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プレゼント 書評こぼれ話

  ブログの中で、ここ何回か、丸谷才一さんの本をテキストにしながら、
  「書評とは何だろう」って考えてきました。
  そんな時に、偶然読んだのが、今回紹介しました小川洋子さんの
  『心と響き合う読書案内』という本でした。
  この本で紹介されている52篇は、それぞれが字数にして、
  おおよそ3500文字くらい。
  ちゃんと数えましたよ。
  それだけの分量は書評としては長いでしょうね。
  読む方とすれば、著者の略歴とかちょっとしたエピソードとかも
  はいって楽しめますが、
  書く方としては、しんどい分量かもしれません。
  そして、読みながら、考えていたのは、
  もし、この文章を1000文字程度にするなら、
  つまり三分の一ですよね、
  どの箇所を削るだろうか、ってことでした。
  それでも、人に「読みたい」という思いを伝えきれるか。
  書評にも書きましたが、この本は、
  読む楽しみとともに、書くことのいいお手本です。
  
  
心と響き合う読書案内 (PHP新書)心と響き合う読書案内 (PHP新書)
(2009/02/14)
小川 洋子

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sai.wingpen  書評の書き方を学ぶ                     矢印 bk1書評ページへ

 書評めいたものをずっと書いてきて、いまさらながらに「書評とは何だろう」と思うことがある。それで、子ども向けの「読書感想文の書き方」みたいな本を何冊か読んでみることにした。
 それらの本が「まずどんな本を読むか」というようなことから書かれていることに少なからず驚く。
 感想を書く以前にどんな本を読んでいいのかわからない。そういうものなんだ、現実は。
 これはおとなだって同じかもしれない。そういう人たちに、この本はここが面白いんだよ、ここが感動するんだよ、と教えてあげられるもの、それが書評なのかもしれない。
 だから、書評は、道に迷った人たちへの「読書案内」なのだ。
 『博士の愛した数式』など多くの著作がある作家小川洋子さんが「未来に残したい文学遺産を紹介する」ラジオ番組で語った52編の作品が、この本では紹介されている。
 「外国文学も日本文学も、恋愛小説も絵本も、古典も現代作家も、分け隔て」なく、小川さんが「文学遺産として長く読み継がれてゆく本」として選んだ作品たちである。
 小川さんの柔らかな口調で語られる「読書案内」は、読むことを強いるのではなく、未読の作品は「読みたいな」と素直に思えるし、既読のものは頷いたり教えられたりする。
 教えられるというのは、作品を読んだあとで自分が言葉にできなかったことに気づくことである。
 例えば、村上春樹のデビュー作『風の歌を聴け』の「読書案内」で「この小説は、そういう自分たちでも書けるのだ、(中略)書くべきものが何もないところからも小説は生まれるのだということを教えてくれたのです」(112頁)という箇所に、十数年前の私自身と久しぶりに出会えたような気がする。

 ひと針ひと針ステッチを運んで刺繍を縫いあげていくような緩やかであるけれど確かな文章は、小川文学の世界観として堪能できる。
 どのようにして本と出会い、初めて読んだ時の印象を語り、作品の紹介をはしょることなく、母として女性としてそして作家としての立場から作品を読む。気取ることなく、さりげなく、しかし明瞭に締めくくる。
 おとなでも子どもでも楽しめる「読書案内」は、書評の書き方のみごとなお手本でもあった。
  
(2009/03/15 投稿)

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