04/17/2021 コンジュジ(木崎 みつ子):書評「痛ましいところからの視点」

第164回芥川賞の候補作はレベルが高く、
選考委員の松浦寿輝さんも
「今回は優れた候補作が並んだと思う」と
評価している。
受賞作は
宇佐見りんさんの『推し、燃ゆ』だったが
候補作5作のうち
今日紹介する
木崎みつ子さんの
『コンジュジ』で
4作読んだことになる。
こんなに候補作を読んだのは
私も初めてでした。
私にとっての一番の推しは
乗代雄介さんの『旅する練習』でしたが。
じゃあ、読もう。

第164回芥川賞候補作。
実の父親からの性的虐待を受けた少女を描いた、著者初めての中編小説となったこの作品で第44回すばる文学賞を受賞し、その後芥川賞の候補となるも惜しくも受賞には至らなかった。
それでも、題材が悲痛で、芥川賞の選考委員の一人吉田修一氏も「とにかく内容がつらい」と記している。
一方で、すばる文学賞を受賞した際の、こちらの選考委員である川上未映子氏は「子どもの、女性の、人間の、あるサバイブを描いた傑作」とし、そのラストは「詩も散文も含め言葉が描くことのできる、最良の場面のひとつ」と大絶賛している。
タイトルである「コンジュジ」はポルトガル語で「配偶者」という意味だが、まずこのタイトルが作者の中には一つの灯りのようにあったようだが、結末は決してそうなっていない。
それもまた書くという行為の、いい意味での産物だろう。
主人公の少女せれなは母の家出、父の自殺未遂、そして違う国籍の新しい母とつらい日々を送っている。彼女の唯一の救いが伝説のロックスターへの想いだった。
彼の伝記を読みながら、せれなは彼の空想の恋人となっていく。
そんな彼女に父親の性的虐待が始まっていく。
そして、空想の恋人であったロックスターへの幻想も破れ、せれなは行き場所を失っていく。
この作品では架空のロックスターの伝記が巧みに使われている。
芥川賞選考委員の山田詠美氏はそれを「ステレオタイプ」としていたし、確かに以前大ヒットしたロック映画を観ているような既視感があったが、あまりにも巧みで実際に存在したと思いながら読んでいたことを書いておきたい。
(2021/04/17 投稿)

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