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プレゼント 書評こぼれ話

  谷川俊太郎さんの新しい詩集です。
  この春まで、
  朝日新聞に毎月一回連載されていたものを
  集めたものです。
  詩を読むのは
  言葉を信じることともいえます。
  そんな時間をもっと大事にしないと。
  書評の中にもいくつかの詩を
  紹介しましたが
  そのほかにも「キンセン」と題された
  認知症のおばあちゃんを詠んだ作品が
  印象に残っています。

   ひとりでご飯を食べられなくなっても
   ここがどこか分からなくなっても
   自分の名前を忘れてしまっても
   おばあちゃんの心は健在

   私には見えないところで
   いろんな人たちに会っている
   きれいな景色を見ている
   思い出の中の音楽を聴いている

  この詩を読みながら
  亡くなった父のことを思い出していました。
  亡くなる前、私の名前を忘れてしまった父。
  きっと、この詩のように
  それでも父の心は健在、だったのでしょう。
  いろんなことを思う、
  いい詩集でした。

  じゃあ、読もう。

こころこころ
(2013/06/07)
谷川俊太郎

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sai.wingpen  ひとりひとりの心に                   

 こころは、自分のもののはずなのに、どうして時に自分を置き去りにしてしまうのだろう。
 詩や小説を読んだりすればそんなことにも慣れていくはずなのに、そうだそれらにはそんなこころのことがいつもたくさん書かれていてこころに置き去りにされることなんて十分にわかっているはず、それでもこころが離れていくのはつらい。
 「自分で作った迷路に迷って/出口を探してうろうろしてる」、この詩集に収められた「出口」という詩の、冒頭の一節。
 こころが自分を置き去りにしたのではなく、自分がこしらえた「迷路」。
 その詩に書かれた「心は迷子」という一節に、胸がいたくなる。

 この詩集は谷川俊太郎さんが朝日新聞に毎月「今月の詩」として2008年4月から2013年3月まで連載していたものを集めたもの。
 連載時に時々は目にしていたが、こうして一冊の詩集にまとめられると、「こころ」というキーワードで谷川さんが毎月詩を詠んでいたことに初めて思い至る。

 連載期間でわかるように、東日本大震災が起こった2011年3月11日も、たぶん谷川さんは「こころ」について思いを寄せていただろう。
 その時の詩が「シヴァ」。「大地の叱責か/海の諫言か/天は無言/母なる星の厳しさに/心はおののく」と、「破壊と創造」の神シヴァになぞらえて詩を詠んだ。
 その次の、「言葉」と題された詩がいい。
 「何もかも失って/言葉まで失ったが/言葉は壊れなかった/流されなかった/ひとりひとりの心の底で」で始まる詩にどれだけの人が癒されたことだろう。
 私たちは、こころを「流されなかった」。

 連載の最後の詩、「そのあと」の最後の節で、谷川さんはこう詠った。
 「そのあとがある/世界に そして/ひとりひとりの心に」と。
 こうして並べてみるとよくわかる。震災直後に詠んだ詩と見事につながっている「ひとりひとりの心」。
 わたしたちはこころを置き去りにすることなんてできない。こころより少し先走るものは、拙い感情。それをどう抑え込んで、生きていくか。
 谷川さんの後期の代表作になるだろう、素晴らしい詩集である。
  
(2013/06/25 投稿)

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