05/18/2023 荒地の家族(佐藤 厚志):書評「あの日のことを忘れない」

第168回芥川賞は、
井戸川射子さんの『この世の喜びよ』と
今日紹介する佐藤厚志さんの『荒地の家族』の
二作同時受賞でしたが、
二つの作品のあまりにも作風の違いに
逆に文学の奥深さを感じます。
『荒地の家族』は小説としてよくまとまった作品です。
受賞インタビューで
佐藤厚志さんが「書く」ということを意識するようになったのは
大江健三郎さんの『新しい文学のために』を
読んだことがきっかけと話されていて、
しばらく前に亡くなった大江健三郎さんの心構えが
こうして花を咲かせたのだなと
思いました。
1月の発表からようやく読めた
芥川賞受賞作でした。
じゃあ、読もう。

第168回芥川賞受賞作。(2023年)
作者の佐藤厚志さんが仙台で書店員でもあるということは、受賞後の報道から知られている。
前作『象の皮膚』は、2011年3月に起こった東日本大震災直後の書店での様など実にリアルに描かれていて読み応えがあった。
今回の受賞作も東日本大震災で大きな被害のあった仙台の海沿いの街で暮らす男とその周辺の人たちを描いて、深い感動を持たらしてくれる。
戦争にしろ天災にしろ大きな厄災があった時、死んでいく者と生き残る者が生まれる。
そのことはやむをえないが、生き残った者となった時、その人にはどうして自分が生き残ったのかという悔悟が生まれることほどつらいことはない。
作品の中にこんな一節がある。
「生者は時に闇をかき分けてでも失った人を感じたくて、すがるように光を追いかけて手を伸ばす。」
この作品こそ、佐藤厚志さんが伸ばした手かもしれない。
芥川賞選考委員の一人、吉田修一氏は「読後、胸に熱いものが込み上げてきた」と書いているし、それは多くの人の読書後の感想であるかもしれない。
その一方で、島田雅彦委員の「美談はしばしば、現実のネガティブな部分も隠してしまう」という言葉をおろそかにすべきではない。
それでも、佐藤さんには大きな厄災を経験した当事者として、臆せずあの日とあの日に続く有り様を書いてほしいと思う。
あの日のことは忘れてはいけないのだから。
(2023/05/18 投稿)

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