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03/30/2009    奇縁まんだら:書評
プレゼント 書評こぼれ話

  書評では書けませんでしたが、
  瀬戸内寂聴さんの、この本『奇縁まんだら』の
  「はじめに」という文章がいいんですよね。
  冒頭の文章を少し書きますね。

    生きるということは、日々新しい縁を結ぶことだと思う。数々ある
    縁の中でも人と人の縁ほど、奇なるものはないのではないか。
    思いもかけない人と人が出逢い、心惹かれたり、うとましく思ったり
    する。一つの縁から次の縁に結びつき、縁の輪が広がっていく。


  この「はじめに」の文章はわずか3頁ですから、
  本屋さんでも立ち読みして下さい。
  また、挿絵の横尾忠則さんの画は本当にいいですよ。
  単に作家たちの肖像画を描いたというより、
  横尾さんの絵画による作家論というところです。
  
奇縁まんだら奇縁まんだら
(2008/04/16)
瀬戸内 寂聴

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sai.wingpen  横尾忠則の描く水上勉はやはり男前                矢印 bk1書評ページへ

 ゴシップというのは興味本位の噂話のことをいうが、そのことを話す人聞く人はその話から影響を受けない安全地帯にいるようで好きではない。
 かつて文壇と呼ばれた世界で活躍した作家や芸術家との交遊録を収めた瀬戸内寂聴の『奇縁まんだら』は、松本清張の女関係や谷崎潤一郎の豪華な吉兆の弁当といったゴシップまがいの話を描きながら、単に興味本位でない、あるがままの作家たちの姿が垣間見え、楽しく読めた。
 それは作者の飾らない文体と開け放たれた性格によるものかと思える。
 数多くの作品を書き継いできて、「書評のような感想を書いた」であるとか「シュールの絵を見たり、音楽を聴いて「わからないけど、何かしら気持ちがよくなった」という感動」などといった文章はなかなかに書けるものではない。
 飾らない文体というのは実に読みやすい。
 本書には島崎藤村、川端康成、三島由紀夫、谷崎潤一郎、宇野千代、今東光、松本清張といった、昭和という時代に燦然と輝いた二十一人の文学者や芸術家の人となりが瀬戸内寂聴の目をとおして活写されている。
 島崎藤村との一瞬の邂逅を「美しいナマの小説家をこの目で見た瞬間」と描写するように、著者の筆致は何十年の時を経て女学生のように若々しい。
 そして、そのような「ナマの小説家」に会いたいという一見軽薄な態度は、女流作家として世に出たいという作家瀬戸内晴美の必死の願いでもあったにちがいない。
 「平林たい子」の章で描かれる、熱海の温泉場の宴席で居並ぶ女流作家を前にして必死で阿波踊りを踊る著者の姿は印象深い。そういう光景があって、後に平林たい子から「瀬戸内さんが女の文士の最後の人になりましたね」と言われる、深い感慨へと続く。

 「自分の生涯で、この人に逢えてほんとうによかった、幸せだったと思える人が一人でもいたら、その人はほんとうに幸せな人生を送ったことになろう。生まれてきた甲斐があるというものである」(183頁)
 瀬戸内寂聴はなんと幸せな人であろう。そして、私たちもまたその幸せをわけて頂いた果報者である。
 最後に、本書では横尾忠則が描いた作家肖像画53点もオールカラーで収録されていて、これもまた絶品であることを書きくわえておく。
  
(2009/03/30 投稿)
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