01/23/2021 歌集 滑走路(萩原 慎一郎):書評「空を飛ぶための翼」

昨年(2020年)の11月23日の
朝日新聞「天声人語」で
今日紹介する
『歌集 滑走路』のことが取り上げられていました。
私はその歌人である
萩原慎一郎さんのことも
彼が「非正規歌人」と呼ばれていたことも
歌集のことも
それが映画になったことも
知りませんでした。
萩原慎一郎さんは「非正規」だけでなく
「いじめ」という過酷な体験もしています。
歌に救いを求めたけれど
結局は救われませんでした。
「非正規」がなくなればいい。
「いじめ」がなくなればいい。
この歌集には深い意味があります。
じゃあ、読もう。

人は何にでもわかりやすいように名前をつけることがあるが、時に残酷な名前をさもあるようにつけたりする。
「非正規歌人」、そんな風に呼ばれることもあった歌人萩原慎一郎はそのことを喜んだだろうか。
萩原がそう呼ばれるきっかけとなったのが、朝日新聞の歌壇欄で2015年に馬場あき子選で朝日歌壇賞を受賞した「ぼくも非正規きみも非正規秋がきて牛丼屋にて牛丼食べる」という歌だろうが、実際その当時の萩原は非正規で働いていたとしても、あえて「非正規歌人」と呼ぶことはないと思う。
萩原が生涯たった一冊編まれた歌集となったこの本に載っている歌は「非正規」の歌ばかりではない。むしろ、青春期のナイーブな心を詠んだものが多い。
萩原が朝日歌壇に最初に取り上げられたのが、2003年のこの歌。
「屑籠(くずかご)に入れられていし鞄(かばん)があればすぐにわかりき僕のものだと」。
この歌でもわかるように、萩原は中高校といじめに合って、長年精神的な疾患に悩まされた。それでも懸命に生きんと、「非正規」として働き、歌を詠んだ。
しかし、最初の歌集の出版を目前にして、自ら命を絶つことになる。わずか32歳だった。
この歌集の中で私が選ぶとすれば、こんな歌だ。
「空を飛ぶための翼になるはずさ ぼくの愛する三十一文字が」
「引き寄せてそして言葉を抱きしめる三十一文字を愛するわれは」
「われを待つひとが未来にいることを願ってともすひとりの部屋を」
これらの歌を読む時、必死で詠もうとした萩原の声が聞こえるようだ。
(2021/01/23 投稿)

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