01/31/2023 江戸一新(門井 慶喜) - 江戸はいかにして「大江戸」となっていったか

「大江戸捜査網」という人気テレビ時代劇がありました。
そのタイトルにある「大江戸」、
もちろん今の東京のことですが、
徳川家康がここに入府した頃は単なる「江戸」だったそうです。
では、いつから「大江戸」になったのか。
『家康、江戸を建てる』や『東京、はじまる』などの作品がある
直木賞作家の門井慶喜さんの『江戸一新』を読めば、
「江戸」が「大江戸」に変貌するさまがよくわかります。

江戸の町を火事が襲います。
のちに「振袖火事」とかとも呼ばれる「明暦の大火」。
この時に江戸城の天守も焼け落ちてます。
その後の江戸復興の担い手となったのが、老中松平伊豆守信綱。
信綱は埼玉の川越藩の藩主でもあり、
才知に長けていたので「知恵伊豆」とも呼ばれていたそうです。
門井さんのこの長編小説は、この信綱が主人公。
おそらく歴史小説という範疇にはいるのでしょうが、
かなり創作めいた箇所もあって、
逆にそれがエンタテインメントになって面白く読めます。

武家の移転を進めたり、隅田川に橋を架けたり。
そういう復興施策が江戸の町をさらに大きくしていくことになります。
つまり、「江戸」が「大江戸」に変わっていくきっかけとなります。
門井さんは信綱にこんなことを思わせています。
「どうかして自分の生前よりも死後のほうが少しでも結構な国であるようにしたい」
今の政治家に、この信綱の気概があるのでしょうか。

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01/30/2023 福だるま作り 後編 - わたしの菜園日記(1月29日)

関東地方は雪こそありませんが、寒い日が続いています。
そんな中、近くの公園で水仙の花を見つけました。

水仙は春の花のイメージもありますが、冬の季語。
水仙のひとかたまりの香とおもふ 黒田 杏子
今回の寒波で
しきりに耳にしたのが、水道管の凍結。
凍結防止にタオルなどを巻き付けてと
予防方法を見た人も多いと思います。
畑の水道にも
写真のように凍結防止がなされていました。

こういう細かいところまでケアしてくれるのは
やはりうれしいですね。

今回は色付け。
写真のように先週紙ねんどで作っただるまに
竹串にさして色をつけていきます。

竹串を使うのは、手に絵の具がつかないようにするため。
なかなか手際よく、ということにはなりませんでしたが、
色付けが終わっただるまがこちら。

緑のものはソラマメを、
黄色いものはトウモロコシをイメージして
作りました。
でも、そう思っているのは自分だけでしょうね、きっと。
まわりにあるのは、
今回のイベントに参加したほかの人たちの力作。
みなさん、お上手。

こういうイベントで初めての人とも話ができたりするのも
こういう貸し農園の楽しみでもあります。

先日風が強い日があって
ソラマメの苗がなんだか倒れているのにはびっくり。

暖かくなってきたら、
ちゃんと起き上がるでしょう。
だるまさん、転んだ! じゃなく、
ソラマメの苗さん、転んだ! でした。

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01/29/2023 ゆきのひ(佐々木 潔):再録書評「雪かきは大変です」

十年に一度といわれる寒波に
日本列島がすっぽり覆われ、
毎日寒い日が続きます。
『歳時記』のなかには「寒波」も「厳寒」も
冬の季語に入っています。
厳寒の駅かんたんな時刻表 仲 寒蝉
私が住んでいるところは
おかげさまで雪にはなりませんでしたが、
ニュースなどで雪の様子などを見るたびに
雪国で暮らす人たちの大変さを思います。
そんな季節にふと読みたくなる絵本があります。
佐々木潔さんの『ゆきのひ』。
今日は2016年1月に書いたものの
再録書評で紹介します。
じゃあ、読もう。

雪というのはセンチメンタルですが、時に過酷でもあります。
特に雪のほとんど降らない都会の人にとって、雪はあこがれのようなもの。降ってきたら、子どもたちの歓声が聞こえてきます。
でも、雪国の人にとっては屋根の雪下ろしとか日々の生活に重くのしかかってきます。
雪が降ってきたら、空を見上げて、雪国の人たちのそんな生活に少しは思いをはせてみるのもいいかと思います。
この絵本のように。
この作品で作者の佐々木潔さんは講談社絵本新人賞を受賞しています。(1980年)
絵本を読むと、雪国の小さな駅の、雪の日の様子が淡々と描かれています。佐々木さんはきっとそんな世界で育ったのだろうと思ってしまいましたが、作者のプロフィールには東京生まれとあります。
東京で生まれて育っても、こんなにうまく雪国の生活を描かれるのですね。
雪にはそんな力があるのかもしれません。
雪が降り続く駅の朝。駅員さんの仕事は、まずホームの雪かき。お客様が滑ったりしたら、危ないですからね。でも、この駅には都会の駅のようにたくさんの利用者がいるわけではありません。
たった4人。
でも、この駅がないと、この人たちは困ってしまいます。
彼らが行ってしまうと、次は小荷物の送り出しです。
都会に住む子どもたちに故郷のお母さんから何か送ってあげるのでしょうか。
貨物列車が駅に到着しました。
小さな駅に、新しい荷物が届きました。この中にはどんなものがはいっているのでしょう。
雪は静かに、静かに、降り続けます。この絵本には文はついていません。
読者は静かに雪の音を感じればいいのです。
駅員さんは朝の乗客が帰ってくるまでに、またホームの雪かきです。
やさしい駅員さんです。
そして、夜になりました。どうやら、雪もやみました。空には大きな三日月が。
きっと音も消えた、静かな夜でしょう。
こんな素敵な「ゆきのひ」を、東京で生まれた佐々木さんはどうして描けたのでしょう。
きっと、雪の日に降ってくる空を見続けたのではないかしら。
(2016/01/24 投稿)

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01/28/2023 冬に観るならこの映画 - 映画「ある愛の詩」の話

『冬の本』を紹介しました。
あの本では著名な人たちが自身の「冬の本」を紹介するもので、
本ができるのではあれば、
きっと映画でも集められるような気がします。
「冬の映画」。
そんなアンソロジーがあれば、
一人くらいはこの映画を選ぶのではないかな。
今日は「冬の映画」、
「ある愛の詩」の話です。

日本での公開は1971年3月。
タイトルは、まさか知らない人はいないと思いますが念のため、
「あるあいのうた」。
「詩」を「し」ではなく、「うた」と読ませるのが結構流行った時代。
原作はエリック・シーガルで、原題はずばり、『Love Story』。
映画も本も大ヒットしました。
映画の方は監督がアーサー・ヒラー。
主人公の富豪の息子オリバーをライアン・オニールが、
その恋人ジェニーをアリ・マッグローが演じています。
冒頭、雪のセントラル・パークのベンチに腰かけたオリバーの姿に
フランシス・レイの甘く切ない音楽が流れてきます。
映画はここから二人の出会い、恋、結婚、
そして哀しい別れと続いていくます。

愛とは決して後悔しないこと。
今週NHKBSで放映されているのを観たばかり。
映画公開から50年以上経ちますが、
今観てもジンときます。

日本で公開されたのが1971年3月。
大阪でのロードショーは記憶が正しければ、
道頓堀にあった松竹座。
大きな劇場です。
そこに当時16歳になったばかりの私は
ひとり! でこの映画を観にいったのです。
まわりは当然カップルばかり。
何がうれしくて、そんなところにのこのこと出かけていったのか。
今思い出しても、映画以上に泣けてきます。

雪のシーンが多く、それがまた切ないんです。
この映画、観るなら絶対冬がオススメです。

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01/27/2023 黄色いアイリス(アガサ・クリスティー):書評「短編集の面白さは編集の力かも」

アガサ・クリスティーの読書も
50冊を超えてきて、
どれを読んで、どれが未読なのか、
忘れない覚書として
いつもアガサ・クリスティーの副本として利用している
霜月蒼さんの『アガサ・クリスティー完全攻略』の
作品名がはいった目次に
目印をつけています。
今回の『黄色いアイリス』は短編集。
霜月蒼さんの評価では
★★★で、
そのあたりが妥当かな。
この目次、次何読もうかと探すのにも
最適。
さて、次は?
じゃあ、読もう。

ミステリー小説は長編と短編となら、やはり長編の方が面白いという人が多いと思う。
作品自体も長編の方が多いのではないだろうか。
長編の場合、登場人物を多くできる分、事件の動機や背景が複雑となる。
読み応えとよく言われるが、その点において、長編の方が短編に勝るような気がする。
ただ、短編の場合であれば、短編集となって編まれることが多いので、いろんな味わいを楽しめる利点がある。
さすがにこれは長編にはない。
アガサ・クリスティーの『黄色いアイリス』という短編集は、1939年にアメリカで刊行された「The Regatta Mystery and Other Stories」から一部日本で作品を加えて編まれたもの。
「The Regatta Mystery」は本書の冒頭に収められた「レガッタ・デーの事件」の原題。
この短編集ではポアロ物が5篇、ミス・マープル物が1篇、パーカー・パイン物が2篇、それと幻想小説が1篇収められているから、てっとり早く、アガサの人気キャラクターの活躍を楽しめるようにはなっている。
日本版での表題作となっている「黄色いアイリス」は、ポアロ物の短編小説で、作品としてはうまく出来ている。ただ、やはり短編だと犯人探しの愉しみが半減してしまうようで、この作品にしてもたちまち犯人がわかってしまう。
短編なので仕方がないことだが。
この短編集で一番面白かったのは、「仄暗い鏡の中に」という幻想小説だったのは、ポアロファンにもマープルファンにも申し訳ないが、案外短編だからだったかもしれない。
(2023/01/27 投稿)

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01/26/2023 司馬遼太郎の時代 (福間 良明) - 「余談」の効用

それを意識しなかったはずはないだろうが、
福間良明氏による『司馬遼太郎の時代』は2022年10月に刊行されている。
ただ執筆に至る経緯を記された「あとがき」によれば、
当初は「司馬遼太郎の時代」から昭和史を再考してみたいということであったようだ。
ちなみに福間氏は大学教授で、専門は歴史社会学・メディア史であるという。

「昭和50年代」にみている。
本文に「司馬の歴史小説は明らかに、「昭和五〇年代」の大衆歴史ブームに重なり合っていた」とある。
なかでも、ビジネスマンやサラリーマンたちに支持されたと。
その要因として、NHK大河ドラマの原作に何作も取り上げられたことや、
その頃の文庫隆盛が司馬という名前を格段に高めたのではないかとしている。

そこに記された内容が「読者の教養への憧憬を刺激した」と見ている。
確かに司馬の作品には単に文学的な面白さだけではない、
「文学・思想・歴史方面の読書を通じて人格を陶冶しなければならない」という
教養主義にあこがれた人々にとって、
明らかに他の歴史小説家とは一線をひいていたといえる。

司馬遼太郎生誕100年にあたり、
面白く読めた一冊だった。

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01/25/2023 財布は踊る(原田 ひ香) - 長財布は金運を呼ぶか

財布がずらりと並んでいる光景をよく見る。
あれは、「お正月に財布を買うと金運があがる」と巷間言われているからで、
もしかして、年のはじめにこの本を読めば金運があがるのではと、
期待しないわけでもない。
何しろ書いたのが『三千円の使いかた』で大ブレークし、
今やマネー小説で人気沸騰の原田ひ香さんだし、
テーマが財布というのだから、
本当にご利益あるかもしれない。

「小説新潮」に発表した長編小説。
長編小説といっても、ひとつの財布が点々と人の手にわたっていく物語になっていて
6つの話で構成されている主人公はちがう。
最初の話では、念願だったルイ・ヴィトンの長財布を手にした女性が主人公。
しかし、せっかく手にしたヴィトンだが、夫の金銭感覚のなさからくる借金に
使いことなく手放すことに。
このルイ・ヴィトンの長財布が物語を動かしていく。
第二話では、この財布をメルカリで手にした男の生活が描かれている。
男もこのヴィトンを騙されて盗まれてしまう。
第三話で、盗んだ男が何故犯罪に手を染めたことになったかといったように、
物語が続いていく。
物語が続いている間に、第一話で夫の借金に悩まされた女性が巧みな金銭感覚で
いつしかりっぱな大家業になっていたりする。

それでは一体何が幸せであったのか、主人公の女性は結局
ブランドものの長財布にこだわらない自分に気づくことになる。
これは登場する多くの人たちの、成長物語だ。

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01/24/2023 狂気 ピアノ殺人事件(上前 淳一郎) - 隣人は選べない

憶えている人も少なくなっただろう。
のちに「ピアノ殺人事件」と呼ばれるようになった、
隣人間での騒音に起因した殺人事件である。
団地の上階に住む男が、
階下のピアノの音や窓サッシの開閉時の音がうるさいと
二人の幼い命とその家の主婦を殺めた事件だ。
男は音に敏感な質だったようだし、
近隣の人からも孤立していたようだ。
男は裁判の結果、死刑を言い渡されるのだが、
死をのぞむ男の意思で控訴されず、死刑が確定したが、
まだその実行はなされていないという。

その事件のあらまし、男の歩んできた半生、裁判の様子、
男と同様に騒音に苦しむ支援者たちの運動など
ノンフィクション作家上前氏の筆は冷静にたどっている。
書かれたのは、事件から3年余り経った昭和53年(1978年)4月から6月にかけてで、
雑誌連載のあと同じ年の夏に単行本化されている。
上前氏はスポーツ、芸能、経済、事件など
幅広い題材を描いてきたノンフィクション作家で、
ちょうどこの作品を書いた頃は気鋭の新進作家だった。
だから、殺人を犯した男だけを非難するのではなく、
冷静に何故事件が起こってしまったのかを描いている。

最近これに類する隣人トラブルや音に起因する異議申し立てのような事柄が多く、
それは周辺とのコミュニケーション不足がもたらす不幸のように
感じたからだ。
良質なノンフィクション作品は多くのヒントをもたらしてくれたはずなのに。
隣人を選べない不幸は、令和の時代にあっても消えることはない。

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01/23/2023 福だるま作り 前編 - わたしの菜園日記(1月22日)

今週半ばには強い寒波が来るということですから
寒い国の人は厳重注意が必要です。
この時期がやはり一年中で一番寒い頃なんでしょう。
そんな季節に咲いていい香りを漂わせる花を見つけました。
蝋梅(ろうばい)です。

『歳時記』に「香りの良い黄色い花を下向きまたは横向きに開く」とありますが、
なるほど、見つけた蝋梅も下向きに咲いていました。
蝋梅は冬の季語で、臘梅とも書きます。
臘梅を月の匂ひと想ひけり 赤塚 五行

今は畑での作業も収穫もほとんどありません。
この時期は畑に来る人も少ないので
今年初めて「福だるま作り」のイベントがありました。
密を避けようと人数の制限がありますが
それでも10人ほどが集まって「福だるま作り」に挑戦しました。
材料は紙ねんど。
これで5センチほどのだるまをこしらえます。

私が作っただるまは左側のもの。(右は材料の紙ねんど)
トウモロコシをイメージしてこしらえたつもりですが、
うーむ、どうなのかな。
これを乾かして、来週色付けをします。
さてさて、どうなることか。

栽培している野菜にもあります。
これがそれ。

結球しなかったハクサイです。
栽培の時期をちょっと間違うと
結球しないものになってしまいます。
このハクサイ、もう少し暖かくなれば
トウ立ちするでしょうから、
そうならばナバナとして食べれるかなと
考えています。


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01/22/2023 アリューシャン・マジック(あべ 弘士) - あべ弘士さんこそ手品師かも

あべ弘士さんの絵本『アリューシャン・マジック』のタイトルにもある
アリューシャンがどのあたりにあるか、
探してみよう。
見つかったかな。
アラスカ半島からロシアのカムチャッカ半島にかけて連なる
約1,930キロメートルにわたって延びる弧状の列島が
アリューシャン列島と呼ばれています。

ラッコのぼうやに届きます。
この絵本で、そのマジックショーが楽しめるのです。
といっても、ここでのマジックは
自然界の生き物や気候が見せるなんとも不思議な光景。
まずは、山の山腹に残る雪の模様が怪しげ。
そのどれもが、まるで生きているかのよう。

鳥たちの羽ばたきも波のしぶきも、山々のこだまする風の音も
まるですべてが魔法のよう。
それは、生き物たちの息吹。地球の鼓動。

あべさんの絵はなんともおしゃべり。
たくさんのお話が聞こえてくるよう。
そんな不思議な絵本、そう、これこそマジック。

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01/21/2023 震災間もない被災地で - 映画「男はつらいよ 寅次郎紅の花」の話

阪神淡路大震災が起こってから28年の追悼の日でした。
その日、多くのニュースが当時の様子、
燃え上がる町、倒れたビル群、寸断された高速道路といった様を
報じていました。
それらを見ながら、
被災して間もないあの町で
一生懸命人助けをしていた男のことを思い出しました。
その男の名は、車寅次郎。
シリーズ第48作で、実質的に最後の作品となった
「男はつらいよ 寅次郎紅の花」は
震災のあった1995年12月に公開されています。
私のお宝の「男はつらいよ」の録画DVDで再見しました。
今日は、映画「男はつらいよ 寅次郎紅の花」の話です。

映画「男はつらいよ 寅次郎紅の花」は1995年の暮れに公開されていて、
映画の冒頭、おなじみの葛飾柴又のだんご屋で
さくら(倍賞千恵子)たちが「おにいちゃんどうしてるんだろう?」と
のんびりテレビを見ています。
そこに映っていたのが、
その年の1月に起こった震災の被災地。
なんとそこにあの懐かしい四角い顔が。
しかも、寅さん、時の総理村山首相のそばでなにやら話していたり。
もちろん、映画ならではの合成ですが、
よくできていました。

想い人の泉ちゃん(後藤久美子)の結婚式をぶっ壊して
傷心のまま奄美大島に立ち寄ります。
そこで、寅さんと暮らすリリー(浅丘ルリ子)に出会います。
あまりにも出来過ぎた再会ですが、
山田洋次監督の丁寧なつくりであまり違和感がありません。
寅さんとリリーってどういう関係なのか?
さくらたちも気になって仕方がないところ。
満男君の恋愛に寅さんたちの男女関係。
話は大掛かりですが、きちんとまとまっていて
いい作品です。。

まだ被災して間もない神戸長田の街を
寅さんが再訪する姿で終わります。
この映画公開の翌年の1996年8月4日、
車寅次郎を演じ続けてきた渥美清さんが亡くなります。
役者としての最後のセリフが、
この映画のラスト、被災された人たちへのこの言葉だったそうです。
あ~苦労したんだなぁ。え~、本当に皆さん、ご苦労様でした。

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01/20/2023 装幀百花 菊地信義のデザイン(菊地 信義) - あの斜体の文字に魅かれて

芥川賞は、佐藤厚志さんの『荒地の家族』と井戸川射子さんの『この世の喜びよ』、
直木賞は、小川哲さんの『地図と拳』と千早茜さんの『しろがねの葉』。
芥川賞直木賞ともに2作の受賞で、驚きました。
なんか大盤振る舞いみたいですが、
新しい書き手に門戸を開くとしたら、それもアリかな。
かつて、多くの芥川賞直木賞の単行本化の際に
装幀を担当した人がいます。
それが、菊地信義さん。
今日は芥川賞直木賞受賞のお祝いに
菊地信義さんの『装幀百花 菊地信義のデザイン』を紹介します。

2022年3月28日、78歳で亡くなっています。
この本は、菊地さんが講談社文芸文庫の創刊以来、
実に1300点余の文庫デザインの中から選ばれた作品が
カラー版で紹介された「決定版作品集」です。
菊地さんの装幀した本を見かけないことがないほど、
菊地さんは文芸文庫に限らず、
数多くの装幀を手掛けてきました。
その数、なんと1万5千点以上といいますから
すごいものです。

なので、表紙の装幀で、これは菊地さんの作品だとすぐにわかったものです。
そのほかにも、「変形」であったり、「図像」であったり、
「字体」に変化をつけたり、「構成」では余白を生かしています。
「視覚的な効果で、読んでみようとかと思う心をゆする。」は、
菊地さんのエッセイからの一文。
菊地さんの装幀に心を揺すられて、読んだ本もたくさんあります。

考えていた人だから、
菊地さんの装幀には淀みがないのです。

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01/19/2023 無名(沢木 耕太郎) - NHKのインタビュー番組を見て

ノンフィクション作家沢木耕太郎さんのインタビュー番組が
放送されました。
沢木さんの最新作『天路の旅人』の刊行に合わせて
沢木さんの人生観などが語られていきます。
その後半、
沢木さんの父のことも語られます。
沢木さんには、その父の最後の闘病の姿を描いた作品があります。
『無名』です。
そこに、父のことがこう記されています。
確かに、父は何事も成さなかった。
世俗的な成功とは無縁だったし、中年を過ぎる頃まで
定職というものを持ったことすらなかった。
ただ本を読み、酒を呑むだけの一生だったと言えなくもない。
無名の人の無名の人生。
だが、その無名性の中にどれだけ確かなものがあったろう・・・。
そんな父の生き方に沢木さんは今強く魅かれている。
そして、私はまた沢木耕太郎さんの『無名』を読んでみたいと思ったのです。

調べると、その年のこの日も日曜日で
ちょうど今年と同じ曜日の周期でした。
沢木さんの父以上に、私の父は無名であり、
町の一市井人でしかありません。
しかし、どれほど無名であっても
沢木さんにとって父は唯一無二であるように
私にとっての父もかけがいのない人です。
沢木さんのように父と映画館にはいったこともなければ
凧を一緒にあげたこともない。
お酒は吞みましたが、本は読まなかった。
けれど、父はとてつもなく優しかった。

私にとっては
私と私の父とのことを思い出させてくれる
貴重な一冊だということが
今回の再読でよくわかりました。

単純なことの繰り返しで、その中で自分が充足している。
その繰り返しというのは何か僕は尊いもののように思えるんです。
私の父こそ何も成しえなかったかもしれませんが、
それでも私には正しい父としてあり続けています。

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01/18/2023 底惚れ(青山 文平) - この時代小説に底惚れした

第154回直木賞を受賞したのが2016年の年のはじめであったから
気がつけば随分以前のことになる。
その青山さんの作品をまた読んでみようと思ったのは、
この『底惚れ』という長編時代小説が
第17回中央公論文芸賞と第35回柴田錬三郎賞の文学賞W受賞という
快挙を達成したと聞いたからで、
一体どんな作品かまったく予備知識のないまま読み始めた。
それがどうだろうか。
おとなの恋愛小説というのはこういう作品をいうのではないか、
心の奥底に灯りがともるように感動した。

ただ字の持つ雰囲気でわかることもある。
心底相手を好きになること、そんな意味ではないかしら。
物語の主人公は、40歳を過ぎても、仕事もままならない男。
働いていた小藩のお役目で、隠居した藩主のお手付きとなった下女を
女の里へ送りとどけることになる。
ところが道中、女によって殺されかかるはめになる。
一命をとりとめた男は、女が人を殺めたと悔いてはいないかと
女の居場所を探し始める。
思いついたのが、岡場所。
女を探すために、男はひたすら働く。男が開いた店が評判となり、
いつか女が見つかるかもしれないかと。

この女は男が働いていた小藩の下女で、よく気がきく。
そして、ラスト。
一体この男にどんな運命が待ち受けているか。
タイトルの『底惚れ』の意味が、そこで明らかになる。

誰もが思うのではないか。
おいしい物語をいただいて、満足満足。

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小正月に行われる火祭りの行事を
「左義長」と呼ぶことを
久世光彦さんは向田邦子さんから教わったそうです。
どんど焼きどんどと雪の降りにけり 小林 一茶
関西では「どんど焼き」と呼ぶこの行事を、
もし私の記憶が正しければ
1995年の1月15日の日曜、
当時次女が通っていた大阪の小学校の校庭でしたはずです。
それから2日後の1月17日火曜の早朝、
関西に大きな揺れが起こります。
阪神淡路大震災です。
震災の記憶もありますが
不思議とその2日前の「どんど焼き」の光景を
思い出します。
あれから28年。
歳月は流れ、街の風景も大きく変わりました。
あれからももっと大きな悲しみがありましたが、
それでも人は前へと進もうとします。
今日はあの時の震災を描いた村上春樹さんの短編集、
『神の子どもたちはみな踊る』を
再録書評で紹介します。
じゃあ、読もう。

この本には1995年の阪神大震災を核とした六つの短編が収められている。
震災のあったその年の3月に地下鉄サリン事件が起こったことを、皆さんは覚えているだろうか。
村上春樹さんはあの悲惨な事件に誘発されて「アンダーグランド」というノンフィクションの快作を発表している。
そして、同じ年に起こった阪神大震災のことを描くのは、それよりももっと後のことになる。
この違いこそが、村上春樹さんが故郷神戸の悲劇を描くことの心の迷いを如実に表しているように思う。
やっと彼自身の心の傷が癒えようとしている。
六つの短編は「かえるくん、東京を救う」を極北とする春樹ワールドとあの名作「ノルウェイの森」に連なる「蜜蜂パイ」の間を揺れているようでもある。
そして、神戸の痛みとその癒しは「蜜蜂パイ」の最後の言葉に集約される。
「これまでとは違う小説を書こう(中略)誰かが夢見て待ちわびるような、そんな小説を」。
そこには村上春樹さんの決意のようなものが感じられる。
それは神戸の人たちへの激励の言葉でもある。
(2002/07/16 投稿)

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01/16/2023 まずは土とのふれない - わたしの菜園日記(1月13日)

最初の菜園日記になります。
今年も野菜の栽培や菜園での人とのふれあいなどを
書いていきます。
まずは、年明け最初の菜園の様子から。

今、私が借りている菜園には
100組以上の利用者がいます。
コロナ禍になって貸農園に注目が集まったということもあって
コロナ禍以降どんと増えました。
私がこの菜園に区画を借りたのが、
2015年の4月。
今年で9年めを迎えます。
新しい人とのふれあいもあれば、
残念ながらやめていく人もいたりします。
最初から続けている人とは
「長くなりましたね」なんて笑い合っています。

寒起こしをしました。

「歳時記」には寒起こしははいっていませんが
「冬耕」ならあります。
冬耕の一人となりて金色に 西東 三鬼
ただ、畝には冬越し野菜の栽培などがあって
空いている畝と畝間の土だけを起こしました。


この冬は暖かなので成長しているかと思っていましたが
そうでもなく
ほどほどの大きさでしょうか。
春になってうんと成長してくれることを
楽しみにしています。


大きめのものは収穫しました。
この日収穫したものに
プチヴェールがあります。
野菜の本なんかに載っているようなものが
うまい具合に収穫できました。

芽キャベツにしろ、
このプチヴェールにしろ、
きっと野菜づくりをしなかったら
知らずにおわった野菜です。
そう考えれば、
ちょっと贅沢な暮らしをしている
そんな気分になります。

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その意味を人にうまく伝えられないことがあります。
イギリスの作家コーリン・アーヴェリスさんが文を書いて
イザベル・フォラスさんが絵を描いた
『ばあばにえがおをとどけてあげる』という絵本には
「よろこび」という言葉の意味を
主人公のファーンという女の子がママに訊ねる場面があります。
ママが答えます。
「ひとのこころをしあわせにして、めをかがやかせるものよ」
なんて、素敵な答えでしょうか。

理由がありました。
ファーンが大好きなばあばが最近元気がないからです。
どうかしてばあばを元気にしてあげたい彼女は
町に出て「よろこび」を捕まえることにしました。
ファーンには町は「よろこび」に満ち溢れています。
子犬のにこやかな顔、小さな女の子の笑顔、池の水のきらめき、
でも、それを捕まえることはできません。
仕方ないので、ばあばに自分がみた話をしてあげました。
すると、どうでしょう、ばあばの顔に笑顔がもどりました。

それをとても大層なものに思っているかもしれませんが、
よく見ると、この世界にはたくさんの「よろこび」に満ちています。
この絵本に出会えたのも「よろこび」。
ちなみにこの絵本の原題は「joy」、「よろこび」です。

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01/14/2023 驚きのニュースでした - 映画「ロミオとジュリエット」の話

それが、これ。
1968年公開『ロミオとジュリエット』俳優2人、
ヌードシーンをめぐり児童虐待で製作会社を提訴
え? どういうこと、と思わず記事を読んでしまいました。
記事によれば、当時15歳だったジュリエット役のオリヴィア・ハッセーと
同じく16歳だったロミオ役のレナード・ホワイティングが
ヌードシーンを強要されたと制作会社を提訴したもの。
問題となったシーンはよく覚えています。
二人が最初の夜を、そして最後の夜を共に過ごして朝を迎える場面。
起き出そうとするロミオにジュリエットが今鳴いたのはナイチンゲールだから
朝はまだよというところ。
よく聞けば、それはヒバリ。
慌てて起きるジュリエットの豊満な胸が一瞬のぞきます。
この場面、ほんの一瞬なので、オリヴィエ自身の胸なのかどうかもよくわからない。
公開当時から気になる場面であったのは確か。
記事では、当初監督から、ヌードの撮影はなく、
肌色の下着を着用の上、撮影を行うと説明を受けていたが。
撮影の終盤になり、監督がヌードでなければとこだわりを示したという。
この作品の監督は名匠フランコ・ゼフィレッリ。
監督自身は2019年に亡くなっていますが、
果たしてこの訴訟どうなるのでしょう。
と、前書きが長くなりましたが、
今日は1968年公開の映画「ロミオとジュリエット」の話です。

何度も映画化されていますが、
なんといっても1968年公開のオリヴィア・ハッセーとレナード・ホワイティング主演の
作品に尽きます。
この作品はたぶん10回以上、観ているかな。
今回あらためて観ましたが、
やっぱりオリヴィア・ハッセーのきれいなことといったらありません。
声がちょっとハスキーで、胸が大きく、目ちからがすごい。
今回観た時に感じたのは
ロミオ役のレナード・ホワイティングも素敵だということ。
公開時にはあまりそう感じなかったのですが、
今観ても、とてもうぶな感じがして、好感がもてました。
つまりは、オリヴィアもレナードも
「ロミオとジュリエット」そのものだったように思います。

ニーノ・ロータの音楽。
映画音楽の中でも屈指の作品じゃないかな。
レコードを聴く習慣のなかった家にあって、
この映画音楽のレコードをこっそり購入したことを
憶えています。

私にとって忘れられない映画、
それが1968年の「ロミオとジュリエット」なのです。

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01/13/2023 三菱銀行人質強殺事件(福田 洋) - 記憶のなかで蠢いているもの

この映画を観てから、昭和54年(1979年)1月26日に実際に起こった
昭和の犯罪史に残る「三菱銀行人質事件」の犯人の狂気が
どのように生まれ、どうなされていったのか気にかかって仕方がない。
映画では犯人梅川昭美が銀行に押し入るところで終わっているが、
もちろんこの事件や犯人の風体が多くの人に記憶されるのは
銀行に押し入ってからの
犯人の狂気が世間の人たちの常識を超えていたからだ。

1982年(奇しくも高橋監督の映画公開と同じ年度)に
『野獣の刺青-三菱銀行42時間12分の密室ドラマ!』として刊行され、
1996年に現代教養文庫の「ベスト・ノンフィクション」の一冊として
あらためて出版されたもの。
ノンフィクションとはいえ、「主要登場人物の内面は、かなりの造型を加えてある」と
福田氏自身がしたためている。
この「主要登場人物」とは、すなわち射殺されその内面の動機が解明されなかった
犯人梅川だろうし、
この事件にかかわった警察関係の人だろう。

やはりノンフィクションに分類されていいのだろう。
なので、この作品の半分以上は事件発生後の動向だが、
高橋監督の映画以上のインパクトをもたらすものではない。
もしかしたら、フィクションとノンフィクションの、
それは揺れ幅の違いに由来するのかもしれない。


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01/12/2023 瓢箪から人生(夏井 いつき) - 瓢箪あたまに産まれ出た女の子

その彼女がコロナ禍真っ最中の、2021年3月から2022年3月にかけて「女性セブン」に連載した、
人生の徒然を記したエッセイ集が、この『瓢箪から人生』だ。
愛媛松山出身の正岡子規の糸瓜に対抗したわけでなく、いつきさん、産まれ出た時瓢箪頭だったとか。
妹のローゼン千津さんが詠んだこんな句が最後に紹介されている。
「瓢箪に生まれて人をよろこばせ」
この句そのままの、いつきさんの俳句活動といっていい。

それ以前からいつきさんは「俳句の種を蒔く活動」をしてきている。
もちろん、このエッセイの中には「プレバト!!」に触れた箇所もあるが、
そこだけを強調するのではなく、
今までしてきた地道な活動の様子の方がたくさん描かれていることこそ、
夏井いつきという俳人をよく知ることになる。
きっと将来、いつきさんの志がたくさんの芽をふき、花を咲かせることになるに違いない。

やはり読者の琴線に触れるのは、
いつきさんと交わった人たちとの話だろう。
特に父親を癌で亡くした時の話には胸をうたれる。
亡くなった時もそのあともなかなか泣けなかったいつきさんだが、
父親が最後にわずかに汁だけを口にした鰊蕎麦をたまたま口にした時、
嗚咽したという。
そんな思いのひとつひとつが、
夏井いつきという俳人を前へと進めているような気がする。

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01/11/2023 向田邦子との二十年(久世 光彦) - 「触れもせで」「夢あたたかき」の2冊が読めます

小正月の別名で、ちゃんと『歳時記』にも載っている。
年末年始忙しかった女性が15日頃にようやくゆっくりできるという。
玄関に日の差してゐる女正月 宮津 昭彦
この言葉を、「寺内貫太郎一家」などのドラマを演出した久世光彦さんは
向田邦子さんから教わったという。
そんな言葉の記憶から
向田さんとは正月に会ったことがないと、
久世さんにとって向田さんとの思い出は尽きない。
この本のタイトルにあるように
久世さんと向田さんの親交は
向田さんが1981年8月突然の航空機事故で亡くなるまでの
20年間に及ぶ。

『触れもせで』を1992年に上梓している。
それから3年後には『夢あたたかき』を出版。
ちくま文庫に収められた時に2冊を1冊とし、
『向田邦子との二十年』というタイトルにまとめ直した。

「あの人を書くということは、当たり前のことだが、自分を書くということであり、
あの人のあの時代を書くのは、私の時代を書くこと」と
書いているように、
『夢あたたかき』の方は久世光彦自身を語る部分が多くなっている。

向田さんが乳がんになった時に久世さんと
「寺内貫太郎一家」の最終回の打ち合わせを行うところだろう。
その夜、久世さんは涙を流し、
「少なくともあの一夜だけは、あの人を愛していたのだと思う。」と
綴っている。
しかし、二人は決して触れ合うことはなかった。

稀有の作家なのである。」と、
久世さんが評した向田邦子さんを知るには
欠かせない一冊だ。

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01/10/2023 冬の本(安西 水丸/岡崎 武志/角田 光代 他) - 「懐炉」のようにあたたかな本

今年(2023年)は1月6日でした。
この日かあら節分までの約30日間が「寒の内」で
冬も本格的になります。
から鮭も空也の痩も寒の内 松尾 芭蕉

自身が立ち上げた夏葉社という出版社のことを描いた島田潤一郎さんは、
その本の中で創業間もなく頃
この『冬の本』を出版したエピソードも綴っています。
装丁が和田誠さんで、島田さんからすれば
思い切ったチャレンジだったと思います。
さらに、84人という人が「冬の本」にまつわる執筆を快諾してくれたというから
なんとも心温まる一冊になりました。

ページにしてわずか2ページ。
それだけの字数で、本の紹介となれば
短いと感じる人もあれば、それで十分と思う人もあるだろう。
そういう文章術を読むのも楽しい。

私はこの本を読んでいる間じゅう、
巻末の著者の略歴と紹介されている書誌情報が載っているページに
指をはさんでいました。
この人は古書店の店主なんだ、この人は音楽家か、
この本は絶版なんだ、今はあの文庫で読めるのか、みたいな感じで
本文との間を行ったり来たりしていたのです。

執筆者の一人、吉田篤弘さんの文のタイトル。
その中に、本が「懐炉」の役割という一節があり、
なるほどと感心ました。
確かに本の持つ暖かさは「懐炉」に似ています。
あるいは、人のぬくみといっていいかもしれない。
『冬の本』だが、この本はあたたかい。

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01/09/2023 性の絵本 せいってなーんだ?(たきれい) - おとなになったらわかっておきたいこと

成人の日の献血の列にをり 山口 素基
昨年(2022年)から成人年齢が20歳から18歳に
引き下がりました。
そうなると、今年から18歳の人にも
成人おめでとう、なんてお祝いすることになります。
成人式はどうなるのかな。
ところによっては、「二十歳のつどい」に変えたりしているようです。

こんな絵本のプレゼントはどうでしょう。
たきれいさんの『性の絵本 せいってなーんだ?』。
セックスの絵本ではなく、性の絵本。
最初に、「性ってなんだろう?」とあって、
こう書いてあります。
「性ってじぶんらしさ」って。
そこには3つのみかたがあって、
「こころの性」「からだの性」「こいの性」って書いてある。
「こい」は恋、好きっていう気持ち。

「いやなときはいやだっていっていい」とか
「いいとおもうものはみんなそれぞれちがう」とか
容姿の違いをからかってはいけないことやとっても
困っている人をたすけることなど、
とっても大切なのに、つい忘れてしまいがちなことが
シンプルに表現されています。

自分がこの世界で、たったひとりの「とくべつ」で、
ほかのひともみんな「とくべつ」だということ。

気のきいた自治体はないものでしょうか。

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01/08/2023 ぼくとお山と羊のセーター(飯野 和好) - お蚕さまとあった秩父の暮らし

埼玉県秩父市にある秩父神社で執り行われた
養蚕農家の人たちが一年の恵みに感謝をささげる「蚕糸祭」の
ニュースを見ました。
12月4日のことです。
そのニュースでも言っていましたが、
現在秩父地域の養蚕農家は四軒にまで減少しているとのこと。
秩父地方が養蚕で有名であったことも
私もそうですが、知らない人が多いかもしれません。

1947年に秩父郡の山間のあったわずか3軒の集落に生まれました。
その村で暮らした子ども時代のことを絵本にしたのが、
『ぼくとお山と羊のセーター』です。
自伝絵本といったら、ぴったりします。
自然豊かな秩父の四季と飼っていた羊や鶏の世話などが
文章でいえば「飯野節」といえる独特な絵のタッチで描かれています。
その中に、養蚕の話が出てきます。
「夏は家の中でいっぱいのお蚕さまを育てます。(中略)
家の中じゅう 桑の葉のにおいとお蚕さまのにおいでツーンとします」
きっと昭和30年代の秩父では
こんな風景があちらこちらにあったのでしょう。

その兜太は「朝日煙る手中の蚕妻に示す」という句を詠んでいます。
お蚕さまとともにあった秩父の風景をここにも見つけました。

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01/07/2023 お正月はやっぱり寅さん! - 映画「男はつらいよ 寅次郎純情詩集」の話

そこで見つけた一句。
兄いもと一つの凧をあげにけり 安住 敦
この句に重なるような映画があります。
お正月といえば観たくなる映画、
山田洋次監督の「男はつらいよ」シリーズは
盆と正月のたびに封切られてきた日本を代表する映画です。
せっかくのお正月ですから
今年の映画の話は
「男はつらいよ 寅次郎純情詩集」から始めましょう。

1976年12月に封切られた正月映画です。
シリーズ第18作めになります。
寅さんといえば、マドンナ。
この作品は母と娘のダブルマドンナで
母の方を京マチ子さん。
娘は檀ふみさんが演じています。
久しぶりに柴又に帰ってきた寅さん、
そこで甥の満男の臨時教員をしていた檀ふみさんと出会う。
さっそくのぼせあがる寅さんだが、
妹さくらに自分の年を考えてよと諫められているところに現れたのが
京マチ子さん演じる母親。
寅さん、すっかり舞い上がります。

マドンナが死んでしまうこと。
京マチ子さんに死期が迫っていることを知らない寅さん、
一所懸命彼女を元気にしようと励ますのですが。

寅さんが懸命に答える場面は泣かせます。
お正月映画にしては悲劇的な話ですが、
そこは「男はつらいよ」、
笑いどころもたくさんあって、
ほっこりする作品になっています。

源公を演じていた佐藤蛾次郎さんが
昨年12月9日に78歳で亡くなられました。
「男はつらいよ」シリーズに欠かせなかった蛾次郎さん。
ご冥福をお祈りします。

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どんな職業についただろうか。
映画評論家というのも似合いそうだが、
やはりなんといっても食べ物エッセイストではないだろうか。
女性版東海林さだおとしてやっていけそうだし、
平松洋子さんの先輩として名を成したことは十分想像できる。
その根拠は、
向田邦子さんのたくさんのエッセイから「食いしん坊エッセイ」を集めた
この本、『海苔と卵と朝めし』を読めば、わかる。

「何かの間違いで、テレビやラジオの脚本を書く仕事をしているが、本当は、板前になりたかった。」
そこから、彼女の妄想? が始まる。
料理を出す器にこだわり、仕込みは自分がする。
だから、献立にこだわる。
「ハシリの野菜。シュンの魚」
結局、自身で調理場に立つことはなかったが、
妹の和子さんに「ままや」という小料理屋さんを開かせることになる。
その開店始末を描いたのが、「「ままや」繁昌記」。
ここには新規のお店を開きたい人への心得みたいなものも載っていて、
向田さんの食へのこだわりがよくわかる。

向田さんの思い出の料理の数々のエッセイもいい。
「薩摩揚」「ゆでたまご」など、何度読んでも、いい。
誰にでも食べ物の思い出のひとつやふたつあるだろうが、
それを読ませる文章にできる人はそんなにいない。
向田邦子さんならではの、包丁さばきだ。

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ある出来事で日本中に衝撃が走ったのを憶えているだろうか。
あさま山荘事件や仲間へのリンチ殺人という悲惨な事件を起こした
連合赤軍のリーダーだった森恒夫が
収監されていた東京拘置所内で自死したのだ。
この時、彼はまだ28歳の青年だった。
その青年が「なぜ革命を志し、なぜ同志を殺し、そしてなぜ自ら命を絶ったのか。」
この『虚ろな革命家たち』は、
副題にあるように「連合赤軍 森恒夫の足跡をたどって」
1992年生まれの佐賀旭氏が書いたノンフィクション作品である。
そして、佐賀氏はこの作品で
第20回開高健ノンフィクション賞を受賞した。

佐賀氏にとって連合赤軍事件は歴史の一ページであり、
森恒夫の死もまた
当時を知る人とはちがった距離感を持つということの証であると
考えてからだ。
つまり、あの事件を記憶として持ち続ける人がいる一方、
佐賀氏は記録として対峙する人の領分になるだろう。
だから、素朴な疑問として「なぜ」が生まれ、
その答えを求めての熱量を感じさせる作品になったといえる。

どういう少年期を過ごしていたかは本文を読んでもらうとして
森恒夫が特に異常な人物であったとは思えない。
むしろ、現在の犯罪者の多くも
ある時点まではどこにでもいる「〇〇君」だったろうし、
犯罪に至る変換点を説明するのは難しい。
この本の「エピローグ」に
2022年元総理を銃撃した犯人のことが記されているのが
印象深い。

この本の中程でナチスドイツのゲーリングの言葉が載っている。
「国民にむかって、われわれは攻撃されかかっているのだと煽り、
平和主義者に対しては、愛国心が欠けていると非難すればよいのです。
このやり方はどんな国でも有効ですよ。」
そして、いうならばこのやり方はどんな時代でも有効かもしれない。

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01/04/2023 この国のかたち 一(司馬 遼太郎) - 未来のために歴史と向き合う

司馬遼太郎さんの生誕100年にあたります。
司馬さんが生まれたのは1923年(大正12年)8月7日。
亡くなったのが
1996年(平成8年)2月12日で、まだ72歳でした。
今から思えば、
結構早い逝去です。
生誕100年という節目でもあり、
今年もう一度司馬さんの作品に触れてみたいと思います。

司馬遼太郎さんの『この国のかたち 一』を取り上げます。
この作品は1986年から1987年にかけて
総合誌「文藝春秋」の巻頭随筆として書かれた日本人論で
その連載は亡くなる時まで続けられます。
まずその一としてまとめられ、
1990年に単行本化されています。
私がこの作品、随筆ですが、を読むのはもう何度めかですが、
連載時からすでに30年以上経ち、
あらためて司馬さんの歴史への向かい方など
参考になることがあるように感じました。

安倍元総理の国葬の際
友人代表として弔辞を述べた菅前総理の言葉のなかに
山県有朋の話を出てきます。
伊藤博文にあてた歌を引用したものでした。
その山県有朋のことを司馬さんはこの本のなかで
こんなふうに書いています。(「12 高貴な”虚”」)
「陰湿な部内策謀力をもち、自分を頂点とする権力構造をつくるについては
名人だったが、自分自身を象徴化する人格のもちぬしではなかった。」
菅前総理が司馬さんのこの文章をご存じだったかわかりませんが、
歴史を見る、あるいは読み解く視点は
このように多様だということでしょう。

それはおそらく未来の失敗を回避したいがためだと思います。
未来のために、歴史を知る。
司馬遼太郎という作家は、そうあろうとした作家でした。

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01/03/2023 雑誌を歩く - NHKテキスト「読書の森へ 本の道しるべ:あの本も読みたい!

そんな惹句が書かれているのが
「読書の森へ 本の道しるべ」という
NHKテキスト「趣味どきっ!」の表紙。
この番組は
2022年12月から2023年1月の毎週火曜日に放送されていて
ちょうど半分が過ぎたところ。

「進めば進むほど奥深く、
何を読めばいいのか迷うこともある」。
「そこで道しるべになってくれるのが、8人の「本好き」たち」。
ということで、
番組では8人の「本好き」たちの本棚を見ながら
心に残った本のあれこれを聞くというもの。
ナビゲーターは俳優・モデルの菊池亜希子さん。

角田光代、福岡伸一、ヤマザキマリ、町田樹、(ここまでがすでに放送済)
平野レミ、堀川理万子、鹿島茂、Aマッソ・加納
他人の本棚を見るのは何故かとってもワクワクするし、
その薦める本に驚いたりする。
例えば、角田光代さんが開高健の『輝ける闇』を薦めていたのも
ちょっと意外だったし、
ヤマザキマリさんが安部公房の『砂の女』を何度も読んだというのも
驚いた。

まだまだ読みたい本がわんさと出てくる。
あるいは、わが本棚を眺め、
読み返したい本もたくさんある。
そんなこと思いつつ、
そういえばこのテキストの表紙の惹句は
「いつも本がそばにある。」ではなく、
「いつも本がそばにいる」と、まるで恋人かのようなのに気がつく。

平野レミさん。
2019年に亡くなった和田誠さんの本も
いっぱい紹介されるのか、今から楽しみ。
放送は1月10日火曜夜9時30分から。
NHKEテレですよ。

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01/02/2023 恒例 元旦の新聞から - 2023年 日に新た

夢を膨らませる時期、力を蓄える時期、人生を振り返る時期…。
書物は、人生の様々な局面に応じて知恵や勇気や癒しをくれます。
これは、2013年元旦の朝日新聞朝刊に載った
新潮社の広告の一節です。
はて、そうならば
自分は人生のどんな時期にいるのだろうかと
少し考えてみました。
「人生を振り返る時期」ならと、
自身の本棚に並んだいくばくかの本の背表紙を見、
「夢を膨らませる」にはもう老いたかと思いつつ、
それでも新刊本の記事にアンテナをはっている。
ありがたいことに、
本はいくつになっても飽きさせるということはありません。

いつだって、出会ったときが最新刊。
その感じ、よくわかります。

写真で並べたのが、
光文社の広告。
スヌーピーのコミックから。
「本がすべてじゃない」と書いてある本。
本って、やっぱり深い。
その感じも、よくわかります。

集英社の広告。

もっと もっと おもしろく。
やっぱり、本は面白くないと。
でも、面白いというのはどういうことなのか。
それは、心を揺さぶられるということだと
私は思います。

信じてみよう。
に行きつきます。

信じてみよう、本の力を。
信じてみよう、人間の心を。
そんなことを考える時期なのかな、
いまの私は。

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