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プレゼント 書評こぼれ話

  この本は先に読んだ荒川洋治さんの『読むので思う』で紹介されていて
  知った、一冊です。
  私にとっての「読みたい本」というのはそういうようにつながっていきます。
  面白いのは、この画集が「文学」をテーマにしたものだということ。
  これを今回書いた書評にあるように「書評」のひとつだと
  言い切るには異論もあるでしょうが、
  私の中では、ひとつの作品をどう感じたかを表現することも
  「書評」というくくりにしていいのではないかと思っています。
  これはまた別の機会に書きたいと思いますが、
  私が今「書評詩」にこだわりたいのも、そういう考えがあるからです。
  でも、こういう機会がないと、ささめやゆきさんという画家を
  知ることもなかったでしょうから、
  本の世界というのは、本当に、広いけれど、どこかにつながっている
  ような気がします。
  未知のものとの出会い。
  それも読書の楽しみです。
  
  
ヘッセの夜 カミュの朝ヘッセの夜 カミュの朝
(2008/03)
ささめや ゆき

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sai.wingpen  書評画を愉しむ                   矢印 bk1書評ページへ

 文芸誌『すばる』の表紙絵として、絵本作家・画家のささめやゆきが1998年から2005年までの八年間描き続けた作品から選りすぐりの六〇作をまとめた画集である。
 テーマは「文学」。そういう意味で、「書評画」とでも呼びたくなる表現形式である。
 少し、著者のささめやゆきについて書いておく。
 むっつもひらがなが続くとどこまでが姓でどこからが名なのかわかりにくいが、「ささめや ゆき」と読む。どう考えて女性の名前だが、れっきとした男性である。
 本名が「細谷正之」とあるから、「細谷」を「ささめや」と読み替えたのは谷崎潤一郎の「細雪」(ささめゆき)の影響かと想像する。
 「24歳の冬、突然絵を描く」と、本書の略歴にある。川崎の工場地帯の煙が日差しの中で虹色にみえたのがきっかけだったという。
 95年に『ガドルフの百合』(文・宮澤賢治)で第44回小学館絵画賞を受賞。その後多くの作品を描いている。

 ささめやの絵はけっして流麗でもないし、華やかでもない。
 色調は、むしろ、暗い。暖色系の色も寒色系の色も突き抜けてくる明るさがない。加えて構図の不安定さがある。しかし、それらが作品に奥行きを持たせているし、ささめやの独自の視点になっている。
 この人の直線の描き方に注目したい。
 直線とは本来あるものを区切る潔いものであるが、ささめやの直線はそこにあることで世界の歪みを演出するものであるかのようだ。

 サリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」の絵が収められている。
 斜めに引かれた直線が大きく目立つ大胆な構図だ。中心には顔を青く塗られた主人公のホールデンが傾斜のままに立っている。
 それはあまりにもデフォルメされた「ライ麦畑」だ。しかし、それがささめやが感じた「ライ麦畑」そのものなのだろう。
 読み手がその絵に「ライ麦畑」のあやうさのようなものを感じとったとすれば、それは絵画という表現方法で描いた「書評」といえる。
 「文学」を読み解くのではなく、「文学」から自身がどう感じとったのかを表現することもまた、「書評」のひとつの側面だろう。

 私のお薦め「書評画」は、壷井栄の『二十四の瞳』を描いた一枚(57頁)である。
  
(2009/03/16 投稿)

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