10/06/2021 彰義隊(吉村 昭):書評「吉村昭の最後の歴史小説」

NHKの大河ドラマ「青天を衝け」を見ていて
主人公の渋沢栄一の従兄渋沢喜作が
幕末の争乱期、
彰義隊の設立にかかわったことを知りました。
この当時は渋沢成一郎と名乗っていました。
彼はその後隊での対立で彰義隊を出て、
箱館戦争に参加しています。
このあたりまではすでに大河ドラマで
描かれていました。
その彰義隊のことが知りたくなって
調べると
吉村昭さんに『彰義隊』という長編小説があることを
わかりました。
ただ、この作品は彰義隊というより
彰義隊が守ろうとした人物の生涯を
描いたものです。
吉村昭さんはこのタイトルに納得していたようですが
ちょっと違うかな。
じゃあ、読もう。

この作品は多くの歴史小説を書いてきた吉村昭が2005年11月に刊行した作品で、2006年に亡くなる彼にとっては最後の歴史小説になった。
吉村昭という作家を見た場合、純文学的な作品でもそうだが、彼が生まれ育った日暮里あたりの下町を愛し続けていたかがよくわかる。
それは井の頭公園そばに終の棲家を構えてからも変わらなかったのではないだろうか。
そんな吉村だったゆえに、彰義隊の旗印に祭り上げられた上野寛永寺の山主であったこの物語の主人公輪王寺宮が逃亡の過程で吉村ゆかりの土地土地をめぐった姿を追体験した時、どのような思いであったろう。
吉村はこの作品の「あとがき」で「敗れた彰義隊員が私の町にものがれてきたという話などを、断片的に耳にしたりした」ことがあると語っている。
時代を超えて、逃げていく輪王寺宮たちの姿を見つめている吉村少年の姿を見るようだ。
輪王寺宮というのは、皇族の一人ながら幼児の時に出家し、幕末の争乱の際に寛永寺の山主であった人物である。
その立場でなければ、あるいは官軍の将であったかもしれず、人の人生というのはわからないものだ。
作中にも「時代の大きな流れの前で、人間は無に等しい」という言葉が出てくるが、それでもこの時代であれば岩倉具視のようにしぶとく勝ち抜いた人物もいるだから、なんともいえない。
輪王寺宮の生涯もまた同じで、最後には国葬になったことを思えば、この人の人生もいかばかりのものだったのだろう。
(2021/10/06 投稿)

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