FC2ブログ
プレゼント 書評こぼれ話

  今回も蔵出しです。
  春が近づいているのに、こういう秋の光景の表紙の本を紹介するのは
  おかしいんだけれど、
  読んだ時の救われるような感じが、
  私のどこかにあります。
  

デッドエンドの思い出デッドエンドの思い出
(2003/07/26)
よしもと ばなな

商品詳細を見る


sai.wingpen  秋が深まる頃にもう一度読んでみたい               矢印 bk1書評ページへ

 いちょうの黄色い葉にすっかりうまった公園のような場所を、まだ幼い二人の子供が駆けていく。たぶんきゃっきゃっ云っているのだろうが、周りの景色の荘厳さが音を消し、静かだ。どこかで見たような、誰にとっても懐かしいような光景。人はそんな場面をどんな時に目にしてきたのだろうか。
 よしもとばななの最新作はそんな光景の表紙を開いて始まる、五編の切ないラブストーリーである。冒頭の「幽霊の家」では八年ぶりに出会った主人公たちが互いにその存在を確かめ合う場面でこの景色が描かれるし、最後の表題作となった「デッドエンドの思い出」では婚約者の裏切りによって「袋小路」(デッドエンド)というお店の二階に迷いこんだ主人公が西山君というその店の店長に癒されるように連れて行かれた公園もいちょうの落ち葉で黄色く染まっている。始まりと終わりを黄色い透明な風景ではさみこんだこの作品集は、秋の季節の人恋しい気分に満ちている。

 「祝福という言葉がその感じに一番似ていたかもしれない」(「幽霊の家」・54頁)

 「あとがき」で著者は「読み返すと、人生のいちばんつらかった時期のことがまざまざとよみがえってきます。だからこそ、大切な本になりました」(228頁)と書く。過ぎ去った時間は幸福のそれであれ不幸のそれであれ、過ぎた時間の数だけ心の奥で、舞い散るいちょうの葉のように深く積もっていくものだ。それがなにかの拍子にふっと舞い上がって、心に小さな波紋を起こす。その風がこの本だ。よしもとの作品は、それだけ透明度を増し、私たちの心を優しく癒してくれる。

 黄色く色づき舞い落ちたいちょうの葉の上を踏みしめるようにして、五編の物語を読み終える。そこに描かれた生活が喜びであれ、悲しみであれ、それらはみんな切ない思い出のような物語だ。読み終わってもう一度表紙を見ながら、秋が深まる頃にもう一度読んでみたいと思った。
(2003/08/16 投稿)



Secret

TrackBackURL
→http://hontasu.blog49.fc2.com/tb.php/127-371fc9de