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プレゼント 書評こぼれ話

  明日は雛まつり
  というので、女の子のようなお話を
  選んでみました。
  江國香織さんの『ちょうちんそで』。
  女の子のようなお話と書きましたが、
  登場する謎めいた女性は
  けっして若くはありません。
  それでいて
  とっても女の子らしい。
  よく男性に少年のようだみたいな言い方をしますが
  女性だって女の子のようなものを
  ずっと持ち合わせているんじゃないかな。
  いつまでも
  お雛まつりというわけにはいかないでしょうが
  明かりのついたぼんぼんのようなものを
  心に棲まわせていませんか。
  それにしても
  ちょうちんそでがついたドレスって
  可愛いですよね。
  いい題名です。

  じゃあ、読もう。

ちょうちんそでちょうちんそで
(2013/01/31)
江國 香織

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sai.wingpen  ビスケットのかけら                   

 「ちょうちんそで」というのは、袖のところが提灯の形に似ているところから、つけられた名前。
 小さい女の子のドレスなどによく見られます。
 この連作長編をあえて『ちょうちんそで』とつけたのは、江國香織さんならではの企みでしょうか。
 登場人物は人生の終盤を迎えた雛子という女性であることを思うと、少し残酷な印象を受けます。
 けっして着ることのない「ちょうちんそで」のドレス。幼かった頃着たはずの「ちょうちんそで」のドレス。
女性にとって服装というのも、自分を語る一要因であるのでしょう。

 この作品は複雑な構成でできています。
 高齢者ばかりが暮らすマンションに一人暮らす雛子。かつて、彼女は幼い兄弟と夫を捨て、男に走った過去があります。
 元の家族のところに戻ってきた時、雛子はほんのわずかな貯金しか持ち合わせていませんでした。
 しかも、少し精神的に異常をきたしていました。
 雛子には失踪して行方のわからなくなった妹が一人います。
 いま、雛子はそんな妹の架空の存在と同居しています。
 架空の妹。
 雛子にしか存在が見えない、架空の妹。雛子が落ち着いて話せるのは、この架空の妹だけ。
 そんな雛子の部屋を訪れるのは、隣に住む丹野の夫。特に目的があるわけでもなく、男はやってきます。

 もう一人、かつて捨てた子供。
 雛子のことを嫌ってはいるが、母親の様子をみるためにやってきます。
 彼には異父兄弟の兄がいます。兄はすでに一家をなして、妻と生まれたばかりの赤ん坊と幸福そうに暮らしています。
 複雑な構成というのは、そんな物語に差し込まれる、外国で暮らす女の子の話です。
 それは、雛子とどういう関係性があるのか、わかりませんでした。
 そういう穿鑿(せんさく)を、この物語は拒んでいます。

 この物語は記憶でできあがっています。
 記憶というのはできあがったものだけでなく、これから記憶になるだろうものも含めての意味です。
 雛子は架空の妹と会話しながら記憶をたどっているわけだし、外国にいる女の子は記憶を生み出しているのです。

 江國香織はインタビューに応えて、「小さいことしか書いていないので、その小さいことを拾いながら読んでもらえたらいい」と語っています。
 記憶とは、ビスケットのかけらを一つひとつ拾い集めて生まれるものかもしれません。
  
(2013/03/02 投稿)

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