04/10/2021 小隊(砂川 文次):書評「「今この時」の小説」

第164回芥川賞の詮衡はかなり高いレベルで
選考委員の選評も読み応えがありました。
中でも
川上弘美さんの選評には
文学のもっている意義などを考えさせられるものでした。
抜粋します。
小説家たちは、「今この時」のことを書く。
一見「今この時」のこととは思えなくとも、
どの小説にも必ず「今この時」の照り映えが示されているのです。
そう書いた川上弘美さんが一番に推したのが
今日紹介する
砂川文次さんの『小隊』です。
戦争小説でもあるこの作品に
「今この時」を感じる読者はきっと多いのではないでしょうか。
じゃあ、読もう。

第164回芥川賞候補作。
この回の芥川賞を授賞したのは宇佐見りんさんの『推し、燃ゆ』だったが、その他の候補作も極めてレベルの高い作品が多かった。
元自衛官の砂川文次さんのこの中編も評価が高かった。
特に川上弘美選考委員は「一番に推そうと思い、選考の場に臨」んだという。
それは「突然の理不尽がふりかかった時、人はどのように苦しみ怒り耐え放心しそれでも生きつづけるかを示すために」、この小説が川上さんを揺さぶったからだ。
小説は、北海道にロシア軍が上陸し、日本が第二次大戦後初の「地上戦」を経験することになった様を、自衛隊員である安達の目を通して描かれる「戦争小説」だ。
元自衛官とはいえ砂川さんも「戦争」を経験したわけではない。だから、この作品はもっぱら砂川さんの作った「戦争」である。
ひと昔前であれば、筒井康隆さんが書いたかもしれない世界だが、ここには筒井さんのような毒も笑いもない。あるのは、けだるいような日常から「戦争」という極限の世界に振られるさまだ。
川上さんは、この作品には「コロナ禍」という言葉もその影も出てこないが、極めて「今この時」を感じる作品だと書いている。
確かに私たちはある日突然コロナ禍に巻き込まれた。その姿はこの作品に登場する自衛官によく似ている。
とすれば、この作品が「今この時」のものだということがよくわかる。
(2021/04/10 投稿)

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