05/03/2023 この世の喜びよ(井戸川 射子):書評「言葉の世界への誘い」

今日は憲法記念日の祝日。
憲法記念日天気あやしくなりにけり 大庭 雄三
大型連休のまんなかあたりだから、
行楽地に向かう人も多いのでしょうね。
一方、家でゆっくりするという人は
芥川賞受賞作でも読んでみてはどうでしょう。
1月に発表された
第168回芥川賞は2作同時受賞でしたが、
今日はそのうちにひとつ、
井戸川射子さんの『この世の喜びよ』を
紹介します。
井戸川射子さんは現役の高校の国語の先生。
受賞後のインンタビューで
生徒に読書感想文の課題を出さないようにしていると
話されてましたが、
こういう国語の先生なら大歓迎という生徒も多いだろうな。
じゃあ、読もう。

第168回芥川賞受賞作。(2023年)
正直、私にはとても難解、読みづらい作品だった。
その原因は、物語性がとても希薄だということだと思います。
「あなた」として呼びかけられたいる主人公の女性にはすでに成人した娘が二人いる。
働いている大きなショッピングセンターでいつも一人でいる少女と交流し、「あなた」は少女のことを心のどこかで自分と同じ孤独を感じている。
と書けば、物語は確かにあるのだが、それよりもまずは言葉が先にある、そんな作品だ。
それらを評して、選考委員の小川洋子氏は「何も書かないままに、何か書くという矛盾が、難なく成り立っている」と書き、川上弘美氏は「大きな事件は何も起こらず、したがって何事も解決されず、解決もないのでカタルシスもなく」と書いた上で、それでも「心惹かれる」と高く評価している。
もし、この小説を読み解くとしたら、補助線がいるかもしれない。
そして、その補助線は芥川賞選考委員の川上弘美氏のこんな言葉ではないだろうか。
「作品の持つメッセージ性や物語性などよりも、言葉が組み合わされることによって生まれる何か。音楽を聴いた時のような喜び。絵画を見た時のような驚き。意味ではなく感情や感覚。」
そう、やはり作者井戸川射子(いどがわいこ)さんは詩人なのだろう。
言葉の魅力に浸りたい人にはたまらない作品なのかもしれない。
(2023/05/03 投稿)

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