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プレゼント 書評こぼれ話

  佐野洋子さんといえば
  絵本作家として知られていますが
  私にとっては
  エッセイストとしての方が馴染みがあります。
  佐野洋子さんのエッセイを
  紙芝居風にしてテレビ化した番組は
  数年前にNHKEテレであって
  その時にほとんどのエッセイを読みました。
  そのあとも気にはなっていて
  ブックオフ佐野洋子さんのエッセイ本を見つけては
  購入していました。
  今日紹介する
  『神も仏もありませぬ』も
  そんな一冊。
  今日は再録書評
  2017年3月に書いたものです。
  今回再読して
  やっぱり「北の国から」に似ていると
  5年前と同じことを思いました。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  人はいつから晩年をむかえるのだろう                   

 佐野洋子さんといえば、『100万回生きたネコ』に代表されるように絵本作家となるのでしょうが、エッセイを書かせても実にユニークで、この人は言葉が根っこに生きている人なんだと思わせるものがある。
 このエッセイは2003年秋に刊行され、2008年に文庫本になっている。
 佐野さんが還暦を迎え、北軽井沢(佐野さんの文章でいえば群馬県の山の中)で暮らしていた64歳から65歳あたりの日常を描いたエッセイである。
 佐野さんは2010年に72歳に亡くなっているから、晩年にあたるのだろうか。

 いや、ここに描かれた世界はけっして晩年ではない。
 実際、この本の「あとがきにかえて」で、佐野さんは「しかし、私は全然死なないのだ」と書いている。
 この本に収められている18篇のエッセイには死の影は濃いが、それはまだ生きることに強く拘っている人間が描く死ともいえる。

 「ありがたい」というエッセイで「自然は偉い。理屈をこねず、さわぎも致さず、静かにしかしもえる命をふき出そうとしている」と描かれている。
 その一方で「人間はそうはいかない」と記す。
 佐野さんは「そうはいかない」側にいる。
 そういう側として、この時期の佐野さんは老いとか死を意識しながらも、けっして晩年というよりはまだまだ生き生きとっしている時期でもある。

 このエッセイに登場してくる佐野さんの隣人や友人たちはまるで倉本聰さんが描いた「北の国から」の住人たちのようであったことも追記しておく。
  
(2017/03/31 投稿)

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プレゼント 書評こぼれ話

  NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」
  まだ源実朝は出てきませんが、
  いずれ登場し、
  重要な役どころになることは
  間違いありません。
  その前に気になっていた作品を
  読んでしまおうと
  本棚から出してきたのが
  太宰治の『右大臣実朝』。
  十代の頃に読んだと思いますが、
  当時実朝の時代背景など
  どこまで理解して読んでいたのだろうか。
  今回「鎌倉殿の13人」というドラマで
  鎌倉時代に登場する武士たちの名前がわかったので
  太宰治のこの作品も
  ぐっと奥行きを味わうことができました。
  きっとこの作品は
  単に太宰治が好きだけではなかなか
  理解できない作品です。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  太宰らしさをさがすこともないが                   

 太宰治の中期の長編小説。
 書き下ろしとして出版されたのが、昭和18年(1943年)9月で、太平洋戦争で日本軍が窮地に立たされている頃で10月には明治神宮外苑で学徒出陣の壮行会が行われている。
 そんな時代に太宰が描いたのが、鎌倉幕府の三代将軍源実朝の姿。
 戦局が厳しくなる中で、太宰なりに書ける題材を選んだともいえる。

 物語は、12歳の頃より実朝に仕え、実朝が公暁に暗殺されたあと20年の時をへて当時のことを近習だった「私」が語るという形をとっている。
 太宰の作品は晩年の破滅志向のものをもって「太宰らしい」とするならば、この作品にはそれはあまり感じない。
 しいていうなら、終盤近く「私」と公暁が語り合う場面が「太宰らしい」といえる。
 「死のうと思っているのです」と言う公暁。
 その公暁が実朝を評したその姿は、太宰の作品によく出てくるダメぶり。
 太宰は、公暁であったのか、それとも実朝に自身の姿を重ねたのだろうか。

 この作品で有名な「アカルサハ、ホロビノ姿デアロウカ」という文をもって、太宰はこの頃の日本の将来を見ていたとは、あまり思えないのだが。
  
(2022/06/29 投稿)

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  今日は
  アガサ・クリスティーポアロもの
  『マギンティ夫人は死んだ』を
  紹介します。
  この作品は
  いつもの霜月蒼さんの
  『アガサ・クリスティー完全攻略』でも評価が高く
  ★★★★でした。
  すでに裁判で判決が出た男の無罪を
  証明してみせるという発端がいいし、
  それはつまり死刑執行までの時間との勝負という
  設定も面白い。
  アガサ・クリスティーの充実していた頃の
  作品のひとつともいえます。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  うぬぼれには気をつけよう                   

 この作品は1952年に出版された、エルキュール・ポアロものの長編小説。
 すでに死刑判決が出た男が本当に犯人だったのか、と事件を担当したスペンス警視がポアロのもとを訪ねるところから始まる。
 自ら捜査を担当し、逮捕した警視が犯人の男がもしかした無罪かもしれないと思う理由が「殺人者につきものの、うぬぼれというものがない」ということ。
 ポアロは警視の頼みを受け、事件の真相に乗り出すというストーリー展開。

 今回の作品で重要なアイテムになっているのが、写真。
 写真に写っていたものをきっかけにして、最初の殺人が起こり、そのことに事件のカギを見出したポアロの誘い出しに、さらなる殺人事件も起こる。
 昔の写真に写っていた真犯人とは? となるわけだが、写真から事件が起きるパターンはよくあって、確か松本清張の作品にも使われていたと思う。
 ただアガサ・クリスティーの場合、1950年代ですでにそれが使われているから、当時すでに写真が時代の先端として人々に広がっていたことがわかる。

 ポアロのはりめぐらせた知恵に真犯人はついに正体を現すが、その犯人を見てスペンス警視が最後にいうセリフが決まっている。
 「あの男は犯人ですとも! なにしろ、どんなことにでもうぬぼれの強いやつですからね!」
 うぬぼれには気をつけた方がよさそうだ。
  
(2022/06/28 投稿)

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 まだ6月というのに
 なんという暑さでしょ。
 37度を超えるとさすがに息苦しくもなります。

    みじろぎもせず炎昼の深ねむり      野見山 朱鳥

 私が借りている菜園からも
 「熱中症にご注意を!」とメールが届きました。
 それによると
 早朝や夕方の気温が比較的上がらない時間帯の来園を推奨しますと
 あります。
 気温があがった6月25日(土曜日)、
 朝8時30分頃に畑に行きましたが
 もうすでに温度がどんどんあがっていて
 2時間近くいたら
 もうぐったりしています。
 この時期ですから水やりだけはしっかり
 しないといけません。

 まずは、
 夏野菜の収穫をあじさいとのコラボで。

  20220622_143339_convert_20220625170801.jpg

 今年のキュウリ
 細工をほどこして
 くまさん型とよつば型に育てています。

  20220620_143043_convert_20220625170636.jpg

  20220620_143336_convert_20220625170734.jpg

 キュウリにとってはいい迷惑かもしれませんが。

 こちらは
 中玉トマトバジルのコラボ。

  20220625_095408_convert_20220625170936.jpg

 トマトコンパニオンプランツとして
 バジルを育てていますが
 バジルバジルで使い道がありますから
 重宝します。

 エダマメは防虫ネットをはずして
 しっかりと水やりをしました。

  20220625_092910_convert_20220625170907.jpg

 やっと成長ぶりを確認できましたが
 ぷっくらと膨らむまでは
 もう少しです。

 これは
 モロヘイヤオクラ

  20220625_085800_convert_20220625170831.jpg

 どちらも盛夏にはしっかり食べたい
 ねばねば系野菜です。
 期待してますよ。

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  今日は
  松岡享子さん作、
  秋野不矩さん絵、の
  『ちいさなたいこ』という絵本を
  紹介します。
  お二人のことは
  書評のなかにも少し書きました。
  もともとこれは
  1974年に「月刊 こどものとも」に発表された作品で
  2011年に絵本化されています。
  そして、2022年4月に
  第2刷として出たものです。
  いい作品だから
  長く残るし、
  新しく生まれ変わる価値があるのだと
  思います。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  この懐かしい感じは何だろう                   

 なんとも贅沢な絵本です。
 贅沢というのは、この絵本を作った人のことを指しています。
 まず、文を書いた人。
 今年(2022年)1月に亡くなった児童文学者で文化功労者でもあった松岡享子さんが、まるで昔話を再録したかのようなお話に仕上げています。
 次に、絵を描いた人。
 女流日本画に与えられる上村松園賞を受賞した画家で、晩年には文化勲章も受章されている、秋野不矩(ふく)さんが絵を担当しています。
 絵本というのは絵が与える要素も大きいですから、やはりしっかりした画家が描いた作品は、絵を見ているだけでも落ち着きます。

 物語は「むかし、あるところに」から始まります。
 心の優しい老夫婦が育てていたかぼちゃ畑に、ひときわ大きなかぼちゃができました。
 そのかぼちゃからなんと「ぴいひゃら どんどん」と祭りばやしが聞こえてくるではありませんか。
 驚いた老夫婦がそっとかぼちゃの中をのぞいてみると、親指ほどの大きさの男女があつまって踊っています。
 その祭りばやしに老夫婦も楽しくなってきます。
 ところが、ある時から祭りばやしが聞こえなくなります。
 心配した老夫婦がのぞいてみると、彼らのたいこの皮が破れてしまっています。
 優しい老夫婦は、手作りで小さなたいこをこしらえてあげることにしました。

 なんだかこんな昔話を小さい頃に聞いたようなそんな懐かしさは、物語に登場するおじいさんおばあさんの優しさが醸し出しているのでしょう。
  
(2022/06/26 投稿)

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 今や世界の大スターであるトム・クルーズ
 出世作ともいえる「トップガン」が封切られたのが1986年。
 それから30年以上の時を経て
 その続編が作られるというニュースは
 世界中を驚かせました。
 しかも、その続編「トップガン マーヴェリック」の評判が
 とてもいい。
 ならば、まず1986年の前作を観てみようと
 アマゾンプライムで観ました。

  

 トム・クルーズもかっこよかったし、
 何より作品としてもよく出来ていて、
 よし、それではと久しぶりに映画館に足を運びました。
 今日は、映画館で観た映画「トップガン マーヴェリック」の話です。

  

 まず、結論からいうと
 「トップガン マーヴェリック」(2022年)は
 映画館で観て下さい。
 その理由は、なんといってもその音。
 いうまでもなく
 「トップガン」シリーズはアメリカの戦闘機パイロットの話で
 のっけからマッハ10の飛行に挑戦する
 主人公マーヴェリック(トム・クルーズ)の姿が描かれています。
 ブーン、バビューン、と
 文字では到底表せない場面が続きます。
 つまりは、
 音で観客の心を鷲掴みにする映画です。

 そして、
 それ以上にストーリーがいい。
 今回は続編ということですが
 何しろ前作から30年以上空いてしまっている。
 それをどうつなげるか。
 前作「トップガン」でマーヴェリックの親友グースが
 事故で亡くなりますが、
 彼の遺児が成長してマーヴェリックの前に現れます。
 しかも、戦闘機の若きパイロットとして。
 父グースのように死なせる訳にはいかない。
 マーヴェリックは悩みます。
 前作が親友を亡くして苦悩する主人公の姿を描いていましたが
 この作品では
 親友の遺児を支える主人公の姿は
 まるで父と子の物語のようです。
 ラストには激しい空中の戦闘シーンが描かれていますが
 それ以上に主人公たちの姿に
 ぐぐっときました。
 それになんといっても
 トム・クルーズの人生そのものが凝縮されているようにも
 感じました。
 いえ、もしかしたら
 36年前に「トップガン」を観た人にとっても
 それからの歳月を実感できる作品に仕上がっています。

 もし、これから
 この「トップガン マーヴェリック」を観ようとするなら
 まずは前作「トップガン」を観ることを
 お薦めします。
 そして、何より
 この映画は映画館で観て下さい。
 ちなみにこの映画のパンフレットは
 都内の映画館では売り切れが続出だそうです。

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  月に一度の読書会、
  今月6月の読書会で
  何人かのメンバーの興味をひいたのは
  この本だったかもしれません。
  河合塾の世界史の先生である
  神野正史さんが監修した
  『教養として知っておきたい 地政学』。
  読書会が終わったあと、
  何人かが図書館に予約しましたと
  言っていました。
  私もその一人。
  自分ではなかなかこういう本を
  手にすることがないのですが
  読書会という集まりのおかげに
  自分があまり知らないジャンルの本も
  知ることができて
  いつも楽しみにしています。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  まずは知ることが大事                   

 「地政学」という言葉を最近特に耳にすることが多くなった。
 河合塾の人気世界史講師の神野正史先生監修のこの本によれば、「地政学」というのは国際政治学の一分野で、地理的な側面から国家間の関係を読み解こうとする学問で、最近のロシアによるウクライナ侵攻は何故起こったのかといった問題や中国による海洋進出の要因など、そうかこういうことだったのかと、さらに世界地図を見たくなること間違いない。

 この本は2018年に刊行されているが、すでにウクライナの問題が書かれていて、ロシアとウクライナの関係はすでにその頃には問題視されていたことがわかる。
 その点だけを取り出せば、ウクライナはロシアにとってヨーロッパとの緩衝地帯であって、そこがヨーロッパ側についてしまうとロシアにとっては脅威だとある。
 さらには、ロシアを嫌うウクライナの国民感情ということも記述されていて、ウクライナへの侵攻は確かに2022年に始まったが、すでに火種は十分にあったことがわかる。

 では、それなのに世界は何故何もしなかったのか。あるいは、できなかったのか、が実は問題なのだと思う。
 確かに新型コロナウイルスの世界的なパンデミックで、世界中が紛争どころではなかったのかもしれないが、外交努力というならば、現在のような事態を避けるための用意と知恵が必要だったはずだ。
 そのためにも「教養」としてまず「地政学」のこの本を読んでみるのもいいだろう。
  
(2022/06/24 投稿)

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 谷川俊太郎さんといえば
 現代日本を代表する詩人です。
 その一方で
 たくさんの絵本もつくってきました。
 そんな谷川俊太郎さんの絵本の世界を特集した雑誌が
 今本屋さんに並んでいます。
 絵本のある暮らし「月刊モエ MOE」7月号です。
 表紙はNoritakeさんの描いた谷川俊太郎さんの似顔絵イラストで
 つい手が伸びてしまいました。
 今回の「雑誌を歩く」は

   『わたし』から『ぼく』まで 谷川俊太郎の絵本

 という大特集の「月刊モエ MOE」7月号(930円)です。

  

 まずは特集のリード文から。

    90歳を迎えた詩人の谷川俊太郎さん。
    これまでに手がけた創作絵本は半世紀でおよそ190冊。
    翻訳絵本を加えると400冊近くになります。
    (中略)
    最新インタビューでつづる、谷川俊太郎の絵本クロニクルです。

 ね、読みたくなったでしょ。
 ちなみに
 谷川俊太郎さんは1931年12月15日の東京生まれ。
 ひつじ年生まれです。
 「クロニクル」というのは「年代記」で
 今回の特集も谷川俊太郎さんの生まれた年から
 年代ごとに記事が書かれています。

 谷川さんが絵本を最初に作ったのは
 1971年の『まるのおうさま』。
 40代の頃。
 インタビューで「絵本をはじめたきっかけは?」と問われて
 「詩だけじゃ食っていかない(笑)」といいつつ
 「詩という言葉だけで出せないものを、
 絵が加わることで第三の分野ができると思って」と
 真面目に答えています。
 このインタビューでは
 谷川さんの作品に絵を描いた5人の作家についても
 語っています。
 その5人は、
 長新太さん、和田誠さん、瀬川康男さん、堀内誠一さん、元永定正さん。
 和田誠さんの大ファンの私とすれば
 もうそれだけで大満足。

 今回の特集では
 最近谷川さんの絵本で多い
 「過去に書かれた詩を絵本にする試み」にも触れています。
 まさに永久保存版の「谷川俊太郎の絵本」といえます。
 そして、
 今号の特別ふろくに「二十億光年の孤独」クリアファイル
 ついているのも、うれしい。

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  今日は
  文春文庫の4月の新刊として出た
  東海林さだおさんの『サクランボの丸かじり』の
  紹介です。
  「丸かじり」シリーズ文春文庫版の紹介は
  「文庫本解説」を紹介することに決めていて
  今回「解説」を書いているのは
  漫画家の丸岡九蔵さん。
  文春文庫の担当さんから
  今度東海林さだおさんの「丸かじり」シリーズ
  「解説」を書いてくれませんか、なんて
  頼まれたら、
  うれしいやらおっかないやら
  汗どぉーっと、涙ぽろりには
  なるのではないかな。
  それぐらい、これは名誉なお仕事ですゾ。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  文庫解説文の書評 - これからも読んでいく所存です                   

 おなじみ東海林さだおさんの「丸かじり」シリーズの文春文庫版の最新巻。
 2019年に単行本となったシリーズ42作目。
 このシリーズを文春文庫版で読む楽しみのひとつが、文庫本についている「解説」。
 これまでにも多士済々、いろんな人が「東海林さだを讃」を書いてきましたが、今回は東海林さだおさんの母校早稲田大学の漫画研究会の後輩にあたる漫画家丸岡九蔵さんの登場です。
 後輩といっても、東海林さんが漫研に入部したのが1958年で、丸岡さんは2001年といいますから、丸岡さんは東海林さんにとって雲の上の人のような存在。
 そうはいっても丸岡さんの代表作が近未来SF立ち飲み屋漫画『陋巷酒家』というぐらいですから、50年近い時を隔てながらも、東海林イズムはつながっているのかもしれません。

 それに、丸岡さんの「解説」がとてもいい。
 まず、東海林さんが1976年に出した『ショージ君の青春期』をテキストに、大先輩の大学生活と自身のそれとを重ね合わせるところから始まります。
 そのあとに、本巻のエッセイからいくつか引用し、東海林さんの「観察眼・発想力・描写力」をみごとにまとめ上げるなど、なかなかなもの。
 最後は「東海林先生が切り開いている道をはるか後ろから追いかけてゆく所存」と、謙虚にまとめあげたのも点数アップにつながる。
 東海林さんもいい後輩をもって、うれしいだろうな。
 何しろ「所存」なんて、なかなかいえません。
  
(2022/06/22 投稿)

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  今日は二十四節気のひとつ、
  夏至

     地下鉄にかすかな峠ありて夏至       正木 ゆう子

  昼間が一年中で最も長い日と
  誰もが教わったことがあると思います。
  つまり、
  それは同時にこの日を境にして
  昼が短くなってくるということ。
  そうやって
  日日の生活が繰り返し営まれていきます。
  今日は
  国書刊行会から復刻版として刊行されている
  和田誠さんの
  『愛蔵版 お楽しみはこれからだ PART2』を紹介します。
  和田誠さんが映画雑誌「キネマ旬報」に連載していた頃から
  ずいぶん歳月が流れました。
  あの頃は人生の峠を目指して
  えっちらおっちらのぼっていました。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  みんな和田誠さんが大好きだった                   

 2022年1月から刊行が始まった、和田誠さんのこのシリーズは「愛蔵版」とはなっているが、最初に刊行された当時のままの完全復刻本として貴重だ。
 シリーズの2巻めとなるこの本の場合、最初の刊行が1976年だからほぼ半世紀前で古本屋でもなかなか見つけられないのではないだろうか。
 だから、こうして国書刊行会が復刻本で出してくれて、きっと若い読者は喜んでいるに違いない。

 唯一当時の仕様と違うとすれば、今回の出版では付録の「栞」がついていることだ。
 「PART2」では、音楽プロデューサーでもあるミュージシャン小西康陽(やすはる)さんが一文を寄せている。
 小西さんのプロフィールをみると、音楽活動がメインだが、実は大学卒業時には日活の助監督試験を受験したほどの映画ファンでもあって、学生時代は名画座を見まくって年間200本ほどの映画を観ていたらしい。
 1959年生まれの小西さんだから、リアルタイムで「キネマ旬報」に連載されていた和田誠さんのこのシリーズを読んでいたと推測し たりする。
 残念ながら、今回の「栞」にはそんなことは書かれていない。
 書かれているのは、、和田誠さんばりの小西康陽版の「お楽しみはこれからだ」で、川島雄三監督作品からの「名セリフ」が多いのも、なんだか当時の映画青年ぽくて、微笑ましい。
 ここにも、和田誠さんの教え子(!)が一人いた。
  
(2022/06/21 投稿)

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 先週私の描いた
 キュウリの花の絵手紙を
 恥ずかしげもなくお見せしましたが、
 本当に描きたかったのは
 こんな花。

  20220618_085807_convert_20220619092812.jpg

 ここまできれいに咲くと
 虫だって寄ってきます。

    過ぐるたび胡瓜の花の増えてをり        永島 靖子

 キュウリの花の黄色もかわいいですが
 こちらも可憐な黄色い花が咲きました。

  20220618_085547_convert_20220619092744.jpg

 マリーゴールドです。
 ナスコンパニオンプランツとして
 植えています。

 畑の土は栽培の合間あいまに
 リフレッシュすることがあります。
 冬の寒起こしもその方法のひとつ。
 夏はというと、太陽熱消毒をして
 土の中の細菌や雑草の種を駆除します。
 畝に水をいっぱい含ませて
 そこに透明のシートをかぶせて出来上がり。

  20220619_083043_convert_20220619093059.jpg

 写真二つの白っぽく見えている畝が
 土曜日(6月18日)につくった太陽熱消毒のエリア。
 手前の畝ではカブミズナの葉物(右側)と
 左側には芽がでたばかりのクウシンサイオカノリ
 みえます。

 こちらはエダマメの今の姿。

  20220618_090201_convert_20220619093001.jpg

 ネットいっぱいに茂っています。
 中をのぞくと
 かわいい莢ができているのがわかります。

 これは
 二度目の種を蒔いたインゲンの芽。

  20220618_101118_convert_20220619093031.jpg

 横にあるのは今収穫中のインゲンです。
 関西ではインゲンのことを
 一年で三回種が蒔けることから
 「サンドマメ(三度豆)」と呼ばれています。
 なので、まずは二度めの挑戦です。

 これはきれいに並んだ
 ミニトマト

  20220618_090025_convert_20220619092928.jpg

 早く色づいてくれないかな。

 このピーマン
 このあと収穫しました。

  20220618_090009_convert_20220619092903.jpg
  
 いただきまーす。

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プレゼント 書評こぼれ話

  今日は父の日

    父の日や常の朝餉を常のごと       山崎 ひさを

  この俳句のように
  いつもの日曜の朝を迎えて
  お父さんの方からやんわりと
  「あれ? 今日は何の日だったっけ?」なんて
  訊ねたりすることままあります。
  「そうか、父の日だ」と気づいてもらえばいい方で
  「???」なんて反応だったらがっかりです。
  今日は
  板橋雅弘さん文、
  吉田尚令さん絵の
  『パパのしごとはわるものです』を
  再録書評で紹介します。
  これを書いたのが2011年、
  つまり10年以上前の書評です。
  我ながらびっくり! です。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  野風僧                   

 河島英五が唄う「野風僧(のふうぞ)」という歌が好きだ。作詞は伊奈二郎で、「野風僧」とは中国地方の方言で「やんちゃ坊主」という意味らしい。
 「お前が二十歳になったら/酒場で二人で飲みたいものだ」という歌詞で始まるこの歌は、父親が息子にあてた応援メッセージだ。最後には「いいか男は 生意気ぐらいが丁度いい/いいか男は 大きな夢を持て」と繰り返される。
 板橋雅弘さんのこの絵本(絵は吉田尚令さん)に登場する「わるもの」が仕事のパパもお酒がまわってくると、なんだかこの「野風僧」を唄っているんじゃないかしらん。きっととっても下手だけど、しんみりさせているような気がする。

 学校の宿題で「おとうさんの仕事」を調べるために、ある日、パパの車にこっそり乗りこんだ「ぼく」。着いたのはプロレス会場でもある大きな体育館。
 そこで「ぼく」が見たのは、正義のレスラーにずるいことをする覆面レスラー「ごきぶりマスク」。でも、なんだかパパに似てる。そう「ぼく」のパパは悪役レスラーだった。
 「パパはわるものだったんだね」と涙を流す「ぼく」に、パパはこう言った。
 「わるものがいないと、せいぎのみかたがかつやくできないだろう? みんなのために パパはがんばってわるいことをしてるんだ」って。
 夕日のなかを一緒に帰る父と子は、なんだかとても仕合せそうだ。

 だって、なかなか「おとうさんの仕事」ってわからない。
 大きなビルで働いていても、何をしているのかわからない。電話にむかって頭をさげているって変だし、パソコンをどうしてにらんでいるのかもわからない。それに比べたら、「ぼく」のパパの仕事はとてもわかりやすいい。覆面はしているけれど、りっぱに「わるもの」している。
 「ぼく」はきっと胸はっていいんじゃないかな。「おとうさんのしごと」がきちんとわかるってことに。パパもきっと胸はっていいんじゃないかな。「わるもの」に理解をした息子がいるってことに。

 「いいか男は 大きな夢を持て/野風僧 野風僧 男は夢を持て」
 今夜もいいお酒にちがいない。
  
(2011/05/29 投稿)

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 昨日紹介した
 石井妙子さんの『魂を撮ろう ユージン・スミスとアイリーンの水俣』は
 水俣に住み、水俣病に苦しむ人々に寄り添い、
 その写真を撮り続けた
 写真家ユージン・スミスとその当時妻であったアイリーンの姿を
 描いたノンフィクションですが、
 ユージン・スミスと水俣の関係を知ったのは
 この本が最初ではありません。
 きっかけとなったのは
 2021年秋に公開された
 映画「MINAMATA-ミナマタ-」でした。
 この映画はキネマ旬報の第95回ベストテンで
 外国映画部門の第9位に入るなど評価も高く
 新作レンタルで観ました。
 今日は
 映画「MINAMATA-ミナマタ-」の話です。

  

 この映画の話に欠かせないのが
 主演で制作にも名を連ねたジョニー・デップのこと。
 何しろ世界最大の映画スターの一人といわれる男優で、
 その主演作のきらびやかなこと。
 私の印象に残っているのは
 「シザーハンズ」(1990年)や「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズ
 あるいはティム・バートン監督作品の数々。
 そのせいもあって、
 ジョニー・デップってちょっと変わっている雰囲気をまとった役者のように
 思っていました。
 ところが、この「MINAMATA-ミナマタ-」では
 まるで見違えるほどで
 感心するばかり。

 もちろん映画は水俣病に苦しむ人々の姿を描きつつ
 アイリーンとのラブストーリーともなっていますが、
 石井妙子さんのノンフィクションを読むと
 ユージンたちが水俣に入る頃には
 そんな甘い関係ではなかったようです。
 映画的な脚色はいろんなところにあって
 例えばユージンたちが暮らす小屋が放火される事件などは
 実際とは違うようですし
 映画を観た人には
 石井妙子さんのノンフィクションを読むことを
 お薦めします。

 この映画を観るまで
 写真家ユージン・スミスのことも
 彼が撮った写真集『MINAMATA』のことも
 自分の国で起こった公害事件なのに
 何ひとつ知らなかったことに
 少し恥ずかしくもなりました。
 よくぞ映画化してくれたと
 思うばかりです。

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プレゼント 書評こぼれ話

  今日は
  石井妙子さんの『魂を撮ろう ユージン・スミスとアイリーンの水俣』を
  紹介します。
  書評にも書きましたが
  この本を読むきっかけは
  映画「MINAMATA-ミナマタ-」でした。
  それまで
  写真家ユージン・スミスのことは
  知りませんでした。
  映画を観たあと、
  図書館の蔵書から関連本を探していて
  この本を見つけました。
  2021年9月に出た本ですから
  映画を観てから
  読んだ人も多かったのではないでしょうか。
  明日は
  映画「MINAMATA-ミナマタ-」の話をしましょう。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  映画もこの本もよかった                   

 「読んでから見るか、見てから読むか。」
 これは1977(昭和52)年、森村誠一原作の『人間の証明』が角川映画として封切られた時のキャッチコピーだが、今でも十分活用できる。
 石井妙子が2021年に刊行したこの本を読むきっかけは、ジョニーデップが主演した映画『MINAMATA-ミナマタ-』を観たからで、つまりは「見てから読む」にあたる。
 ただ、石井のこの作品は映画の原作ではないし、映画が石井の作品によってできたものではない。
 石井の作品は水俣病で苦しむ水俣の人たちを取材し、その姿を写真として残したアメリカの写真家ユージン・スミスと当時彼の妻であったアイリーンの姿を追ったノンフィクションである。
 映画では二人の関係はラブストーリーのように描かれていたが、実際にはもっとドロドロした関係だったことが、石井の作品でよくわかる。
 もちろん、いろんな描き方があることはわかったうえで書くと、二人の愛憎をからめた方が映画は面白かったかもしれない。

 石井の作品ではアイリーンとユージン・スミスの、二人の出会いまでが二つの章で描かれている。ふたつの糸が交わることで、新たな出会いが、それが水俣であるのだが、生まれたといえる。
 そして、水俣の悲劇を石井は丁寧に描いていく。それを描くことで、ユージン・スミスたちがカメラのフィルムに撮ろうとしたものがより深く理解できる。
 二人はこのあと別れ、ユージンは1978年に59歳の生涯を終えることになる。
 石井はアイリーンとの長い会話を通して、ユージンと水俣に向かい合えたことを感謝して、本書を閉じている。
  
(2022/06/17 投稿)

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プレゼント 書評こぼれ話

  昨日紹介した
  田尻久子さんの『橙が実るまで』が
  あまりによくて、
  田尻久子さんがほかにも本を出しているのか
  図書館の所蔵を調べてみました。
  そうして見つけたのが
  今日紹介する
  『橙書店にて』。
  2019年11月に出版されていました。
  田尻久子さんは
  1969年生まれです。
  2001年にまずは雑貨と喫茶店「orange」を開店、
  そのあと隣で本屋さん「橙書店」を開業。
  「orange」の隣だから
  「橙」にしたとか。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  心が乾いたら読んでみよう                   

 いい文章は、水に似ている。
 無色透明、無臭。それでいて、時に甘く感じたり、苦くもなったりする。
 硬いものもあれば、やわらかいともいう。
 のどが渇いていてばいくらでも飲める。息をつきたい時は、とりあえず一杯で足りる。
 そんな水のような文章があれば、なんていい時間だと思う。

 この本の筆者である田尻久子さんは、熊本の路地裏にある「橙書店」の店主。
 本屋であり、喫茶店でもあり、ギャラリーでもあるが、大きな店ではない。
 30人も入れば、ぎっしり満員。そんな小さなお店。
 そんな「橙書店」だが、何しろあの村上春樹さんが朗読会をしたというから驚く。
 その顛末も「秘密の夜」と題して、この本に収められている。
 きっと、田尻久子さんという人の磁力のようなものが、いろんな人や猫(この本には猫のことを描いた文章がいくつも入っている)を引き付けるのだろう。
 そして、その磁力に漉されて文章が研ぎ澄まされている。

 田尻さんは文章を書くことの背中を押したのは、熊本の賢人と呼ばれた渡辺京二さん。
 ここにも、人のつながりがあった。
 そうして書かれた33篇の物語は、乾いた心にきっと染みわたるだろう。
 時には甘く、時には苦く。
 読み終わった時、きっと思うだろう。
 いつか熊本の路地裏に入り込んで、「橙書店」に行ってみたいものだと。
  
(2022/06/16 投稿)

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プレゼント 書評こぼれ話

  今日は
  田尻久子さんの
  『橙が実るまで』という随筆を
  紹介します。
  川内倫子さんの写真も入った
  この本は
  今年の3月に出たばかりで
  朝日新聞の書評欄で見つけました。
  田尻久子さんのことも
  川内倫子さんのことも
  知りませんでしたが
  田尻久子さんが本屋さんの店主だという一点の興味で
  手にとった本ですが
  これが大当たり。
  実に素敵な一冊でした。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  文章がきれいな風を呼んでくる                   

 「随筆」と「エッセー」の違いがよくわからない。
 「広辞苑」で「随筆」をひくと「見聞・経験・感想などを気の向くままに記した文章」とあるが、そのあとに「エッセー」とも書かれている。
 では、と「エッセー」をひくと、まず「随筆」とあって「自由な形式で書かれた思索的色彩の濃い文章」と、やや色合いが違う。
 特に区分けすることもないようだ。
 ただ、熊本で雑貨と喫茶の店「オレンジ」と「橙書店」という書店を営んでいる田尻久子さんの文章を読むと、なんとなく「随筆」といいたくなる。
 「なんとなく」は、気分である。

 この「随筆集」は、雑誌「SWITCH」に2018年から2021年にかけて連載されたものの単行本化である。
 田尻さんは熊本という地方都市の小さなお店の店主ではあるが、その活動は高く評価されていて、2017年には第39回サントリー地域文化賞を受賞している。
 そんな田尻さんだが、その文章には気取りがない。
 難しい語彙や持って回ったような言い回しなどは使われていない。
 文章はあくまでもやさしく、平易で、それでいて心に沁みてくる。

 この「随筆集」では懐かしい祖父母との思い出や幼い自分たちを置き去りにして去ったことがある母のこと、そして田尻さんが生きた土地の思い出などが描かれている。
 それはほかの誰のものでもない、田尻さん自身の話なのだが、何故か読者も懐かしさをおぼえる。
 写真は田尻さんの文章に合わせて、写真家川内倫子さんが自身の写真から選んだもの。
 素敵な一冊に出会えて、うれしい。
  
(2022/06/15 投稿)

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プレゼント 書評こぼれ話

  劇画家で映画監督の石井隆さんが
  5月22日、75歳で亡くなった。
  石井隆さんといえば
  最近は「ヌードの夜」や「GONIN」などで
  映画監督としてその名前を知る人は多いだろうが
  私にとっては
  1970年代に「名美」シリーズの劇画を描いた
  劇画家としての方がしっくりくる。
  それほどに「名美」は
  印象に残るキャラクターだった。
  日活ロマンポルノ
  「天使のはらわた」シリーズがあって
  何人もの女優が「名美」を演じたが
  結局は
  石井隆さんが描いた紙の上の「名美」には
  及ばなかった。
  今日は
  追悼の思いで
  石井隆さんの劇画集『名美・イン・ブルー』を
  紹介します。
  2005年に覚書のようにして書いていたものを
  今回改めて書き直しました。

  石井隆さん
  素敵な「名美」をありがとうございました。

  ご冥福をお祈りします

  

sai.wingpen  追悼・石井隆さん - 妻への詫び状                   

 石井隆は、映像へのこだわりを感じさせる作品を撮り続けている映画監督だ。
 しかし、私にとって石井隆というのは若い頃に衝撃を与えてくれた劇画家だという思いが強い。
 最初に石井の作品を読んだ時の鮮烈な印象を忘れられない。
 この本は、そんな石井の、70年代後半の作品を収録している。

 石井の作品はよくエロ劇画みたいにいわれることが多いが、そのすごさはその官能描写だけでなく、書き手のアングルの衝撃だった。
 当時石井のような視線で女性や性の場面を描いた劇画家はいなかった。
 石井の作品の中でしばしばビデオに映し出される男女の痴態が描かれているが、それ自体彼の官能が<見る>ということにこだわったいるのがわかる。

 この本には9篇の作品が収められているが、どの作品の主人公も名美という名がつけられている。
 石井作品における<名美>は記号だと思う。
 名美がOLであろうが女子高校生であろうが、彼の中では<名美>そのものが女性の代名詞であり、官能の代名詞でもあったのだろう。

 その名美は、巻末の「名美の憂鬱 私の憂鬱」と題された石井の短文によれば、彼の亡くなった奥さんにそっくりだったという。
 この短文が、亡くなった妻への愛情を感じさせて、とてもいい。
 石井が<名美>シリーズで人気漫画家になる一方で、エロ漫画家と卑下されて妻につらい思いをさせることに思い悩んでいたこととか、その結果漫画を描くことをやめてしまうこととか、官能を描くことに不自由な時代だったのだろう。
 これは、石井の<妻への詫び状>だ。
 この短文を読むだけでも価値のある一冊だといえる。
  
(2022/06/14 投稿)

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 関東は先週梅雨入りして
 連日どんよりした天気が続いています。

    大津絵の墨色にじむ梅雨入りかな       宇多 喜代子

  20220610_090359_convert_20220611172236.jpg

 そんな気候でも
 田んぼの稲を見ていると
 どこか心が癒されます。
 畑の周りに植えられているラベンダーの花も色づいてきました。

  20220610_121133_convert_20220611172425.jpg

 こちらはミント

  20220611_120237_convert_20220611172539.jpg

 なんとも爽やかなものです。

 私が借りている畑では
 コロナ禍ということもあって
 以前のような大掛かりのイベントはできなくなっていますが
 少人数参加で
 「絵手紙で暑中見舞いを作ろう」イベントがありました。
 そこで作った私の力作? です。

  20220611_172241_convert_20220611172651.jpg

 左の方はなんとなくトマトだとわかってもらえると思いますが
 右の方は多分判読不可でしょうね。
 これ、キュウリの花(のつもり)。
 野菜の栽培だけでなく
 こんなイベントで楽しく話ができるのも
 この菜園のいいところです。

 6月11日(土曜日)に
 最後の夏野菜の植え付けをしました。
 オクラ(左側)とモロヘイヤ(右側)です。

  20220611_112255_convert_20220611172459.jpg

 菜園での提供はなかったので
 第二区画で栽培します。
 第一区画の方には
 クウシンサイオカノリの種も蒔きました。

 夏野菜の生育は
 少し気温が低めなので心配ですが
 サンチュは絶好調。

  20220610_091308_convert_20220611172352.jpg

 ナスミニパプリカの間にあって
 かなり自己アピールしています。

 タマネギの収穫はおしまい。
 全部で16個採れました。
 この日採れた野菜はごらんのとおり。

  20220611_122505_convert_20220611172614.jpg

 ひときわでかいのがズッキーニ
 一週前の受粉がうまくいって
 大きく育ちました。
 長ナスもこの夏最初の実なので
 小さい時に採ってしまいます。
 こんなうれしい収穫を
 絵手紙にできたらもっといいのに、残念。

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プレゼント 書評こぼれ話

  今日は
  私が大好きな作家の一人
  桜木紫乃さんの絵本を紹介します。
  『サチコさんのドレス』。
  絵は、そらさんが描いています。
  といっても
  この絵本は桜木紫乃さんの物語の世界とは
  まったく違います。
  どちらかといえば
  北海道を基盤にして活動されている
  桜木紫乃さんならではの作品といえます。
  なので、
  桜木紫乃さんの文もかわいいし
  そらさんの絵もかわいい。
  そんな絵本です。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  あなたはおひめさま                   

 街なかで車いすで行ききしている人を見かけると、大変だなと思います。
 あの道は段差があるし、駅への階段は無理だし、エレベーターまでは遠いし。
 でも、実はもっと大変なことがあります。
 それが着替え。
 この絵本の裏表紙の折り返しに、札幌在住のスタイリスト石切山祥子さんがこんな文章を載せています。
 「世の中には洋服を着るだけでも大変な方がたくさんいます」と。
 スタイリストだから気がついたことかもしれません。
 車いすの方向けのウェディングドレスをデザインするといった、石切山さんの活動を絵本にしたのが、この一冊です。

 釧路生まれの直木賞作家桜木紫乃さんが文を書いて、札幌生まれのイラストレーターそらさんが絵を描いています。
 出版したのが北海道新聞社。
 この絵本はオール北海道で生まれた作品です。

 「サチコさん」はもちろん石切山祥子(さちこ)さんがモデルです。
 車いすで生活しているなっちゃんが結婚するというので、ウェディングドレスをデザインすることになりました。
 でも、あの裾が広がったドレスは車いすに車輪にからんでしまうかもしれません。
 サチコさんはいっぱい考えました。
 そして、ついに・・・。
 「ドレスはいつだって あなたを おひめさまにしてくれる」

 北海道から涼やかな風が届いたような絵本です。
  
(2022/06/12 投稿)

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 読書会のやり方にはいくつか方法があります。
 私が月1回参加している読書会は
 参加者それぞれが自身の読んで面白かった本を
 紹介する方法です。
 それとは別に
 一冊の本を参加者が読んで互いに感想を言い合う方法もあります。
 読書会に参加したいと考えている人は
 その会がどんな方法でしているか
 まずはお試し参加してみるのもいいでしょう。
 今日紹介する映画は
 後者の方法で本を読み合う4人の女性を描いた作品です。
 今日はそんな映画、
 「また、あなたとブッククラブで」の話です。

  

 映画「また、あなたとブッククラブで」は
 2018年のアメリカ映画です。
 何故か日本での公開は2020年となっていて、
 私は先日CS放送で観ました。
 アメリカ映画らしい
 ハッピーなコメディです。
 なんといっても
 出演している4人の女優がすごすぎます。
 ダイアン・キートン(1946年生まれ)、
 ジェーン・フォンダ(1937年生まれ)、
 キャンディス・バーゲン(1946年生まれ)、
 メアリー・スティーンバージェン(1953年生まれ)
 それぞれの女優さんが自身の年齢に近い役どころで
 しかもその個性が女優さんに合わせて作られていて
 くすりと笑えます。

 中でも私が一番びっくりしたのは
 キャンディス・バーゲンさん。
 キャンディス・バーゲンさんといえば
 1970年代に大活躍した女優で
 しかもその風貌は知的でシャープな印象でした。
 本当に久しぶりに彼女を見ましたが
 ちょっとふっくらして
 それでいてその役どころが判事というのですから
 やっぱりキャンディス・バーゲンさんは健在です。

 物語はこの4人が読書会に選んだ一冊が
 話題となった官能小説『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』で
 この本を読んだ彼女たちは刺激を受けて
 もう一度恋のアバンチュールに燃え上がるというというもの。

 こういう読書会、
 ちょっと危険で楽しそう。
 そういえば、キャンディス・バーゲンさんの相手役に
 リチャード・ドレイファスさんが登場。
 彼も1947年生まれで、さすがにうまい。

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プレゼント 書評こぼれ話

  新しい作家を知る、読むということは
  リアルタイムでその作家と
  世界を共有できることで
  なんとも楽しい読書体験といえます。
  高瀬隼子(じゅんこ)さんという作家が
  そんな一人になりそうで
  とっても楽しみです。
  今日は高瀬隼子さんのデビュー作
  『犬のかたちをしているもの』を
  紹介します。
  これで、
  高瀬隼子さんの単行本化されている作品を
  すべて読んだことになります。
  これからしばらく
  付き合っていこうと思います。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  ゾクゾクするようなタイトルではないか                   

 受賞には至らなかったが、自身2作めの中編小説『水たまりで息をする』で第165回芥川賞候補となった高瀬隼人子さんはその後も『おいしいごはんが食べられますように』という素敵なタイトルの中編小説を発表している。
 その原点といえるのがこの作品で、この作品で第43回すばる文学賞を受賞している。(2019年)
 受賞後の高橋源一郎さんとの対談で、高橋さんがこの作品のタイトルに触れ、選考委員全員が「いいね!」とほめていたことを明かしていて、高橋さん自身もタイトルを見ただけでいい作品という予感がしたと語っている。
 タイトルでまずは惹きつけるのが、高瀬さんの作品のひとつの特長になっているといっていい。それが、作家としての処女作から垣間見える。

 その次に高瀬さんの作品の特長といえるのが、奇妙な人間関係だろう。
 この作品では卵巣の手術を経て男性との性交渉がうまく行えない30歳の女性薫が主人公で、性交渉がないが何年も付き合っている男性がいる。
 その彼、郁也がある時連れてきたのが、彼の子供を妊娠したという女性。
 ところが、彼女は子供が生まれたら、薫と郁也で育てて欲しいという奇妙な提案をする。

 人間は社会的動物といわれる。つまりは、社会での関係性をどのような形で構築するかによって、生き方が変わってくるものだが、その関係性に正解はない。
 昔の概念でいえば、この作品の3人の関係性など成立するはずはないが、高瀬さんはそんな関係性から現代(いま)を描こうとしているような気がする。
  
(2022/06/10 投稿)

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  いつからだったか
  憶えていないが
  俳句を詠みだしたのは随分昔になります。
  ところが、
  短歌にはほとんど興味が向かなくて
  わずか14音の違いなのに
  手も足もでないような感覚でした。
  最近永田和宏さんの本などを読んだり
  新聞の投稿欄などを見ると
  短歌はもしかしたら
  とっても自由に表現できるのではないかと
  思うようになりました。
  そこで手にしたのが
  歌人の高田ほのかさん監修の
  『基礎からわかるはじめての短歌』。
  新しいことへのチャレンジです。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  まずは始めてみること                   

 本のタイトルでわかるように、この本は短歌を詠んでみたいと思っている人のための「基礎からわかる」入門書だ。
 そもそも日本の詩歌には短詩と呼ばれる文学があって、短歌・俳句・川柳がその主なもの。
 入門書であるこの本でも、この3つの短詩の違いが簡単にまとめられている。
 歴史的に古いのは短歌で、昔は和歌と呼ばれていた文芸だ。
 3つの短詩のもっとも大きな違いは、その音数。俳句と川柳が五・七・五に対し、短歌は五・七・五・七・七と14音多い。
 この14音多いことが、短歌をより主観的にしているのではないだろうか。

 入門書であるから、まず「本書の使いかた」を読んでおくことが大事。
 テーマごとに「例歌」があって「解説」が書かれている。
 作者の名前のない「例歌」もあるが、一方で与謝野晶子や北原白秋といった有名歌人の歌も取り上げられたりする。
 その「使いかた」がわかったら、ページを進めてみよう。
 最初の章が「短歌の歴史とルール」。このあたりはしっかり学習したいところ。
 次に「短歌をつくるコツ」があって、ここでは「取り合わせ」や「オノマトペ」、「比喩」といったことが学べるようになっている。
 そして、いよいよ「短歌の作成」になる。特に「短歌づくりの手順」など、初心者でもなんとか短歌らしい歌が詠めそうな気がしてくる。
 最後が「短歌が楽しくなる習慣づくり」。
 この本は、そんな習慣づくりの第一歩といっていい。
  
(2022/06/09 投稿)

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  今日は
  1984年に亡くなった漫画家ちばあきおさんの評伝
  『ちばあきおを憶えていますか』を
  紹介します。
  書いたのは
  ちばあきおさんの息子さんの千葉一郎さん。
  この本の副題に
  「昭和と漫画と千葉家の物語」とあります。
  ここでいう「千葉家」の著名人は
  漫画家のちばてつやさん。
  ちばあきおさんはちばてつやさんの弟です。
  表紙の漫画は
  ちばあきおさんの代表作「キャプテン」。
  この漫画を見たら
  ちばあきおさんのことを
  思い出す人もいるでしょうね。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  もちろん、覚えていますよ                   

 のちに「漫画の神様」と称されることになる手塚治虫が「新宝島」を出版したのが、1947年(昭和22年)だった。戦後漫画はそこから始まったといっていい。
 それから70年以上経ち、漫画世代もすでに何世代も経過したことになる。
 この本のタイトルにある「ちばあきお」は、昭和18年生まれで漫画家としてデビューしたのは24歳であるから決して早くない。まして、「キャプテン」や「プレイボール」といった作品で人気漫画家になるのは、30歳間近の頃だ。
 彼より早い世代の漫画家というと、兄ちばてつやがいる。
 兄てつやとは4歳違いだが、兄は20歳にして人気漫画家であったから、その違いは年齢の差以上に大きいといえる。

 ましてや、兄てつやには「あしたのジョー」という名作があり、その当時はあきおはまだ兄てつやのアシスタントでしかなかった。
 兄てつやを愛読した世代にとって、あきおは「ちばてつやの弟」でしかなかったかもしれない。
 もちろん、あきおの作品をリアルタイムで読んだ世代にとっては、ちばあきおは独立した漫画家だっただろうし、そういう点ではちばてつやとちばあきおとは全く世代の違う漫画家といっていい。
 ただ、あきお自身はそう考えたかどうか。
 やはり意識として、「ちばてつや」というビッグネームの重しがあったのではないだろうか。

 のち、あきおは酒におぼれ、漫画を描けなくなっていく。そして、41歳の時自死する。
 兄てつやの数多くの作品群に比べ、あきおの作品は少ない。
 けれど、彼の作品を愛するファンは多い。
 「ちばあきおを覚えていますか」はこの本の著者で息子一郎の思いだろうが、きっと「もちろん忘れてませんよ」という世代の人はたくさんいるだろう。
  
(2022/06/08 投稿)

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プレゼント 書評こぼれ話

  瀬戸内寂聴さんが亡くなって、
  最近またその著作がたくさん本屋さんに
  並ぶようになりました。
  その晩年、
  かつて不倫の関係にあった井上光晴さんの娘
  井上荒野さんの取材にも
  応じたのは
  この世に残しておきたいものという思いが
  あったのかもしれません。
  それが井上荒野さんの『あちらにいる鬼』で
  今日紹介する『生皮 あるセクシャルハラスメントの光景』は
  おそらくその作品の取材中に見えてきた
  テーマだったのではないでしょうか。
  かなり重いテーマですが。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  「恋する」を勘違いしてはいけない                   

 この作品の著者井上荒野の父親は、作家の井上光晴で、彼の晩年の姿を描いたドキュメンタリー映画が1994年の原一男監督によって出来上がっている。
 その映画には文学教室の講師を務め、多くの受講者が慕われる光晴の姿が描かれているし、荒野が父親と作家瀬戸内寂聴との不倫の関係を描いた『あちらにいる鬼』でも、講師として人気のあった光晴が描かれている。
 荒野の小説にしろ、原の映画にしろ、そこには光晴の様だけでなく、光晴に「恋する」女性受講者が多く登場する。
 そう、彼女たちは光晴に「恋して」、あるいはその感情は表には出てこない関係があったとしか思えない表情をしているのだ。

 荒野のこの小説には「あるセクシャルハラスメントの光景」とサブタイトルがついている。
 出版社の編集者をやめ、カルチャーセンターの講師としている月島光一、その彼に性交渉を強要されたことで悩み続ける咲歩という女性。
 行為自体は随分前のことで、咲歩はそのことで受講もやめ、新しい恋愛を経て結婚したが、月島に受けた行為はトラウマとなって彼女を苦しみ続ける。
 そして、ついに咲歩はその事実を告発する。
 その一方で月島を擁護する「恋する」女性たちも多くいる。
 彼女たちは月島に可愛がられることを請い、告発した咲歩を中傷しようとする。

 井上荒野がこの作品を書こうとした根底に、父光晴の姿があったことは間違いない。
 「恋する」受講者との間に何があったのか、荒野はそのことを暴こうとしている訳ではなく、男によって強引に生皮をはがされていく女たちを救済しようと願ったのではないだろうか。
  
(2022/06/07 投稿)

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 街のあちらこちらに
 季節の花あじさいが咲き始めました。

  20220604_143910_convert_20220604204532.jpg

 「歳時記」には「紫陽花」のほかに
 「額の花」として「額紫陽花」も季語として載っています。

     いつまでも一人娘や額の花      柴原 保佳

 土日の休日には
 朝の8時には畑に行って
 ズッキーニの受粉を行っています。
 この前の土日はうまく雄花雌花とも咲いていたので
 受粉はうまくいったかも。
 いつどの雌花に受粉させたかわかるように
 近くの葉の茎にしるしのテープを巻いておきました。
 今週末には収穫できるかも。

 今は春採り野菜の収穫時期です。
 タマネギは葉が倒れてきたら
 収穫のサインです。

  20220604_081412_convert_20220604204724.jpg

 タマネギは夏の季語。

    新玉葱研ぎしばかりに刃に応ふ        岡本 まち子
 
 いくつか収穫して
 そのうちの一つの薄皮をむくと
 真っ白。

  20220604_114118_convert_20220604204506.jpg

 新タマネギの香りが匂いたちます。

 今回初めて栽培したインゲン
 採り頃を迎えました。
 こんな風にさがって収穫を待ちます。

  20220604_081316_convert_20220604204254.jpg

 初収穫したキュウリ(写真上)と未成熟のズッキーニとともに
 記念写真です。

  20220602_143514_convert_20220604204222.jpg


 キュウリの本格的な収穫はまだまだこれからですね。

  20220604_082453_convert_20220604204329.jpg

 畝近くのキュウリの子供と花の取り合わせも
 なかなかいいものです。

 この日はジャガイモも収穫しました。

  20220605_113828_convert_20220605114700.jpg

 今回育てていたのは
 インカのめざめという品種。
 普通の男爵より小ぶりです。
 切ると確かに色が黄色く見えますね。

 そして、ニンニクも収穫。

  20220605_114031_convert_20220605114731.jpg

 畝から堀り出すだけで
 あの臭いがプーンと。
 ニンニク、強い。

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プレゼント 書評こぼれ話

  今日紹介する
  『えんどうまめばあさんとそらまめじいさんの いそがしい毎日』という絵本は
  今年1月に亡くなった
  児童文学者の松岡享子さんの
  遺作となった作品です。
  病床で「仕事がしたい」と原案を書き。
  絵本作家の降矢ななさんにその構想を話し、
  出来上がったのが
  この絵本でした、
  なんともほのぼのとした作品ですが
  松岡享子さんの思いが詰まった作品でも
  あるような気がします。
  子供だけでなく
  おとなの人にも読んでもらいたい
  そんな絵本です。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  暮らしを描いた絵本といっていい                   

 「まめまめしい」という言葉があります。
 児童文学者で今年(2022年)の1月に亡くなった松岡享子さんが原案を書いたこの絵本の中にも、えんどうまめばあさんとそらまめじいさんの二人が働きもので「まいにちあさからばんまで、くるくるとまめまめしくはたらいていましいた」と文章に使われています。
 たぶん、その「まめまめしく」から、主人公の働きものの夫婦が「豆」の名前で呼ばれているのだと思います。
 ただ、「まめまめしい」という言葉を漢字で書くと、「豆豆しい」とは出てきません。
 「広辞苑」によると、「忠実忠実しい」と書くようです。
 そして、その意味は「非常に誠実である」や「よく勤め働くさま」と出てきます。
 この絵本のおじいさんとおばあさんは、とても働きものですから、やっぱり「まめまめしい」二人なのです。

 ところが、この二人には一つだけ困ったことがありました。
 それは、何かをしていても他にやりたいことが見つかると、ついそちらの方に手をつけてしまうことでした。
 豆のツルが伸びてきたので支柱を立てないとと思いついて、畑に行くと草だらけ。
 なので、まず草とりをして、その次はその草をうさぎにあげようとうさぎ小屋に向かいます。
 あれれ、豆の支柱はどうしたのかな。
 こんな風に二人の生活はどんどん広がっていきます。
 豆の支柱を立てることを思い出したのは、夜中になってから。
 これでは「まめまめしく」にもなります。

 この絵本のはじめに、松岡享子さんのこんな言葉が載っています。
 ―「暮らす」ということが大事。いそがしく、たのしくね。
 松岡さんもきっとそんな風に暮らしていたのでしょうね。
  
(2022/06/05 投稿)

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 六月には雨がよく似合います。
 小椋佳さんの楽曲にズバリ「六月の雨」というタイトルの歌があります。

   六月の雨には/六月の花咲く
   花の姿は変わるけれど/変わらぬ心を誓いながら

 雨といえば
 雨傘。
 鬱陶しい雨でも色鮮やかな雨傘で歩けば
 心が弾みそうです。
 映画が始まってすぐ
 そんな色とりどりの雨傘がスクリーンを彩る映画があります。
 今日はその映画
 「シェルブールの雨傘」の話をしましょう。

  

 映画「シェルブールの雨傘」は
 1964年に公開されたフランス映画です。
 ミュージカルですが
 よくあるミュージカルと違って
 この映画はセリフがすべて歌でできています。
 音楽を担当しているのはミシェル・ルグラン
 主題歌は一度は聞いたことがあると思います。
 それぐらい大ヒットしました。

 監督はジャック・ドゥミ
 作品としても評価が高く
 第17回カンヌ映画祭でグランプリを受賞しています。
 そして、
 なんといってもいっても
 この映画でヒロインを演じたカトリーヌ・ドヌーブの美しさに
 圧倒されます。
 ヒロインの年齢は17歳ですが
 カトリーヌ・ドヌーブは少女の可憐さというより
 完成された美を感じます。
 ところが、この映画に出演した時の彼女は
 実際まだ20歳にもなっていない年齢だったことを知り
 驚きました。

 物語は戦争の徴兵によって引き裂かれる
 若い男女の物語です。
 たった一度の逢瀬で妊娠してしまったヒロインは
 戦地から手紙が途絶えた恋人を待てずに
 別の男と結婚してしまいます。
 ラスト、二人は偶然に再会します。
 「幸せ?」とたずねる女。
 「ああ」とこたえる男。
 結ばれることのなかった二人ですが
 互いに今の幸せに満足していることを確かめあう
 いい終わり方でした。
 でも、きっとたくさんの女性たちが
 涙したでしょうね。

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プレゼント 書評こぼれ話

  以前はNHKの大河ドラマ
  ほとんど興味がなかった。
  というより、1年間の連続ドラマを見続けることが
  なかなかできなかった。
  ところが、最近はそれが負担ではなくなり
  見続ければ
  それはそれなりに面白い。
  現在放映中の「鎌倉殿の13人」もそうで
  ついでに関連本も読みたくなって
  少しは鎌倉時代の誕生の頃には詳しくなったかもしれない。
  そんな時、
  本屋さんで見つけたのが
  井上靖の『後白河院』。
  大河ドラマで西田敏行さんが演じている人物。
  それで、つい読みたくなったのですから
  大河ドラマで読書の幅も広がります。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  日本国第一の大天狗の生涯                   

 井上靖といえば、昭和を代表する作家の一人だ。
 昭和25年に『闘牛』で第22回芥川賞を受賞し、その後自伝的小説『しろばんば』『あすなろ物語』や『天平の甍』といった歴史小説、『敦煌』などの西域小説と、その活動の幅は広い。さらにいえば、井上は生涯詩を書き続けた詩人でもあった。
 そんな井上に、2022年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で俳優の西田敏行が熱演している後白河法皇を描いた歴史小説がある。
 それが昭和47年に刊行された『後白河院』とタイトルのついたこの作品である。

 物語はそれぞれ証言者が違う四つの部で構成されている。
 時代時代で後白河院の表情が違うように、ましては平家の時代から源家の時代に移ろうとする際の討つものがたちまち追われる側になるといった目まぐるしい采配をして、後に源頼朝から「日本国第一の大天狗」と揶揄されるほどの人物であるから、院を見る証言者の眼も様々といっていい。
 証言者が違うものも、順にたどれば天皇になるところから法王として権力を握っていく過程、さらには武家の時代にはいったのちの崩御まで、院の生涯が巧みに描かれているのは、さすが井上の筆力の確かさをいえる。

 特に面白かったのは、第一部で、ここでは若い後白河が歴史の渦に巻き込まれていく保元と平治の乱が描かれている。その渦が収まったあと、後白河が浮かびあがる姿が活写されている。
 読み応えのある歴史小説だった。
  
(2022/06/03 投稿)

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プレゼント 書評こぼれ話

  今回の本屋大賞
  逢坂冬馬さんの『同志少女よ、敵を撃て』が
  選ばれましたが、
  本屋大賞には「発掘部門」というのがあることを
  今回初めて知りました。
  そこに選ばれたのが
  今日紹介する
  吉村昭さんの『破船』。
  推薦した書店員さんは
  「衝撃的です。(中略)
  2020年、海の向こうからやってきたウイルスが現在も続いている今なら、
  この本の“恐れ”の意味も時代を超えて理解できる恐怖として、ぜひ紹介したい一冊」と
  書いていました。
  確かに、怖い。
  それでも読ませるのは
  さすがに吉村昭さんならでは、です。

  じゃあ、読もう。

  

sai.wingpen  本屋大賞「発掘部門」で「超発掘本!」に選ばれた作品                   

 2022年本屋大賞「発掘部門」で「超発掘本!」に選ばれた、吉村昭の長編小説。
 「発掘部門」というのは、「2020年11月30日以前に刊行された作品のなかで、時代を超えて残る本や、今読み返しても面白いと思う本」から書店員さんがこれは!という一冊を推薦し、実行委員会が選出する本屋大賞の一部門だ。
 吉村のこの作品は1982年に筑摩書房から刊行され、85年に新潮文庫の一冊に加えられたもので、年数でいえばりっぱに「発掘部門」に入る。
 さらに歴史小説作家として定評のある吉村の数多くの名作群には、おそらく、あまり知られることのない作品としても「発掘」された意義は大きい。

 物語は北の海に面した貧しい村が舞台。
 その貧しさはほとんど食べるものにさえ不自由する有様で、村人は娘を売ったり、時に世帯主である男でさえその労働力を売りに出すこともある。
 主人公の伊作の父もまた3年という期間、家を留守にし、成人にも満たない彼が、母とともに幼い弟妹の生計をみることになる。
 そんな貧しい村に、隣村には知られてはならない秘密がある。
 それが「お船様」という風習。
 つまり、村の先の海で難破した船からその積み荷を奪い、村人で分けてしまうというもの。昔からその都度、村人はそうして生き延びてきた。
 だが、ある時やってきた「お船様」はとんでもない不幸を村にもたらすことになる。
 それは疫病。

 物語の前半で村の貧しさや生活の様子が丁寧に描かれることで、後半の災厄の悲劇が高まっていく。
 吉村らしい、簡潔な文章表現が、あまりにも切ない。
  
(2022/06/02 投稿)

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 今日から6月

    六月を奇麗な風の吹くことよ      正岡 子規

 6月というと梅雨のジメジメした気分を思い浮かべますが
 子規のこの俳句の「奇麗な風」も
 6月という季節をよく言い表しています。
 今日は、昨日のつづきで
 私の「小さな習慣」、英会話学習の話です。

 この4月から
 NHKラジオの「中学生の基礎英語 レベル1」を聴いていることは
 前にも書いたと思います。

  

 中学生1年生が習うような学習レベルです。
 月曜から金曜まで、毎回15分の放送。
 15分のNHK朝ドラを毎日見ているのだから
 同じ時間のラジオ講座だって聴けないはずはない。
 しかも、今回初めて知ったのですが
 ラジオ放送といっても
 ラジオがなくても聴けるのです。
 私はいま「らじる★らじる」というアプリの
 「聞き逃し」コンテンツで聴いています。
 テキストを見ながら聴いて、
 その翌日には駅までの通勤時間を利用して聴いています。

 さらに、
 先月5月から
 スピーキング特化型のラジオ講座「英会話タイムトライアル」まで
 始めました。

  

 これはわずか10分の講座というのが魅力で
 今年で10年も続いている番組だそうです。
 昨日紹介した『小さい習慣』によりぴったりの
 10分間です。

 それにしても
 世の中便利になっていて
 こんなことならもっと早く
 ラジオ講座にチャレンジしとけばよかったと
 早くも捕らぬ狸の皮算用っぽい。

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