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プレゼント 書評こぼれ話

  映画『おくりびと』(滝田洋二郎監督)が公開されたのは
  2008年ですから
  もう5年も前のことです。
  公開時の宣伝惹句は、

   キレイになって,逝ってらっしゃい。

  だったそうです。
  あの映画のおかげで
  納棺師という職業が
  市民権を得たのではないかと
  思います。
  東日本大震災の月命日である今日、
  紹介するのは、
  笹原留似子さんの『おもかげ復元師の震災絵日記』。
  刊行時には話題にもなった本ですから
  読んだ人も多いと思います。
  笹原留似子さんの職業は復元納棺師。
  東日本大震災の際には
  被災地にはいって
  多くのご遺体とさようならをしました。
  この本では
  ページを繰ることに
  あの日の悲しみが胸に迫ってきます。
  あの日の時を忘れないために
  この本を紹介します。

  じゃあ、読もう。



おもかげ復元師の震災絵日記 (一般書)おもかげ復元師の震災絵日記 (一般書)
(2012/08/07)
笹原留似子

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sai.wingpen  あの時のまま、あることを。                   

 悲しみはいつまでもひきずっているべきではありません。
  どこかに置き去りにしないと。
 そんなことは誰もがわかっています。けれど、できない。悲しみは置いていけない。

 東日本大震災から2年以上が過ぎて、それでも復興は遅い。いや、もしかしたら被災地ではない私たちが知らないだけかもしれない。それならいい、とはいえない。
 あの時、この国の人たちは、いつも東北と一緒、と誓ったはず。それなのに、いつか復興のことさえ実感としてわからなくなっているとしたら。
 あの時、置いてきた悲しみは、新しく前に進むためのものだったはず。
 忘れてはいけない、東北の人たちの悲しみを。
 置いてきた悲しみを。

 この本を読んで何度でも突き上げてくる悲しみを、私たちはもう忘れてはいないだろうか。
 あんな笑顔だった父や母や子どもたちのことを。胸に落したたくさんの涙を。
 復元納棺師という仕事。損傷のあったご遺体を美しく整え、納棺する、敬虔な仕事。
 そんな仕事をもつ著者は東日本大震災で犠牲となった人たちをお見送りした数々の場面。やさしい似顔絵。思いに揺れる言葉。
 そこには生者と死者の区分ではなく、人として、心といういのちを持つものとして、ただある姿だけが描かれているように感じる。

 頭の位置を何度直しても母親の方を向く、息子。
 それは遺体ではなく、息子の魂そのもの。
 そんな魂がすべてのページにあふれている。
 そっと描きとめた自分の手に、こんな言葉がそえられる。「笹原さんの手は、これから沢山の悲しみに出逢うんだね」。
 でも、その手はさよならするみたいに広げられて恰好をしている。バイバイ。また会おうね。

 悲しみは置いていくしかないない。
 でも、さよならする前に出逢った、父も母も子どもたちも、みんな生きていた時のままだった。だから、しばらく、さよならするね。
 新しいいのちに出逢うために。新しい町で生きていくために。
 忘れてはいけない。この本には、あの日、置いてきたたくさんの悲しみが、あの時のまま、あることを。
  
(2013/06/11 投稿)

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