絶望した時期もあります。
 そういう話ができるというのも、黒沼さんがグローバルな人間だからだと思います。

 黒沼さんは1940年東京に生まれました。
 ヴァイオリンは8歳の頃から始めたそうで、成長するにつれその才能は開花していきます。
 18歳の時にチェコの招待給費留学生としてプラハに留学。そこで後に夫となるメキシコ人と知り合います。
 彼と結婚して日本で生活している時に、黒沼さんはメキシコ人を蔑む多くの日本人を見ます。
 「外から来た人から知らない文化を吸収すれば、自分もどんどん豊かになっていくのに、リジェクト(拒否)してしまう」姿に、黒沼さんはこの時日本人を「再発見」したといいます。
 1960年代の頃の話ですが、その本質はあまり変わっていないのではないでしょうか。
 黒沼さんのこれらの体験が教えてくれることは現在でも通用することかもしれません。

 この本の副題は「ヴァイオリンで世界から学ぶ」です。
 もしかしたら、「ヴァイオリニストから世界を学ぶ」でもよかったかもしれません。
  
(2019/10/11 投稿)

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  昨日芦田愛菜ちゃんの
  『まなの本棚』という本を紹介しましたが
  そういえば
  子役の本があったことを思い出したので
  今日は再録書評で紹介します。
  中山千夏さんの
  『ぼくらが子役だったとき』。
  実はこの本の書評を書いたのが2008年で
  このブログで紹介したのが
  2011年8月22日。
  その時の「こぼれ話」で
  芦田愛菜ちゃんのことを書いています。

    芦田愛菜ちゃんはかわいいですね。
    彼女がちょっと気になりだしたのが
    NHKの大河ドラマ「江」からで
    そのあと、あ、ここにもでてる、あちらにも出てるって
    気がつけば大ブレーク。

  なんだ、昔から結構気にしてたんだね。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  ぼくはふつうの子どもだった                   

 子役と呼ばれた人たちはいつまでも子役であることはない。
 成長とともに彼らは「かつての子役」になり、「往年の子役」と呼ばれてしまう。子供たちが演じて(あるいは歌って)いたのであるから、それは避けることができない宿命である。
 失礼ではあるが、その言い方をせざるをえないので書くが、「かつての名子役」中山千夏さんがホストになって14人の「かつての子役」たちとの対談をまとめたのが本書である。
 その14人の顔ぶれを紹介すると、松島トモ子(知らない人多いかな)、小林綾子(おしんです)、長門裕之(津川雅彦さんのお兄さん)、浜田光夫(吉永小百合さんとのコンビがよかったですよね)、四方晴美(TV黎明期の子役といえば、やっぱりこの方チャコちゃん)、柳家花録(名人小さん師匠のお孫さん)、小林幸子(紅白の衣装の話ではありません)、和泉雅子(日本人女性として初めて北極点到達に成功したんですよね)、水谷豊(『相棒』で今もブレイクしてます)、風間杜夫(この人の日活ロマンポルノ主演作好きだったな)、矢田稔(さすがに私でもわからない戦中に活躍された方)、弘田三枝子(彼女の「人形の家」は名曲です)、和泉淳子(狂言の、そう節子ママは本書でも少し登場)、梅沢富美男(夢芝居です)、となる。

 ついでに、中山千夏さんのことを書くと、舞台の『がめつい奴』で子役として人気を博したらしいのだが、私のなかではあの『ひょっこりひょうたん島』の「博士」の声を演じた千夏さんであり、ご本人は封印されているらしいが『あなたの心に』(1964年)を歌った千夏さんである。
 その後参議院の議員にもなられているが、色々な市民運動に参加されてもいる。
 しかし、やはり私にとっての千夏さんは子役からやや成長期を迎えられた頃がもっとも親しみやすい。そのように考えると、「子役」というのは情報の受け手であるこちら側の年令とも密接に関係している存在であることがわかる。
 例えば、本書に登場する水谷豊さんなどは手塚治虫の実写版『バンパイヤ』を演じていた頃を知っている人にとっては「子役」水谷豊であったかもしれないが、現在の『相棒』の右京役で水谷豊さんを知った世代にとっては「子役」どころかしぶい中年役者としての認識だろう。
 つまり、水谷豊さんなどは役者として極めて幸福な事例であるといえるし、本書に登場した14人それぞれが「子役」にひきずられることなく、今も立ち位置がはっきりしている幸福な人々だといえる。

 千夏さんが書かれているように「芸能界はオトナ中心のオトナ社会だ。とりもなおさず子役とは、オトナ社会を子どもが生きる体験だ」と思う。そして、そのオトナ社会に負けてしまった多くの「子役」がいることも事実だ。 それは週刊誌的にいえばスキャンダルと犯罪に走った「子役」たちだ。
 彼らへのインタビューが実現しなかったことについて、千夏さんは「多くは連絡がとれなかったし、こちらも無理はしなかった。そっとしておいてもらいたいのが当然だと思ったからだ」としているが、やはり彼らこそ「子役」という重い過去を背負った人々だろうし、彼らが「子役」であったことをどう語るのかは極めて重要なことだと思う。

 子どもはいつまでも子どもであることはない。
 しかし、子どもは「子役」とは違い、成長したからといって「かつての子ども」とか「往年の子ども」と呼ばれることはない。
 そのことだけでも「ふつうの子ども」は幸せなのかもしれない。
  
(2008/09/13 投稿)

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プレゼント 書評こぼれ話

  子役の人で
  かつて天才と呼ばれていても
  大人になるとダメになる
  そんな役者さんは以前たくさんいましたが
  最近の俳優を見ていると
  子役から順調に成長して
  大人の俳優としてもしっかりやっている人が
  多いような気がします。
  今日紹介する
  『まなの本棚』の著者は
  天才子役の一人芦田愛菜さん。
  最近はドラマはセーブしているようですが
  CMとかたくさん出ていますよね。
  この本は芦田愛菜さんのブックガイド。
  書評に書けなかったですが
  あの山中伸弥さんや辻村深月さんとの
  対談も載っています。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  まなちゃんはいくつなの?                   

 芦田愛菜(あしだまな)という名前を聞けば、どんなイメージが浮かびますか。
 まずは芦田愛菜と呼び捨てにするのはそぐわなくて、やっぱり愛菜ちゃんと言いたくなりますよね。
 次に、あの子役の子でしょ、となります。
 いくつぐらいからテレビに出てたかな、有名になった「Mother」というドラマに出たのは5歳だったとか。
 最近は朝ドラの語りとかCMにも出ていますよね。
 愛菜ちゃん、いくつなの?

 愛菜ちゃんは2004年生まれです。
 これから高校生になったり大学に入ったり、まだまだたくさんの未来を持った女の子です。
 その愛菜ちゃんは大の読書家だということで、そんな愛菜ちゃんが「大人顔負け」のブックリスト本を作った、それがこの本です。
 ここには絵本『もこ もこもこ』から村上春樹さんの『騎士団長殺し』までたくさんの本が紹介されています。
 しかも、「繰り返し読むことで違うおもしろさに出会うんです」なんて、大人でもなかなか言えません。
 きっとこの本を読んだあと、もう一度こう言いたくなります。
 愛菜ちゃん、いくつなの?

 この本では本の紹介だけでなく、愛菜ちゃんがどんな女の子なのか、愛菜ちゃん自身がたくさん語っています。
 「私自身は、どちらかというとせっかちで心配性」(へえー)、コンプレックスは「背が低いこと」「運動神経がよくないこと」(まだまだこれから成長しますよ)、「頭の中でいろいろと想像するのが好き」(わかります)、というように。
 なので、この本は芦田愛菜読本でもあるのです。
  
(2019/10/09 投稿)

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  今日は二十四節気のひとつ、
  寒露
  露が寒さで凝って霜のなる意味ですが
  今年などはまだまだそんな気配は
  ありません。

     水底を水の流るる寒露かな     草間 時彦

  今日は樹木希林さんと
  娘の内田也哉子さんの
  二人の名前でできた
  『9月1日 母からのバトン』を
  紹介します。
  具体的には樹木希林さんのインタビュー記事等が2つと
  内田也哉子さんの対談記事4つで
  出来ています。
  樹木希林さん関連本ですが
  どちらかといえば
  「不登校」問題を取り上げた本、
  という方があたっていると思います。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  樹木希林さんが願ったこと                   

 女優の樹木希林さんが亡くなったのは2018年9月15日、75歳の時でした。
 娘の内田也哉子さんは希林さんが亡くなる半月前の9月1日、病室で奇妙な母親の姿に接しています。
 それは、病室の窓から涙をこらえて「死なないで、ね…どうか、生きていてください…」と語りかける母の姿でした。
 理由を聞くと、希林さんはこう話されたそうです。
 「今日は、学校に行けない子どもたちが大勢、自殺してしまう日なの」
 その日からまもなく希林さんは亡くなります。
 亡くなったあと、也哉子さんは希林さんが生前「学校に行けないということ」についてインタビューに答えたことがあることを知ります。

 この本は樹木希林さんが生前「不登校新聞」という不登校に悩む人向けに編集された新聞のインタビュー記事と、不登校を考える集まりのトークセッションでの発言が収録されています。
 これらは300ページ弱の本書の、70ページばかりしかありません。
 なので、樹木希林さんのメッセージを期待した読者にとってはもの足りない内容かもしれません。
 残りは内田也哉子さんが不登校や教育の問題について、「不登校新聞」の編集長や「不登校」経験者、またバースセラピストやロバーオ・キャンベルさんとの対談した内容が収められています。

 この本の中で也哉子さんは希林さんをダシにして、「不登校」の問題や9月1日にたくさんの命がなくなる現実を多くの人に知ってもらうこともまた、希林さんなら望んだことだろうと語っています。
 樹木希林さんは私たちにたくさんのメッセージを残されました。
 そして、そんな希林さんが自分の命が消えようとする直前に「死なないで」と願ったことの意味を、也哉子さんだけでなく私たちも知るということの重さをこの本は教えてくれます。
  
(2019/10/08 投稿)

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 いつまでも残暑がきついです。
 それでも、秋の点景をちらほら
 見かけるようになりました。
 まず、こちらは

  20191005_130030_convert_20191006101736.jpg

 そろそろ色づきかけてきました。
 柿の木は街なかでよく見かけます。

    里古りて柿の木持たぬ家もなし     松尾 芭蕉

 次に、

  20191005_115232_(3)_convert_20191006101548.jpg

 こちらも芭蕉の句で。

    行く秋や手をひろげたる栗のいが     松尾 芭蕉

 栗は大好きな秋の食べ物です。

 暑さが続くせいか
 畑には害虫が多くて
 結球し始めたハクサイ
 害虫にやられて大変なことになっています。

  20191005_110712_convert_20191006101228.jpg

 レース状になって
 栽培を諦めたお家もでてきました。
 なんとか収穫まで持ちこたえて欲しいもの。
 お店で売っているハクサイ
 あまり虫喰いが見られないのは
 手入れもありますが
 化学肥料で防御もしているのでしょうね。
 有機で育てると
 どうしても虫喰いが出てしまいます。

 順調に育っているのが
 ダイコン
 白い首を出しているのが青首ダイコン

  20191005_101217_convert_20191006095932.jpg

 一方、こちらは赤い首。

  20191005_101331_convert_20191006100638.jpg

 紅芯ダイコンです。
 あとは太くなってくれるのを待つだけ。

 10月5日(土曜日)には
 遅まきのダイコンの品種の種を蒔きました。

  20191005_100247_convert_20191006095707.jpg

 こちらには10本栽培するつもりです。

 キャベツ
 結球の気配を見せてきたところ。

  20191005_103513_convert_20191006100824.jpg

 茎ブロッコリーも育ってきました。

  20191005_103531_convert_20191006100950.jpg

 今週末には
 いよいよイチゴの苗植えも
 始まります。

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プレゼント 書評こぼれ話

  今日は
  ジャニス・レヴィさん作、
  クリス・モンローさん絵、
  もんさん訳の
  『パパのカノジョは』という絵本を紹介します。
  この絵本の原題は
  「Totally Uncool」で
  「とってもダさい」という意味らしい。
  この絵本を知ったきっかけは
  書評にも書きましたが
  昨日紹介した『答えは本の中に隠れている』から。
  この絵本に出合った分、
  昨日の岩波ジュニア新書にお礼をいわないと。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  こういう絵本があってもいい                   

 これはアメリカの絵本。
 シングルファザーのパパの娘と、パパが現在付き合っているカノジョとの関係を描いた作品で、なんともサッパリしていて、アメリカらしいといえる絵本。
 この絵本は岩波ジュニア新書の『答えは本の中に隠れている』という本の中で、埼玉県の養護教諭を経て、現在は子供たちの思春期の問題に取り組んでいる金子由美子さんが推薦していたものです。
 その中で金子さんは「外国には、離婚家庭や再婚家庭の子どもたちを取り上げた絵本が数多くあります」と、この絵本を紹介しています。
 やはりなかなかこういう問題は日本の絵本では少ないのかもしれません。

 現在の「パパのカノジョ」はとても変わっています。
 「チューバなんてふいて、ヘンな詩をよんで」、「スカートなのにスニーカーをはいて」たりします。
 カノジョは「かわってる。すごくカッコわるいんだ。」
 でも、「いままでのカノジョたちよりいちばん長つづきしてる」。
 その訳は、このあとのページからどんどん出て来るのですが、一番最初にあるのは「あたしのはなしをテレビをけしてきいてくれる」なのは、ちょっと感動的。
 主人公の女の子は「パパのカノジョ」に出会って、飾らなくても美しい、本当の人間を見つけたのではないでしょうか。

 家族の関係性はかつてのようにシンプルではなくなっているように感じます。
 だったら、この作品のように絵本にして子どもたちにも理解させることも必要ではないでしょうか。
  
(2019/10/06 投稿)

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プレゼント 書評こぼれ話

  今日紹介する
  『答えは本の中に隠れている』は
  朝日新聞の埼玉版のページで
  見つけました。
  珍しい出会いです。
  何故埼玉版で岩波ジュニア新書の紹介があったかというと
  ここに執筆している人の多くが
  埼玉と関係しているのです。
  書評にも書いた梅棹学さんはさいたま市の中学校の先生、
  山崎ナオコーラさんは埼玉県育ち、
  産婦人科医の高橋幸子さんは現在埼玉医科大学、
  木下通子さんは有名な埼玉の高校司書。
  ほかにもいます。
  というわけで
  この本はこっそり埼玉愛がつまっているのです。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  答えは自分の中に隠れている                   

 「きみたち若い世代は人生の出発点に立っています。きみたちの未来は大きな可能性に満ち、陽春の日のようにひかり輝いています」。
 これは1979年6月の、岩波ジュニア新書の発足に際して書かれた文章の冒頭の箇所です。(これは今でも岩波ジュニア新書の巻末に載っています)
 「人生の出発点」にいる、中高生向けに編まれた新書だという立ち位置がよくわかる文章です。
 中高生といえば多感な時期ですから現在でもいじめであったり不登校であったり異性交際であったりと多くの問題があります。
 その時期から半世紀近くも過ぎた私があの当時を振り返ると、やはり色んな悩みがあったことを思い出します。
 この本でいえば、2章の「ネガティブ思考に陥ったとき」が一番合っています。
 ちなみに、1章は「生きることを楽しみたいとき」、3章が「将来を考え始めたとき」となっています。

 そんな悩み多き「人生の出発点」に立ちどまってしまったら、本を開いてみましょうというのが、この新書です。
 学校の先生だったり学校図書館の司書であったり作家であったり医師であったり、その職業がさまざまな12人の人たちが悩みについて語り、その答えをいくつかの本で見出しています。
 私は冒頭の中学校教員の梅棹学さんの「読書コト始め」がとても印象に残りました。
 梅棹先生は教員になって30年以上、毎時間、授業の始めの3分間に読み聞かせをされているそうです。
 そんな先生の文章は自分が過ごしてきた青春期の本との関わりという点で読みやすかったといえます。

 「答えは本の中に隠れている」というタイトルはきれいですが、本当は「答えは自分の中に隠れている」だと思います。
  
(2019/10/05 投稿)

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  女優樹木希林さんが亡くなって
  1年が過ぎました。
  亡くなったあとからのブームというのも
  ちょっと変ですが、
  やっぱりブームというしかありません。
  今日紹介する『この世を生き切る醍醐味』は
  2019年8月30日に出たばかりの本ですが
  こんなに素敵な内容のものが
  まだ残っていたのかという
  感じがします。
  書評には書けませんでしたが
  娘の内田也哉子さんのインタビューもよくて
  まさに母親樹木希林さんの姿が
  浮き彫りになっています。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  映画の話がいっぱい                   

 日本経済新聞の人気コラム「私の履歴書」は功を為した政治家経済人あるいは文化人が自らその半生を綴ったものだが、よく似た企画は他の媒体にもある。
 朝日新聞の場合、「語る 人生の贈りもの」と題されたインタビュー記事がそれにあたる。
 この本の初出となった新聞記事は2018年5月に14回の連載として掲載された。
 ただ初出の新聞記事がインタンビューの全てではない。
 実際のインタビューはその年の3月、つまり樹木希林さんはその年の9月15日に亡くなっているのでまさに半年前、7時間にわたり行われたという。
 本書は新聞には掲載されなかったものなどが加筆、再構成され出来上がっている。
 それに、樹木希林さんが亡くなったあと、2019年5月行われた、娘である内田也哉子さんのインタビューも合わせて収められている。

 最初のインタビューのあと、樹木希林さんは聞き手である朝日新聞編集委員の石飛徳樹さんに2枚の写真を見せたという。
 1枚は2016年に撮ったガンの写真。もう1枚は2018年に撮ったもので、この時には全身にガンが転移し、写真は真っ黒だった。
 2枚の写真を見せることで、インタビューを受ける樹木希林さんの覚悟を示したといえるし、聞き手にもその覚悟を迫ったともいえる。
 インタビューは聞き手の巧さや熱意によって、表に現れるものが違ってくる。
 樹木希林さんの最後のインタビューは聞き手の石飛さんが素晴らしい。
 何しろ石飛さんは映画評論も書いているぐらいだから、映画に詳しい。
 樹木希林さんはやっぱり女優だったと、あらためて感じる一冊だ。
  
(2019/10/04 投稿)

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プレゼント 書評こぼれ話

  先日「あきづき」という名前の
  赤梨を頂きました。
  比較的新しい品種らしいのですが、
  その瑞々しいことといったら
  こんなにおいしい梨を食べるのは
  初めてかも。
  秋の月のように
  大きな球形から
  この名前がついたそうです。
  今日は
  そういう関係でもないのですが
  葉室麟さんの
  『秋月記』を紹介します。
  これまた
  瑞々しい、おいしい作品です。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  葉室麟文学の原型を感じる                   

 葉室麟氏のこの作品は、第141回直木賞(2009年)の候補作に選ばれたが、残念ながら受賞には至らなかった。
 受賞に至らなかっただけにこの時の選評を読むと厳しい意見が多い。
 その中で、宮城谷昌光氏の「私は氏の誠実さをみたような気がしている。時代小説作家の資質に天才は要らない。誠実さを積みあげてゆく不断の努力が要るだけである」という選評には、おそらく葉室氏も感激したのではないか。

 宮部みゆき氏の選評に「名前のついた登場人物が大勢出てくるのも、史実をないがしろにしない誠意がある」とあるように、この作品は歴史小説に分類されるのであろう。
 九州福岡藩の支藩であった秋月藩に実際に存在した間小四郎というと一人の武士を主人公にして、本藩の度重なる陰謀に翻弄されながらも、自らが生まれた藩を守ろうとする男の生き方を描いたこの作品には、のちに葉室氏が描き続けた、耐える男の原型があるような気がした。
 「自らの大事なものは自ら守らねばならぬ、そうしなければ大事なものは、いつかなくなってしまう」。
 これは主人公の小四郎の言葉だが、この思いは終生葉室氏の作品に流れているように思える。

 主人公の造形だけでなく、のちに葉室氏が作品として結実させた広瀬淡窓や葉室氏が愛してやまなかった漢詩の多様など、この作品が葉室氏の作風に残したものは大きい。
 先の宮部みゆき氏の選評は「史実から自由に解き放たれた葉室さんの作品も読みたい」と続くが、その作品『蜩ノ記』で直木賞を受賞するのは、第146回(2011年)まで待たなければならない。
  
(2019/10/03 投稿)

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 今回の「雑誌を歩く」で紹介する
 「NHK俳句」10月号(NHK出版)は
 裏表紙の話から始めます。

  

 雑誌の後ろには大抵
 価格が印字されているものです。
 「NHK俳句」10月号の場合、
 発売日は9月20日、
 つまり消費税がまだ8%の時。
 この時買えば700円(税込み)。
 でも、買いそびれたということもありますよね、
 購入が昨日の10月1日以降になれば
 10%の消費税率となって
 713円(税込み)で買うことになります。
 内容はまったく同じなのに
 なんという理不尽な。
 でも、これは仕方のないことで、
 そのために10月号の裏表紙には
 2つの価格が表示されています。
 もし、以前の号を10月以降に買おうとすれば
 表示は関係なく
 10%の消費税が徴収されるはず。
 雑誌を買うのも大変です。

 ただ、今回の10月号には
 別冊付録として「俳句手帖」が付いていて
 お得感があります。
 まさか消費税アップを気兼ねした訳でもないでしょうが。
 この手帖は、
 縦罫に加え、1㎝四方の方眼マス目が薄い線で入っていて
 自分仕様のメモ書きや
 俳句が閃いた時の覚え書きに使えるように
 なっています。
 この「俳句手帖」が真っ黒になるくらいだったら
 少しは上達するのでしょうが。

 おなじみ
 片山由美子選の「巻頭名句」は
 今月号も10句が掲載されています。
 その中から一句。

    運動会午後へ白線引き直す      西村 和子

 もちろん季語は「運動会」ですが
 最近では春に運動会をするところも多くなってきましたから
 将来春の俳句なんて言われることも
 あるかもしれません。
 地球温暖化は
 俳句の世界観にも影響してくるかも。

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