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プレゼント 書評こぼれ話

  かなり違和感の残った、今回の一冊です。
  新書のタイトルが『昭和マンガ家伝説』で、ぱらぱらと目次をくれば、
  手塚治虫さんとか石ノ森章太郎さんとか
  綺羅星ごとく漫画家たちの名前が続くので、
  とても楽しみにしていたが、
  著者の平岡正明さんのことを知らなすぎましたね。
  私としては、とても懐かしい文脈を想定していたのですが、
  「アナーキー」(これ自体懐かしい言葉ですが)とか、
  「世界革命」とか「プロレタリア」とか頻出するのですから、
  あまりにも想定外すぎたというしかありません。
  それに、漫画評論を、特に本書のように作品論を、
  ストーリーを追うような形で展開するのにも、
  違和感を感じました。
  つくづく本を読む時には書名だけで選らばないようにしないと。
  でも、これはあくまでも私の事情ですから、
  そういう漫画論を読みたい人はぜひ。
  
昭和マンガ家伝説 (平凡社新書)昭和マンガ家伝説 (平凡社新書)
(2009/03)
平岡 正明

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sai.wingpen  亀有は革命前夜か               矢印 bk1書評ページへ

 評論家平岡正明による、かなりアナーキーな漫画評論である。ちなみに「アナーキー」とは広辞苑によれば「無政府状態。無秩序」とある。ここでは後者の意味で書いているが、「アナーキー」という語感もまた平岡的であろう。
 なにしろ漫画評論でありながら「大衆は、資本側の生産力の不断の拡大と発展に慢性的に立ちおくれているのであって、自分たちが社会の発展にとり残されるから革命を起こすのである」といった文脈が縦横にはりめぐらされているのである。しかも、引用した文章は秋本治の『こち亀』を評したなかでの一節で、亀有は革命前夜かと勘違いしそうだ。
 本書で取り上げられているマンガ家は、小松崎茂、長谷川町子、手塚治虫、谷岡ヤスジ、赤塚不二夫、松本零士、石ノ森章太郎といった十六人の名だたるマンガ家たちだが、書名に「昭和マンガ家伝説」とあるが、彼らの特定の作品をめぐる作品論である。しかも、平岡の個人的な好みによる、作品論といった方がいい。
 それは平岡も認めていることで「手塚治虫は古いSF一本きりで、白土三平とつげ義春がない」が、いまさら「六十の手習をすることもないと思う」と「あとがき」に書いている。手塚の古いSFとはあまり知られていない『38度線上の怪物』のことである。

 本書のすべての評論が面白いとはいえないが、谷岡ヤスジを論じた「谷岡ヤスジが忘れられかけている」は極めて現代的で刺激的な内容である。
 谷岡ヤスジというのは70年代に一世を風靡した漫画家であるが、その漫画を評して平岡は「ことごとくアクション。あくまで下品。徹底的に俗悪。爆発につぐ爆発」(91頁)と書いている。その上で「現在の青年たちの保守性が谷岡ヤスジのアナーキズムに耐えられない」とし、「時代が腰抜けになった分、谷岡の毒は偽善者に効く」とまとめあげる。
 今や忘れられかけている谷岡ヤスジに光をあてた感性は平岡的であるが、時代は谷岡の毒すら読み解くことができないのではないだろうか。
 ぜひとも平岡正明に「六十の手習」をしてもらいたいところである。
  
(2009/04/16 投稿)

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