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03/26/2009    河は眠らない:書評
プレゼント 書評こぼれ話

  また、また、また、開高健です。
  しかも、今年の2月に出たばかりの写真エッセイ集です。
  書評の中でもチラッと書きましたが、
  これは生前開高が撮ったビデオ作品を元に作られています。
  いやぁ、でも、この写真の開高さんはものすごく
  ダンディですよね。
  1984年とありますから、当時54歳。
  今の私とおない歳ではありませんか。
  もう私なんか、すたこらさっさと逃げてしまいたくなります。
  でも、今年にはいってからの開高さんとの邂逅ぶりは、
  (少しシャレましたが)
  開高さんがおいでおいで(天国にじゃあないですよ)を
  しているのかしら。
  本棚の「開高全集」の埃を、少し吹こうかな。
  ぷっ。
  
河は眠らない河は眠らない
(2009/02)
開高 健青柳 陽一

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sai.wingpen  森を彷徨(ある)く               矢印 bk1書評ページへ

 開高健が亡くなって、今年で二十年になる。
 新しい読み手が開高文学にどのように出会い、頁をめくっているのかは知らないが、もし二十年前の作家として未知であるなら、ぜひ開高文学の豊穣さに触れてほしいものだ。
 そのきっかけがどのようなものであれ、開高を知らずにいるのは不幸だろう。
 開高は文体が腐ることを怖れたが、その瑞々しさは二十年経っても変わることはない。
 本書は、開高ファンに「幻のビデオ」といわしめた同名のビデオに収録された開高健の言葉を書き起こした写真エッセイである。写真は同名ビデオの監督であった青柳陽一が撮影したもので、撮影場所はアラスカである。
 青柳は今五十歳を過ぎた人には懐かしいだろうが、男性週刊誌「平凡パンチ」に掲載された麻田奈美のヌード写真を撮った写真家だ。もう少し書けば、両手で林檎をささげもつ、裸の麻田の写真である。本書に収められた青柳の「あとがき」によれば、開高もその写真のことを知っていて「おぬしの、林檎の写真見たよ。せめて、林檎を外した写真も撮っておいてくれたらな」と話したという。

 本書を読んで、開高のことを単なる釣り好きのおっさんと云うことの勿れ。
 開高は多くのルポタージュを書いたし、戦場で生死もさまよった。釣りもした。美味も楽しんだ。
 しかし、それらはすべて文学につながっていた。
 開高ほど真摯に文学とは何かを考え、そのことを作品に結実させようともがいた作家は数少ない。
 彼の過剰にして酷烈な、それでいて静謐な文章は、本書でも窺い知ることはできる。
 「無駄を恐れてはいけないし、無駄を軽蔑してはいけない」と、開高は云う。そういう彼の息遣いがアラスカの写真から立ちあがるようでもある。

 「いろいろなことに絶望し、森の中に入ると新しいものが見えてきて、絶望が別のものに転化する」と、アラスカの森を彷徨(ある)く作家は、旅の最後に五七ポンドのキングサーモンを釣りあげ、満面とろけている。
 そして、最後にこうつぶやくのだ。
 「かくして魚のいのちは終わった。釣り人もやがては死ぬ。しかし河は眠らない」
  
(2009/03/26 投稿)

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